文部省の研究 「理想の日本人像」を求めた百五十年 (文春新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166611294

作品紹介・あらすじ

いまどき「天下り」スキャンダルで、事務次官までも辞任した文部科学省。 戦前は内務省文部局、戦中は陸軍省文部局、戦後も自民党文教局、日経連教育局などと揶揄され続け、つねに「三流官庁」視されてきた。 しかし、侮ってはいけない。 文部省はこの150年間、「理想の日本人像」を探求するという、国家にとってもっとも重要な使命を担ってきたのである。 明治維新後は「独立独歩で生きてゆく個人」、昭和に入ると「天皇に奉仕する臣民」、敗戦直後は「平和と民主主義の担い手」、そして高度成長時代には「熱心に働く企業戦士」――すべてに文部省は関与してきた。 そして、グローバリズムとナショナリズムが相克する今、ふたたび「理想の日本人像」とは何かを求める機運が高まっている。 気鋭の近現代史研究者である筆者が、イデオロギーによる空理空論を排し、文部省の真の姿に迫った傑作!

感想・レビュー・書評

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  • P.48 教育勅語はどうとでも解釈できる
    ヤヌスのような両面性

    ×儒教的な道徳を普及
    ○利用しながら近代国家の国民道徳に結びつける

    啓蒙主義「学制」「自由教育令」
    儒教主義「教学聖旨」福岡文政
    国家主義 森文政
    国体主義「教育勅語」

    普遍主義(欧化主義、啓蒙主義)が共同体主義(儒学「我国固有の倫理」「国体の精華」)によって徐々に修正
    →「教育勅語」は普遍的かつ絶対的でなかった。が天皇の言葉である以上、一切の批判を許さない神聖不可侵な性格を持っていた

    大国化と文部省の没落 
    西園寺公望の世界主義

    国定教科書
    P.79 社会教育

    国家主義的な「国民精神作興詔書」

  • どういう教育をするか、ってその時の政治動向や思想のトレンドとかに大きく左右されるわけね……
    まさかゆとり教育にそういう意味もあったなんて
    もし希望通りMETI入ったとしても教育改革なんてできそうにないですね

  • 目標設定好きは、日本人の習癖かもしれないけど、

    「理想の日本人像」を官僚が決めるのは違和感があるし、

    それを目指して頑張ろう、なんて人が居たら気持ち悪い

    と思って読んでいたら、最後に

    「理想の日本人像」を安全装置として利用せよと

    著者が書いていて

    なるほどなぁ、そんな考え方も有るのかと納得した

  • 新書はタイトルで釣って中身はイマイチな事が多いのだが、本著は逆で、地味なタイトルわりには中身が非常に濃い良著。
    普遍主義(グローバリズム)と共同体主義(ナショナリズム)で揺れ動いてきた日本近現代思想史を「思想官庁」である文部省を中心に教育行政の視点から概観しつつ、「日本人はどうあるべきか」を問い続けてきた歴史を知る事ができる。
    戦前と言えば、教育勅語に始まり皇国史観で軍国主義に突き進んでいたというイメージがあるがそれは短絡的であり、10年毎におきる戦争とその狭間の時代で揺らぎがあった事がわかる。戦後も教育基本法に始まり、詰め込み教育だとかゆとり教育だとかキーワードによる断片的印象でなんとなくわかったつもりでいるのだが、日教組との対決や経済界からの要請に始まり、冷戦崩壊によるグローバリズムの影響を受けつつも、他方で台頭するナショナリズムとのバランスをとろうと模索してきた事がわかる。若い研究者である著者はイデオロギーに囚われる事なく、このバランスこそが重要であると説く。
    昨年は大臣の「身の丈」発言(これは著者のいう「エリート主義」が背景にあるのだろう)があり、2020年度からは新しい「学習指導要綱」がスタートしたが、コロナ騒動により教育界は大激震が走っている。また、反グローバリズムやナショナリズムが台頭しつつある。これらの事が、これからの「日本人はどうあるべきか」にどのように影響していくのかを注視していきたい。

  • 東2法経図・6F開架:317.2A/Ts48m//K

  • 理想の日本人像なんて、時の権力者が自分が御しやすい国民を作るために定めるものなのだなと思った。しかし、それはあくまで過去のものであり、今は「理想の日本人像」ではなく、「理想の世界人像と、その中の日本人像」を考えないといけないのではないかな。

    しかし、1890年台の西園寺公望の考えには恐れ入った。
    ①科学教育を重視すべきこと
    ②英語を普及すべきこと
    ③女子教育を振興すべきこと
    ④修身における「理想の日本人像」を転換すべきこと
     →従順な忠臣タイプではなく、逆境に功を奏する両親タイプを理想とすべき
    いやぁ、すごい。今も全然できてない。この考えが普及してたら、今とは全然違った日本になっていただろうね。

  • 【目次】
    はじめに [003-006]
    目次 [007-011]

    第一章 文部省の誕生と理想の百家争鳴(一八六八~一八九一年)――「学制前文」から「教育勅語」まで 013
    はじめに欧米列強ありき/文部省の前身は内部対立で瓦解/洋学派の牙城として出発/「学制前文」は独立独歩の個人を求めた/『西国立志編』『学問のす丶め』とも共鳴/「自由教育令」と文部省縮小論/「教学聖旨」と儒教主義の反撃/干渉主義の「改正教育令」へ/儒教主義に染まる文部省/「君が代」に対抗して国歌を試作/初代文部大臣・森有礼の不幸/第三の道としての「教育勅語」/井上毅の絶妙なバランス感覚/「教育勅語」はどうとでも解釈できる/天皇国家に奉仕する、従順な近代的国民/普遍的ではなく便宜的な文書

