ラストエンペラー習近平 (文春新書)

  • 文藝春秋 (2021年7月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (200ページ) / ISBN・EAN: 9784166613205

みんなの感想まとめ

国際政治の複雑さを探求する本作では、習近平体制の特徴を軍事、外交、地政学的な観点から分析しています。特に、戦略のパラドックスや「大国は小国に勝てない」という視点から、中国の未来を予見する内容が魅力的で...

感想・レビュー・書評

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  • 「沖縄の実相」を自分なりに知るための読書に一旦区切りをつけ、次に「ガザ」関連書籍を読み進めたいと思っているが、手持ちの本はすでに読了。
    図書館に予約した本の順番を待つ間、先日読んだ『新・台湾の主張』の余韻がまだ胸に残っている。
    台湾有事という言葉が、もはや仮定ではなく現実味を帯びて響く今、手に取ったのがエドワード・ルトワックの『ラストエンペラー習近平』。
    ブックオフの閉店セールで偶然見つけた一冊。
    しかも、
    しかも、
    閉店セール最終日で、
    全品なんと
    10円!!
    ∑(๑º口º๑)!!
    そりゃ買っちゃうよね(笑)
    ってか、もっと買えばよかった(^^;

    タイトルから、もっと習近平という人物の内面や思想に迫る伝記的な内容かと思っていたが、実際には中国という国家の構造と戦略を多面的に読み解く、地政学的な視座に満ちた一冊だった。

    (´ρ`*)コホン
    では、本書の内容を含めた感想を。

    『ラストエンペラー習近平』皇帝の孤独と中国の逆説

    習近平=「皇帝」という視点
    本書の冒頭から、ルトワックは習近平を「ラストエンペラー」と呼ぶ。
    これは単なる比喩ではない。
    毛沢東以来の強権的な統治スタイルを復活させ、党内の反対派を粛清し、任期制限を撤廃して終身指導者の道を開いた習近平。
    その姿は、まさに近代国家の枠を超えた「皇帝」のようだとルトワックは語る。

    しかし、皇帝とは孤独な存在でもある。
    かつての中国は「チャイナ2.0」として、経済成長と国際協調を両立させていた。
    だが、習近平のもとで中国は「チャイナ4.0」へと変貌し、強硬な外交・軍事路線を突き進む。
    香港国家安全維持法の制定、南シナ海での軍事拠点化、台湾への圧力、そしてウイグルやモンゴルでの人権弾圧。
    これらの行動は、国際社会からの孤立を招き、かつての「世界の工場」中国のイメージを大きく損なっている。

    「戦略は経済に勝る」という逆説
    ルトワックの主張の核にあるのは、「戦略は経済に勝る」という逆説的な論理だ。
    中国は経済的には巨大な存在だが、戦略的には誤算を重ねているという。
    たとえば、リーマンショック後のアメリカの混乱を見て、中国は自らを「覇権国家」と誤認し、過剰な自信を持ってしまった。
    その結果、周辺国との摩擦が増し、アメリカを中心とした対中包囲網が形成されつつある。

    興味深いのは、ルトワックが中国の軍事力を「見かけ倒し」と評している点だ。
    確かに艦艇の数では世界最大の海軍を誇る中国だが、補給能力や同盟国との連携、情報共有の面ではアメリカやNATOに遠く及ばない。
    つまり、量では勝っても質と戦略で劣るというのが、ルトワックの冷徹な分析である。

    日本への提言と歴史の重み
    本書の終盤では、日本への具体的な提言もなされている。
    ルトワックは、冷戦期のスウェーデンがソ連に対して取ったような「中立を保ちつつも備える」姿勢を日本に勧める。
    特に台湾有事の際には、直接的な軍事介入ではなく、後方支援や情報提供といった形で関与することが現実的だという。

    この提言を読みながら、先日読んだ『新・台湾の主張』の内容が脳裏をよぎった。
    台湾をめぐる緊張は、もはや「遠い国の話」ではない。
    日本にとっても、地理的・歴史的・経済的に無関係ではいられない問題だ。
    だからこそ、習近平という一人の指導者を理解するには、中国という国家の成り立ち、そしてその戦略的思考の根底にある歴史を知らねばならない。

