グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書 974)

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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609741

作品紹介・あらすじ

国内外の気鋭の論者が徹底討論世界的なデフレ不況下での自由貿易と規制緩和は、解決策となるどころか、経済危機をさらに悪化させるだけであることを明らかにする!

感想・レビュー・書評

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  • 警告の書、世界経済という視点からグローバリズムという経済活動を検証する

    グローバリズムがもたらしたものは、経済の自立を失い、国家主権さえ失ってしまう状況である。
    EUは、グローバル資本主義のもとに完全な自由貿易、経済的国境の撤廃がもっとも進んでいる地域。
    圏内で関税をなくし、通貨を統合した。しかし、その結果なにが起きたか。各国は通貨の切り下げなど金融緩和や財政出動もできず、独自の産業政策も不可能になりました。
    EUでの勝者は、ドイツだ。ユーロ安でドイツの輸出産業は大いに潤った。経済危機に瀕した国々を低賃金で下請けのように使いユーロ圏がドイツにとって開かれた市場であることをフル活用している。

    IMFによって改革された国、韓国も、グローバル化で破壊された国である。
    雇用の不安定化がもたれされた。雇用も自由化されて、労働市場の柔軟性を高めたことが、正規職から非正規職への置き換えが進んでいった。失業率は7.5%、就職準備をしている人をふくめると若年層の失業率は、20%である。
    つまり、IMF以降は、普通の会社、普通の働き方、普通の所得がなくなってしまったのです。

    グローバリズムは、短期的な数字を追う。そのために、設備投資、研修、リサーチといったことがおろそかになる。長期的に成長が必要なはずの生産性の向上や、所得向上のためのコミットメントも生まれない。
    その結果、技術開発は進まず、所得も増えず、成長が鈍化していく。目先のパイの奪い合いが行われるだけで、パイそのものを大きくするためのインセンティブはうまれない

    信号や、車線がない道はめちゃくちゃになって道路の効率性は著しく落ちる。同様に、単なるグローバズムが困難しかもたらさない。ある程度の規制がどうしても必要なのである

    人間の欲望を放置するのが、グローバル資本主義、欲望そのものを基準にしようとする、無法地帯になるのも当たり前なのです

    日本には日本的なものが残る。でもグローバル資本主義は、それが残らなくなるまでにグローバルしていく

    世界には、2つの未知の巨大リスクを抱える地域がある。それは、中国と、ドイツだ。

    日本は、人類学上の理由から、アングロサクソン・モデルとはきわめて異なった資本主義の調整されたモデルを示している。

    グローバリズムは、国境を前提としないもの、一方で、インターナショナリズムは、真逆の概念です。

    デフレをまねく、グローバル資本主義
     ①経済の不安定化
     ②実体経済への大きな影響―グローバル企業の巨大化
     ③格差の固定化
     ④危機そのものがグローバル化 ―リーマンショック
     ⑤お金第一主義、お金で換算できないものは見捨てられていく

    ネオリベラリズムは成長すらもたらさない
     失業の増大、格差の拡大、富が拡大するからがまんせよ ⇒ でも、実体は、そうなっていない

    二国間、多国間の自由貿易協定は、規制緩和をより強く要求内容になっている ⇒ これまで以上にスピードを増して、自国の産業育成が途上国にとってますます困難になっている

    第1次グローバル化 1870年代 ⇒ 大恐慌 ⇒ 第1次世界大戦で終了
    第2次グローバル化 現代 ⇒ 歴史に学べ

     共通事項
     ①多国籍企業の存在
     ②経済的な相互依存が平和を導くという学説の存在
     ③自由主義経済学が大いなる影響力をもった
     ④先進国と途上国との対立の先鋭化
     ⑤周期的な金融危機
     ⑥帝国主義

     相違事項
     ①国際通貨制度
     ②福祉制度の違い
     ③国際機関の存在

     ヨーロッパに期待する最善の策とは、ユーロの崩壊。アメリカの不確実性、そして、ヨーロッパの死。

    世界は大劣化している

    ⇒新自由主義にそまりきった、現代のエリートは国民の苦しみには無関心になっている
    ⇒ノブレス・オブリージュの放棄、それはグローバルなレベルで統治能力の危機が起きている

    グローバリゼーションの危機は民主主義の危機である
    経済の危機のみならず、民主主義の危機をも引き起こしている
    格差が広がり、すでに許容範囲を超えている
    エリートの責任はますます大きく、圧倒的なものになってきている

