シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 ((文春新書))

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610549

作品紹介・あらすじ

『シャルリとは誰か?』で私はフランス社会の危機を分析しましたが、11月13日の出来事〔パリISテロ〕は、私の分析の正しさを悲劇的な形で証明し、結論部の悲観的な将来予測も悲しいことに正しさが立証されてしまいました――「日本の読者へ」でトッド氏はこう述べています。 本書が扱うのは昨年一月にパリで起きた『シャルリ・エブド』襲撃事件自体ではなく、事件後に行なわれた大規模デモの方です。「表現の自由」を掲げた「私はシャルリ」デモは、実は自己欺瞞的で無意識に排外主義的であることを統計や地図を駆使して証明しています。 ここで明らかにされるのはフランス社会の危機。西欧先進国にも共通する危機で、欧州が内側から崩壊しつつあることに警鐘を鳴らしています。ユーロ、自由貿易、緊縮財政による格差拡大と排外主義の結びつきは、ベストセラー『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』にも通じるテーマで、前著の議論がより精緻に展開されています。

感想・レビュー・書評

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  • 本書を駆け足で読み、エマニュエル・トッド来日講演を聴きに行った。サブタイトルが原題では「宗教的危機の社会学」であり、文庫化に際してこちらがメインタイトルとなったことから分かるように、トッドはシャルリ・エブド事件やそれに続くイスラム系組織によるテロを主題にしているのではない。現在のフランスが置かれた状況から、普遍的な公式を導き出そうとしている。その答えが「宗教の危機がイデオロギーの危機に転移する」ということだという。

    19世紀にパリ盆地においてカトリックのおよそ半分が消滅するという宗教的危機があった時には、フランス革命という人類史に残るイデオロギーの大転換があった。

    20世紀初頭には北部ヨーロッパにおいてプロテスタンティズムが危機に陥ると、ドイツやオランダを中心にナショナリズム、ファシズムが勃興した。

    そして今、20世紀後半から21世紀にかけてヨーロッパの多くの地域で、カトリックもプロテスタントもその生き残りすら消えてゆこうとしている。この宗教的危機に呼応するかのように、共産主義の崩壊が起きている。

    この仮説を、トッドは丁寧な調査と膨大な資料によって裏付けている。

    シャルリ事件後のフランスはイスラムに対するヒステリックな反応が目立つのだが、トッドはそれに異を唱える。

    フランスにおけるイスラム教徒の割合はわずか5パーセントに過ぎないのにもかかわらず、フランス国民の多くが異常なオブセッションを〜無意識のうちに〜感じている事が問題なのだという。

    また社会の不安要因は経済(格差の拡大や貧困)だけではなく、宗教の空白という要素も大きいといい、そのふたつが重なると、特に危険が増すという。

    高い失業率が続き、宗教も消滅しつつあるフランス社会は非常に不安定であり、まさに今、大きなイデオロギーの転換が起きる可能性があるということだろう。

    フランスをはじめ欧州の今後を注視したい。

  • タイトルがキャッチーなので気軽に読み始めたら、中身ががっつりお勉強テイストだったw
    このテイスト、大学卒業以来・・・wがんばるw

  • イスラム諷刺画がISの怒りを招き、テロ事件のターゲットになったフランスの「シャルリ・エブド」。15年1月は「私はシャルリ」とのプラカードを掲げる400万人の大デモが行われた。暴力に対する民主的なアピールとして報道されているが、イスラムを冒涜する自由とは何なのか!?実は排他主義の横行ではないのか。フランスの社会の宗教的な背景から詳細に分析し、デモ参加者はどのような人たちか?を追求する。それは大革命以降の脱キリスト教、反ユダヤとの繋がりの中で、著者が”ゾンビ・カトリシズム”と呼ぶ市民たちが浮かび上がってくる。イスラムとキリスト教の対立ではなく、イスラムと無神論との対立であり、脱キリスト教が最も進む世俗国家ならではの問題なのだということが痛切に感じられる。歴史人類学者・家族人類学者による豊富な各地域別の統計に基づく実証を伴った説得力に富む主張である。