    無知であることの強み
    正直に言えば、私は中国の政治や軍事について詳しいわけではない。
    いや、むしろ無知と言った方が正しい。
    だが、だからこそ本書のように多面的な視点から解説してくれる本はありがたい。
    習近平個人に焦点を当てるのではなく、彼を生み出した中国の構造、歴史、戦略を俯瞰することで、より深く理解できる。
    無知であることは恥ではない。
    むしろ、知ろうとする意志こそが、読書の原動力なのだと改めて感じた。

    『ラストエンペラー習近平』は、単なる政治評論ではない。
    現代中国の「逆説」を読み解くための地図であり、私たちがこれから直面するかもしれない「台湾有事」や「東アジアの地政学的変動」を考えるうえで、重要な視座を与えてくれる一冊だった。
    ガザ関連の本が届くまでの“つなぎ”のつもりで読み始めたが、思いがけず深い学びと問いを得た読書体験となった。



    <あらすじ>
    『ラストエンペラー習近平』は、戦略家エドワード・ルトワックが中国の国家戦略と習近平体制の本質を鋭く分析した一冊であり、「皇帝」としての習近平の孤立と誤算を描き出します。

    本書の中心テーマは、習近平が毛沢東以来の「皇帝」的権力を握ったことで、中国が国際社会から孤立しつつある現実です。ルトワックは、習近平の強硬な外交・内政路線を「チャイナ4.0」と名付け、これが過去の「チャイナ2.0」(経済成長と協調外交)からの大きな逸脱であると指摘します。

    たとえば、香港国家安全維持法や海警法の制定、ウイグルやモンゴルでの人権侵害、南シナ海での強引な領有権主張など、中国は国際法を無視し、力による現状変更を試みていると批判します。ルトワックはこれを「中国が自らをアメリカと並ぶ大国と誤認した結果」と見なし、リーマンショック後のアメリカの混乱を見て中国が過信に陥ったと分析します。

    また、中国の軍事力の実態にも疑問を呈し、「世界最大の海軍」とされる中国海軍は、実際には同盟国との連携や補給能力に欠ける「見かけ倒し」だと断じます。一方、アメリカやイギリスなどの海洋国家は、単なる軍艦の数ではなく、同盟関係や補給網、情報共有といった「海洋力(マリタイムパワー)」で優位に立っていると説きます。

    さらに、ジャック・マーの失脚や民間企業への締め付けを通じて、習近平が「敵を作りすぎた」ことが中国の弱体化を招いていると分析。欧州諸国やインド、オーストラリア、日本などが中国に対して距離を置き始めており、米中対立というより「世界 vs 中国」の構図が浮かび上がっていると述べます。

    ルトワックは、日本に対しても具体的な戦略を提言。冷戦期のスウェーデンがソ連に対して取ったように、「中立を保ちつつも台湾支援の体制を整える」ことで、中国の暴走を抑止できると主張します。

    この本は、「戦略は経済に優先する」というルトワックの信念のもと、習近平体制の危うさと中国の未来を冷徹に描いた警鐘の書です。現代の地政学を読み解くうえで、非常に示唆に富んだ一冊といえるでしょう。



    本の概要
    ますます緊張を高める米中関係。「習近平は、完全に全方位敵対路線に入った」と著者は語る。「最後の皇帝」習近平は何を目指すのか?

    著者について
    エドワード・ルトワック
    国際政治・軍事戦略の分野で世界的に著名な戦略家であり、「逆説の戦略論」で知られる思想家です。

    プロフィールと経歴
    - 生年・出身:1942年、ルーマニア・アラド生まれのユダヤ系。
    - 育ちと教育:イタリア・イギリスで育ち、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学ぶ。
    - 軍歴:英国軍・フランス軍・イスラエル軍に所属という異色の経歴。
    - 学位:1975年、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論の博士号を取得。
    - 現在:米ワシントンD.C.の戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザー。

    主な著作と思想
    ルトワックは、「大戦略(Grand Strategy)」の提唱者として知られ、軍事力だけでなく経済・外交・情報などを統合した国家戦略を論じます。彼の分析は「逆説的論理(Paradoxical Logic)」に基づき、「平和を望むなら戦争に備えよ」といった常識を覆す視点が特徴です。

