中国4.0 暴発する中華帝国 ((文春新書))

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610631

作品紹介・あらすじ

2000年以降、「平和的台頭」(中国1.0)路線を採ってきた中国は、2009年頃、「対外強硬」(中国2.0)にシフトし、2014年秋以降、「選択的攻撃」(中国3.0)に転換した。来たる「中国4.0」は? 危険な隣国の未来を世界最強の戦略家が予言する!戦略家ルトワックのセオリー・大国は小国に勝てない・中国は戦略が下手である・中国は外国を理解できない・「米中G2論」は中国の妄想・習近平は正しい情報を手にしていない・習近平暗殺の可能性・日本は中国軍の尖閣占拠に備えるべし

感想・レビュー・書評

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  • 2015年に習近平が訪米の時にオバマに提案した「新型大国関係」つまり「G2」提案は、日本のマスコミでは、日本は米中の挟間に取り残されるような取り上げ方をした。
    本書によると、この習近平の「G2」提案は、キッシンジャーのアイデアで、しかも彼はアメリカの中で「G2」を信じている唯一のアメリカ人と喝破している。
    別の本でも、中国はキッシンジャーへ莫大な資金援助をしているとのこと。
    また、キッシンジャーの著書の中で、彼はドイツと日本は必ずアメリカを脅かす存在になると警告しているほどの日本嫌いなのだ。
    しかし日本のマスコミは、中国問題になると、直ぐにキッシンジャーのインタビューを掲載したりして、中国寄りの論調が目につくし、中国報道に関して、中国の主張を受け入れなければ、日本はすぐにでも中国から締め出されるか、尖閣に攻め入られそうなヒステリックな論調で、政府批判をする。
    そういう意味で、本書は目先だけではなく、もう少し長い目で戦略的に中国を見ているし、日本のマスコミや評論家には見られない別の視点で中国を見ているのがよく分かる。

    以下、この本の概略を紹介します。

    中国はこの15年間に三度の大きな外交政策の転換をしている。
    チャイナ1.0:1970~2008:平和的台頭
    1972年以降のアメリカの対中政策は、中国を助けてソ連に対抗させる政策であったが、2000年以降アメリカは中国が余りに豊かになりすぎる事を恐れ始めた。
    しかし江沢民に指導された中国は、GATT・WTO・IMFへの加盟をし、私的財産権や知的財産権など国際法を順守し、国際秩序を脅かすようなことはしなかった。
     
    チャイナ2.0:2009~2014:対外強硬路線
    リーマンショックの発生とそれを克服した中国の自信が、政策を大きく変えていく。荒唐無稽な「九段線」に代表される南シナ海や尖閣の問題を次々と起こす。
    これに対して周辺の民主主義国では、親中派のリーダーを選ばなくなり、インドのナレンドラ首相や日本の安倍首相のように中国との摩擦も厭わないタフな人物が選ばれるようになった。またフィリピン、マレーシア、ミャンマー、ベトナムなどが、反中国包囲網を形成し始めた。
    ここで中国は「力の論理」に対抗する「逆説的論理」を理解できていない失敗を犯した。中国の最初の一手に対して、それに対する反応が周囲から起き、相手も動くし、情況も変わるダイナミックな相互作用が動きだすということが、理解されていなかった。
    この時期の中国は、日米同盟の2つの弱点を突こうとしていた。
    1つ目は、アメリカは尖閣の領有権争いでは中立を貫く。2つ目は靖国参拝問題。
    特に中国は日本に対して強硬姿勢を貫いた。彼らの読みは、中国市場に魅力を感じる日本企業が政府に圧力を掛け、言いなりに成るはずであった。
    それに対して安倍内閣は、靖国府不参拝の約束も尖閣が係争地であることの認定もしなかった。

