老人支配国家 日本の危機 (文春新書)

  • 文藝春秋 (2021年11月18日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784166613397

作品紹介・あらすじ

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。
「日本型家族」だ!

核武装から皇室までを語り尽くすトッドの日本論!
磯田道史氏、本郷和人氏とも対談。

若者の生活を犠牲にして老人のコロナ死亡率を抑えた日本だが、社会の存続に重要なのは高齢者の死亡率より出生率だ。
「家族」が日本社会の基礎だが、「家族」の過剰な重視は「非婚化」「少子化」を招き、かえって「家族」を殺す。

(目次)
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
――「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした
「シルバー民主主義」
2 日本は核を持つべきだ
――「米国の傘」は実はフィクションにすぎない
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ
――日本に必要なのは「多文化主義」ではなく「同化主義」だ

Ⅱ アングロサクソンのダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
――黒人を“疎外”したのはトランプではなく民主党だ
5 それでも米国が世界史をリードする
――民主主義の“失地回復”は常に「右」で起きる
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
――「高学歴の左派」は「低学歴の労働者」の味方ではない
7 それでもトランプは歴史的大統領だった
――トランプの“政策転換”が今後30年の米国を方向づける

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
――ユーロ創設は仏政治家が犯した史上最悪の失敗だ
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』
――貧しい人々には「資本の相続人」よりも
「学歴があるだけのバカ」の方が有害かもしれない

Ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化(磯田道史氏との対談)
――日本人は規律正しい民族だが“自然人”としての奔放な面もある
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)
――女性天皇の登場は、中国の父系文化への反発でもあった

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
1951年生まれ。フランスの歴史人口学者・家族人類学者。国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論により、『最後の転落』(76年)で「ソ連崩壊」を、『帝国以後』(2002年)で「米国発の金融危機」を、『文明の接近』(07年)で「アラブの春」を、さらにはトランプ勝利、英国EU離脱なども次々に予言。著書に『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』『シャルリとは誰か?』『問題は英国ではない、EUなのだ』(いずれも文春新書)など。

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

日本の現状を鋭く分析し、家族制度が抱える問題を浮き彫りにする内容が展開されている。特に、高齢者を優遇する政策が現役世代に与える影響についての考察は、読者に深い考えを促す。著者は、過去の歴史的変化を見通...

感想・レビュー・書評

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  • 著名な人口学者であるエマニュエル・トッドによる著作。

    「日本のシルバー・デモクラシーへの言及と提言」
    「英米の急速なアンチ・グローバリゼーション的動向」
    「ドイツ帝国と化したEU」
    「日本の家族形態の系譜」
    大きくこの4つのテーマが本書では解説される。

    終始軽快な語り口で、内容がよく理解できた。
    知らない知識も多くあり、特に第二部の論は新鮮で面白かった。
    これは、現在の世界で最も支配的なイデオロギーである「資本主義」「民主主義」はともに英米(アングロサクソン)から出現しており、これらのイデオロギーがもし終焉を迎えるとしたら、それはやはりアングロサクソンからもたらされるだろう、という主張である。

    一方、国家間の相違をすべて「家族形態の違い」だけで説明しようとするのは、些か暴論かと思った。
    著者曰く、日本人がスクラップ&ビルドを苦手としているのは、日本の伝統的な家族形態が「直系家族」(男子長子が跡取りとなり、結婚した後も父の家に住んで、すべてを相続する。親子関係は権威主義的で、兄弟は不平等)であるからだとする。
    対して、英米は「絶対核家族」(子供は早くから親元を離れ、結婚すると独立した世帯を持つ。遺産相続は親の意思による遺言で決定されるため、比較的親子関係は自由)なので、イノベーションの発想に優れるとする。

    しかし、ここまで厳密な直系家族は現在の日本では残っておらず、英米のスタイルに近付いている。にも関わらず、この違いだけで国家間のパフォーマンスの差異を説明しようとするのは無理があるだろう。

