週刊誌記者 近松門左衛門 最新現代語訳で読む「曽根崎心中」「女殺油地獄」 (文春新書)
- 文藝春秋 (2016年7月21日発売)
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感想 : 9件
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784166610853
作品紹介・あらすじ
[日本のシェイクスピア」と讃えられ、今も再演がたえない近松門左衛門──その正体は「週刊文春」のエース記者だった!?
近松門左衛門の作品は、今なお、映画、TVドラマ、歌舞伎、文楽、宝塚で繰り返し上演されている。「チカマツ」の何が大衆をこんなにも惹きつけるのだろう?
実は、近松の姿は、今の週刊誌記者に非常に近かったのだ。心中事件があったと聞けば、駕籠で現場にかけつける。菰の下からのぞく女の死体の白い足に衝撃を受け、とってかえして一気に書き上げ、すぐに舞台にかける──。
一方、時を経て、近松作品は大幅に潤色されている。現代劇や映像はもちろん歌舞伎、文楽とて例外ではない。300年経っても色褪せない俗の面白さは、原作を読めばますますリアルに伝わってくる。
何よりこんなに面白い「チカマツ」を神棚に飾ったままではもったいない!
そこで、近松作品の中でも人気が高い『曽根崎心中』と『女殺油地獄』を読みやすい現代語訳でお届けする。近松研究の第一人者である早稲田大学名誉教授・鳥越文蔵博士の監修で伝統芸能に詳しい小野幸恵が現代語訳を担当。
解説では、文楽の桐竹勘十郎、吉田玉男という当代きっての人気人形遣いと、美しい徳兵衛を演じて話題になった歌舞伎の市川染五郎のインタビューも交え、近松に魅力に迫る。
人形遣いだけが知る「お初が透明になる瞬間」とは? 文楽・歌舞伎の楽しみ方、見どころから原作誕生の背景までこの一冊で近松の全てがわかる。
週刊誌の見出し風に言えば、
『曽根崎心中』=気の弱い「かわいい男」はなぜモテる?「暴走する純愛の結末」
『女殺油地獄』=キレる若者は江戸時代にもいた!「元禄版・人妻衝動殺人」
江戸の時代にも、現代にも、こんな若者いるわいなぁ、と身につまされます。
近松の真骨頂である「俗」と「聖」の極致をご堪能ください。
みんなの感想まとめ
近松門左衛門の作品は、現代の週刊誌記者のような視点で描かれたスキャンダラスな物語として、今なお多くの人々を魅了しています。特に『曽根崎心中』と『女殺油地獄』では、江戸時代の事件を基にした心中や殺人のド...
感想・レビュー・書評
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近松門左衛門は作家というよりも現代の週刊誌記者のような存在だったという説で始まる新書。
メディアが限られていた江戸時代において浄瑠璃は、いち早く話題の事件を舞台化し知らしめる週刊誌(と言うより再現フィルム)の様な役割を果たしていた。ネットもテレビもないんだから、話題の事件が舞台化されればそりゃ見たくなるよね。そんな中近松は、週刊誌の敏腕記者よろしく殺人事件や心中事件を聞きつけると早駕籠で現場に駆けつけて取材したと言う。
詳細な設定、名調子で語られる近松作の浄瑠璃は大ヒットし、世間では模倣した心中事件が流行、時の将軍吉宗は心中物の上演や出版を禁じた。
本作は近松本人の取材姿勢や思想などを取り上げた本かと思って手に取ったのですが、上記の様な解説は数ページのみでメインは代表作「曽根崎心中」と「女殺油地獄」の現代語訳でした。「心中」だの「女殺し」だの直接的で強烈なタイトルが嫌で近松作品は今まで避けていたのですが「事件フィルム」と考えると納得がいきます。名調子が味わえるのは「曽根崎心中」ですが、現代的だと感じるのは「女殺油地獄」。江戸時代の事件に現代性を感じてしまうのは、我々が「最近の若者は」などと言いながら何百年も全く変わっていない証左かも知れません。
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近松門左衛門といえば、「日本のシェイクスピア」とも称される江戸期の戯作者である。