    チャイナ3.0:2014~   :選択的攻撃
    太平洋を中心に反中国包囲網が形成され、2014年秋に中国は「チャイナ2.0」の間違いに気づいた。
    そこで「選択的攻撃」と呼べる「チャイナ3.0」に移行したが、成功していない。
    この「チャイナ3.0」は2つの要素から成り立っている。
    ①反撃をしてきた側への攻撃を止める。ベトナムと日本との関係がその例。
    ②キッシンジャーの提案する「G2」つまり「新型大国関係」を構築する。
    ここでも、中国は壁に突き当たっている。

    ここで著者はプーチンと習近平の違いを次のよう述べている。
    「大国というのは、ある要求をする前に、それが成功するか否かを見極めるものだ。ロシアがそうであるように、いったん要求を表明すれば、そこから動きを止めることはない」「中国の場合は、尖閣について大騒ぎをする割には何も起こさない。中国はただ騒ぐだけなのだ。これはロシアと中国の大きな違いだ」
    「ロシアは戦略を除いてすべてダメで、中国は戦略以外はすべてうまい」と皮肉っている。

    別途、著者は韓国と日本の謝罪問題についても述べている。
    ここでは、本題から外れるので簡単に留める。
    日本は韓国に対して既に十分過ぎるほど謝罪したし、今後もそれは続くであろうが、無駄である。なぜなら、韓国が憎んでいるのは、日本人でなく、日本の統治に抵抗せずに従った自分達の祖父だから。韓国人は自分たちの祖父を恥じている。その怨みが日本人に向けられている。だから彼らは決して日本人を許せないのだ。

    また日米関係についても、以下のように述べている。
    「アメリカが戦略面で日本を守ることは、何ら問題はない。ただ日本に取って中国の脅威というのは、その性質が異なる。日本本土への侵攻というより、離島の占拠だからだ。率直に言って、アメリカは現状では日本の離島の防衛までは面倒を見きれない。ここから、日本が自国の安全保障を全てアメリカに依存することから生じるマイナス面が明らかになる。自国の小さな島すら自分で守れないことが、むしろ日米関係を悪化させる方向に向かわせる。これは日本政府が自分で担うべき問題なのだ」

    チャイナ4.0:著者からの中国への提案
    ここまで書くと書き過ぎるので、これは省略する。

    日本政府への提言
    結論として、中国は戦略の下手な、極めて不安定な国なのである。それに対して周辺国は、全ての国に当てはまる「戦略の論理」を見極め、それに冷静に対処していくことが、求められる。
    巨大で不安定で予測不可能な中国に対し、あえて積極的な計画を持って対抗しようとするのは、そもそも馬鹿げているし、成功するはずがない。
    真珠湾攻撃のようなアタックや、逆に平和的イニシアチブなども進めずに、日本はひたすら受動的な「封じ込め政策」に徹するべきなのだ。

    全編を通じて、現在の中国の分析に関して、日本のマスコミが避けているような視点からのものであり、現状分析~提案に至るまで「目から鱗」の新鮮な論述である。
    是非お勧めの一冊である。

  • 中国共産党の戦略をわかりやすく解説。今後の進むべき道と結末も予想していて、なかなか興味深かった。
    ちょっと古い本だけど、ここ最近の中国の動向を見ていると、答え合わせも楽しめる。

  • 2019/03/15:読了
     めちゃくちゃ面白かった。
     しばらくこの人の本を読み続けたいと思えるほど、考え方が参考になった。

  • 中国という国は日本から見ると、あるいは日本人から見ると色々な評価がある国である
    お隣さんなのだから当然ではあるが

    自分はネガティブな目では見ていないというのが本音
    中国人として生まれてくれば良かったなんてことは絶対に思わないのだけど、中国という国は興味に値する国だと思う

    韓国という国もあり、両国は反日という点で共通点がある
    しかし、韓国、あるいは韓国人は「日本は歴史的に間違ったことをした」「日本は問題がある」といった結論ありきの語り方をする人が多いと思う
    中国人はどちらかというと、日本の立場や日本の考え方といったところを説明すれば、その意見には耳を傾けてくれる