    日本がこの30年間停滞に甘んじているのは、「財政出動が不足しているためにデフレマインドから抜け出せていないこと」と「労働生産性が上がらないこと」の二つが要因である。

    本書の論とは外れるので、仔細についてはここでは書かないが、前者は完全なる政治上のミスであり、後者は日本人の怠慢がもたらした結果に過ぎない。

    無能で無知であるにも関わらず、勉強しようとも努力しようともしない、有能な者の足を引っ張ることしかできない人間が日本には多過ぎる。
    この脱却を試みるにも既得権益と保守権力、老人が阻害するため、改革も遅れるという構造が日本には定着してしまっている。

    総括。
    本書は原因の考察と解決策の提示に関しては疑問がもたれるものの、「人口動態」を切り口とした各国の分析に優れる。一般論とは異なるが、面白い観点である。
    今後の日本の在り方を考える上で参考にしたい一冊。

  • 「文芸春秋」に載った記事8本と、磯田道史、本郷直人の二人の歴史学者との対談。テレビや本で馴染んでいる二人だけに、質問から話がはずみトッド氏の考えが分かりやすく伝えられた。

    表題の「老人支配国家 日本の危機」は、
    「コロナで犠牲になったのは誰か」~「老人」の健康を守るために「現役世代」の活動を犠牲にした「シルバー民主主義」で端的に表明している。

    コロナ禍になって半年くらいの記事(2020.7文芸春秋)。トッド氏はコロナ禍は、歴史家、歴史人口学者として「グローバリズムに対する最後の審判」だと捉える。結果としては「グローバリズムの知的な敗北」だという。

    ロックダウンは、低リスクの「若者」と「現役世代」に犠牲を強いて、高リスクの「高齢者」の命を守った、ともいえる。だが、いま必要なのは、「生産力」=「社会としての活力」で、これは「老人の命を救う力」よりも、「次世代の子どもを産み育てる力」にこそ現れる。コロナ被害を最小限に止めた日本だが、唯一にして最大の危機は「少子化」であり、少子化対策こそが最優先課題だとする。

    コロナ禍は新しいことが起きたのではなく、すでに起きていたことを露見させたという。フランスでは、人工呼吸器もマスクも医薬品も自国では作っていない・・モノの生産は先進国ではなく後進国になっていた・・これは人口10万人あたりの死者数(2020.5.15時点)でみると、ベルギー77%、スペイン58%、イタリア51%、イギリス50%、フランス40%、アメリカ25%で、ドイツは9.5%、日本・韓国は0.5%。これは、高い国はトッド氏の家族分類での平等主義核家族の国で個人主義傾向が強く、グローバル化が進んでいる。ドイツ日本韓国は直系家族で権威主義的家族で「保護主義的傾向」が作用し、産業空洞化に歯止めがかかって、国内の生産基盤と医療資源がある程度確保された、ため被害の拡大を防げた、とみる。


    対談では、磯田、本郷両氏とも、トッド氏の40年に及ぶ研究の集大成ともいえる「家族システムの起源」(2011発表、日本版2016)を読んでいる。トッド氏の日本理解は日本の歴史人口学の父ともいえる速水融氏に負っており、磯田氏は速水氏の下で史料集めをしたという。

    言語の伝播過程は、「中心地で生まれた新たな語形が周辺へ伝播する結果、古い語形ほど外に、新しい語形ほど内に分布する」(ローラン・サガール)。それを家族形態にも応用すると、ヨーロッパはユーラシア大陸の周縁部で、ヨーロッパで核家族が中心的形態になっていることは、核家族こそが最も古い家族システムだと言える。これを実証したのが、「家族システムの起源」)。

    日本でも、磯田氏が調査した薩摩藩では、兄弟複数に対して禄が与えられるという兄弟の横の関係が重視されたり、家臣が農村に住むなど、江戸時代の直系家族以前の鎌倉期の武士を見ている気がする、と言う。

