イスラーム国の衝撃 (文春新書 1013)

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  • / ISBN・EAN: 9784166610136

感想・レビュー・書評

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  • イスラム国の成立の歴史的・地政学的背景、宗教的背景等について理解が深まった。
    アラブの春の意義、宗派対立、部族、流れ込んだ大量の武器。中東に平和的国家が誕生するための解は見えない!

  • 詳細かつ理解しやすい

  • まったく無知な状態から読み始めましたが、わかりやすくまとめられていました。

  • なんだかよくわからないものは恐ろしい。読んだ結果、恐ろしいことには変わりはないが、多少これが出来上がった歴史、思想的経緯、この組織の規模感、今後の見通しなどがうっすら想像できるようになった。

  • (発売当時)とてもタイムリーで端的に言って勉強になりましたね。

  • イスラム国の成り立ちからここまで勢力拡大することに至った背景をわかりやすく解説。
    彼らのロードマップ(行動計画)からすると、来年2016年から全面対決期に突入する。テロの危機が広がっていくのだろうか。

  • ※もくじにある節番号は、私が加えたものです。

    【目次】
    目次 [003-009]
    地図 [010]

    1 イスラーム国の衝撃 011
    1.1 モースル陥落 012
    1.2 カリフ制を宣言 013
    1.3 カリフの説教壇 017
    1.4 「領域支配」という新機軸 020
    1.5 斬首による処刑と奴隷制 023
    1.6 何がイスラーム国をもたらしたのか 029
    1.7 本書の視角――思想史と政治学 030

    2 イスラーム国の来歴 033
    2.1 アル=カーイダの分散型ネットワーク 034
    2.2 聖域の消滅 036
    2.3 追い詰められるアル=カーイダ 038
    2.4 特殊部隊・諜報機関・超法規的送致 040
    2.5 なおも生き残ったアル=カーイダ 044
    2.6 アル=カーイダ中枢の避難場所――パキスタン 045
    2.7 アフガニスタン・パキスタン国境を勢力範囲に 047
    2.8 アル=カーイダ関連組織の「フランチャイズ化」 050
    2.9 「別ブランド」の模索 052
    2.10 「ロンドニスタン」の「ローン・ウルフ(一匹狼)」 053
    2.11 指導者なきジハード? 057

    3 甦るイラクのアル=カーイダ 061
    3.1 イラクのアル=カーイダ 062
    3.2 ヨルダン人のザルカーウィー 063
    3.3 組織の変遷 064
    3.4 イラク内戦の深淵 070
    3.5 斬首映像の衝撃 071
    3.6 アル=カーイダ関連組織の嚆矢 073
    3.7 ザルカーウィーの死と「バグダーディー」たち 074
    3.8 カリフ制への布石 075
    3.9 二○二○年世界カリフ制国家再興構想 077
    3.10 「カリフ制イスラーム国」の胎動 085

    4 「アラブの春」で開かれた戦線 087
    4.1 「アラブの春」の帰結 088
    4.2 中央政府の揺らぎ 090
    4.3 「統治されない空間」の出現 094
    4.4 隣接地域への紛争拡大 097
    4.5 イラク戦争という「先駆的実験」 101
    4.6 イスラーム主義穏健派の台頭と失墜 102
    4.7 「制度内改革派」と「制度外武闘派」 103
    4.8 穏健派の台頭と失墜 105
    4.9 紛争の宗派主義化 106

    5 イラクとシリアに現れた聖域――「国家」への道 111
    5.1 現体制への根本的不満―― 二○○五年憲法信任投票 112
    5.2 スンナ派に不利な連邦制と一院制・議院内閣制 115
    5.3 サージ(大規模増派)と「イラクの息子」 116
    5.4 マーリキー政権の宗派主義的政策 118
    5.5 フセイン政権残党の流入 119
    5.6 「アラブの春」とシリア・アサド政権 120
    5.7 シリアの戦略的価値 122
    5.8 戦闘員の逆流 124
    5.9 乱立するイスラーム系武装勢力 126
    5.10 イラク・イスラーム国本体がシリアに進出 129
    5.11 イスラーム国の資金源 130
    5.12 土着化するアル=カーイダ系組織 134