    代表的著作(日本語訳あり)
    | 書名 | 内容の概要 |
    |------|------------|
    | 『クーデター入門』 | クーデターの技術と政治的意味を実践的に解説した名著 |
    | 『戦争にチャンスを与えよ』 | 戦争の抑止力と戦略的意義を逆説的に論じる |
    | 『日本4.0』 | 日本の国家戦略の再構築を提言 |
    | 『ラストエンペラー習近平』 | 中国の権力構造と習近平体制の分析 |
    | 『ルトワックの日本改造論』 | 少子化対策や防衛戦略など、日本への具体的提言 |

    日本との関わり
    ルトワックは日本に対しても深い関心を持ち、少子化対策として「5歳までの育児完全無料化」を提案したり、北朝鮮や中国への防衛戦略として空対艦ミサイルの導入などを提言しています。彼の著作は奥山真司氏との共著が多く、日本の読者にも広く読まれています。

  • 習近平を「つまずかせる」には、面子を潰すことだ。中国が格下と見ている国が習近平に「ノー」と言い続けることだ。
    中国がオーストラリアにつきつけた「不満」がすなわち「弱点」なのだ。ここを突けばよい。

  • 内容はやや楽観的ながらふむふむという感じ。

  • 戦略のパラドックス「大国は小国に勝てない」の
    症例に中国を挙げ、今後の中国を予見する内容。

    国際政治を知るうえで、
    戦略がもつ意義とその弱点を理解する、
    必要性とその面白さが発見できました。

  • 2021年時点での習近平体制を軍事的・外交的・地経学的特徴から見ていきつつ、後半では「軍事テクノロジーの逆説」「戦略の逆説」など逆説を軸に軍事を見ていく一冊。
    現在と本書刊行時点とで中国の実態が様変わりしているとはいえ、全体通して中国や習近平体制を過小評価気味ではなかろうか。

  • 刺激的で独特な視点の戦略家、エドワード・ルトワック氏の中国本。
    個人的には中国4.0に引き続いて二冊目。今回もいかに中国がこれからどん詰まりになっていくかを戦略の歴史とからめながら語っていく感じか。後半は、軍隊の性質として以下に新しい有効な武器を実用化していくことができないかという話にしばらくページを割いているが、以前読んだ「鉄砲を捨てた日本人」のようなロジックかと思ったら、硬直組織的な「イノベーションのジレンマ」的な話だったのも興味深い。機関銃やタンクがその威力が理解されながらも、組織の伝統と慣習、役割分担から組織内で誰がどう使うかの”居場所”を見つけられず、発明されてから10年も主役にならなかったり、他の武器を失ってから初めて使ったみたいな説明があり興味深い。

    この10年でどれだけ諸外国と摩擦を起こしてきているかも良くわかる。
    しかしどうこのままじゃ危ないよとなっても自分達も諸外国もどうにもやり方変えられそうにないので、やっぱりこのまま行くとどこかで誰も望まない未来に突入しそうで絶望的にしかなれない。

    P.18
    中国が大国としてはありえないほど、その対外政策をころころ変えてきた、ということだ。(中略)そもそも20年ほどの間に幾度も対外政策を大きく変えること自体が、中国という国の不安定さを露わにしているということである。

    P.20
    「チャイナ1.0」は「平和的台頭」だった。「チャイナ2.0」は「対外強硬路線」であり、中国の外交を大いに後退させた悪手だった。それに少し懲りて「チャイナ3.0」は「選択的攻撃」となった。では、現在行われている「チャイナ4.0」を名付けるならば、「全方位的強硬路線」ということになるだろう。メディアなどでは「戦狼外交」と呼ばれることもあるが、「チャイナ2.0」のさらに劣化したバージョンであり、戦略的にはまさに中国にとっても最悪の選択である。