    1.老人支配と日本の危機
     1「コロナで犠牲になったのは誰か」(文藝春秋2020.7)
     2「日本は核を持つべきだ」(文藝春秋2018.7)
     3「日本人になりたい外国人は受け入れよ」(文藝春秋2019.6)
    2.アングロサクソンのダイナミズム
     4「トランプ以後の世界史を語ろう」(文藝春秋スペシャル2017.春号、アトランディコ2016.11.15)
     5「それでも米国が世界史をリードする」(文藝春秋スペシャル2017春号)
     6「それでも私はトランプ再選を望んでいた」(文藝春秋2020.11)
     7「それでもトランプは歴史的大統領だった」(文藝春秋2021.1)
    3.「ドイツ帝国」と化したEU
     8「ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する」(文藝春秋2018.1)
     9「トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本』」(文藝春秋スペシャル2014.秋号、マリアンヌ2013.9.14)
    4.「家族」という日本の病(対談)
     10「直径家族病」としての少子化:磯田道史×トッド(文藝春秋2016.12)
     11「トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史」:本郷和人×トッド(文藝春秋スペシャル2017冬号)


    2021.11.20第1刷 2021.12.15第3刷 図書館

  • 筆者はソ連の崩壊とトランプ大統領の当選を「予知」していたという、人口学に詳しい歴史学者。

    本書の中では、これまで世界が辿ってきたパワーバランスの変化や、現在の地政学的な問題やこれから取るべき道筋について語られる。それ自体は面白いのだけど…

    このタイトルのわりに、本書の半分以上は日本以外のトピックについて語られる。タイトル詐欺!と、どうしても言いたくなる。(最近こういう本増えたよね…)

    面白かったのだけど、事前の期待を(悪い意味で)裏切られたという意味で星三つ。

    (書評ブログもよろしくお願いします)

    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/02/15/%E3%80%90%E3%80%91%E8%80%81%E4%BA%BA%E6%94%AF%E9%85%8D%E5%9B%BD%E5%AE%B6_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F_-_%E3%82%A8%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%88

  • 訳者が良いのか、とても読み易くスラスラ読めた。
    全く外れてはないが題名と内容の乖離が気になって想像してたのと違うと感じたし、2014年の文章があったりと、編集にも無理があったかなと思う。
    でもトッド氏の解説は目から鱗で、彼ならウクライナ問題をどう解釈するのか是非知りたい。

  • 文藝春秋への寄稿のコレクション。タイトル以外のテーマも盛りだくさん。人口統計をもとに、『中国が覇権国になることはあり得ない』と断じているのが印象的でした。

  • ソ連崩壊、トランプ勝利、イギリスのEU離脱など、歴史的変化点を見通してきた著者が、タイトルのテーマで何を訴求するのか関心をもって読み進めたが、半分肩透かしにあった。全4章構成のうち、最初の章のみであり消化不良気味である。
    著者本人の問題でなく、出版社の方で、日本の現状に対するインパクトを考えた上でのタイトルであろう。その中でも、日本政府がとってきた政策が、高齢者の健康を守るために、現役世代と若者の生活に犠牲を強いている、という論舌は鋭い。
    著者は決して経済や政治の専門家ではなく、人口動態や家族制度を調査する学者であるが、著者自身の専門を通した幅広い調査や深い洞察は、大変示唆に富んでいる。

  • 筆者の専門である「家族構造」を切り口とすると、各国の社会体制や歴史を異なった視点で見れて面白かった。

    例えば、資本主義はイギリスで始まり、アメリカではある種一番純粋なかたちで発展しているが、これはイギリス・アメリカで見られる「絶対核家族」(子どもが親元を離れて家族を構築する)による、個人の自由が尊重される価値観が
    ベースになっている。一方、ロシアは「共同体家族」(子どもは親と一緒に住み続け、遺産相続は平等になされる)であったため、資本主義を受け入れられず共産主義となった。
    確かにそのように考えると、資本主義や共産主義が発生した地域は必然だったと思わされた。
    また、ソ連崩壊は、平等を行きすぎた結果、現実との歪みが生まれたのが原因で、昨今のアメリカにおけるトランプ政権誕生やイギリスにおけるブレグジットは、自由が行きすぎた結果としての保護主義への回帰と解釈できる、とのこと。


