問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論 (文春新書)

制作 : 堀 茂樹 
  • 文藝春秋
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レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610938

作品紹介・あらすじ

大ベストセラー『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』に続く第2弾! 現代最高の知識人、トッドの最新見解を集めた“切れ味抜群”の時事論集。テロ、移民、難民、人種差別、経済危機、格差拡大、ポピュリズムなどテーマは多岐にわたるが、いずれも「グローバリズムの限界」という問題につながっている。英国EU離脱、トランプ旋風も、サッチャー、レーガン以来の英米発祥のネオリベラリズムの歴史から、初めてその意味が見えてくる。本書は「最良のトッド入門」でもある。知的遍歴を存分に語る第3章「トッドの歴史の方法」は、他の著作では決して読めない話が満載。「トッドの予言」はいかにして可能なのか? その謎に迫る! 日本オリジナル版。「一部を例外として本書に収録されたインタビューと講演はすべて日本でおこなわれました。その意味で、これは私が本当の意味で初めて日本で作った本なのです」(「日本の読者へ」より)「今日の世界の危機は『国家の問題』として捉えなければなりません。中東を始めとして、いま真の脅威になっているのは、『国家の過剰』ではなく『国家の崩壊』です。喫緊に必要なのは、ネオリベラリズムに対抗し、国家を再評価することです」(本文より)「イギリスのEU離脱は、『西側システム』という概念の終焉を意味しています」(本文より)(目次)日本の読者へ――新たな歴史的転換をどう見るか?1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」3 トッドの歴史の方法――「予言」はいかにして可能なのか?4 人口学から見た2030年の世界――安定化する米・露と不安定化する欧・中5 中国の未来を「予言」する――幻想の大国を恐れるな6 パリ同時テロについて――世界の敵はイスラム恐怖症だ7 宗教的危機とヨーロッパの近代史――自己解説『シャルリとは誰か?』

感想・レビュー・書評

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  • 「ヨーロッパとは何か? ヨーロッパとはドイツを怖がる全ての国民の連合。そして、この定義はドイツ人を含む」という冗談がかつてEU本部のあるブリュッセルで流行った、とトッド氏は言います。EU内一強となったドイツを抑制する力が働かず、暴走する危険について氏は警鐘をならしています。

    トッド氏は、家族形態の分類から国家や地域の文化的背景を特定し、出生率、高齢化率、識字率などの統計データの動向により国家の発展や衰退を予測する手法で、ソ連の崩壊を予測したことで知られています。

    本書では、日本について言及した部分も多く興味深く読みました。日独の直系家族制度の類似性と相違点。日本の家族の重視とその功罪、など。

    また日本の移民の受け入れの必要性について、同質性を重んずる日本人がパーフェクトな調和を前提とするあまり、移民による異質な文化の流入を受け入れづらいと指摘しています。逆にそうしたパーフェクトな状態がそもそも国内に無いフランスやアメリカが異質なものを内包するタフさを持っている、と氏がのたまう点に考えさせられるものが多くありました。

    英国の分断性とフランスの連続性、中東イスラム宗派の家族形態の違いなど、氏の縦横無尽な分析力がそこかしこに感ぜられました。

  • 遅ればせながら読み始め…前作を上梓してフランス国内では批判の対象となった著者。前作の前書きでは「読売と日経の記者が心のよりどころになったこともあった」と明かしていたが、今作では「あの本を出したことで今、自由に物が言える立ち位置になった」と話す。
    前回よりだいぶ読みやすくなって、持論の人口学的な話もわかりやすかった。

    トッドいわく、イギリス人のいないヨーロッパ、それはもはや民主主義の地ではない。1930年代の大陸ヨーロッパはポルトガルのサラザール、スペインのフランコ、ムッソリーニ、ヒトラー、チェコスロバキア以外はいたるところに独裁者がいた。

    フランス、アメリカ、イギリスは自由を強制されている。絶対核家族のアングロサクソン世界の平均的個人は権威主義を許されていない。
    「自由」が強迫観念になっていない日本のような権威主義的社会のほうがトッドの「家族構造が政治的行動を決定する」という決定論を受け入れやすい。日本で最初の講演を終えたら「トッドさんは長男ですか、次男ですか?」と聞かれた。スキャンダル視されることなく受け入れられた。「人間の自由には限界がある」ことを認識できるという意味で日本のほうが実質的に自由なのかもしれない。そういう能力を今日の西洋人は失っている。自由が強迫観念になり、ゆがんだ人間観を持っている。リベラルと言われる社会が実はさほどリベラルでなく、先進国のナルシズムともかかわる問題。「シャルリとは誰か?」のテーマでもある。