浄瑠璃・歌舞伎の作品を数多く書き上げ、現在でも上演されるものも数多い。
本書はその近松の代表作「曽根崎心中」と「女殺油地獄」の現代語訳を主軸とし、謎多き近松の人物像や、演者から見た近松作品解釈も添える。
訳はフリー編集者として古典芸能を中心に舞台芸術関連書籍の編集や執筆に携わる小野幸惠。監修は近世演劇が専門の鳥越文蔵。
帯の「近松の全貌と魅力がこの一冊でわかる」は少し威勢がよすぎる印象だが、「近松を現代人にも読んでもらいたい」とする著者の意図は十分伝わる、良質の入門書だと思う。
個人的に心中物にはあまり興味が持てないのだが、先日「女殺油地獄」をシネマ歌舞伎で見て何だか引っかかった。この話、妙にざわざわするのだ。
何やら色っぽいタイトルだが、実はこの話、色恋沙汰では一応ない。キレた若者・与兵衛が親切な人妻・お吉を惨殺する話である。
与兵衛の家もお吉の家も油を商う商家である。故あって、お吉に借財を申し込んだが断られた与兵衛が、商売物の油を撒き散らしながら、血まみれ油まみれで凄惨な殺しに至ってしまう。この殺しの場が「見せ場」だというのもまぁ凄いのだが、私が引っかかったのは、その手前。与兵衛とお吉の人物像である。
お吉は美しい女だが、3人の子持ちで物堅い。与兵衛の家とはごく近所で、同業でもあり、それなりに親しい。与兵衛は父を早くに失い、店を守るべく、番頭が与兵衛の母の婿となった。ややこしい家庭の事情もあってぐれた与兵衛は放蕩三昧である。義父は亡き主人への恩もあり、与兵衛をどうにかまともにしたいとの思いもある。母は夫への遠慮と息子かわいさの板挟みである。お吉はそのあたりの事情も十分に知っている。近所のよしみもあり、弟のような年頃の与兵衛が困っていれば助けてやりたいし、自分も子持ちの身であれば与兵衛の両親の嘆きにも共感する。冷静に考えれば、親切なお吉が殺されるというのは実に理不尽だ。
だが、与兵衛は、お吉に借金を迫り、どうやら脈がないとわかってくると、次第に鬼気帯びてくる。お吉の亭主の留守に上がり込んだ与兵衛は、あれこれとかき口説いた挙げ句、「亭主の留守に金など貸せない」と突っぱねるお吉に「不義になって貸してくだされ」と言い放つのだ。この後、諦めたふりをして「それならば油を貸してください」とお吉を立たせ、こっそり殺してしまおうとする与兵衛を、近松は
消ゆる命の灯火は 油量るも夢の間と 知らで升取る柄杓取る 後ろに与兵衛が邪見の刀 抜いて待てども見ず知らず
と名調子でつないでいく。ことここに至っては、お吉は助からない。
観客にもじわじわと悲劇が避けられないことが呑み込めてくる。
見知らぬ者同士ではない。微妙に近い2人の年齢差。堅いとはいえ美しいお吉。放蕩息子だが、どこかにかわいげのある、上方流の優男、与兵衛。
この2人の関係性には、どこかに「不義」の言葉が忍び込む余地が「ある」ような気がしてざわざわするのだ。
もちろん、お吉に非はない。だがどこかに「隙」はあったのかもしれない。そんな「隙」に、不本意ながら命を奪われることもあるのは、昔も今も同じこと、なのかもしれない。
近松は元々は武士の家の出である。経歴には謎も多いが、むしろ、戯作者としては謎の人物であることもプラスだろう。ともかくも浄瑠璃界や歌舞伎界の立役者とのつながりをバネに一大作家となった。
そんな近松は、事件と聞けば駕籠で乗り付け、熱心に取材していたという。心中事件の現場に駆けつけ、菰から覗く白い足に衝撃を受けて一気に書き上げたのが「心中天の網島」だというエピソードが紹介されている。
これを本書の著者は「週刊誌記者」のようと評しているわけだが、どうも「女殺油地獄」を読む限り、やはり近松は記者というより作家であったのではないかと感じる。スクープである「文春砲」ではない。実際の事件に取材したうえで、ねっとりと背景を描きこむ小説仕立ての「黒い報告書(週刊新潮連載)」の方を連想させる。
近松恐るべし。ここに描かれているのは、「現代に通じる」というような生易しいものではなく、古今東西変わることのない「人の性」であるようにも思われる。 -
近松が週刊誌記者?