    本書の構成が雑誌の連載を繋げているせいだろうが、読み進めることで議論が深まっていく感じがあまりなかったのが、少し残念。

  • 日本の少子化、非婚化は歴史的な直系家族の習慣による背景がある、と言う。所謂女性の地位が低く、男性、更に親、老人に対する「家族」敬いが高いことに理由がある、という。日本の少子化対策は目下政治家の最大の課題だが、既に30年前から言われていながら大胆な変革、政策が実行されないのは、その直系家族(政治家の2世3世)では無理だ、という事を言っているのではないだろうか。(政治家は現状維持が容易く批判も少なく、先延ばし策が最良だ、という考え方)

  • 著者の名前だけは、色んな方面で知っていたが著作を読むのは、多分初めてになる。

    人口学・家族人類学という研究があるのも初めて知った。

    ただ、表題につられて購入したんだが、内容は色んな雑誌記事の寄せ集めで、関係のないもの(それはそれでそれなりに価値はあった)が多かった。

  • 2025/10/23:読了
     面白かった。
     中国、EU、トランプのアメリカ、アメリカ民主党のことがよくわかる。
     2021年の本なのだが、2025年の今、この本に書いてあるような方向に世の中が動いている。

     『Ⅱ.アングロサクソンのダイナミクス(83ページ~』は、アメリカの強さを再認識できた。
     金融投資をしていて、アメリカがダメだのような情報を目にするが、この本からは、当面アメリカ中心のままというのが納得できる。
     日本は、アメリカとともにいく ので大丈夫そう。


    『7.それでもトランプは歴史的大統領だった(147ページ)』の以下の記述が印象的

    --以下引用

     私はむしろ「トランプこそ米国大統領として”歴史に足跡を残す”ことになるだろう」とみています。
     トランプは下品で馬鹿げた人物であり、私自身も人として、とても許容できません。しかし、今回再選を果たせなかったとはいえ、過去四年間にすでになされたトランプ政権による”政策転換”が、おそらく”今後三十年の米国のあり方”を方向づけることになる。「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「欧州からの離脱」

  • エマニュエル・トッド氏の本は何冊か読んで、家族構造から人間の価値観や行動を説明するアプローチに感心した。その著者が日本について論じた本ということで興味を持ち手に取った。

    日本は伝統的に直系家族であり、日本人は継承が得意な反面、創造的破壊が苦手という性質を持つ。特に、直系家族システムが完成してしまうと女性差別や権威構造が硬直化してしまい、システムの維持が目的となり自己変革が更に難しくなるという。ここに日本の危機がある。

    面白いのは鹿児島のとある地域では、創造的な破壊が自然に受け入れられるような家族を持つところがあるらしい。明治維新での薩摩藩の中心的役割もその文脈で語られていた。規律正しい反面、奔放な一面もあるという両面性が、今後の日本をより強くしなやかな国にするヒントがあるのかもしれない。

    単純に、同じ国なのにかなり多様な家族構造が存在していることに驚いた。著者は『家族システムの起源』という本で、その部分をさらに深掘りしているらしい。家族構造が人間の認知や思考に及ぼす影響にパターンがあるとしたら、非常に面白そうである。