    6 ジハード戦士の結集 137
    6.1 傭兵ではなく義勇兵 138
    6.2 ジハード論の基礎概念 142
    6.3 ムハージルーンとアンサール ――ジハードを構成する主体 146
    6.4 外国人戦闘員の実際の役割 152
    6.5 外国人戦闘員の割合 153
    6.6 外国人戦闘員の出身国 156
    6.7 欧米出身者が脚光を浴びる理由 159
    6.8 「帰還兵」への過剰な警戒は逆効果――自己成就的予言の危機 161
    6.9 日本人とイスラーム国 165

    7 思想とシンボル――メディア戦略 169
    7.1 すでに定まった結論 171
    7.2 電脳空間のグローバル・ジハード 173
    7.3 オレンジ色の囚人服を着せて 176
    7.4 斬首映像の巧みな演出 179
    7.5 『ダービク』に色濃い終末論 184
    7.6 九○年代の終末論ブームを受け継ぐ 192
    7.7 終末論の両義性 194
    7.8 預言者のジハードに重ね合わせる 196

    8 中東秩序の行方 205
    8.1 分水嶺としてのイスラーム国 206
    8.2 一九一九年 第一次世界大戦後の中東秩序の形成 207
    8.3 一九五二年 ナセルのクーデタと民族主義 211
    8.4 一九七九年 イラン革命とイスラーム主義 212
    8.5 一九九一年 湾岸戦争と米国覇権 213
    8.6 二○○一年 9・11事件と対テロ戦争 214
    8.7 二○一一年「アラブの春」とイスラーム国の伸張 215
    8.8 イスラーム国は今後広がるか 217
    8.9 遠隔地での呼応と国家分裂の連鎖 218
    8.10 米国覇権の希薄化 220
    8.11 地域大国の影響力 223

    むすびに [226-229]
    参考文献 [巻末i-ix]




    【抜き書き】
    ・演出について。
    □pp. 18-20
     卓抜なメディア・キャンペーンは続いた。七月四日はラマダーン月入りしてから最初の金曜礼拝の日であり、この日の各国の主要モスクでの説教には注目が集まる。ここに合わせてバグダーディーを公の場に初めて登場させ、モスクの説教壇に厳かに登らせた。預言者の血統を象徴する黒いターバンなど「衣装」にも入念に気を配っている。「黒いターバン」は、イスラーム史のイコノロジー(象徴様式)の中で重要な意味を持っている。著名なハディースによれば、ムハンマドが六三○年にメッカを征服した時、黒いターバンを被っていたとされる。モースルの電撃的な制圧を、預言者のメッカ征服に匹敵する世界史上の事件であると印象づける演出であると考えられる。「カリフ・イブラーヒーム」を名乗ったことは、「アブラハム一神教」の原点に戻る「世直し」の印象を与えようとしているのだろう。アラブ世界のイスラーム教徒の感情の琴線にいちいちふれてくる、巧みな象徴の連続である。
     「イスラーム国」は、統治機構としての実効性や、実際に行っている残虐行為の正当性は ・・18 ともかく、少なくとも「ドラマの台本」としては、よくできているのである。ラマダーン月の連続ドラマに耽溺して一瞬現実を忘れようとするアラブ世界の民衆に、あらゆる象徴を盛り込んだ現在進行形の、そして(視聴者がもし望むなら)双方向性を持たせた「実写版・カリフ制」の大河ドラマを提供した「イスラーム国」は、インターネット空間に没頭し、リアルとヴァーチャルの境目を暖昧にした現代人の想像力と感情に訴えかけ、国民国家の境界を超越しようと夢見る反近代・反欧米の感情を世界各地で刺激した。



    ・アプローチ。
    □pp. 30-31
     本書は、二つの大きく異なるディシプリン(専門分野)の視点や成果を併用して、「イスラーム国」という現象を見ていくことになる。一つはイスラーム政治思想史であり、特にジハード論の展開である。それらの思想に基づいた社会・政治運動の発展が、「イスラーム国」の組織と主体を形作った。
     同時に、思想や運動が現実世界で意味を持つには、有利な環境条件が必要である。現代のアラブ世界には、とくにイラクとシリアの特定の地域には、そのような環境条件が整っている。どのような経緯でそのような環境が整ったのか。これは政治学の分析視角を駆使 ・・30 して解明されるべき課題である。政治学には政治哲学のような規範的なものから、科学を目指した計量数理的なものまで、幅広い分野が含まれるが、ここでは、各国の政治体制の特質を地域研究の知見を踏まえて把握する比較政治学や、各国政治の展開と地域・国際政治の連関をとらえる国際政治学の視点を主に取り入れる。