    日本の例として

    グローバリゼーションの対極は、ネーション
    言語、歴史、伝統、領土を共有し、日本のどこにうまれようが「俺たちは日本人だ」と了解し合える
    価値観を共有する集団として、ネーションはちょうど都合がよい
    つまり、国民意識のほうが、民主主義よりも先にあるのです

    自由貿易によって相手国との市場の激しい奪い合いが起きることもある
    さらにいうと、自由貿易と、安全保障とは関係がない。
    今我々日本人は、その実例をみているのです。

    目次
    もくじ
    第1部 グローバリズムが世界を滅ぼす
    第2部 グローバル資本主義を超えて
     トータリズム(全体主義)としてのグローバリズム
     新自由主義の失敗と資本主義の未来
     歴史は繰り返す?――第二次グローバル化の未来
     国家の多様性とグローバリゼーションの危機――社会人類学的視点から
     新自由主義と保守主義
    第3部 自由貿易とエリートの劣化
    おわりに

    ISBN:9784166609741
    出版社:文藝春秋
    判型:新書
    ページ数:256ページ
    定価:830円(本体)
    発売日:2014年06月20日第1刷
    発売日:2014年07月10日第2刷

  • 各国が新自由主義を推し進めたのと同時期に格差拡大、成長の鈍化が起きたので、リベラル、グローバリズムはダメなのです、というような論が何度も繰り返されており、まともに双方の因果関係を論証しようとしているのがトッドのみ。学術書ではなく、タイトルの主張がすでに既成概念として存在していて、そこに対する批判を交えずに議論をまとめたような印象を覚える書。エビデンスに乏しい話と、あまり意味を成さない例え話(経済には統治が必要なのだ、という話を、交通ルールを撤廃したら道路はぐちゃぐちゃになりますよね?という話で語るのはギャグで言ってるのか不安になるレベル)ばかりであり、よろしいものではない。

    本書が2014年に発売され、その2年後にBrexitとトランプ大統領の誕生があったのは偶然ではない、だからこそ手を取ったのだが、肝心の中身がこれではちょっと。

  • 現在の行き過ぎた(と個人的には思っている)グローバリズム、自由主義経済については懸念を感じている。という意味では自分は保守なんだと思う。一方で、本書にも書かれている通り、本来反対すべきグローバリズムを今の保守派が進めているのは、やっぱり謎。
    言葉の響きで単純に「よいもの」と思い込んでいるわけではないだろうし、必ずしも個人(および企業)が自己の利益のためのみに利用しているだけだもなさそうな。そんな謎に対する1つの考えも述べられています。
    個人主義、民主主義の行き過ぎ、識字率、劣化(本書ではエリート・指導層の劣化とあったが、国民全体の劣化ともいえるのではないか?)といったいろんな要素を絡めて考えていく必要があるようで。個人的にもちょっと今後も考えていきたいテーマ。

  • エリートの質の低下、アベノミクスの失敗等を理由にグローバリズム反対!と唱える。

    じゃあ、どうしたらいいのか、ということについてはまた次回ね。ということのようである。
    こーゆー人たちはいいよね。何しても何かしらの不満をそれとなく(ほとんどノーベル賞を受賞したどこどこの大学のなになに教授も同じことを言っていた、ということを論拠とすることが多い)言っておけばOK的な。完全に野党です。

    とはいいつつ、バランス感覚は重要です。このような意見もあるのかと念頭に置きつつ物事を進める、ということがよい。

  • グローバリズムの終焉と新たな国家像
    https://www.cfiec.jp/jp/pdf/prp/0002-hakamada.pdf

    今回のコロナ騒動は、大きな流れでいれば、アメリカ単独主義から多極化へ、グローバリズムから国家主義へ、国際資本家がエリートを使って管理してきた世界の終焉なんだろう。う。だから、いろいろ予想できないようなことが、これからもは発生するんだろうな。管理してないんだから。
    ---------
    2020/06/18:読了
     エリートの著しい劣化。
     2014年のリーマン・ショックで、グローバリズム=搾取・詐欺 って構図が、隠しきれないほど明らかになり、声を上げる人が増えてきた。
     あれから6年、トッドさんの本は継続して追っているが、ハジュン・チャンさん、柴山桂太さん、中野剛志さん、藤井聡さん、堀茂樹さん の本も、読んでいこうと思う。
     ハジュン・チャンさんの本は、あまり翻訳されてないみたい

  • 新自由主義とかいうものが何なのかもよく分かっていない状況で読んだ。

    経済に対する規制を外して、より開かれた状態にすること。そしてそれは、グローバリズムによって国外にも扉を開き、世界を組み込んだ市場経済を作り出す。労働力は自由に移動するし、企業はより広くマーケットを拡大できる!