    日本は出生率を上げるには、女性により自由な地位を認めるためには、不完全さや無秩序も受け入れるべき、子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきではないか。
    歴史学者、社会学者から見れば、ISは西洋が生み出したもの。ジハード戦士の大半は西洋から現地入りした者。アルジェリア人は「なんでヨーロッパ人は、あなた方のクソみたいなものをこっちへ送ってくるのか」イスラム社会から生まれたとはみなしていない。
    グローバリズムへの漠然とした不満がイスラムヘイトにつながっている。社会と国際関係の安定を望む民衆は過剰なまでのグローバリズムの進展に小休止を呼び掛ける権利をもっている。経済格差の拡大はスケープゴートを求めてイスラム恐怖症という妄想のカテゴリーを生み出している。

  • 東2法経図・6F開架:304A/To17m//K

  • <図書館の所在、貸出状況はこちらから確認できます>
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=320829

  • イギリスがEU離脱したことを受け、現在の主にEUの情勢を分析した一冊。

    著者がフランス人ということもあり、フランスによってる部分はあるものの、ヨーロッパ人が見たEU、アメリカ、そして日本の情勢を知ることができた。

  • トッドにはかねてから興味はあったのだが、ぶあつい著作にはなかなか手が出なかった。これはインタビュー・講演や雑誌への寄稿をまとめたお手軽な新書。現時点で最新のようでもあるので気軽に手にとってみた。時事ネタを扱っているのも良いし、なるほどとうならせる箇所も多いのだが、一方で分量ゆえ仕方ないながら、踏み込み不足というか物足りない感じもある。なかなかうまい広告なのかもしれない。

    1,2はBrexitに関する論考で、やや内容はかぶる。本書の中では小手調べ的なかんじ

    3はトッド自身の仕事や方法論を振り返っており、初読の身には大変おもしろかった

    4は人口学による各国近未来予測、これも興味深い

    5は中国論、日本への言及も

    6,7はお膝元フランスでのテロ(およびその後の国民の反応)を受けて。切実な問題意識を感じる


    フランス人らしくなく観念論は嫌いで経験主義的。定量的な歴史人口学が性に合った。ただイギリス留学で、イギリス人のヒエラルキー感覚を目の当たりにし、自分の平等主義的フランス人性に気づいたと。

    「自由」をめぐるパラドクス。トッドによる家族構造が政治体制を決めるという発見は決定論的であるが、かならずしも個人の選択を決定するものではない(それでもイギリスのような絶対核家族の文化に生まれると、自由でなくなる自由にとぼしい)。ただ、それが人間の自由を否定する決定論と捉えられ批判もされている。特に自由(リベラル)な国において。自由が強迫観念になってなぜ自分が自由であるかを自覚できない。また、個人主義ほど国家を必要とする。

    歴史を動かすのは中産階級。今日の先進国では、高等教育を受けた層が中産階級と言える。
    →米大統領選挙のNate Silverによる分析(学歴が投票行動を決めるファクターだった)を思い出した

    核家族のほうが共同体家族よりも原始的な家族形態。現代での分布から伝播モデルで推測できる
    →日本での方言の分布なんかと同じ話か

    普遍性と文化相対主義、多様化と画一化のせめぎあい。トッドは家族構造が似ている文化同士に普遍性を見出す。

    場所(テリトリー)のシステム。移民なども行った先の文化に同化することが多い(例:アメリカ)。人間は可塑性を持った存在であり、文化の差はそれほど決定的でない(弱い価値)。ただし場所単位で見ると、永続的な「文化」が立ち現れる。それは家族由来の価値観が「弱い価値」であるからこそ

    ネオリベラリズムにより家族の扶助なしに個人で生きるのが難しい状況ができてきている。個人主義的なものと矛盾がある。アメリカにとって国家とは何なのかが大きな課題。国家の再評価が必要。一方、日本では家族の過剰な重視が、少子化による家族の消滅につながっているのでは

    ネオリベラリズムの次の潮流だが、世代ごとの断絶があるアングロサクソンからまた次の流れが出てくる可能性は高い。

    ロシアの復活。出生率も1.8まで回復し、女性の高等教育進学率もあがって社会が安定化に向かっている。プーチンみたいな強権的なリーダーを好むのは家族構造ゆえ。
    →認識が古かった。よいインプット

