石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書 991)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609918

作品紹介・あらすじ

HONZ成毛眞氏 大絶賛!エネルギーがわかれば世界が見える。安全保障、世界経済、ナショナリズム、環境問題、新技術と、あらゆる問題に絡むエネルギーの基礎知識をこの一冊で。第1章 日本の輸入ガスはなぜ高いか?第2章 進化するシェール革命第3章 「埋蔵量」のナゾ第4章 戦略物資から商品へ第5章 もう一度エネルギー問題を考える第6章 日本のエネルギー政策

感想・レビュー・書評

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  • 石油業界の最前線で活動してきた筆者の実地経験を踏まえた、素晴らしい内容だ。
    しかし刊行から10年近く経ってしまい、内容に古い面があるのは残念。

    石油はセブンシスターズの独占的なアイテムからOPECの武器となり、現代では市場原理にしたがって動く商品に変わった。

    マスコミの浅いエネルギー論の間違いに気づける良書。

    読了60分

  • もっと早く本書を手にしておくべきだったと、読後後悔。
    残念ながら本書執筆時点から10年が経過した現在では、色々と抜け落ちている部分があるが、エネルギー業界人の入門者は必読だろう。
    特に、再エネや水素といった新領域に目が行きがちな今、これまでの世界成長を牽引してきた化石燃料とそのトレーディングを中心とした経済影響について、本書を通じて理解しておくことが肝要。

    特に引っかかった箇所を抜粋しておく。

    ポイントフォワードの思考

    石油開発事業には「ポイントフォワード」と言う考え方がある。経済合理性にマッチした考え方である。これが、進行中のプロジェクトがなかなか中断されない理由の1つだ。
    架空のケースで説明してみよう。
    ある案件が、探鉱から開発に移行しようとしている。探鉱は成功し、相当量の埋蔵量が発見された。さて、今は回収率を最大にするため、最適の開発計画を策定し、産油国政府の許認可を得る段階だとしよう。すでに興行権取得及び探鉱作業等で50億円投資済みである。
    だが、一方で、プロジェクトを推進している間に大きな情勢変化が生じていた。油価が値下りして、長期的に低迷しそうな上、地層構造が想像以上に複雑で、探鉱段階でも、予想以上の費用がかかってしまった。さらに、生産井の数を当初計画より大幅に増加しなければ、予定通りの生産ができないと判断される事態だ。
    この案件に参画を決めたときの経済性評価では、探鉱が成功すれば100億円の総投資額に対し、300億円の利益が出ると見込んでいた。だが、すでに50億円費やし、さらに100億円の投資が必要な見込みだ。それでいて予想利益は300億円から120億円に下方修正せざるをえない。つまり、総投資額150億円に対し、期待収益が120億円に減少してしまったのだ。
    さて、この時、この会社の経営陣はどのような判断をするだろうか?
    プロジェクトフルサイクル(最初から最後まで)で見ると、150億円の投資に対して120億円の利益しか期待できない。このプロジェクトは30億円の損失をもたらす案件と言うことになる。これ以上の推進は無謀か?
    だが、今プロジェクトを中断すると、これまでに費やした50億円が損として確定してしまう。さらに、中断の決定を当該産油国政府からすんなり承認してもらうのも困難だろう。地下に埋蔵量があるのは確実なのだから、交渉は難航するだろうし、もう二度とこの国での石油開発事業ができなくなるかもしれない。
    発想を変えてみよう。
    ポイントフォワード(過去の事は忘れて、これから起こることだけ)で考え、これまでの50億円の投資額(これをサンクコストと言う)を無視してみよう。すると、これから100億円の投資で120億円の利益が期待できる。20億円の黒字だ。当該産油国との好関係も維持できるし、さらにプロジェクトライフの後半には油価が上昇するかもしれない。今まで見つかっていなかった新しい埋蔵量が見つかるかもしれない。あるいはまた技術の進歩により生産コストを下げられるかもしれない。そういった可能性が残されている。今この段階でプロジェクトを放棄する事は、このようなアップサイド・ポテンシャル(良くなる可能性)を全て捨て去ることなのだ。
    こうした事態になった場合、現実には、ポイントフォワードの発想で決断する。これが、ビジネス社会の現実である。
    サンクコストを無視し、ポイントフォワードでプロジェクトの評価をする事は、石油開発では極めて普通の発送法なのである。したがって一度始めたプロジェクトは少々の情勢変化では方向転換することが少ないのだ。