    第二章 転落する文部省、動揺する「教育勅語」(一八九二~一九二六年)――「戊申詔書」から「国民精神作興詔書」まで 055
    大国化で「教育勅語」が動揺する/三流官庁への転落/理想像の転換を訴えた、西園寺公望の世界主義/リベラルな「第二の教育勅語」構想/第一期国定教科書は開明的だった/内務省が主導した「戊申詔書」の発布/国家主義に転じた第二期国定教科書/社会教育の目覚め/第一次世界大戦と関東大震災の混乱/国家主義的な「国民精神作興詔書」/大物文部官僚・岡田良平の文政/第三期国定教科書は、国際主義と国家主義の中間/「理想の日本人像」は戦争に翻弄された

    第三章 思想官庁の反撃と蹉跌(一九二六~一九四五年)――『国体の本義』から『臣民の道』まで 093
    攻めに転じる文部省/社会教育局と教化総動員運動/学生課と国民精神文化研究所の設置/第四期国定教科書の保守回帰/教学刷新の引き金を引いた天皇機関説問題/学者受難の時代 教学刷新評議会と教学局/思想行政が凝縮された『国体の本義』/『国体の本義』の要旨/天皇に無条件で奉仕する臣民/日中戦争と国民精神総動員運動/「青少年学徒ニ賜リタル勅語」と「教育勅語」の再解釈/陸軍省文部局、そして『臣民の道』/太平洋戦争と第五期国定教科書/縮小する戦時下の文部省/思想官庁の蹉跌

    第四章 文部省の独立と高すぎた理想(一九四五~一九五五年)――「教育基本法」から「国民実践要領」まで 139
    文部省とGHQの駆け引き/GHQ版「第二の教育勅語」構想/「人間宣言」は単なる神格否定ではない/「アメリカ教育使節団報告潜」と日本の働きかけ/新制教育で大わらわの文部省/「教育基本法」と新しい理想像/文部省の独立とサービス官庁化/東西冷戦と教育改革の転換点/天野貞祐と「国民実践要領」/時代錯誤な『国民実践要領』の内容/内務官僚のエース、大達茂雄の豪腕ぶり/五五年体制と「地方教育行政法案」の強行採決

    第五章 企業戦士育成の光と影(一九五六~一九九〇年)――「期待される人間像」から「臨教審答申」まで 177
    自民党文教局、あるいは日経連教育局/日教組に連戦連勝① 勤務評定の実施/日教組に連戦連勝② 道徳の特設/日教組に連戦連勝③ 学力テストの実施/勝利記念碑としての「さざれ石」/責任をもって黙々と働く日本人/「期待される人間像」の徳目/七〇年安保闘争と経済の季節/「昔、関東軍、いま、文教族」/ロッキード事件の余波で文教族分裂/教育の荒廃で理想像にふたたび脚光/第二臨調と政策官庁への転換/「省難」、臨教審の設置/「臨教審答申」の理想像/問題は理想像の「実装」/日教組の分裂、文部省の勝利

    第六章 グローバリズムとナショナリズムの狭間で(一九九一~二〇一七年)――「教育改革国民会議報告」から「改正教育基本法」まで 219
    経済界と保守系団体の突き上げ/「国旗国歌法」の成立と変化/首相直属の諮問機関で教育改革が進む/「国民会議報告」の実態/「ゆとり教育」の裏の顔/省庁再編で文部科学省発足/第一次安倍内閣と教育再生会議/不発に終わった「親学」緊急提言/ついに実現した「教育基本法」の改正/民主党政権と「日本国教育基本法案」/第二次安倍内閣と教育再生実行会議/普遍主義と共同体主義の相克と調和/グローバリズムとナショナリズム対応は是々非々で/「理想の日本人像」を安全装置として利用せよ

    おわりに [255-259]
    主要参考文献 [260-267]

  • 【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】
    ・文科省がどんなことを考えてるのか分かれば。

    【ノート】
    ・結果として期待したものとは違った。「理想の日本人」を補助線として通史的に研究してるのだが、その補助線が自分の期待とは違ったということ。

    ・ただ、三浦朱門のゆとり教育に関しての発言は面白かった。「要はエリート教育だが、そういうわけにも行かなかった」という、底上げの議論があった。

    【目次】

  • 文部省の研究「理想の日本人像」を求めた百五十年。辻田真佐憲先生の著書。現代の文部科学省はモリカケ問題に収賄問題、裏口入学問題と不祥事だらけ。教育に心血を注いで大変な努力をしてきたかつての文部省の職員の人たちが現在の文部科学省の不祥事を見たらどう思うのでしょう。

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著者プロフィール

辻田真佐憲(つじた・まさのり)
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科中退。
2011年より執筆活動を開始し、現在、政治・戦争と文化芸術の関わりを研究テーマとしている。著書に『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』、『ふしぎな君が代』『大本営発表』『天皇のお言葉 明治・大正・昭和・平成』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲~大日本帝国の表現規制~』(光文社新書)『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)などがある。歴史資料の復刻にも取り組んでおり、監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『日本の軍歌・軍国歌謡全集』(ぐらもくらぶ)、『古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家』 (文春新書) などがある。

「2021年 『新プロパガンダ論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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