    サウジアラビアは出生率激減、中東の不安定の核。安定化しているのはイラン

    中国はいびつな人口構造、過剰投資など不安定。また中国の家族構造は平等主義的で(だから共産主義も根付いた)本来的には格差を許容できない

    ドイツにも辛い。低い出生率をむりやり移民で埋めようとしているが、トルコからの移民の社会統合ができていない。シリア人は家族構造的にもっと遠いのでさらにむずかしい

    ヒエラルキー的な家族構造を持つ日本では、国際関係もヒエラルキーで考えがちである(アングロサクソンや中露は対等な国際関係が前提としてある)。また、日本の家族構造では長男以外は家族構造の外で一人で生きようとするので、いったん強い国であることをあきらめると孤立主義への誘惑がある。それを乗り越えて米露と連携して中国問題にあたる(方向性は助け舟)べき。

    フランスでカトリシズムはすっかり衰退したが、その文化的影響は地域ごとにはっきり残っている。

    とにかく日本は少子化対策をがんばれよと

  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 英国のEU離脱問題をはじめとした現代の国際的な諸問題に対し、主に文化人類学的観点からメスを入れた本。

    あらかじめ告白すると、ボクはこの本が非常に読みにくかった。というのは「全体として、ネオリベラリズムおよびグローバリズムの言説に抵抗する本」(あとがき)であり、経済学がめたくそに批判されているので、はっきり言っていい気持ちがしないです。が、視野が狭くなるのは大問題で、耳障りが悪いものほどしっかり読んだほうがいい。

    面白かったのは、家族システムから世界を捉えるという考え方。アメリカやイギリスは核家族。子供は大きくなったら親元を離れます。兄弟は平等だし、親子の関係もそこまで縦の関係ではありません。一方、日本やドイツは基本的に一家の長男が家を継ぐ直系家族制度で、長男とそれ以外の兄弟の間には差があります。親子の関係も対等ではありえません。アメリカやイギリスは個人主義で自由主義。対して日本やドイツは全体主義で権威主義。家族システムが「下意識」(無意識と意識の間。おそらくunder-consciousの訳だけど、日本語にすると変な感じだね。)となって個々人の思想が作られていく。言語や宗教もそうだけど、そのひとの思想の根幹を成している部分を無視して、経済的な利害だけで繋がれって言われてもっていうのは、確かにそうだ。いとこ婚が盛んな地域もあり、そういう地域では考え方も違ってくるでしょう。

    日本についても言及されています。「日本の唯一の問題は人口問題」とし、「移民を受け入れない日本人は排他的だと言われますが、実は異質な人間を憎むというより、仲間同士で互いに配慮しながら摩擦を起こさずに暮らすのが快適で、その状況を守ろうとしているだけなのでしょう。その意味で日本は完璧な社会です。」(p184)その完璧さを守ろうとすると、日本は存続できないかもしれない、ということです。

  • 出版のタイミングとタイトルから、ブレグジットを中心として書かれた書籍かと思いましたが、それは話のきっかけでしかなく、内容は世界動向のなかでのEUについて記載されているもので特に独仏の現状を懸念する内容でした。

    予想していた内容とは若干異なりましたが、人口学や家族構成から世界の動向を探る見方は新鮮でした。

  • 直系家族の社会は、アングロサクソンの核家族の社会ほど、国家を必要としない。直系家族自体が国家の機能を内部に含むから。核家族は個人を解放するかシステムだが、そうした個人の自立は、公的な、つまり国家の福祉を前提としている。ネオリベラリズムは、それを忘れている矛盾がある。この話は、奇しくも、渡辺京二の話と同じ結論になってる。

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著者プロフィール

1951年生。歴史人口学者・家族人類学者。フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属。家族制度研究の第一人者ラスレットの指導で、76年に博士論文『工業化以前のヨーロッパの7つの農民共同体』を提出。同年、『最後の転落』で、弱冠25歳にして乳児死亡率の上昇を論拠に旧ソ連の崩壊を断言。その後の『第三惑星』と『世界の幼少期』(99年に『世界の多様性』として合本化)において、各地域における「家族構造」と「社会の上部構造(政治・経済・文化)」の連関を示す全く新しい歴史観と世界像を提示。『新ヨーロッパ大全』I、II(1990)では多様性に満ちた新しいヨーロッパ像を提示。対イラク戦争開始前の2002年に発表された『帝国以後〔アメリカ・システムの崩壊〕』ではアメリカの衰退、とりわけ経済力の衰退を指摘。

「2019年 『ユーロ病と日本病』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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