  • トッドの主張の「おさらい」として良かった。

  •  本書において、著者エマニュエル・トッドは、人口学者の立場から日本の少子高齢化の問題を指摘している。彼の主張によれば、日本における人口減少は将来的に大きな課題であるという。コロナ禍の最中に出版された本書では、「自粛生活が全世代の平均寿命にもたらす影響」に焦点を当て、高齢者の健康を守るために、若者と現役世代の生活が犠牲にされたことが語られている。ここで、トッドは高齢者の死亡率以上に「出生率」の重要性を強調する。

     日本の家族構造は、イギリスやアメリカの「絶対核家族」(親の遺言で相続者を指定)やフランスの「平等主義核家族」(平等に分割相続)とは異なり、直系家族(長子相続)を基盤としており、結果として老人尊重の状況を生んでいる。ドイツもまた、直系家族の形態をとっている。現在、日本において家族がすべてを担うという考え方は困難であり、子育てや老人介護などを家族だけで賄うことはできなくなっているとトッドは述べている。こうした家族への過剰な重視は、非婚化や少子化を助長しているため、家族を救うためには公的扶助が必要であると主張する。日本の少子化は、「直系家族の病」とも言えるとトッドはいう。

     日本の強みは、直系家族が重視する「世代間継承」「技術・資本の蓄積」「教育水準の高さ」「勤勉さ」「社会的規律」にある。しかし、その完璧さは長所である一方で、短所にもなり得る。今日の日本は、まさにそのようなジレンマに直面している。

     さらに、仲間同士で摩擦を起こさない快適さから、移民を受け入れない排外的な社会となっている日本において、出生率を向上させるためには移民の受け入れも必要であるとトッドは指摘する。不完全さや無秩序を受け入れることが今求められている。

     また、フリードリヒ・リストの言葉を引用し、すべてを「交換価値」で捉えると『豚を飼育する人々』は生産的であるが、『子供を育てる人々』は非生産的であると述べられている。高齢者を敬うのは良きモラルであるが、「社会としての活力」は「次世代の子供を産み育てる力」にこそ現れるというトッドの見解は、重要な視点である。彼は、日本で少子化問題が話題になったのは30年前であり、その後、日本政府の実際の対策はほとんど講じられていないと指摘する。

     日本人は自己を特別な存在と見なし、外国人とは異なる存在と考える差異主義的傾向があり、これが分離や隔離を促進する一因となっている。しかし、日本は外部からの人々を包摂し、同化する能力も有している。日本の社会は古来から舶来物を吸収し、環境の変化に適応してきた。この適応能力こそが日本文化の真髄であり、そのためには外国人を受け入れ、日本文化に同化させることが必要であるとトッドは論じている。

     日本の天皇家は直系家族とは異なり、男子長子相続の原則が適用されている。近世の日本においては、婿養子が一般的であったが、天皇家は一貫して婿養子をとらない形を維持してきた。直系家族は鎌倉時代から始まり、江戸時代に広がり、明治政府により「長男相続」が法制化された。家名の存続が血脈の継承よりも重視されてきたのが日本の家族制度である。

     ドイツの法体系においてはイトコ婚が認められない一方で、日本では戦後においてイトコ婚の割合が高かった。日本では、第2次大戦直後で、イトコ婚は7.2%あった。戦後の首相で、35人いるが、岸信介、佐藤栄作、菅直人の3人がイトコ婚。イスラムでは、30%がイトコ婚。ドイツでは、イトコ婚を厳しく排除している。このことは、日本の家族システムが社会の閉鎖性や二世政治家の背景となっている要因とも考えられる。タレントの不倫騒動が起こるのも、直系家族の価値観が大きく影響する。

     日本では想像できないような婚姻関係がフランスにおいては受け入れられている。マクロン大統領の妻は、家庭を持っていた女教師と教え子。マクロンと出会ったのは、16歳だった。その奥さんは30年連れ添った夫と別れ、24歳年下のマクロンと結婚した。不倫略奪愛、女教師と男子生徒という結婚だった。バッシングがあるものの、大統領として選ばれた。日本の直系家族的価値観が育児と仕事の両立を妨げ、少子化を招いている現状を踏まえ、国家が介入すべきであると強調している。

