感染症の日本史 (文春新書 1279)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166612796

作品紹介・あらすじ

一級の歴史家が、平安の史書、江戸の随筆、百年前の政治家や文豪の日記などから、新たな視点で、感染症と対峙してきた日本人の知恵に光をあてる。
新型ウイルスに対するワクチン、治療薬も確立していない今だからこそ、歴史を見つめ直す必要がある。

「給付金」も「出社制限」も「ソーシャル・ディスタンス」もすでにあった! 今こそ歴史の知恵が必要だ!

【目次より】
第一章人類史上最大の脅威    牧畜の開始とコロナウイルス/ペリー艦隊が運んできた感染症/スペイン風邪は波状的に襲ってきた ほか

第二章 日本史のなかの感染症――世界一の「衛生観念」のルーツ
「最初の天皇」と疫病/奈良の大仏は天然痘対策?/疫神を歓待する日本人/江戸の医学者の隔離予防論 ほか


第三章江戸のパンデミックを読み解く
すでにあった給付金/薬をただで配った大坂の商人たち/上杉鷹山の患者支援策 ほか

第四章はしかが歴史を動かした
「横綱級」のウイルスに備えるには/都市化とパンデミック/麻疹が海を渡る ほか

第五章感染の波は何度も襲来する ――スペイン風邪百年目の教訓
高まった致死率/百年前と変わらない自粛文化/「「感染者叩き」は百害あって一利なし ほか

第六章患者史のすすめ――京都女学生の「感染日記」
日記が伝える「生きた歴史」/ついに学校が休校に ほか

第七章皇室も宰相も襲われた
原敬、インフルエンザに倒れる/昭和天皇はどこで感染したか?/重篤だった秩父宮 ほか

第八章文学者たちのスペイン風邪
志賀直哉のインフルエンザ小説/〝宮沢賢治の〝完璧な予防策〟/荷風は二度かかった? ほか

第九章歴史人口学は「命」の学問 ――わが師・速水融のことども
数字の向こう側に/晩年に取り組んだ感染症研究 ほか

感想・レビュー・書評

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  • 新型コロナウィルスで世界が一転した現在だからこそ読んでほしい一冊

    日本はいかにして感染症を乗り越えてきたか?
    感染症の歴史や予防、そしてワクチンやウィルスという概念のなかった時代にいかにして日本人は戦ってきたのか?
    平安の史記、江戸時代の随筆、政治家や文豪たちの日記や記録から見る感染症の歴史を記した本。

    日本人のゾーニング文化
    疫病を忌神としてとらえた「張り紙」護符文化
    歴史を変えた「はしか」パンデミック
    攘夷を加速させた「麻疹」
    スペイン風邪の脅威
    皇室や宰相を襲った感染症
    文学者たちが残したスペイン風邪の記録
    などなど…
    目に見えないウィルスと戦ってきた日本人の歴史

    今も昔も変わらないのかもしれないな~と思うことも多々

    例えば…
    スペイン風邪を恐れるあまり自粛警察気味になった志賀直哉の話などは「おお~!あなたもですか!?」でも志賀直哉のすごいところは自分で「わちゃ~やりすぎてるよオレ…」的に自虐&反省してそれを克明に文章で残しているところ。イマドキの自粛警察に比べればかわいいものです。

    他にも…給付金
    コロナ禍で様々な物議を醸した給付金。
    実は江戸時代にもありました。
    パンデミックとなった疱瘡。
    山口の岩国藩では藩民にまんべんなく米の給付を与え、さらに隔離措置もとったう。

    ところがその対極に長崎の大村藩はなんと給付なき隔離…つまりほとんど棄民という措置を取ったのだとか。
    ひい~!!