    P.26
    引き金を引いたのは2008年9月のリーマン・ショックだった。(中略)アメリカを筆頭に世界中で急激な景気後退が進行するなか、中国は約4兆元(約56兆円)にものぼる大型景気刺激策を発表し、いち早く経済成長を回復させたのである。
    このとき、中国はいくつかの判断ミスをした。ひとつは「このままアメリカの経済は下がり続け、中国の経済は上がり続ける。経済で世界一になるまでに25年はかかるとおもっていたが、あと10年しかかからない」と思い込んでしまったことだ。(中略)もうひとつは、より根本的な誤りである。経済力の規模がそのままこくりょくであると誤認してしまったことだ。「何か揉め事が生じても、しょせん小国相手には、金(投資や貿易、関税などの経済的手段)で黙らせたり、言うことを聞かせたりすることができる」と勘違いしてしまった。(中略)戦略の観点からみた「国力」とは、総合的な力である。それは単なる軍事力でもなく、もちろん経済力dえもない。たとえば今日のイギリスのGDPはおおよそ2兆8000億ドルで、イタリアを多少上回っている程度だが、その国際的な影響力はおそらく10倍以上違うだろう。その差は外交力、政治力、さらには「大国的精神」などによるものだ。
    さてリーマン・ショックでアメリカをはじめとする西側の先進国が没落に向かうと考えた中国の人々は、これ以上アメリカたちの言うことに良い唯々諾々と従っている必要はない、注動くは物事を決める立場に立つべきだ、と考えるようになり、胡錦濤指導者が採用してきた「チャイナ1.0」は中国の力を十分に反映していない、角に弱い政策だと不満をもちはじめたのである。
    そこで2009年から新たな対外政策「チャイナ2.0」が登場した。その基調は「対外強硬路線」である。中国は博物館や図書館の倉庫をごそごそ探り、古文書や古地図を”発見”しては、領土や了解で、これまでの国際的な取り決めを覆すようなky高校な主張を開始したのである。

    P.37
    2020年2月、中国の裁判所が、スウェーデン国籍の書店経営者、桂敏海氏に対し、「海外への違法な情報提供」の罪状で懲役10年の判決を下したのである。スウェーデン政府は、2019年、この桂氏に言論の自由に関する章を送っていた。この受賞のときも中国は「報いを受ける」とスウェーデンを脅していたが、さらに、桂氏の釈放を求めるスウェーデン政府を、中国の駐スウェーデン大使が「48キロ級のボクサーが、86キロ級のボクサーに挑み続けている」と揶揄したのである。
    これに対し、スウェーデン議会では同大使の国外退去が提議される騒ぎとなった。2020年の4月にはスウェーデン国内の孔子学院と孔子課堂はすべて閉鎖され、さらに9月、同国の宇宙公社が、中国との地上衛生基地の使用契約を「地政学的な情勢の変化を理由に延長しない」と発表している。

    P.49
    中国には「シーパワー」すなわち海軍力と「マリタイムパワー」=海洋力の違いが理解できていない。(中略)海軍力とは艦船の数やそのスペック、乗組員の能力や士気、統制のとれた運用などで決まるものだ。(中略)海洋力とは、海軍力の上位にある概念だ。それは自国だけではなく他国との関係性で決まるのである。
    典型的な海洋国家であるイギリスの強さは、(中略)友好国との軍事、外交、経済、文化などの総合的な結びつきの強さに基づくものだ。

    P.50
    戦略のパラドックスのひとつに「大国は小国に勝てない」というものがある。(中略)戦略はスポーツではない。一対一で戦わなければならない、などというルールはどこにもないのだ。前にも述べたように、大国とか小国が衝突した時、小国に味方する国があらわれる。なぜなら、「次は自分が狙われるかもしれない」と考える体。別の大国も、「このまま大国が小国をのみこむと、さらに強くなり、あとあと厄介なことになる」と考えて、小国を支援する側に回る。

    P.61
    2020年9月にアメリカ国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表している。またアメリカ海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられた。(中略)彼らがやっている戦略分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのだ。(中略)重要な事実を指摘したい。国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているが、アメリカの攻撃型原子力潜水艦がたった3隻あれば、台湾海峡のすべての中国感染を撃沈できるということだ。

    P.65
    中国は素晴らしい料理を生み出し、博物館を飾るような見事な文物を数多くつくってきた文明がありながら、軍事を軽侮する伝統が顕著にみられる。そもそも中国が領土をん拡大した時期は、元や清に代表されるように、異民族による征服国家なのだ。漢民族はあらゆる点で優秀だが、戦争だけは拙劣なのである。

    P.66
    地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものである。(中略)中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることだ。その典型が「中国製造2025」である。(中略)たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行おうことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の性協力を強めることが真の狙いなのである。その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵」だ。(中略)中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからだ。

