なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議 (文春新書 1204)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166612048

作品紹介・あらすじ

果たして陸軍の何が間違っていたのか、そもそも陸軍だけが悪いのか――雑誌『偕行』に掲載された、陸軍将校による座談会「大東亜戦争の開戦経緯」が初の書籍化。あの戦争を戦った陸軍軍人たちの本音とは。・日独伊三国同盟の功罪・なぜ仏印進駐は行なわれたのか・海軍との壮絶な駆け引き・予想を超えたアメリカの経済制裁・独ソ開戦の影響・いつ対米開戦を決意したのか ほかこの座談会を昭和史研究の基礎資料として読み込んできた半藤一利氏による約4万字の書き下ろし解説を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 陸軍佐官級エリートにより、1976〜1978年の足掛3年全15回にわたって「偕行社」の月刊機関誌に連載された座談会に、半藤さんが解説を加えたもの。

    所謂「海軍善玉論、陸軍悪玉論」が粉砕されるような内容。陸軍幹部(多くはその後陸上自衛隊幕僚へ)が、戦後30年を経て話す内容なので、当然、組織擁護、自分擁護、海軍への責任転嫁、の内容も多い。

    事後の後出しジャンケン的批判ではなく、「そのときその場所で、他にどういう決断が取り得たか」という観点で読むと、解説中に出てくるような「運命と思うほかはない」(木戸幸一内大臣)とまでは行かずとも、「このままジリ貧となるよりは、一丁暴れてみたい」、という時代の空気は大きかったのだろう。(簡単にいうと、ヤケッパチ、が実態に近そうだ。)

    景気のいい記事を書いた方が売れる新聞然り。1940年11月15日に出師準備をはじめた海軍しかり。

    海軍の場合、動員を掛けてから、戦争準備完了となるまで、5ヶ月を要し、一旦準備が整うと油を始め莫大なランニングコストがかかるため、そのまま戦争に突入するのか、動員解除するのか、の意思決定を急ぎたくなるものだそう。 ましてや、石油全面禁輸となっては、「戦うなら今しかない」、というマインドセットに流れ易いのは想像できる。

    1940年12月12日に、海軍国防政策委員会(略称、政策委員会)が設置され、その中で、国防政策や戦争指導の方針を担当する「第一委員会」が、海軍の急進化の元凶となったことは知らなかった。戦後も一種のタブーだったようで、この実態把握に半藤さんも苦労されたよう。


  • 必敗の戦争を始めてしまったのはなぜか。
    流されたのだと思う。

    ドイツに勝手に希望を託し、日本のために動いてくれると根拠なく想定し、それを前提に自分たちの行動を決める…。そりゃ見通しが甘すぎる。希望的観測、過度な楽観、リスクの過小評価。
    自分たちしか見えなくなり、「こうあってほしい」という願望が、「こうあるべき」という思い込みに変わっていく。その思い込みは決意と呼ばれ、準備に進み、最悪の場合を想定せずに、勝利は何かを決めずに始めてしまう。空気に流された。

    そして日本人の意思決定の方法は現在も変わっていない。必ず同じ過ちを犯す。

    軍は解体されたが戦争を始めたプロセスは温存されている。道具はなくなったろうが、なぜ日本人が戦争に突き進んだのか、その原動力はまったく処置されていない。
    政治的な右派も左派もまったく同じプロセスで意思決定している。誰も変わっていない。

    そうならないためには雰囲気で考えず、ファクトを積み重ねて考え抜くこと。最悪のことを想定して注意深く罠を避けること。相手を知ること、自分を知ること。自分自身に注意深くなること。

  • 読み終わり。なかなか読むのが難しいところもありますが。
    難しい内容も、解説も含めて何とか理解できた気がします。
    ただ。陸軍のエリート将校が反省会として、昔話のように
    戦争へ突き進んでいく内容が語られているのだが。
    すごく無責任というか、他人事のように、人の責にする
    ような言葉の羅列にちょっと、腹が立つような内容もありました。
    陸軍が悪いのか、海軍が悪いのかなんか、次元がちょっと
    違うかなと。
    あまりにもひどい内容がえがかれていて、却って面白い内容
    でした。

  • 明治維新から続く官軍と賊軍のせめぎ合い。今も。

  • テーマからして反省の色なし!