    シェルのシナリオ・プランニング

    https://www.shell.com/energy-and-innovation/the-energy-future/scenarios/the-energy-transformation-scenarios.html

  • エネルギー問題の著書である
    スイスは1時エネルギーにはならない
    石油天然ガス石炭電子力水力含む再生可能エネルギーが1時エネルギー

  • 三井石油開発等でエネルギー関連業務に携わったエネルギーアナリストによる、一般向けエネルギー解説書。
    シェールガス、石油の埋蔵量と資源量、石油先物。
    素人にもわかりやすい良書だった。

  • ☆著者は商社でエネルギー関連業務に従事。
    ☆金曜懇話会の代表世話人(新興国・エネルギー関連の勉強会)

  • 石油価格はどう決まるのか?要するに「今や世界のどこでも調達できる市況製品」なのか、「地政学リスクにさらされた戦略商品」なのか、という点について、著者の結論は「基本的には市況製品。その気になればどこからでも買えばいい。ただし、戦争など一朝ことあれば戦略商品としての性質も出てくる」ということ。

    あと個人的には長らく腹落ちしていなかった「シェールガスってなんであんなに価格弾力性が高いんだろう?」(ちょっと石油価格は上がれば開発が一気に加速し、価格が下がれば開発が止まる。本来投資が莫大な資源開発は市況によってそう簡単には止められないし始められない。例えばLNG)。という点について、シェールガス開発のメッカである米国においては、資源開発は地権者の私的所有権の範囲で決められるから(普通は国との交渉)、というのはなるほど感のある見解であった。

  • 元商社マンによるエネルギー論。なんといっても現代社会の基幹であるエネルギーについて手ごろな見取り図を与えてくれる。石油・ガスの話がおおむね中心。ブローカーの存在意義など「あれっ?」と思う記述があったり、電力会社の原油生焚きのような説明不足もあるがご愛嬌レベルと思う。

    ・天然ガスは液化してLNGにする技術が開発される前は、石油のほぼ役に立たない副産物でしかなかった。

    ・LNGプロジェクトには探鉱、開発に加えて液化、タンカー、再気化のロジが必要。需要地との距離により必要なタンカー船腹量が異なるが1兆円規模になる。よって典型的なLNG長期契約では引き取り義務を定めたり、仕向地規定条項があったりする。売主、買主が一体となって推進するわけだ。

    ・とは言え2013年の世界天然ガス生産量のうち貿易量は30%。さらにそのうちパイプラインが70%で、LNGが30%、天然ガスは地域性が強く、地域間の価格関連性は弱い。日本のLNG輸入量は世界の貿易量の約4割弱。

    ・日本向けLNGは原油代替だったので原油価格リンク。欧州の天然ガスは競合である重油や軽油価格リンク。パイプライン大国アメリカは国内需給で決まる。

    ・国境をまたぐガス田は早いもの勝ち。

    ・パイプライン大国アメリカは天然ガス消費量の22%、日本の6倍。アメリカでなら天然ガスをスポットで売ることができる。トリニダード・トバゴのようにアメリカ市場で売る前提でガス田開発をすると、長期契約と違って供給責任がないので設備の安全係数を低く見て低コストにできるそうな。

