問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論 (文春新書)

  • 文藝春秋
3.73
  • (29)
  • (74)
  • (35)
  • (10)
  • (5)
本棚登録 : 658
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610938

作品紹介・あらすじ

大ベストセラー『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』に続く第2弾! 現代最高の知識人、トッドの最新見解を集めた“切れ味抜群”の時事論集。テロ、移民、難民、人種差別、経済危機、格差拡大、ポピュリズムなどテーマは多岐にわたるが、いずれも「グローバリズムの限界」という問題につながっている。英国EU離脱、トランプ旋風も、サッチャー、レーガン以来の英米発祥のネオリベラリズムの歴史から、初めてその意味が見えてくる。本書は「最良のトッド入門」でもある。知的遍歴を存分に語る第3章「トッドの歴史の方法」は、他の著作では決して読めない話が満載。「トッドの予言」はいかにして可能なのか? その謎に迫る! 日本オリジナル版。「一部を例外として本書に収録されたインタビューと講演はすべて日本でおこなわれました。その意味で、これは私が本当の意味で初めて日本で作った本なのです」(「日本の読者へ」より)「今日の世界の危機は『国家の問題』として捉えなければなりません。中東を始めとして、いま真の脅威になっているのは、『国家の過剰』ではなく『国家の崩壊』です。喫緊に必要なのは、ネオリベラリズムに対抗し、国家を再評価することです」(本文より)「イギリスのEU離脱は、『西側システム』という概念の終焉を意味しています」(本文より)(目次)日本の読者へ――新たな歴史的転換をどう見るか?1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」3 トッドの歴史の方法――「予言」はいかにして可能なのか?4 人口学から見た2030年の世界――安定化する米・露と不安定化する欧・中5 中国の未来を「予言」する――幻想の大国を恐れるな6 パリ同時テロについて――世界の敵はイスラム恐怖症だ7 宗教的危機とヨーロッパの近代史――自己解説『シャルリとは誰か?』

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 遅ればせながら読み始め…前作を上梓してフランス国内では批判の対象となった著者。前作の前書きでは「読売と日経の記者が心のよりどころになったこともあった」と明かしていたが、今作では「あの本を出したことで今、自由に物が言える立ち位置になった」と話す。
    前回よりだいぶ読みやすくなって、持論の人口学的な話もわかりやすかった。

    トッドいわく、イギリス人のいないヨーロッパ、それはもはや民主主義の地ではない。1930年代の大陸ヨーロッパはポルトガルのサラザール、スペインのフランコ、ムッソリーニ、ヒトラー、チェコスロバキア以外はいたるところに独裁者がいた。

    フランス、アメリカ、イギリスは自由を強制されている。絶対核家族のアングロサクソン世界の平均的個人は権威主義を許されていない。
    「自由」が強迫観念になっていない日本のような権威主義的社会のほうがトッドの「家族構造が政治的行動を決定する」という決定論を受け入れやすい。日本で最初の講演を終えたら「トッドさんは長男ですか、次男ですか?」と聞かれた。スキャンダル視されることなく受け入れられた。「人間の自由には限界がある」ことを認識できるという意味で日本のほうが実質的に自由なのかもしれない。そういう能力を今日の西洋人は失っている。自由が強迫観念になり、ゆがんだ人間観を持っている。リベラルと言われる社会が実はさほどリベラルでなく、先進国のナルシズムともかかわる問題。「シャルリとは誰か?」のテーマでもある。

    日本は出生率を上げるには、女性により自由な地位を認めるためには、不完全さや無秩序も受け入れるべき、子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきではないか。
    歴史学者、社会学者から見れば、ISは西洋が生み出したもの。ジハード戦士の大半は西洋から現地入りした者。アルジェリア人は「なんでヨーロッパ人は、あなた方のクソみたいなものをこっちへ送ってくるのか」イスラム社会から生まれたとはみなしていない。
    グローバリズムへの漠然とした不満がイスラムヘイトにつながっている。社会と国際関係の安定を望む民衆は過剰なまでのグローバリズムの進展に小休止を呼び掛ける権利をもっている。経済格差の拡大はスケープゴートを求めてイスラム恐怖症という妄想のカテゴリーを生み出している。

  • 「ヨーロッパとは何か? ヨーロッパとはドイツを怖がる全ての国民の連合。そして、この定義はドイツ人を含む」という冗談がかつてEU本部のあるブリュッセルで流行った、とトッド氏は言います。EU内一強となったドイツを抑制する力が働かず、暴走する危険について氏は警鐘をならしています。

    トッド氏は、家族形態の分類から国家や地域の文化的背景を特定し、出生率、高齢化率、識字率などの統計データの動向により国家の発展や衰退を予測する手法で、ソ連の崩壊を予測したことで知られています。

