脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克 (文春新書 1059)

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610594

作品紹介・あらすじ

痛快すぎる知的刺激! 「近代的人間観を捨てよ」脳科学・社会科学・哲学……新進気鋭の論客による白熱の議論10時間!人類はなぜナショナリズムに高揚し、愚かな政治的リーダーを支持し、戦争をやめられないのだろうか? なぜ賢いはずのインテリがバカな政策を支持し、知性に溢れた科学者がサイコパスに翻弄されてしまうのか? あるいは、なぜ日本人は「空気を読む」のが得意なのに、外交が不得手で英語も下手なのか? ……じつは最先端の脳科学実験では、これらの疑問を解き明かすヒントが多数報告されている。本書は新進気鋭の論客たちが、脳科学実験の成果や古今東西の哲人・社会学者の知見などをもとに、われわれが囚われている近代的人間観を乗り越えることを試みる。「保守主義は危険」「ナショナリズムは悪」「改革は善」「人を見た目で判断してはいけない」……こうした思考は、すべて近代がもたらした迷妄にすぎない。近代的価値観が捨象してしまったものの中にこそ、人間の本質がある。最先端の脳科学でも、それを裏付ける結果が出ているのだ。本書に「きれいごと」は一切ありません!◎男は女より知能が高い個体が多いが、バカも多い◎ナショナリズムが快楽なのは「内集団バイアス」が働くから◎ドーパミンが多い民族は進取の気性に富むが、浮気も大いにする◎「自由」は人間の脳にとっては苦痛である。国民主権も民主主義も、脳には合わないシステムだった◎イスラム国が世界遺産を破壊するのは、聖的なシンボルを破壊すれば共同体が滅びるから◎生物学的に女性のほうが「保守」の本質を深く理解している◎世の中にバカがはびこるのは、「B層」よりも「A層」に責任がある◎脳内物質オキシトシンは人類社会をまとめるが、戦争にも駆り立てる

感想・レビュー・書評

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  • 国家や政治の在り方、保守・左翼論壇の潮流などを社会学的な考察を元にその当事者である人間を脳科学的に分析し、ニーチェを始めとした哲学の引用をスパイスにして議論が進みます。対談なので深く考察された世界観などは望むべくもないですが、断片的ながらも様々な展開を楽しむ中で多くの気付きを得ることができました。
    それにしても、適菜収氏の安倍元首相に対する罵詈雑言は品性を疑うレベル、本書の冒頭で人は見かけで判断できるとの議論があったので、適菜収氏の写真を検索したところまさに。。。w

  • 読了:2017/8/5

    他人を嘲笑い軽蔑することを、自尊心を保つための武器としている二人の男性の居酒屋談義に中野信子さんが如才なくヨイショコメントをしている本。

    「良質な保守論客」とか言われてる人たちがこんなに野卑で下劣な話し方とはなぁ…。

    いくら対立相手とはいえ「安倍は」と呼び捨て、一般市民をA層B層C層D層と分類し(彼らに言わせると自民党が作った分類らしいが)A層B層を侮蔑しきった発言を繰り返す様は、いくら良い大学を出ていよう常識と良識が身につくとは限らないのだなぁとしみじみ感じた。

    内容も批判だけで代案はなかったりあっても根拠が薄く、「結局あなたには何ができるの?何を生み出せるの?あなたのした何が『この国のため』になったの?」と問いたくなるものだった。

    にもかかわらずこんな本を堂々と出版してしまえるのは、自分は正しいことを言っているのだ、だから偉いのだ、よって自分の言葉は皆が聞く価値があるのだ、という自意識のなせる技であろう。

    検証を行うこともなく自分は正しい、あいつらはアホだ!と言いっぱなしなだけの彼らの姿を、エビデンスベースの思考をずっと説いてきた中野さんが内心どう思っていたのかすごく聞いてみたい。