    P.79
    産業スパイ活動に対しては放置しておくことはできない。それはビジネスのルールそのものを破壊してしまうからだ。(中略)国家による企業への有形無形の支援とスパイ行為が結びつくと、中国企業との取引や技術面での連携そのものが、経済ばかりか安全保障を脅かすことになってしまう。
    こうした実態が明らかになってきたとき、態度を変更したのがアメリカのテクノロジーロビーだった。それまでテクノロジーロビーには、中国に対する警戒感は乏しかった。グーグルなどは、アメリカ国防総長の協力を拒否し、人民解放軍との「軍民融合」を行なっている中国の有名大学と共同研究を行なっているほどだ。むしろ彼らは、中国に高関税をかけることに反対していた。部品などの供給が阻害されるからだ。
    またこうしたテクノロジー系企業には多くの優秀な中国系アメリカ人が働いている。彼らを中国系だという理由で採用しないと、差別になってしまうからだ。
    しかし、そうしたテクノロジーロビーでさえ、米政府に助けを求めるようになっている。利益の源となる技術や情報を守るために、対中強硬派に転じたのだ。

    P.84
    冷戦期、スウェーデン王国は、フィンランドの抑止力を高めるために、非公式な物的援助を準備していた。そのひとつは、大量の対戦車平気を配備することだった。もしもソ連の進行が現実のものとなったとき、フィンランドに対戦車砲を供給するためだ。
    そのほかスウェーデンが行ったのは、空軍力の過剰な強化だった。当時、スウェーデン空軍は欧州最大規模にまで達した。自国を守るためではない。フィンランドを守るためにである。(中略)さらにスウェーデン軍はフィンランドとの国境に近い北部に精鋭部隊を配置している。もちろんフィンランドからの侵攻に備えるものではなく、ソ連がフィンランドになだれこんできたときのための舞台だった。これらはすべて中立国という立場のまま行われたことだ。

    P.104
    2020年11月、中国政府は、オーストラリアの大手メディアに対して、14項目の「不満」を突きつけたのである。これを見ると、中国が何に苛立ち、何を嫌がっているかがよく分かる。それは、この文書を手渡す際に「中国は怒っている。中国を敵として扱うならば、中国は敵になるだろう」と恫喝したことが、かえって雄弁に語っている。

    P.114
    軍事力とは兵器の数の総量ではない。(中略)高いスペックであれば良い、というものでもない。たとえば日本海軍の誇りでもあり、当時、世界でも最高水準の軍艦であった、大和、武蔵はほとんど戦況に何の影響も与えることができなかった。

    P.138
    軍事技術において、次に何がくるかを予想することは、ほとんどは無駄に終わる。やらなければならないことは、まだこの世にない技術を予想することではなく、すでに目の前にあり、実現している技術のなかから、何が有用かをみきわめ、採用することなのだ。

    P.P.156
    戦争開始当時、アメリカ軍は、グリーンベレーやデルタフォースのような特殊部隊によって構成されており、レーザー目標指示装置などにより、B-52爆撃機を誘導し、上空から空爆を行っていた。つまり、アフが任スタン紛争の初期には、米軍は非常に近代的な戦い方をしていたことになる。
    ところが最先端のテクノロジーをもたないタリバンは、そうした超近代的な戦争に付き合おうとしなかった。つまり平気や火薬類、情報や指示系統を一箇所に集めることをやめて分散させ、爆撃のターゲットをつくらないようにしたのである。
    アメリカとその同盟国たちは、起因大的なエアパワーの戦いから、一気に歩兵による、山村の小道での戦いに引き戻された。(中略)テクノロジーはあるが、武器を手にして歩き回って戦うほかないという点では、本質的には中世の戦争と変わらない。これが「戦争の逆行行為」である。

    P.161
    多くの場合、斬新かつパワフルな新兵器は、以下のようなライフサイクルをたどる。
    まずは第一段階。非常に斬新であるため、その使い方がよくわからず、配備されいる数もきわめて少ないという状況がしばらく続く。
    第二段階。配置数が増えてきて、実際に使われるようになる。この間、新兵器は優位を発揮する。
    第三段階。各国の軍隊にとって、そのパワフルな新兵器への対処が重要課題となる。そのパワフルな新兵器の効力を削ぐための研究が進み、やがて「普通の武器」となっていく。