    他にも名君と言われた上杉鷹山は「自粛」をやめて政治や経済を動かすことを考えたとか…
    このあたりは今の政治家にも通じる悩ましい話です。

    あと、読んでみたいと思ったのは
    一般庶民がパンデミックの中でどう過ごしてきたのかということを記した十二歳のスペイン風邪 大叔母の百年前日記野田正子日記抄」

    スペイン風邪が流行る中、街に繰り出す人、休校で時間ができたので遊びに行く人、お祭りやパレードなどでにぎわう街など…実は人の思うことや行動ってあまり変わっていないのかもしれない…。

  • 「終わらないパンデミックはない」磯田道史さんと疫病史 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル
    https://www.asahi.com/articles/ASN5253M1N4WULFA011.html

    文春新書『感染症の日本史』磯田道史 | 新書 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612796

  • 人気歴史学者が、コロナ禍をふまえ、過去の日本人がいかに感染症と戦ってきたかを振り返った一冊。

    前に読んだ石弘之『感染症の世界史』の類書と言える。
    偶然にも、著者にとって石弘之は義理の伯父に当たるそうだ。そのためもあってか、同書に対する言及も多い。

    『感染症の世界史』はコロナ禍以前に書かれた本だから、その内容はやや羅列的で、話があちこちに飛ぶまとまりのなさがあった。
    それに対し、本書は〝日本史からコロナ禍を乗り越える智恵を探す〟という明確な問題意識のもとに書かれている。ゆえに、記述に脱線がない点がよい。

    著者は元々、日本における「歴史人口学」の泰斗・速水融を師と仰ぐ人。そのため、歴史人口学の観点から、日本の感染症史についても以前から研究していたという。本書にもそうした豊かな蓄積が感じられる。

    コロナ禍における「給付金」「出社制限」「ソーシャル・ディスタンス」なども、その原型は、過去の日本のパンデミック対応の中にすでにあった……という指摘が随所でなされ、興味深い。

    ただ、終盤の6~8章はややトリヴィアルにすぎる気がした。

    その3つの章では、皇族や政治家、著名な文学者などがスペイン風邪に罹患した事例が紹介されている。だが、いまさらそうした経緯をこと細かに知っても、我々一般人にはあまり意味があるまい。

    3つの章は、〝本一冊分の原稿にするための水増し〟という印象を受けてしまった。少なくとも、こんなに長くする必然性はなかっただろう。

    とはいえ、全体的には良書だ。文章も平易で読みやすい。

  • 与謝野晶子、聖徳太子、原敬、宮沢賢治などなど、よく知られている歴史上の人物の史実から、主に日本の歴史で流行病がどう影響していたかを、先生お得意の臨場感ある語り口で読むことができる。

    また、磯田先生の研究者のとしてのルーツについても触れられていてよかった。

  • 日本における感染症(疫病)に関する史実を纏めたタイムリーな書。

    著者は、歴史から学べ(歴史学にはそれだけ学問的価値がある)と繰り返し書いているし、所々に、現在の新型コロナウイルス感染対策への批判が顔を出している。本書、この辺りがちょっとうざったかったが、幾つか気付かされることもあって、読んでいて参考になった。

    日本における天皇制や伊勢祭祀の確立には、疫病が深く関わっているとのこと。崇神天皇の御代に国民の大半が大陸からもたらされた疫病で死んでしまったのだ。この疫病への対処が大和王権確立に繋がったという。

    幕末にも、異国から持ち込まれた麻疹が大流行し、このパンデミックに遭遇した孝明天皇は、(元々攘夷論者ではあったが)「異国は日本を害する」との思いを強くしたようだ。ペリー艦隊が持ち込んだコレラの流行と合わせ、「攘夷思想の背景には「西洋=病原菌」とみる状況があり、これが日本史を動かすエネルギーになった」面があるのだ!

    この他、聖武天皇による奈良の大仏建立も、天然痘の鎮静化を祈願したものだった。そもそも、今でも日常的に使われている「疫病神」という言葉に、我々が太古から日常的に疫病リスクに晒され続けてきたことが表されている。

    大正時代、日本を3回に分けて襲ったスペイン・インフルエンザについては、著者の恩師、速水融(あきら)氏の著書のお陰で感染規模や致死率、政府や市井の人々の対応の記録がかなり詳細に分かってきているという。スペイン・インフルエンザの世界的流行当時の記録は、著者が言うように、確かに今回の新型コロナウイルス感染症対策の参考になりそうだ。

    本書で面白かったのは、江戸時代の元禄辺りを境にして、日本社会に「先進国化の萌芽」とも呼べる大きな変化があったらしいこと。著者によれば、この時期から、神仏や幽霊、妖怪を本気で信じなくなった(科学的、合理的な思考が徐々に根づいていった)のだという。

    最終章では、著者の恩師である歴史人口学者、速水融(あきら)氏の業績が紹介されている。その著書「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」、読んでみたくなった。