    話にならない韓国人
    話になる中国人
    これが自分が多くの中国人や韓国人とつきあってきた中での両国の評価
    もちろん、全員が全員ではないが

    前置きが長くなったが、そういったことで中国には興味を持っているし、もっとわかりたいという思いがある

    そんな中で手にとったこの本

    中国、もちろん近代中国というか、中華人民共和国になってからの話だけれども、筆者としては中国の段階が3つあり、これからが4つ目の段階になるよ
    その4つ目の段階では戦略的にこういった事をした方が良いよという内容

    1つ目の段階、中国1.0
    鄧小平さんの時代の事を指していたと思う
    天安門の事件もあったが、中国も成長し始めた頃であり、周辺国もそこまで中国に警戒していない時代
    。。。と言う事だが、日本はその頃から一定程度の警戒があった気がする
    まぁ経済力で日本を超えてしまう可能性があるという点の警戒かな
    「そんな事は起きない」「中国経済は日本を超えない」そういった本が一部の日本人の希望通りの内容で、一定の人気があった気がする
    この本の筆者の評価としては、この頃の中国は周辺国とうまくやっていて、経済成長も期待できる非常に良い国だったというところ

    2つ目の段階、中国2.0
    この辺りで中国は戦略的に間違いを起こしたらしい
    ここは胡錦濤さんの辺りを指していたと思う
    中国の中で自信が生まれてきた事で周辺国への侵略的な行為が見えてきたと
    ここで興味深い内容が「大国は小国に勝てない」「大国は自分の判断で他国に対する軍事行動を起こせる国」というような内容
    非常に腹落ちした

    大国が小国を攻めようとすると、その大国を警戒する他国、特に他の大国が小国側につく事で力の均衡が図られると

    また、大国の定義として挙げられていたのがフランス
    フランスはすでに経済力ではアメリカやドイツ、、、日本から見ても下にはなる訳だが、近年、アフリカのマリへの軍事侵攻を起こした
    侵略した訳ではないが、イスラム武装勢力がいたのでその勢力を一掃するための軍事侵攻だった
    こういった事ができるのが大国だと

    なるほど、それは日本は絶対にできない
    中国もインドとかともめていたりするけど、大国というには少し微妙なのかなと思ったりもした

    まぁそういう事で、1.0のまま周辺国と揉めずに成長していけばアメリカを超す超大国になれたかもしれないのに、、、というのが中国2.0

    そして第3段階
    これは現在の習近平さん
    ここは自分としても2.0との違いがよく分からずだったのだが、筆者からすると微妙に違うらしい
    だが、結局周辺国と揉めているって事は変わらずなので、中国にとって良い方向じゃないよねという話らしい

    で、筆者が言いたいのが中国4.0
    やはり中国1.0に戻るべきだという話
    南シナ海で埋め立てしていたりして、中国の力が非常に強くなっている
    素人からすると、すでにアメリカも超えているのではないかという印象もあるのだが、全然そうではないと

    アメリカは批判意見もなくはないが、やはり色々な国と一定程度の信頼関係を築いている
    それによって各国の港を使える事でアメリカは世界のどこにでも軍艦を派遣可能であると
    しかし中国は違って各国の港を自由に使う事ができない
    確かに中国の軍艦が日本に入ったというようなニュースは聞いた事が無い

    また、ロシアと中国の違いについても興味深い
    ロシアは戦略以外すべてダメ
    中国は多くの事が上手く言っているが戦略だけがダメ

    なるほど
    そこまで戦略というものは大事なのだろう
    単純な中国たたきの本ではなく、色々と考えながら読めた

  • ここ30年くらいで中国は1.0から4.0に変化している。指導者の力が強いため、首席の考え方で方針が変わる。習近平に意見を言える人間はいないようだ。

  • 企業間や人間関係にも使えそう、なるほどと思ったことのいくつかを。

    「国の規模が大きいほど外国への理解度は低くなる」
    企業でも同じことが言えると。

    「大国は小国に勝てない」
    他国連携要素が生じてしまう。

    国家そのものの性質、国体を見抜き理解し、どう取り扱うかが重要。

    代表的なアメリカ人は「人類には文化を超えた普遍的な性質がある」と心の底から信じている。
    人種的、文化的なバックグラウンドを公の場で表面するのが憚れる国がアメリカ。違っているから相容れないことがある、とは微塵も考えない。
    人種差別主義者と思われたら、人として終わった扱いになる。

