ヘイトスピーチ 「愛国者」たちの憎悪と暴力 (文春新書 1027)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610273

作品紹介・あらすじ

2013年の新語・流行語大賞にノミネートされた「ヘイトスピーチ」なる現象は、年を追うごとに拡大している。 当初は、東京・新大久保界隈における在日韓国・朝鮮人に対しての罵詈雑言ばかりが注目を集めていたが、いまや対するヘイトスピーチは全国規模に拡散。また、Jリーグのサッカー会場に貼られた「JAPANESE ONLY」という横断幕が、民族・国籍の差別を助長するとして問題視されもした。さらに、ヘイトの矛先は、中国やイスラムにも向けられている……。 はたして、被害者を生み出すばかりの「排外主義」、この拡大を食い止める術は、あるのだろうか? ネットの中で醸成された右翼的言動、いわゆる「ネトウヨ」が、街頭デモにまで進出してきたのは何故なのか? その代表格とされる「在特会」とは一体、どんな組織なのか? デモに参加するのはどんな人たちなのか? こうした幾つもの疑問に答えるのが、本書。在特会問題を取材しつづけ、2012年には『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞を受賞した実力派ジャーナリストによる、「ヘイトスピーチ」問題の決定版!【目次】第1章 暴力の現状第2章 発信源はどこか?第3章 「憎悪表現」でいいのか?第4章 増大する差別扇動第5章 ネットに潜む悪意第6章 膨張する排外主義第7章 ヘイトスピーチを追いつめる

感想・レビュー・書評

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  • 最初本屋でこの本見つけたとき「え、文春?」って思った。文春新書って、あのかの有名なトンデモ本、竹内久美子の「同性愛の謎」を出してるところだからだ。以前、この本に対してあれこれ文句を付けてたときに仲間内で「ま、文春だからねー」って話をしてたんだが、これも「文春だからねー」のうちの本なんだろうかと。

    それはともかく、内容的にはヘイトの対象となっている人たちにとってはとても過酷な本だと思う。彼らはどんな差別をどのように受けているか。差別をしている人たちはどういう考えで差別をしているのか。そんな「実態」が書かれている。

    わたしは少し前に「金で解消される差別って一体どういう差別なんだろう」ってここに(注:Facebookに)書いたことがある。そのときわたしは、外国人差別については金で解消される差別じゃない、と思っていた。今でもそう思っている。けど「在特会的な差別をしている人たち」がしている差別の「軽さ」、そう、この人たちがしてる差別って、周囲に対してはものすごく「害悪」としか言いようがないのだけど、本人たちの意識って本当に「軽い」のね。しかも発言に重みもないし(言ってることは嘘ばかりだし、都合が悪くなったらすぐ削除する)、言ったことの責任も取ろうとしていない(自分は身分を明かさないで匿名で人を攻撃する)。そんな「軽さ」なのに金では解決できないのか。そのことに絶望する。


    そしてその人たちに共通するのは「日本人こそ被害者だ」という意識。なんで、なんでそういう意識になっちゃうんだろう??わたしにはそこのところが本当によく分からなくて。ありもしない「在日特権」に腹を立てて、日本が外国人に乗っ取られると脅えて。「いや、在日特権なんかありませんから」というと「真実を知らない」と言われる。これはまるで「世界の終わりが近いうちに来る」と信じて脅えているカルト宗教の信者みたいだ。ということは、カルト宗教から脱会させるように丁寧に丁寧に「あなたの信じている聖典は間違っています」と一つ一つ説明せねばならないのか?

    しかも今やこの「在特会的なもの」は「在特会」だけのものではなくなってきている。今の自民党の一部の議員はもともと「在特会的なもの」を持っているし、一般社会にも「在特会的なもの」が浸透しつつある。これは怖い。ものすごく怖い。

    取り敢えず自分にできることはそういう世の中に対して「NO」と言い続けることしかできない。

    この本は当事者にとってはつらい本だと思うが、非当事者にとってもあまり愉快な本じゃない。けど、実際、どういうことが起きているのか。それは是非広く知って欲しいと思う。

  • 一気に読んでしまった。こんなことが許されて良いのかという怒りで読み進む。在特会に参加する一見普通と思われる人が抱えている心の闇がわからない。怒りを自分よりも弱いものにぶつける事だけはわかったが、それが民族差別を助長している事に自覚しているのか?
    ある朝眠りから起きたら家の玄関に印がされているような事が起こるような不気味な兆候だ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685533