    本書では、日本について言及した部分も多く興味深く読みました。日独の直系家族制度の類似性と相違点。日本の家族の重視とその功罪、など。

    また日本の移民の受け入れの必要性について、同質性を重んずる日本人がパーフェクトな調和を前提とするあまり、移民による異質な文化の流入を受け入れづらいと指摘しています。逆にそうしたパーフェクトな状態がそもそも国内に無いフランスやアメリカが異質なものを内包するタフさを持っている、と氏がのたまう点に考えさせられるものが多くありました。

    英国の分断性とフランスの連続性、中東イスラム宗派の家族形態の違いなど、氏の縦横無尽な分析力がそこかしこに感ぜられました。

  • 直系家族の社会は、アングロサクソンの核家族の社会ほど、国家を必要としない。直系家族自体が国家の機能を内部に含むから。核家族は個人を解放するかシステムだが、そうした個人の自立は、公的な、つまり国家の福祉を前提としている。ネオリベラリズムは、それを忘れている矛盾がある。この話は、奇しくも、渡辺京二の話と同じ結論になってる。

  • EUが欧州統合の象徴ではなく、ドイツをトップにしたヒエラルキー構造であることを分かりやすく説明してくれる。

  • 自分の見てきたヨーロッパはとても解像度が低かったんだと改めて感じた。

    今のEUがドイツが牽引していて、EUの移民政策に関しても、他国ではさほど問題になっていない人口減少がドイツでは深刻で、それを移民でまかなおうとした結果だというエマニュエルさんの見方も面白かった。

    もっと他の本も読んでみよう

  • ・2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」

  • ブレグジットに対して、いわゆるエリートが反対し、庶民が賛成した構図と断言されている。日本でもだいたいそういう論調だったと記憶してます。トランプ現象に対しても同様。
    5年が経過した今、世界はコロナとCO2と戦っているわけですが、控えめに言って訳がわからない。虚構と戦っている。それでもグローバリズムを維持できればエリートとしては良いのでしょう。
    健全な民主主義を維持できる言論空間の必要性を痛切に感じますし、トッド氏のような良質なエリートの方々の活躍を切望します。

  • カバー裏の窓には筆者の肩書として歴史人口学者・家族人類学者とあります。私は存じ上げなかったのですが、数字を引き合いに出して議論するちょっと面白いことをいうオジサンだな(失礼!)、という印象でした。

    何が面白いかというと、時事的なトピックについて欧州人として率直かつ分かりやすく語っている点。例えば表題ですが、Brexitの件です。私がぼんやり考えていたのは、折角国連みたいな連帯組織であるEUにいるのになぜに抜けてしまうのか? もったいないなー、英国、みたいなとらえ方です(バカ丸出し済みません)。筆者から言わせると、いやいやEUがやばいのであって、寧ろ英国はフツーですよ、と説きます。一部移民の制限をしたいという英国側の思惑も報道がありましたが、筆者の言わんとするのは英国の「主権の回復」です。英国はこれまでも通貨発行権も手放していませんでしたが、より自国を中心に考えるという事のようです。まあ主権の話も社説等でチラチラ出ていたりしますが、実際EUに住まう学者から説明されると、真偽はともかく「やっぱりそうかぁ」的に思いました。

    ちなみに、ここから敷衍して、自由主義を標榜する英米二大巨頭が一方はBrexitとして他方はトランプ元大統領が行った保護主義として自己否定しているという事を述べており、行き過ぎた自由主義にはちょっと反対な私としては、心のなかで激しく同意した次第です。

    他方で、いまいちだなと感じたのは、まとまりのなさ。
    7つほどのインタビューや論説の寄せ集めであり、余り深さを感じませんでした。人口学や家族論が専門の方ですが、そうした方が移民について語ったり、フランス国内のテロが移民家系の国民が起こした点について語るのはなるほどと思うのです。ただ、そうした学者が米国政治の行方とか、中東情勢について語るのは、あたっていることもあるかもしれませんが、ぱっと見、テレビのコメンテーター的な雰囲気を感じてしまいました。

    ・・・

    上にも書きましたが、ちょっとコメンテーター的ではありましたが、言っている内容は割と同感する部分が多かったです。家族論が専門とのことで、うちのように国際結婚した家からすると筆者がどんなことを考えているのか他の専門書も読んでみたいと思いました。

    欧州やEUについて学びたい方、フランスの現代社会の歪みや移民政策に興味のあるかた、政治全般に興味のあるかた、人口学・家族論に興味のある方にはおすすめできる本だと思います。

  • トッド2冊目。ずっとカバンに入れてて細切れで読んだのと、中身も細切れなので印象は散漫。それでも面白い。こういうのは基本的にそのとき読むべきものなのだろうけど、少し遅れて読むとまた違う評価ができますよね。そろそろ主著に手を伸ばすべきだな。多作なので全部は無理だろうが。

  • 歴史を忘れ経済に暗い政治へ口出す人口民俗学の弁

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エマニュエル・トッドの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×