  • 稀代の戦略家と呼ばれる著者による中国論。
    以下、本書より。

    【日本政府への提言】
    (2016年3月20日発行)
    最後に現在の安倍首相や日本の対外政策担当者に向けて注意を喚起して、本書の結びとしたい。
    「慎重で忍耐強い対応」というのは、通常はほぼ全ての国に対して勧められるもの。
    だが、私がここで強調したいのは、中国のような規模が大きく、独裁的で不安定な国家に対しては、それが逆効果という事。

    中国は、15年のうちに3度も政策を変更している。
    さらに作戦レベルや現場レベルで、ソ連でさえ決して許さなかったような軍事冒険主義が実質的に容認されている。
    これに対抗するには、有事に自動的に発動される迅速な対応策が予め用意されていなければならない。
    中国が突然、尖閣に上陸した時、それに素早く対応できず、そこから対応策を検討し始めたり、米国に相談を持ちかけたりするようでは、大きな失敗に繋がるだろう。

    現在の中国のような国家に対処するには、所謂「標準作戦手順」のようなものが必要。
    これは予め合意・準備された行動計画の事。
    慎重で相談しながらの忍耐強い対応は、相手もそれができる政府でなければ逆効果。

    アルカイダ・マグレブのマリ占領に直面したフランスが、もし「慎重で忍耐強い対応」をしていたら手遅れになっていただろう。
    国連やNATOで対応策を練っていたら間に合わなかった筈。
    しかしフランスは、予め行動計画を準備していたからこそ、迅速に対応できた。

    既に述べたように、日本は米国を頼りにしつつも、同時に全面的には頼るべきではない。
    特に尖閣問題についてはそう言える。

    現在の日本は、米国と同盟を組みながら中国に対峙しているが、ここで決定的に重要なのは、日本側からは何も仕掛けるべきではないという事。
    つまり逆説的だが、日本は戦略を持つべきではないし、大きな計画を作るべきではないし、対応は全て「反応的」なものにすべき。
    これが本書の結論。
    巨大で不安定で予測不可能な中国に対し、敢えて積極的な計画をもって対抗しようとするのは、そもそも馬鹿げた事であり、成功する筈がない。
    何が起きるかは予測不可能だから。
    従って寧ろそれぞれ独立して多岐に渡る能力に支えられた「受動的な封じ込め政策」を行うべき。
    真珠湾攻撃のようなアタックや、逆に平和イニシアチブなども進めずに、日本はひたすら受動的な「封じ込め政策」に徹するべき。
    米国には、政府を批判しながら「イニシアチブを取れ!戦略がない!計画がない!」と「戦略」の推進を主張する愚かな人間がいる。
    これは全く余計な事。
    日本でこのような声が大きくならない事を祈るばかり。

  • 来日したことで、様々なメディアで意見が紹介されたルトワック。

    WEBの記事や雑誌(あとは動画)などにそこそこ露出はあるので、それらで「だいたい知ることができる」のではあるが、ちまちま拾い読みするのに疲れたので新書3冊購入して一気に読んでしまうことに。

    まずは『チャイナ4.0』から。

    そもそも「チャイナ」を「Nation State」として分析することが無理筋な気もしないでもないので、本書のように中国を「Empire of China」とだけ解釈して分析を進めていくルトワックの姿勢は最後までブレがないので読みやすい。