  • 本書タイトル「脳・戦争・ナショナリズム」から何を想像して書店で手に取ったか、奇妙な組み合わせだなと思いながらも、脳科学者中野信子氏、批評家の中野剛志氏、そしてズバズバともの言う哲学者適菜収氏と普段良く手に取って読んでいる御三方の座談会形式に、いったいどんな会話がなされたか気になって読んでしまった。内容はタイトルそのまんま、3名の分野がそのまんま話の中心として、なんかこう、練り上げられていくと言う表現が正しいのか、形容し難いが面白い内容となっている。
    まずは信子氏の脳科学的な知見が飛び出してくる。人の見た目に関して描かれる書籍は数多くあるが、本に書いて文字に起こして大丈夫か不安になる様な記載でかなりのインパクトの中でスタートする。人だけでなく生物全般に対してだが、攻撃的なのは顔に出る。脳内物質のアドレナリンが出て攻撃的な側面が強いとキツネの様な鋭い目つきになる。悪人顔が大体わかるのは、アドレナリンの濃さが顔に出てるといい、犯罪者は見分けられると言う話。本書は座談会形式だから、意見を言える自由な空間であるとはいえ、その道のプロ3人が集まると流石に内容もエスカレートしていく。左翼が丸メガネをかけたがるだの、美人は右翼に走り(自分が肯定されて生きてきたから)、逆に容姿で否定されてきた女性は自由と平等を求めて左翼に走りやすいなど、うんうんと頷いてる自分も怖くなってくる。
    日本人は自分で物事決めたがらず、ヨーロッパ人は自分たちでルール決めたがる。ドーパミンの分解活性が強い日本人と、そうでないヨーロッパ人。ドーパミンが残りやすいヨーロッパ人との脳科学的な分析も面白く、そこに剛志氏の社会的な背景や歴史の話が加わり、さらに適菜氏の哲学的なアプローチが裏付けを強くしていく。なおルックスの良い人は、男女ともにIQが高いことも統計学的にはわかっているなどは大変興味深いし、この様な座談会以外で聞けそうにない。
    次にネイション(国家)とパトリア(土地や共同体のへの愛着)にテーマが移る。インドネシアの例。国境の枠ができた後に、その集団(擬似的共同体)に対して愛着が湧く様になるといった、これまでの成り立ちとは逆の意見も面白い。ナショナリズムは一種の宗教で、一神教の神によって国家をまとめる方が簡単、だからキリスト教が必要だったなど、その逆に聖的なものを破壊してコントロールするのは難しく、共産主義は指導者を神格化して統治しようとしたが失敗しているといった話も面白い。ISは国境など関係なくイスラムの力で連携しようとしてる。他人が引いた国境線は関係なく、彼らが大量に若者を集めて力を維持して戦う理由にも触れる。
    後半になると益々話は盛り上がる。前半のテーマをこれまでの意見で集約していく様にも感じる。社会に問題があった場合の解決方法としては、経済学者アルバート・ハーシュマンが唱えたイグジット(その場から逃げ出す)とボイス(状況を改善すべきと声を上げる)。前者は税金の軽い国に移住するなどグローバリズムの弊害。後者はイグジットした若者を受け入れるISが巧妙な動画コマーシャルで人員募集するような、イスラムの力で世を変えるといったものが、そうした前半の話がある上で更に厚みを増していく様な形で繰り広げられている様に思える。
    こうした自身の研究テーマに対して絶対の自信があるのは、誰よりも考え方に自身があり、維持するために常に深く考えているからだろう。考えるのを面倒くさがると、同調圧力に左右される方が楽になってしまい、声の大きな独裁者に頼りたくなる。民主主義の手続きは面倒。橋下徹や小泉純一郎が良い例だが、自分の考えがあれば、簡単には靡かないし(知った上で靡くというのも手だが)、しっかり考えをぶつけられる。
    こうした座談会を見ながら、あたかもその場で自分も会話しているように一緒に考えていく。それにしては私に取って豪華なメンバーだし、友人になる機会もそうは無いだろうから、独り本書を読みながらその雰囲気に浸っている。

  • エビ無し、参考文献無し。印象論の域を出ず。

  • 中野信子さんの書籍はまだ数冊ほどしか読んでいませんが、脳科学や人間行動学などの観点からはかなりためになります。
    しかし、本書に関しては、序章と第1章を読んでいる間に興味が失せて、それ以上読み進めることができなくなってしまいました。
    その理由は、本書で対談している三人が、近代的価値観をひっくり返したいとか、集団的バイアスの危険性について言及していますが、そのコメントの方がかなりバイアスがかかっている感じがしたからです。
    日々、如何にして自分の固定観念を打ち砕くことができるのか思考錯誤している私には、三人の固定した考え方がどうにも受け入れなさそうです。自分の考え方をフラットにしてくれそうな別の書籍を選ぶことにしました。

  • 近代化に対する批判的な観点や、聖的なものの重要性が論じられている。共同体から切り離された個は、集団を求めてポピュリズムに向かうとの指摘は、まさに現代社会の問題点をえぐり出していると思った。