  • 正直、全くイスラム世界の知識のない初心者が手にとるような入門書的なものではなかった。まず、登場人物の名前が覚えづらい。組織の名前も覚えづらい。不勉強なので、国名を聞いても場所をイメージできない。このような人間が読んでも、全く頭に入ってこなく、最終的には途中で読むのをやめてしまった。他レビューも★が多いので、きっと理解力の高い人や予備知識のある人が読むには有用な本なのであろう。とにかく、イスラム教徒=「テロリスト」的なイメージがついて回るのは、そもそもの貧困の問題であるとか、過去のイスラム世界と西欧世界との争いの歴史の遺恨に原因があることとか、イスラムの教えを極端に解釈する一部の人間の行動によるものと理解はしているものの、やはり解釈によってはそのような暴力的な行為ができてしまうことや、同じイスラム教徒の中でもスンナ派、シーア派など、それぞれの考え方の違うものたちによって絶え間なく争いが繰り返されている現状を見ると、やはり「イスラム教」=「怖い」というイメージはぬぐえない。

  • 70億もの人間がいれば、一般人には理解できない異常な行動をとる人がいても不思議はないし、広い世界ではそういう人たちが組織化することもあるだろう。イスラーム国についてなんとなくそう思っていたが、事実はそんな単純な話ではない。
    2011年の『アラブの春』から、2001年の9.11から、1991年の湾岸戦争から、さらには1919年の第一次世界大戦後からもその萌芽を見ることができる、連綿と続く中東の歴史問題の一面が、イスラーム国の登場だ。

    大戦終結後、多くのアラブ諸国は不安定な王政からクーデターにより安定した軍制へ移行した。しかし、当然のように腐敗した軍制国家の一方は、資金の確保のため親米派となり、それに対抗する形で成り立つ反米派は、軍備を増強した結果、戦争により崩壊した。しかし、親米派にしてもその腐敗を発端にして『アラブの春』が起こり、一時的に宗教性の薄い民衆派が政治を担うこともあったが、多くはその統治能力の無さから崩壊した。そうしてできた空白地帯を占拠したのがイスラーム国だ。

    それが単なる火事場泥棒を狙う盗賊集団であれば、いくら空白地帯といえども勢力の拡大に限界はあっただろう。だが、イスラーム国にはその名の通り、イスラム国家としての覇権を夢見る宗教的意義がある。
    王政、軍制、民主制に失望し続けた人々が唯一すがることができるのが宗教だけだとしたら。また、その人々が暴力の歴史に慣れさせられていたとしたら、異教徒の奴隷化、斬首処刑、種々のテロ行為が『異常な行動』ではなく、『歴史の延長』であり『宗教的に正しい行為』とさえ見えても不思議はない。

    こうして歴史を学んでも、『自分がイラクに産まれたとしても、イスラーム国には組みしない』と言える人はいるだろうか。
    過去、強固な国家システムに変革を与えることが出来たのは戦争だけだったが、過去の戦争の結果が今の状態なのだとしたら、一体何が出来るのか。行動経済学、社会心理学、分子生物学、そして数多の科学技術の先に、答えが見つかる日が来るかもしれない。

  • テレビを見ない世間知らずな私には難しく、またショッキングな内容でした。こういう組織を構成しているのが志願兵だというのもまた衝撃でしたが、その心も解説されており、こういう考え方もあるのだと、見聞が広がりました。

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著者プロフィール

東京大学先端科学技術研究センター教授。専門はイスラーム政治思想史・中東研究。著書に『アラブ政治の今を読む』(中央公論新社)、『増補新版 イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)、『シーア派とスンニ派』(新潮選書)など多数。

「2022年 『UP plus ウクライナ戦争と世界のゆくえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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