  • 大東亜戦争・大平洋戦争、呼び名はどちらでもいいんだけど、軍人のみならず民間人に多大な犠牲を強いたことを直視すれば、「大義」だけのために戦争に突入し、しかもその戦争に勝利することが現実的に困難であることを分かっていれば、絶対避けるべきだった。

    本書を読むと、どうも他人事のように戦争を進めた感じがして非常に悲しい。

  • 「海軍反省会」があったように陸軍にも同じような記録があったわけだ。当然、人の記憶なのでどこまで本当なのかは分からない。
    でも陸軍と海軍が協調していなかったことだけは分かる。もっとも事情はアメリカも同じで、陸海の反目は洋の東西を問わないようだ。
    となると、日米の差は軍を制御する政府の力の差ってことになる。そして国家は国民に見合った政府しか持ち得ない。やっぱり戦う前から負けてたんだよ。

  • 中枢に近い陸軍将校たちの言い分だが、他人事のように語っているのがどうも気にかかる。結局現実を注視しようとせず、願望が前提になって戦争に突き進むことになったことがよくわかる。

  • 太平洋戦争開戦に至る意思決定がどのようにされたのかに迫るため、当時の日本軍関係者との座談会により事実を掘り起こしていく。日中戦争の泥沼化と米国との経済格差を含む地政学的な不利を把握しながら、陸海軍の対立や外務省のナチスへの傾倒、文民の戦争への無理解が、無謀な対米開戦に導いたとし、単純な陸軍悪玉論を否定する。意思決定において事実を重視せず、個人の思い込みや組織間の関係が大きく影響する様は現代のあらゆる場面においても共通する病理ではないだろうか。

  • やるせない。ヒトラーのように信念や狂気で開戦を決意したのならまだ諦めもつくが、単に無能な指導者たちが流れや空気で何となく戦争を始めてしまうのは本当にやるせない。しかしここに出てくる旧参謀たちは、いくら戦後の回想とは言え、どうしてこうも他人事で無責任な言いようなのだろう。おまけに戦略眼が米軍に比べて子供レベル。なんだかもう一度戦争が始まってもおかしくないように思える。
    そうならないために半藤氏らが正確な歴史を紐解き、後世にこういうバカ者たちがいたことを残してくれた。半藤氏の反戦、平和への貢献は極めて大きい。心よりご冥福をお祈りいたします。

  • 陸海軍の対立、縄張り意識が大きな問題であり、この対立が敗戦まで続いた。戦争を始めたのはもはや誰であったのかわからなくなった。国のトップが対米戦争の危険性を知りながらも戦争を止めることができずに戦争に突き進んでしまった。

  • 明確に誰が悪いと言いにくい。
    あえていうと空気が悪かった。

  • 200618半藤一利「なぜ必敗の戦争を始めたのか」「3」
    希望的観測に終始
    結局、国の行く末を誰も考えていない
    →国家の滅亡、されど誰も責任を取らない

    ①シナ事変の解決
    ②油の確保

    三国同盟
    仏領インドシナへの進出(7月)→油の禁輸⇒対米戦覚悟
    関特演 バスに乗り遅れるな

  • 終戦後、旧海軍の幕僚が「海軍反省会」という座談会をやっていたことはNHKの特集で報道されたが、旧陸軍も同じような会合を持っていたという。本書は昭和52-53年頃の対談をまとめたもの。
    海軍善玉、いや陸軍だって、ということはさておき、多くの当事者が米国と戦争するなんて考えもしなかったのに突き進んだことが、改めてむなしく、恐ろしく思える。
    日本の多くの企業で、そしてコロナ渦の今でも、そこら中で起きていることと大同小異だろう。
    「対米戦争回避」と言いながら、それは「ただ回避する。回避するだけで・・なにも考えていないんだから・・・。ただ、希望だけをもって、ずるずるっといくんですからね。」という一説がとりわけ印象に残った。

  • 陸軍は陸軍の、海軍は海軍の戦争をそれぞれ戦っていたということ。お互いがお互いの事を知らず、知らせず、知ろうともせずに自分の都合の良いように思い込んで、結局何も決めずに戦争を始めたということか。

  • 東2法経図・6F開架:396A/H29n//K

  •  本書はなかなかユニークな構成です。
     話は「偕行社」という陸軍将校の集会所の説明から始まります。
     この組織は戦前から存在し、現役・OB問わずにメンバー制で構成され、親睦や研究などの集会から冠婚葬祭の援助など多方面で活動しています。終戦時に解散しましたが、戦後しばらくして再開されたとのこと。
     本書は偕行社の機関紙である『偕行』にて掲載された「大東亜戦争の開戦の経緯」と題する座談会の内容をまとめたものです。内容は戦争に至るまでの陸軍内の動向をまとめているが、戦争に至ってしまったことを「反省」する趣旨が強い内容となっている。

     著者は早くからこの ”陸軍反省会” の資料を手に入れておきながら長らく書籍などのアウトプットにつなげてこなかった旨が冒頭で述べられています。しかし、書籍化を決意した理由は語っていながら、なぜ今まで長らく手を付けてこなかったのか、その理由は述べられていない。
     おそらく著者は、この反省会で語られる内容に少なからず首肯できない点があり、しかし表立って反論をして偕行社とのコネクションが失われることを懸念したのではないか。というのも、本書では反省会でのやり取りの合間に、著者による解説や座談会参加者たちの誤認への指摘、そして当時彼らの上司であったろう開戦時の陸軍主要メンバーたちへの皮肉や批判が述べられているからです。

     座談会参加者たちはすでに全員この世を去っているということで、それを待って、と言っては何ですが、これを機に書籍化を決意したのではないか、というのは穿った見方でしょうか。