    P.184
    本物の戦略的状況では、究極的にはビジネスのようなルールは存在しないといってもよい。もちろん、国際法というものはあり、国際連合という組織も存在する。しかし、国際法に違反した国を強制的に消滅させたり、指導者を拉致したりするのを禁じるようなルールはない。それを可能にするのは戦争だけだ。紛争の真に最終的な解決方法は、いまなお、戦争しかないのである。(中略)それは戦略が、究極には国家の生存とかかわっているからだ。生存が脅かされたら、どんな手段でも使うほかない。それでなければ生き残れないからだ。「戦略(安全保障)はつねに経済よりも優先させる」という法則は、ここから導かれる。

    P.190
    戦争から平和になる道は二つある。ひとつはリソースを消費してしまうことだ。たとえばもうこれ以上銃や戦車や戦闘機がつくれなくなったり、食料が枯渇してしまったり、人が足りなくなってしまえば、継戦は不可能になる。
    そしてもうひとつは、国民のメンタリティの変化である。(中略)戦う意志を失うといううことだ。これは戦争において、劣等な側はもちろん、優勢な側でも起こりうる。
    その意味で、戦争は平和をもたらすプロセスなのだ。戦争そのものが人々を平和を受け入れるように追いやるのである。そこではじめて外交官の出番となる。彼らの仕事は、ダメージをより少なくして合意に至ることだ。もし彼らが優れたインテリジェンスや情報をもっていれば、本来ならば10年かかった戦争を8年で止められることになるかもしれない。
    この「戦争が平和をもたらす」という名だには逆命題がある。「平和が戦争の原因となる」というものだ。(中略)平和なときに、人々は戦争を恐れない。これには二重の意味がある。戦争が起きるとどうなるかとういことを理解していないので、それを考えようともせず、アグレッシブに動いてしまうという危険性だ。(中略)もうひとつは、脅威に注意を払わず、何の準備もしないということだ。防衛に予算を回さないし、自ら犠牲になって国を守ろうという気を起こす人間も少なくなる。生存のために当然やるべきこと、つまり自分の身を守ることを、面倒だと感じるような雰囲気をつくってしまうのである。そうなると、国が弱くなり、攻撃を受けやすくなってしまうのだ。

  • ラストエンペラー習近平というタイトルだが、テーマはそこではないと思う。筆者が言うところの、戦略のパラドキシカル・ロジックを述べた本であって、中国の戦略がそのれいとして取り上げられている。パラドキシカル・ロジックとは、いわゆる動学分析のようなところである。他のagentの動きを固定することなく未来を想像することが、人間には非常に難しい。だが、戦略とは直線ではなく、曲がりくねりながら進むものなのだ。

  • ●欧州がアメリカの次に重要だと考えていたのは中国、しかしG7以降、日本に変わった。
    ●2018年3月に、それまで憲法で2期10年までとしてきた国家主席の任期を撤廃した。つまり習近平は死ぬまで中国のトップである続けられるということだ。毛沢東以来の皇帝になろうとしている。
    ●1949毛沢東による建国。大躍進、文化大革命の失敗。鄧小平1989天安門。
    ●2000年チャイナ1.0。経済的台頭。国際秩序への平和的な参加。
    ●2008年リーマンショック。チャイナ2.0。対外強行路線。56兆円にのぼる大型景気刺激策を発表し、いち早く経済成長を回復させた。経済力の規模を国力と勘違いした。→9段線。もともと蒋介石の中国国民党が描いた、単なる願望を地図にしたものであり、荒唐無稽な妄想に過ぎないもの。尖閣諸島。国際的な舞台で、中国国内でしか通用しない発言をするという失態。
    ●2014年。過去の反省を踏まえたチャイナ3.0。しかしここでも選択を間違える。相手を選び選択的攻撃。
    ●2020年コロナのどさくさに紛れてチャイナ4.0。中国は、領土争いとビジネスを別の話だと考えている。これが間違い。戦略(安全保障) は経済に優先する。
    ●中国と言う敵を共有しているので、インドを特別扱い。クアッド、日米豪印。ASEANではカンボジアとラオスが中国を怒らせない採決となり役立たず。
    ●インド、ベトナムも兵器の主な供給元はロシアである。つまり反中包囲網に密かに参加しているわけだ。偽りの恋人。
    ●戦略はスポーツではない。1対1で戦わなければならないと言うルールは無い。中国は海軍力が強いが、海洋力がない。つまり同盟の戦略ができない。