    ダイナミックな中国の変化についても冷静で、中国を表すキーワードとして「内向き」「戦略面の稚拙さ」「戦争に負ける文化」「戦略を欠いた領土拡大」「政治の密室化」などで表現。
    こうしてルトワックのキーワードを並べて眺めてみると、日本を含めた周辺国に対しての楽観論を唱えているようにも見えなくもないし「中国に対して過剰反応すべきではない」のような主張が展開するようにも一見みえる。が、実際は楽観論でも悲観論でもない「現実的な外交戦略」を展開しているだけである。

    本書の感想としては、中国の帝国主義的な行動と、その裏腹にある稚拙な戦略をメタに捉えた上で、「中国とその衛星国(朝鮮半島の2国)から身を守るために、どのような戦略をとるのが最善で、どのように振る舞うべきか」という「提言」を行い、プラグマティカルな態度で「日本国民に対して選択と決断を迫る」書であり、中国の動きを見定めるときには、それが短期的であれ長期的であれ、参考にするべき書だと感じた。

    https://twitter.com/prigt23/status/1059052628351434752

  • 独自の戦略論を持つ著者による、中国の対外戦略の推移とその問題点の指摘。及び、それに対して日本がどう対処すべきかの提案。
    まあ、インタビューを元にまとめた物だけあって、サクサク読める(読めた)
    中国に関しては「明日どうなるかわからない。何の担保も無い」以上、何らかの方針を立ててそれに基づいてこちら(日本)から働きかけるよりも、「封じ込め」と「リアクション」(中国が何をしでかしても対応できる様に各部署で準備しておいて、何かあったら「リアクション」)の方が適しているのでは?という案については、理解できる(中国相手にイニシアチブをとれるというのは傲慢すぎる)ただし、「国家のパラメータと変数」論については、事例として持ちだした物が恣意的すぎるというか、パラメータと変数を入れ替えていたようにも読めたので保留。
    いずれにせよ、アフリカの独裁的な小国同様に不安定な「大国」が我が国の近隣に存在し、しかも直接我が国の領土に現在進行形で手を出していることを「脅威」と捉えない方が無理がある。
    それより何より、「ローマ帝国の大戦略」「ビザンツ帝国の大戦略」を邦訳してよ!!

  • 中国1・0
    2000年頃の中国は改革開放を継承した江沢民が経済を優先し、実質的な資本主義経済へと舵を切った。反日教育のイメージが強いが、WTOに加盟し、国際法も順守する。中国は台湾を含めた周辺国に対し平和裡に台頭するという戦略を実行した。

    中国2・0
    リーマンショックにより中国は経済力で世界一になるのに後10年でできると思い込んだ。第一の錯誤は「金は力なり」つまり経済力が国力そのものだと思い込んだのだ。中国国内では今でもこういうところがあるので無理はないのかもしれないが経済力に国力が追いつくには50年以上かかるのかもしれない。例えば空母だけをとっても中国がアメリカに追いつくには20年以上かかる。
    第二の錯誤は「リニアな予測」China up,US downを信じ、ゴールドマンサックスのBRICsという投資のアイデアに世界中が踊らされたがこれを信じたウブな中国は「これからはわれわれが物事を決定する立場に移るべきだ」と考えた。その例が元は蒋介石の国民党が絵を描いた荒唐無稽な九段線だ。
    そして第三の錯誤が「二国間関係」で物事を決められると考えたことだ。領土問題では中国はいつも二国間での解決を主張する。しかし小国が中国と揉めれば周りの国は次は我が身と小国に味方する。
    胡錦濤は国内の「あまりに抑制的で中国の力を十分に発揮していない」という批判を受け対外的に強硬な姿勢を示すようになった。ルトワック曰く「ロシアは戦略を除いてすべてダメだが、中国は戦略以外はすべてうまい」日本に対しても巨大市場の中国を重視する企業が政府に圧力をかけ、腐敗した政治家はビジネスマンの言うことを聞くと言う幻想を抱いた。