面白いタイトル、でもなんだか分かる気がする、上手いなぁ…と興味が湧いて読み始め、ほぼ一気に読了。
あまりにも有名な近松の代表作、「曽根崎心中」と、「女殺油地獄」の二作品を、読みやすい現代語訳にしたもの。それぞれの場面の印象的な語りの部分は、少な過ぎず多過ぎない絶妙な分量でそのまま原文も記載してあり、浄瑠璃の言葉のリズムや言葉遊びも体験学習的に楽しむことができました。
有り難かったのは、近松が「週刊誌記者」として取材した実際の事件や、それぞれの作品を近松が書いた当時の世情、特に大坂周辺の風俗や、近松自身の人生の動きの解説があること。
加えて、吉田簑助さん、玉男さん、桐竹勘十郎さんなど、当代の名人形遣いさんや、歌舞伎の染ちゃん(今の幸四郎さん)といった演者さんのインタビューも、生々しくて面白い。
時折混ざる原文を少し声に出して読みながら、現代語訳で読み通すと、300年も前のスキャンダラスな事件が、あるある!こんなこと世の中で起こってる!と、まさに今の週刊誌を読んでいるように身近なものに思えます。大坂で起きた事件を、脚色やキャラクター設定をしながら皆んなが食いつく物語に仕立てた近松のルポライター力が、心中ブームに火をつけたり、長く大坂で文楽、義太夫が愛されることにつながったりしたのだろうと納得。そして、特に「女殺油地獄」に至っては、今も昔も似たような事件は起こるのだ、ということを実感しました。甘やかされて育ってしまった若者の短絡的な衝動殺人事件。時代設定を少しアレンジするだけで最新のドラマになりそうです。そういうことだから、今、私たちが文楽を見ても、現実味がなさそうに見えて結構感情移入できたり面白く観れるんだなぁと思いました。
曽根崎心中は、角田光代さんの小説でも味わって面白かったけれど、女殺は初めて詳しいストーリーを知りました。油まみれの凄惨な事件現場の描写。文楽、歌舞伎で観くらべてみたいです。 -
内容(「BOOK」データベースより)
「日本のシェイクスピア」「作者の氏神」と讃えられる近松門左衛門。その実像は、事件と聞けば現場に駕籠で駆けつける、今でいえば週刊誌のエース記者のような存在だった。なぜ近松はいつも新しいのか?日本人なら押さえておきたい人気の二作品で俗の極致に酔う。 -
●日本のシェイクスピア。24作の世話浄瑠璃を書いている。ニュース速報のように、話題の事件をすぐさま上演することで観客を動員していた。
●大阪で生まれた人形浄瑠璃を文楽と言う。
●小説の井原西鶴、俳諧の松尾芭蕉とともに、元禄の三大文豪と呼ばれる。
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近松作品の現代語訳と近松門左衛門の生きた時代を分かりやすく学べる、文楽入門書に適した本。
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【近松門左衛門は週刊文春のエース記者だった!?】心中事件があったと聞けば駕籠で駆けつけ、翌週には舞台にかける。現代語訳「曽根崎心中」「女殺油地獄」で俗の極致をご堪能あれ。
著者プロフィール
小野幸惠の作品