  • 20220530

  • チャイナ1.0は平和的台頭、チャイナ2.0は対外強硬路線、チャイナ3.0は選択的攻撃、チャイナ4.0は全方位強硬路線で、2.0の劣化版

    韓国は中国からの独立状態を保つ意志に乏しいので、クアッドに韓国は参加しない可能性が高いし、参加するとかえってクアッド自体を弱める可能性がある。

    民主制度の国では、国民はその自由を守るために戦わなくてはならない。そうでなくては独立を保つことは諦めるしかない。アメリカに頼るのは核兵器の抑止だけで、それ以外の国防は全て自分たちでやるべきなのだ。

    アメリカの攻撃型潜水艦50隻がすべて原潜であるのに対し、中国の保有する潜水艦62隻のうち、原子力で動くのはわずか7隻しかない。
    米軍の原潜だけでなく、日本の海上自衛隊が保有する12隻のそうりゅう型潜水艦は極めて静かで隠密性が高い。この12隻で人民解放軍の艦船を100隻ほど沈められる。

    これから新しい有人機を開発しようとすることは、テクノロジーを無視しているとしか言いようがない。今この瞬間に有人機の開発は止めるべきである。同じことは水上艦についても言える。私達はドローンとAIという新しい機関銃の時代に立ち会っている。

    戦略(安全保障)の世界では、強さは弱さになる。弱さが強さになる。これを言い換えると、「大国は小国に勝てない」(ただしこの法則は中規模国には当てはまらない)

    紛争の真に最終的な解決方法は、いまなお戦争しかないのである。これは認めない人も多いかもしれないが、まぎれもない事実である。

    戦略(安全保障)はつねに経済よりも優先される。

    戦争から平和になる道は2つある。一つはリソース(兵器や食料など)を消費してしまうことだ。そしてもう一つは国民のメンタリティの変化である。

    戦争が平和をもたらす。が、平和が戦争の原因となる。

  • 筆者がチャイナ1.0としている韜光養晦の終わりにより、中国が敵を増やしてしまっているのは指摘の通りだと思う。理由が大陸国だからなのかは分からないが、海軍力と海洋力(同盟戦略)の違いを理解できておらず空母に手を出してしまっているという指摘も頷ける。9段線の主張は引っ込みがつかなくなっているのだろう。

  • 訳者の奥山さんが著者のルトワックさんにインタビューなどをしたものをまとめた、ということなので半分くらいは共著に近いのかもしれない。実際、いつものルトワック節論文よりかなり柔らかい感じの習近平論考になっていると思う。
    中国は確かに豊かになり強くなったが、それが災いして戦略的には弱くなる一方である、例えば、という論考がいくつも披露される。曰く、チャイナ4.0になって内も外も全方位に喧嘩を売って回る戦狼外交があらゆる他者を反中国同盟に駆り立てる。ジャックマーはじめ国内の起業家を叩いて回るから中国経済の行方に暗雲が立ち込める。お前たちは小国だから黙っていうことを聞けと明言するほどの外交音痴。
    毛沢東になりたい習近平がラストエンペラーだというのは説得力があると思う。そのメンツを潰す小さな不同意を小国が積み重ねれば習近平は倒れるだろうとの予測もそうだろう。しかし、最末期の彼が乾坤一擲の台湾侵攻に賭ける恐れが増すのではないか。そうなれば米軍は沖縄その他日本の基地から出撃するから日本は必ず当事国になる。それが嫌で基地利用を認めなければ日米同盟が破綻するから選択の余地はない。そんな選択をせずに済む軟着陸を考えたいがそうは問屋が下さぬかもしれないね。