     本書の特徴としては、三国同盟や南部仏印進駐、対英米開戦決意など歴史的なイベントに際して陸軍内がどのような状況だったのか、当事者たちがその生々しい状況を語っているという点が挙げられます。
     座談会参加者はいずれも当時の佐官級の高級将校たちです。そのため配属していた各部署の内実が克明に語られています。例えば座談会参加者の杉田一次氏(参謀本部員(欧米課)/最終階級は大佐)がアメリカ出張を経て米国陸軍内が戦争を意識しだしてきた状況を上司に報告した時のドライな反応など、陸軍内の「雰囲気」を垣間見れる。これはなかなか他の書籍ではお目にかかれない情報です。

     ただ、本書は以下の点を割り引いて読む必要があると思います。

     一つは、座談会の発言をまとめたものなので、内容が整理されて記述されていないという点。そのため話の内容に脈絡がなかったり、質問に対してピントのズレた回答が行われたり、といった箇所が散見されます。しかしピントずれの回答がなかなか含蓄があったり、著者が個別に補足を差し込んでくれているので面白く読むことができます。

     もう1つは、旧陸軍将校たちの座談会なので、陸軍びいきと思われる発言が散見されるという点。
     これは致し方ないでしょう。自己弁護は人間の常です。本書では三国同盟の主導者は松岡洋右の一択で共通しています。しかし長引く日中戦争の調停役としてドイツに期待をした、という意味で陸軍内にも三国同盟を強力に主張した人間はいました。
     私は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)の著者である加藤陽子さんほど松岡びいきではありませんが、それでも松岡にも弁解の余地があると考えています。

     また本書では対米戦を強硬に主張したのは海軍であり、陸軍はそれに引きずられた、という内容の論調です。その上で海軍に恨み節な個所も多々あります(ただ、これらも彼等からすれば真実なのでしょう)。
     しかし上記内容であっても自身の置かれた当時の状況や、その胸の内を虚心坦懐に語っているからこそ本書の面白みが増しているとも思います。

     個人的に対米開戦においては陸軍に少し同情しています(対中戦においては弁解の余地はありませんが)。
     単純に考えて対米戦を主唱したのは陸軍ではありえません。陸軍が米国を干戈を交える場合、戦場はアジアにおける米国領フィリピンだけであり、軍事的に日本の大きな脅威ではありません。よって南進するにしても米国に宣戦布告する必要性はありません。
     また実際に対米開戦で遂行された作戦(真珠湾攻撃)は海軍の作戦です。真珠湾攻撃ほどの決戦主義的作戦では人員、弾薬、その他膨大な軍事リソースを消費します。海軍が犬猿の仲の陸軍のためにそれらリソースの消費に承諾するわけがありません。なので対米開戦は海軍が「前のめり」でなければ実現しないのです。
     本書では陸軍将校たちから見た海軍の「前のめり」の姿勢が垣間見れます。

     私は、日本人は「その場の空気」に流されやすい民族だと考えています。だから歴史的決断においてはその時々の雰囲気を知ることが大切だと考えます。
     本書は割り引いて考えなければならない部分は多いものの、当時の陸軍内がどのような雰囲気だったのかが当事者たちの口から語られているという点で貴重な資料だと思います。

  • 陸軍のスタッフ達による反省会的座談のハイライト。対米戦は海軍の担当という認識だった等々、国家の重大問題への当事者意識の低さが全般的に垣間見られ、日本が当時から敗北必至とされた対米戦に突き進んだ主要因が、無責任の結晶だった事が読み取れる。また、都合の悪い報告が出来ない「空気」があったという類の証言が多々見られ、これも責任感の欠如と表裏一体と感じられた。かなり本音の記録を遺したこと自体は貴重で、それこそ当時の空気を知る為の遺産ではあると思った。

  • 日本が大戦で負けた理由をその当時の当事者を交えた座談会形式で解き明かしていくもの。

    失敗の本質的の様に戦略論ではなく外交や組織という面から見る。
    南方侵攻を進める海軍。北への侵攻を進める陸軍。お互いが組織の本質を見極めることなく、お互いをカバーすることなく戦争に突き進む。外交面ではアメリカは戦争に参加することはないだろうと言う考えと、ドイツがソ連を倒してくれるという楽観論と他力本願。そして戦争が泥沼化しても誰も責任を取ろうとしない無責任体質。

    戦争は始めるのは容易かもしれないけど、どのように終わらせるかも考えてもらいたい。そもそも戦争はしない方がよいのですが。

    戦争をしないためには、戦争を知ることが大切という意見には納得してしまいました。

  •  大戦当時の陸軍中堅層による座談会。当時の生々しさが伝わってくる。

     通常のことながら、当事者たちは後世の我々のような視点を持つことなく、その中でもがいていた感じが伝わる。

     ただし、そこはかとなく蛸壺化した認識が垣間見える。特に海軍との連携不足というより、音信不通状態など。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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