  • ことの始まりは日韓ワールドカップでの韓国の「蛮行」に危機感を抱いた人々が増え始めたことにあるらしい。という意味では皮肉な結果になったというか、思わぬ副産物をもたらしたと言えるだろう。
    内容的には著者の取材記録なので体系的な記述がされているわけでもないし、本質に切り込んだ分析がなされているわけでもないが、この種の急進的な運動をある程度は概観することはできる。運動自体を批判するのは簡単ではあるが、その背景にある所謂「アジア問題」やナショナリズム問題に関して、もう少し深い考察が欲しかった。

  • 日本在住の韓国人に向けたヘイトスピーチの台詞、恥ずかしながら初めてまともに読んだ。理不尽な差別に他ならないし、それを正当化する理由も論理がボロボロだ。
    そしてそれを批判しながら取材し続ける著者の強さも滲み出ていて、尊敬せざるを得ない。

  • 社会
    ノンフィクション

  • 本書は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を中心としたヘイトスピーチの現状が書かれている。
    ヘイトスピーチとは「人種や民族、障害など本人が変えられないものを基に行う差別的、侮蔑的発言」を指し、2013年にはユーキャンの流行語にもノミネートされた。
    このような「人種差別主義」のことを「レイシズム」と言い、「人種差別主義者」のことを「レイシスト」と言う。
    FIFAでは「ゼロトレランス」(非寛容)の原則で、差別的な行動は例外なく罰している。例えば、2013年にギリシャでナチス式の敬礼のポーズをとった20歳のサッカー選手を永久追放にした。本人に差別的な意図があるにせよ、ないにせよ、例外なく罰するのがゼロトレランスである。
    格差社会では「自転車反応」が起き、自分より上の者には頭を垂れるが、一方で下の者を足蹴にする。下の者を足蹴にすることでしか満たされない人が、「朝鮮人」「在日」とレッテルを貼り、行うのがヘイトスピーチだ。江戸時代の穢多・非人の相似形だ。
    そして、在特会の人間には、自己肯定するロジックとそれが正しいと思い込む思考停止がある。
    内田樹氏が「呪いの時代」と言った。レッテルを貼り、記号化し、「呪い」をかける。そう、ヘイトスピーチは「呪い」なのだ。
    国連の人種差別撤廃委員会から圧力を受け、各自治体からも要望があり、2016年5月、ようやくヘイトスピーチ規制法が成立した。

  • すべての差別を取り去るのはきっと難しい。そこに弱虫たちの悪意があるから。それでも声をあげるのならば、やはりきちんと学ばなければ。事実、歴史、ねじまげられた真実に踊らされて誰かを傷ける人には、私はなりたくないし、そんな社会はかなしい。

  • 苦しみとか悲しみとか劣等感とか息苦しさとか、そういうもののはけ口として人間の一番苦しい部分が出ているのがヘイトスピーチっていうものなんだろうなって思って本当に悲しい

  • テレビ・新聞等の主要メディアはヘイトスピーチを正確に報道できないのだろう、あまりに下劣な表現が多いから。そのせいで、国民はその中身を正確に知ることができない人も多いのではないか、私のこの本を読むまでこれほどひどいとは思っていなかった。

    ネット情報を丸呑みにしてそれを妄信する人もかなりの数に上るだろう。ヤフコメ等でも何でも中国・韓国にこじつける人が多いことにあきれてしまう。

    確かに国家としての韓国・中国には容認できないことも多く憤りを感じることもある。だが、ヘイトスピーチは手段として賛同できない。外国人だけではなく、何か攻撃対象を見つけては叩く、不寛容すぎてはいけないと思う。

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著者プロフィール

1964年生まれ。産湯は伊東温泉(静岡県)。週刊誌記者を経てノンフィクションライターに。『ネットと愛国』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞、「ルポ 外国人『隷属』労働者」(月刊「G2」記事)で大宅壮一ノンフィクション賞雑誌部門受賞。『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『ヘイトスピーチ』(文春新書)、『学校では教えてくれない差別と排除の話』(皓星社) 、『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、 『団地と移民』(KADOKAWA)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)他、著書多数。
取材の合間にひとっ風呂、が基本動作。お気に入りは炭酸泉。

「2021年 『戦争とバスタオル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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