  • 字数は少ないが内容は豊富な本。
    2021年現在の国際環境は、日本にとってかなり有利になっている。チャイナ4.0の戦狼外交はチャイナ2.0の悪化版。世界的に反中ムードが高まっている。シーパワー=海軍力、マリタイムパワー=海洋力で、これは中国の理解していない同盟の戦略。
    人材が常に入れ替わるため、ジェットエンジンのようなチームワークが必要な技術は開発できない。
    日本が中国に対する戦略としては、冷戦期にスウェーデンがソ連とフィンランド国境に精鋭を配置したように、中立のまま台湾を支援できるような体勢をとることで抑止する。そして習近平をつまづかせる、すなわち中国からの様々な要請に全てノーと答えて習近平は失敗していると中国国内に印象付けること。
    軍事テクノロジーの逆説として戦車と機関銃の話を挙げている。機関銃は陸軍のどの職種も採用せず、旅順ではロシアの水兵が使っていたことは面白い。戦車も英海軍の航空部隊から始まりチャーチルが承認、本来の任務を隠すために水槽(タンク)を開発していると欺瞞していた。
    中東の木の枝と蛇の寓話。木の枝に意思はないが蛇にはある。相手は木の枝ではなく蛇であることを認識する重要性。
    なんで中国はあんなことするんだろう、言うんだろうという疑問については「国内のことばかりで他者が見えていないから。文明論的にも対等は他国はおらず強者か弱者という見方しかできない」と簡潔な解答を与えてくれた。

  • 国際政治というのは複雑だが面白いと感じました。中国はこれからどうなるんでしょう?
    大国が小国に勝てるとは限らない。
    これに尽きる気がします。
    習近平がいなくなるまでは、中国は拡大志向なんだろうと思います。転換はできないんでしょうね。

    あと、軍事力の大切さも改めて痛感です。

  • 戦略ならではの物の見方を体感することが出来た。

  •  予想以上におもしろい本でした。現代中国については、とにかく猛烈な経済成長をしているので、経済力で世界第一位となるのは時間の問題なので、習近平の支配が成功していると考えたくなります。彼は政敵になる可能性のある共産党員幹部たちなんと153万7000人を虐殺や投獄によって一掃し、憲法改正までして終身国家主席という地位を確保して独裁者となりました。
     任期が決まっていて、後継者は選挙で選ばれるなら、クーデターによる暗殺の影に怯える必要はあまりないのですが、終身独裁者は常に暗殺に怯えて政敵を抹殺し続けなければならないところに彼の最大の弱みがある。そして彼がその地位を守るためには、経済成長と国力拡張を臣民に見せ続けなければならない。そして彼の強気な一帯一路や香港や台湾併合をめざす膨張路線はあらゆるところでトラブルを引き起こしている。
     
     この本は、戦略の逆説的論理(パラドキシカル・ロジック)についてさまざまな実例を紹介しながら説明してくれます。戦争が平和をもたらし、平和が戦争の原因となるということいついて我々は危機感を持らなければならない。
     台湾は徴兵制を廃止して国防をアメリカ任せにすることで、経済的な発展と平和を享受していますが、その姿は日本とまるで一緒である。こういう視点から現代情勢を見つめ直すことが、平和ボケした日本人には必要だと思いました。

  • 「大国」のアクションに対しては、必ず「小国」のリアクションが有り、「小国」は連帯するというのが一つ。
    中国には、対等な外構という経験値がゼロであるため、「強者」と「弱者」の概念しかない。だから中国は戦狼外交に陥ってしまう。しかも独裁者の顔色をうかがう事が最優先な貯め、外を見ていない。これがもう一つ。

    ただね、森を見て木を見ずというか、さすがに有人戦闘機や軍艦を無用の長物扱いは先を見すぎ。そこは同意できないのね。

    薄い分、☆一つ減

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著者プロフィール

ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。戦略家であり、歴史家、経済学者、国防アドバイザーとしての顔も持つ。国防省の官僚や軍のアドバイザー、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを務めた経歴もあり。米国だけでなく、日本を含む世界各国の政府や高級士官学校でレクチャーやブリーフィングを行う。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。著書は約20ヵ国語に翻訳されている。邦訳には『クーデター入門』(徳間書店)、『ペンタゴン』(光文社)、『アメリカンドリームの終焉』(飛鳥新社)、『ターボ資本主義』(TBSブリタニカ)、『エドワード・ルトワックの戦略論』(毎日新聞社)、『自滅する中国』(芙蓉書房出版)、『中国4.0』(文春新書)、『戦争にチャンスを与えよ』(文春新書)がある。

「2018年 『ルトワックの”クーデター入門"』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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