  • 2019年に発生した<新型コロナウイルス感染症>の猛威は、たび重なる変異ウイルスの拡散で、未だ終息する気配さえない。本書は磯田道史氏が、様々な感染症と共に生きていかなければならくなった時代を迎え、新たな視点で感染症の歴史を見つめ直した2020年9月現在での研究文献。▷人類が直面する最大の脅威は、戦争、自然災害を凌ぐ<パンデミック>の頻発▷100年前の<スペイン風邪>の日本人の死者は、内地と外地を併せ74万人▷治療薬もワクチンもない時代は、疫病封じの祈祷や護符たのみ▷黒船が運んで来た疫病と尊王攘夷運動など。

  • 磯田先生の解説で、感染症を軸に歴史を振り返る。どれほど医学が進歩しても、人の行動は変わらないことがよくわかる。
    人の歴史は感染症との戦いでもある。
    その昔、感染症に対して祈祷を行なっていたが、江戸後期あたりから、隔離を行うようになっている。大正時代のスペイン風邪では、その隔離政策がうまくいかず何度も何度も流行が襲ってきている。
    歴史から何を学べばいいだろうか?政策だけでなく、個人の行動も学べることはある。歴史から教訓を読み取ることは大事なことなのだと思う。
    最終章、磯田先生の恩師の歴史人口学、数量史料の話も面白い。

  • 「賢者は歴史に学ぶ」
    まさにそれを地でいくのが今回のコロナ禍では
    ないでしょうか。

    スペイン風邪をはじめとして、人類の歴史は感
    染症との戦いなのです。

    過去の文献を紐解くと、現在のコロナ禍と同じ
    状況がいくらでも出て来ます。

    特に今回スウェーデンが実施しようとした「集
    団免疫」を行うべき、と言う議論は過去にも同
    様にあったようです。

    しかし「免疫」にはまだまだ謎が多く、集団免
    疫は必ずしも効果があると判断できない経緯が
    あったようです。これは現代でも同様です。

    さらに昔の日本人の生活習慣にも目を引くもの
    があります。

    昔の高級布団には片側の隅に「フサ」が付いて
    いました。これは頭の方の印だそうです。日本
    人は昔から「ゾーニング」の観点で清潔を心が
    けていたことが分かります。

    まさに「答えは歴史にの中にある」と納得させ
    られる一冊です。

  • 歴史は繰り返すことをまさに示してくれる本です。江戸時代から感染症には隔離がある程度認識されていたこと、ただその知恵があまり広まらなかったことや、スペイン風邪の時にも、なかなか行政が動けなかったことなどが具体的に述べられています。今と同じだと痛感させられます。それでも現代では科学が発達したおかげで、対策がたてやすくなっているのではと、希望も持たせてくれる内容です。歴史は繰り返すが、それでも少しずつでも社会は良くなっていると思いたくなりました。

  • 2020/10/18
    感染症の世界史の本を読んでから、いつか日本史バージョンも出るんだろうなーと思っていたら、やっぱりこの人の本が出てきたので読みました。
    新型コロナウイルスが猛威を振るっている最中ではありますが、感染症の世界史の中でも、人類は感染症と常に戦ってきて、現在を生きている人々はその感染症に打ち勝ってきた人々の子孫であると言うことを念頭において、じゃあ日本はどうだったんだろうかと、考えることができました。
    皇室や軍隊でも昔から、同じように感染症の脅威が存在し、どのように対策を取っていたのか、現在と共通する部分、相違な部分、使えるところ、反省すべきところなどがこれを読むことで見えてくるのではないかと思います。
    大正時代にスペイン風邪=インフルエンザが流行ったときに一般の人々はどのように行動していたのかという部分においてはまさに、現在の我々が学ぶべきところです。
    当時の政治も感染症に大きく左右され、出来事が変わった背景には感染症の脅威が実はあったのだということは歴史を勉強する上で人間の行動を大きく変えることである以上もっと知っておくべきかなとも思います。

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著者プロフィール

磯田道史
1970年、岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2016年4月より国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮新書、新潮ドキュメント賞受賞)、『無私の日本人』(文春文庫)、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、日本エッセイストクラブ賞受賞)など著書多数。

「2022年 『日本史を暴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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