  • 陳腐なシャルリ事件解説書かと思ったらかなり硬派なフランス社会論だった。フランス一般の捉え方に異を唱えるタイプの本なので最初の一冊には向いていない。ただ、読む価値はある。
    そもそもライシテの歴史を踏まえた「俺たちが政教分離を守っているのだからお前らも守れ」という主張が正しいのかを検証し、またデモ参加者の地域が都市部に偏っていることを論証する。(フランスでは都市と地方の格差が深刻である)
    とはいえ、新書の紙幅上仕方ないが、反EUなど従来の主張を繰り返して紙幅を費やし、かつアプリオリにされている部分が多く論証が足りておらず、また主として人口統計に依存した切り口では物足りない部分が多いため、全体としてざっくりとし過ぎている印象が強い。

  • シャルリ・エブド襲撃事件を受けてフランス各地で行われた「私はシャルリ」デモ。「表現の自由」を掲げたこのデモが、実は排外主義的であることを明らかにし、排外主義がヨーロッパを内側から破壊しつつあると警鐘を鳴らす。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40236770

  • 宗教というものは、一部の特権階級がその他の人々をコントロールするために発明されたもの。神話や信仰は知る価値のあるものだけど、それらはについて考える時に権力者の道具であることは常に意識する必要がある。

    「私はシャルリだ」運動は、社会的、歴史的な平等から出たものではなかった。あれは「表現の自由」の皮をかぶったイスラムフォビア、イスラム排斥運動だった。
    当時、イスラム教徒に対して踏み絵のようなことがフランスで行われていたとは知らなかった。

  • ウクライナ問題に関する著者の見解がユニークなものだったので、こちらも読んでみた。

    これは2015年1月におきた『シャルリー・エブド』事件にともない起きたデモなどフランスの反応についての分析。

    原著の出版は、その数ヶ月後であることから、エッセイとか、インタビューを集めたものかと思って、読み始めたら、一冊を通してなんか堂々した論考となっている。

    まさに社会学的、人類学的な論考で、フランスの地域ごとの価値観の分布とデモへの参加率から、どういう人がデモに参加したのかという推計から始まるところが圧倒的。

    脱宗教の度合い、平等主義、権威主義の度合い、社会階層、年齢による差など、定量分析を踏まえながら、大胆な仮説を提案。

    著者は、『シャルリー・エブド』事件への抗議デモに参加した人は、「言論の自由」という名のもとに、本当は(集団的な無意識レベルでは)、反イスラム的な動機で参加している。この動きは、反ユダヤ、人種主義、全体主義に向かう危険性をもっていると主張。

    そして、それはフランスに限ったことではないというか、ヨーロッパ全体で起きていることの一つの断面でしかないとする。

    この本がフランスででると、非難があつまったようだが、11月には、ISによる同時多発テロがパリでおき、そしてそれへのフランス人の反応をみるかぎり、著者の主張が残念ながら、裏付けられたとする。

    ヨーロッパにおけるポピュリズム的な動きがなかなか理解できずにいたのだが、そこにアプローチするための一つの大きな視点が得られたように思う。

    著者は、フランスより、日本のほうが、自分の言っていることを理解してくれる、とお世辞かどうかわからないが言っている。そこはどうかわからないのだが、私は、著者の意見をそのままに受け止めるわけではないが、一つ一つ、なるほどな議論だと思った。

    それは別に日本的な価値観が著者と近いというより、問題との距離感が違うだけではないかとも思うが、もともとの文化の宗教との関係がヨーロッパとは違うという視点はなるほどと思った。

  • フランス人は面倒くさいと良くわかった

  • おそらく地の文章がそうなのだろうけれど、著者独特の言い回しもあって非常に読みにくく苦労しました。がっつりした専門書ではない容れ物てわ類書もそれほど多くないだけに残念だ。この本でも指摘されているように対抗勢力あるいは、他者に対して寛容であることがこれから本当に大切であると感じました。68

  • 翻訳,しかもフランス語の翻訳であることもあって読みにくいというのが率直な感想.自分の理解力不足ももちろんだけど.
    国内に住んでいる人々と移民の「同化」というのはこの国にいるとわかりにくいのだけど,著者はそこに希望を見出しているように読める.

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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