    ・ふつう地下資源は国家のものだがアメリカでは土地所有者のもの(海上は連邦と州)。イギリス法由来だが今ではアメリカとカナダだけ。

    ・アメリカの基幹パイプラインは第三者使用権が保障されている。入札などで誰でも使用できる。

    ・大手国際石油会社の代表だったセブンシスターズは73年には供給量の64%を占めていたが、石油ショックを経て国営会社が伸張し、最近では16%に過ぎない。

    ・契約に関するリスクでは支払リスクより履行リスクが厄介と。ここはもう少し説明してほしい。契約不履行をされると銀行によるLCも意味がないと。

    ・ロンドンのIPEは原油先物取引においてNYMEXに立ち遅れていたが、現物受渡し不要の差金決済に条件を変更したことで流動性が高まった。また湾岸戦争で時差による地の利もあった。東京は時差で言うと一般に不利な立場になる。アメリカと日本の間には海しかなく何も起こらない。

    ・コモデティ:その業界の関係者でない一般の人でもいつでも容易に取引できる商品

    ・シェール革命によりアメリカ産LNGが世界に出回るようになると、天然ガスもコモデティ化がある程度進むと予想される。

    ・平時のコモデティ、非常時の戦略物資

    ・消費エネルギー量 「原始人」2,000kcal/d、「高度農業人(AD1,000年)」24,000kcal/d、「技術人」230,000kcal/d

    ・日本では電気は投入エネルギーの43%を占めるが、ロスが大きいので使用エネルギーだと24%。

  • 【由来】
    ・文春のメルマガ。ダイヤモンドかTKの佐藤優評でも見たか?

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】
    ・ニーモシネ

    ・ガスは液化技術が難しい。このため、ほとんどが現地消費であり、流通しているのは30%程度。

    ・アメリカのシェールガス・シェールオイルは、今後ますますアメリカの国力を増すことに貢献するというのが著者の見立て。

    ・石油の生成には根源岩、移動、貯留岩、トラップ、帽岩の5つの要素が絶対に必要。この中のどれかの存在が欠ければ、石油は存在しない。ちなみに、貯留岩ってのは、スポンジのイメージ。

    ・戦略物資と見なされていた石油もコモディティの一種と見なされるようになったのである(P173)。平時にはコモディティだが、非常時には今でも重要な戦略物資なのである。

    ・資源量と埋蔵量は違う。埋蔵量は、実際に取引する状態にできる量のこと。これは技術的な進歩や、市場価格との関連から変動する。かつては埋蔵量はもうすぐなくなる、というような数値だったが、今は比較的安定している。

    ・「エネルギー界の池上彰さん誕生!」との帯。う〜む、自分の地頭が悪いせいか、そこまではよく理解できなかったような。とは言え、ひとくちに「エネルギー」と言った時に漠然と抱いていたイメージに、かなり具体的な肉付けができる程度には理解できた。

    【目次】

  • 三井物産でエネルギービジネスに長年従事してきた著者による素人にもわかるエネルギー入門。自分自身10数年前エネルギー関連のAgendaに関わりそれ以降エネルギー問題については注視してきたが改めて俯瞰するために大変役立つ良書。難しい問題をここまで平易な日本語でしかも新書で著している点にも感動です。ちなみに著者はライフネット生命社長の岩瀬氏のお父様だそう。すごい親子。

  • 石油の未来はどうなるんかな。
    少なくとも、ガソリンで走る車を乗る人は
    マニアと呼ばれる日が近い。
    10年後?

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著者プロフィール

エネルギーアナリスト。1948年、埼玉県生まれ。埼玉県立浦和高等学校、東京大学法学部卒業。1971年、三井物産に入社後、2002年より三井石油開発に出向、2010年より常務執行役員、2012年より顧問、2014年6月に退任。三井物産に入社以来、香港、台湾、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」の代表世話人として後進の育成、講演・執筆活動を続ける。
著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?』『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』『原油暴落の謎を解く』(以上、文春新書)など。

「2022年 『武器としてのエネルギー地政学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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