    中国3・0
    2014年秋、反中同盟に気づいた中国は方針を変更した。それが「選択的攻撃」で抵抗のない相手は攻撃し、抵抗されれば止める。尖閣問題でも領海内への侵入は抑制されている。ロシアが国際社会の反対を無視してクリミア半島を実効支配したのに比べれば、中国が尖閣を自国領にするための実力行使はない。主張していれば国内では問題にならないからだ。アメリカの航行の自由作戦を中国は邪魔しない。航空識別圈を定めたが実際には守ろうとしない。

    権力を集中させる習近平は反腐敗運動で10万人の党幹部を捜査し、人民解放軍トップ二人を逮捕した。徐才厚についてはガンで死期が近い入院中に逮捕しており極めて強硬な姿勢だ。天津爆発事故では習近平暗殺説が流れたが、これは一般市民も習近平がリスクを背負っていることを知っているということだ。結局中国は米国との「新型大国関係」G2を目指したが果たせなかった。中国3・0は今も続いている。

    中国の第一の敵はアメリカ、アメリカが中国を敵視していると言うことではない。中国からすればアメリカは民主的にドナルド・トランプを大統領に選ぶ不思議の国だ。これは中国では起こりえない。薄熙来がいかに人気取りを実行しようとも大統領にはなれないのだが、アメリカはそれを許す国でそのこと自体が中国に影響を与える。
    第二の敵は習近平その人だ。共産党を腐敗から救おうとする習だが反腐敗運動は共産党のパワーの元であるカネの流れを止め、求心力を失わせる。ゴルバチョフ同様に共産党を改革しようとした結果が共産党の解体に繋がりかねない。毛沢東時代の求心力はイデオロギーだったがもうそこには戻れない。カネという求心力を失えばこの本を読む限りでは大国意識しか残らないのだろう。

    中国4・0
    戦略がうまくない中国にルトワックが勧めるのは2つ、九段線を引っ込めること、空母の建造を止めることだがこれは受け入れられないだろうとルトワックも中国国内では政治的に受け入れられないだろうと考えている。だが、荒唐無稽な九段線も寄港地を持てない無駄遣いに終わる空母も、小国を反中国で団結させアメリカに近づけるだけなのだ。パキスタンやスリランカに寄港地を持ったところで南シナ海からインド洋をすべて敵に回しては実際には使えない。

    では日本はどうすべきか、「封じ込め」と書いてるが要はリアクションだ。そのためには尖閣を守れるようにハードとソフト(法整備)を備え、外交的にも連携する。トランプの対中関税障壁のように中国がアクションを起こしたら、欧米やアジア各国が一致してグローバルな貿易取引禁止状態を作るように準備しておく。最大限の確実性と最小限の暴力を多元的に発揮できるように準備しておくべきだと言う。

    結局中国の問題は過去100年の恥辱を乗り越えるためには大国として特にアメリカに認めさせないといけないという感情と、一旦言ったことは取り下げられないという面子、そして自国を基準にする限り外国を理解できないということになるのか。難儀なことだ。

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著者プロフィール

ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。戦略家であり、歴史家、経済学者、国防アドバイザーとしての顔も持つ。国防省の官僚や軍のアドバイザー、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを務めた経歴もあり。米国だけでなく、日本を含む世界各国の政府や高級士官学校でレクチャーやブリーフィングを行う。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。著書は約20ヵ国語に翻訳されている。邦訳には『クーデター入門』(徳間書店)、『ペンタゴン』(光文社)、『アメリカンドリームの終焉』(飛鳥新社)、『ターボ資本主義』(TBSブリタニカ)、『エドワード・ルトワックの戦略論』(毎日新聞社)、『自滅する中国』(芙蓉書房出版)、『中国4.0』(文春新書)、『戦争にチャンスを与えよ』(文春新書)がある。

「2018年 『ルトワックの”クーデター入門"』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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