    やたら持ち上げられる新自由主義に対する切り込み。めちゃくちゃ要約すると、輸出にばかり目がいって、短期的な利益ばかり出そうとするから、内需を生む賃金の上昇が起きない(コストとしか見なされないから、労働力に投資しない)。大金持ちは簡単に株式で富を増やすが、その会社がどうなろうが責任は持たない。格差は大きくなるし、賃金上がらなくて需要も生まれない。そんな中で過剰な供給は続けられる。キツい。マジ無理。

    教育格差の話は面白かった。高等教育を受ける人が増えて、初等教育だけが満遍なく浸透していた時に生まれていた平等的な価値観が崩壊。教育による格差が当たり前のものという認識になり、それが賃金格差に対する不平等に対して「当然だろ」と思う仕組みになった。もはや人々は格差を当然のものとして認識し始めている。


    あと、右派が新自由主義に対して肯定的なのが奇妙という話も勉強になった。まさかの昔は、右派(保守)は新自由主義否定。なぜなら共同体や育んできた国内文化・繋がりを尊ぶ保守にとっては、それを破壊するグローバリズムは本来真逆の考えだったから。それが全体主義・共産主義の台頭により近づき始めた。そして何より、エリートの劣化が、責任逃れな新自由主義を肯定したのだ(市場原理が要因だからしらねぇよ!という言い訳をする)。

    正直半分も理解できてないと思うが、新自由主義についての知見を少しだけでも得られて良かった

  • グローバリズム批判の本。

  • <blockquote>「グローバル資本主義に酔って経済は成長する」とシンジられてきましたが、実際のデータを客観的に眺めてみれば、真実はまったく逆であって、「グローバリズムは成長を鈍化させる」のです。(P.22)</blockquote>
    帰省なき自由貿易を推進することで、経済が過度に複雑になって不安定になった。一定のルールに酔って経済のあり方をある枠内にとどめ、安定化を図ってきた歯止めが失われ、不安定性がコストになってしまった。その最たるものがリーマン・ショック。

    エリートの失墜、ノーブレス・オブリージュが失われたことが新自由主義に結実し、新自由主義の元グローバリズムが世界を滅ぼす?

    「世界を滅ぼす」かはともかく資本主義に至るまでの社会の流れを止めるないし変えてしまったのは事実だろうなぁ。かといって資本主義的価値観が完全になくなったわけではないというところとの齟齬がいまの歪みなのではないか?

  • 2014年刊行。
    著者(対談者含む)エマニュエル・トッドはフランス歴史人口学者・家族人類学者。同ハジュン・チャンはケンブリッジ大学経済学部准教授(開発経済学)。同柴山桂太滋賀大学経済学部准教授(経済思想・現代社会論)。同中野剛志は元京都大学大学院准教授。同藤井聡は京都大学大学院教授(公共政策関連の実践的人文社会科学)。同堀茂樹は慶應義塾大学総合政策学部教授(仏文学・哲学)。


     タイトルどおり、反グローバリズムの論客が対談、あるいは小論形式で当該テーマについて叙述。納得する部分もあるものの、正直新味はない。またあまり紹介すべきところもない。
     また、対談と小論だけなので、緻密とは言いがたいし、情報の漏れ落ちの危惧もないではない。

     他方で、グローバリズムのカウンターがナショナリズムというところで、(理解は出来るが)ややげんなり。他には無いのかなあ…と思いつつ、いわゆる新自由主義経済学的手法を採用している国の多くの場合、経済成長率がさほど高くないことは記憶に止めておくべかも。
     なお、非グローバリズムの中国は良いのだが、ここで気になるのはアメリカ。一定程度経済成長をしている彼の国については、どう見たらいいのかな?。

  • 表紙の写真で分かるように、エマニュエル・トッドが表看板の本だが、彼が語る場面は、他の著者よりそう多いわけではない。

    グローバリズムが経済的繁栄をもたらすという理論は、じつは根拠がなく、逆に世界に不公平と混乱をもたらす元凶であることを、座談会およびそれぞれの論文でわかりやすく説いた本。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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