    宗教やナショナリズムは知性を鈍らせ、死をも厭わない感情を抱かせるが、人間が生き延びるために必要なものでもある。デュルケームは、トーテム原理によって、共同体の社会的、道徳的同質性を維持できると書いた(「宗教生活の原初形態」)。トクヴィルは、人間は信仰をもたなければ隷属を免れず、自由でありたいなら宗教を信じる必要があると書いている(「アメリカの民主政治」)。ニーチェは、統合原理としての神とは、先祖に対する畏敬の念、自然への恐怖、農耕に対する感謝といった民族のあらゆる感情を投影したものであり、民族は神に祈りを捧げることにより、自己肯定したと指摘している(「アンチクリスト」)。国家のような規模が大きなものをまとめるには聖的なものが欠かせず、ナショナリズムとは一種の宗教であると言える。宗教を否定したはずの共産主義国家は、最高指導者を神格化するようにして国家を統治した。フランス革命は、理性を神格化してカオスに陥った。

    戦争は近代を生みだした側面がある。宗教改革にともなう戦争によって、軍隊や国家を合理的、効率的に運営するようになり、近代的・合理的な組織や制度が生まれた。また、諸侯が分立する時代から中央集権になって、絶対王政が出現した。大砲などの火器が登場した軍事革命によって、権力が君主に集中した。庶民を戦争に巻き込んで動員すると、庶民は徴兵や徴税と引き換えに自分の権利を要求し、その結果として、近代的な自由権や参政権が誕生した。

    人間は、共同体から切り離されて個になれば、他人の振りを見て動くしかなくなり、集団を求めて大衆扇動家やマスメディアに流されたりする。悪い意味での集団主義であり、これがポピュリズムの正体と考えられる。橋下維新の支持率は、昔ながらの町内会活動を続ける地域では低く、新興の集団住宅地では高く、共同体から切り離された人々が支持している。

    伊藤博文や井上馨がドイツへ憲法を学びに行った時、憲法とは歴史から抽出したものであると教えられ、帰国後に古典を読み込んだ。そうして出来上がったのが日本帝国憲法だった。したがって、立憲主義とは保守のもの。

    郵政選挙の際に自民党が広告会社に作成させた企画書で分類された、マスコミ報道に流されやすくIQが低い「B層」は、日本固有のシステムよりもグローバリズムに肯定的で、近代的諸価値を妄信する人々。現在の日本はB層がポピュリズムを支えている。知的エリートのA層が扇動的な政策を支持するのは、勝ち馬に乗るため。

    ドーパミンレセプターのサブタイプDRD4は、細胞の中に潜っている部分で同じ塩基配列が繰り返される回数が人によって異なり、その回数が多い人ほど新奇探索性が高い。南欧や南米では、7回以上の繰り返し型を持つ人の割合が多く、日本人では1%以下。

    セロトニンが少ないと不安感情を助長するので、新しいものを受け入れようとしない。セロトニンの量は、セロトニントランスポーターの量を決定する2種類の遺伝子の組み合わせによって、3種類に分かれる。日本では、SS型とSL型の合計が98%を占め、世界で最もセロトニンが少ない。

    遺伝と環境の重要性は、資質によって異なる。身長の遺伝率は70%。知能は様々に分類され、地頭の遺伝率は70%以上だが、言語性知能の遺伝率は15%。学習経験やストレス耐性などの後天的な資質も、エピジェネティクスによって子に受け継がれるが、ほぼ1世代限り。

    個人間では愛着を形成するオキシトシンは、集団内では結束を強固にし、集団外には排他的、差別的にさせる作用がある。

    美醜と正邪を判断している脳の領域は同じ。

  • 女性たちが安倍首相を見て気持ち割る地と思うのは、表層的な言葉に騙されないから。

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • タイトル負け、有機的に絡んだ話迄には発展してないが

  • 脳科学、社会科学、哲学の若手論客の鼎談をもとめた本です。
    序章 近代的人間観を捨てよ!
    第1章 ナショナリズム――なぜ快楽なのか
    第2章 国家と体制――なぜ自由は苦痛なのか
    第3章 ポピュリズム――なぜバカがはびこるのか
    第4章 暴力――なぜ人間は戦争をやめられないのか
    おわりに――近代を超えられるか
    お互いがお互いにジャンルで蓄積してきた知見を歯に衣着せず、論じ合う。
    何となく常識であると思っていたことは実は非常識であった。
    「おわりに 近代を超えられるか」において、「自然科学の陥穽」という項目があって、自然科学においてさえ「客観的な真理」を見出すのが不可能になったということです。自然現象の観察者が人間であるのだから、当然、純粋に客観的な真理があるわけがないのです。
    こういう自然科学者がおられるかぎり日本の学界は大丈夫だと思いたいです(笑)。

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著者プロフィール

中野剛志(なかの・たけし)
一九七一年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。九六年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。二〇〇〇年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。〇一年に同大学院にて優等修士号、〇五年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(ベストセラーズ)など多数。

「2021年 『あした、この国は崩壊する ポストコロナとMMT』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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