     トッドはまた、トランプを高く評価し、日本がアメリカの核の傘の下にあることは幻想に過ぎないとし、核の保持を提唱している。中国も高齢化と少子化社会に直面しており、成長の見込みがないと警告している。彼の意見は、全く異なる角度からの提言として、日本にとって非常に刺激的で重要なものである。

  • タイトルに共感して手に取る。
    老害に蝕まれる日本社会についてもっともっとあからさまに非難してくれるかな、と思ったらそうでもなく。

    今のフジテレビの問題もまさに根元は老害が原因で起こったことなんだろう。

    老兵は死なずただ去り行くのみ。
    新陳代謝は大事。
    椅子にしがみつかず、かっこよく次世代にその席を引き渡して欲しいものだ。

  • ユーモアたっぷりで新しい視点を提示してくれる。ヨーロッパ的な見方からすると世界はどう見えるのか?
    日本の見え方、あり方は?
    面白い。

  • 2024/8/6
    経済指標はいくらでも誤魔化せるけど人口データは嘘をつかないということには納得してしまった。
    長いスパンでの対応が必要となるだけに小手先の対策ではどうしようもないということは日本の実情が証明している。
    さらに新自由主義はもう限界であるのに止まらないのは、それを推進しているのがその恩恵にあずかっている者たちだからというのも説得力があった。
    そういう声ばかりをメディアが取り上げるのも同じ理由と考えればなるほどという感じ。
    結局は国民全体の事ではなく、国民の一部である自分のことに視点が向かっているということだろう。
    そういう意味から個人的な好悪は別としてトランプの政策を支持するという内容には「誰が」ではなく「何が」が大事であるということを改めて教えてくれる。
    そしてそれが現実にはいかに難しいことであるかも。
    個人的にはトランプは政策が基にあってというより、反民主党の票集めによる自身の地位確保でしかないとは思うのだが…そして地位確保と維持のためには前言撤回どころか、法の改悪まで行ってしまう…それは世界のあちこちで現在進行形の権力者たちが実際に行ってきていることでもある。

  • 令和6年(2024)GWの部屋の大掃除で部屋の隅っこから発掘された本です、6月になってしまったので発掘された本館のレビュー書きのピッチをあげないといけないのですが、この本も読みかけの本でした。途中まででレビューを書こうとしましたが、面白そうな内容だったので、読み切ることにしました。

    日本の将来が危機であることを、経済の面からではなく「日本型の家族制度」にあるという考えを展開していて、後半では、私も著作を楽しんでいる、磯田氏・本郷氏との対談も州力されていて面白かったです、最後まで読み切って良かったと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・米国の軍事的実力は見かけほどではない、その証拠に、ロシアは米国を軍事的に恐れていない。問題は、にもかかわらず、自惚れた米国が自分の実力を見誤り、各地で分別を欠いた挑発を行なっていることである。その結果が、イラク、イラン、シリア、ウクライナ、グルジア、アフガニスタンでの失敗であり、米国の介入による混乱が今度は東アジアにももたらされつつある(p11)

    ・日本はコロナによる死亡率を最小限に抑えたが、高齢者の健康を守るために若者と現役時代の生活に犠牲を強いた、日本のような老人支配の度合いの強い国ほど顕著である。高齢者の死亡率よりも重要なのは、出生率である(p15)

    ・個人主義的で女性の地位が高い国(英米のような絶対核家族)やフランスのような平等主義核家族で、死亡率が高く、権威主義的で女性の地位が低い国(日独韓)のような直系家族)で死亡率が低くなっている、これにはグローバル化の度合いが大きく関わっている。死亡率の低いグループでは、グローバル下でも暗黙の、保護主義的傾向が作用し、産業空洞化に歯止めがかかって国内の生産基盤と医療資源がある程度維持されて被害の拡大が防げた(p33)

    ・欧州では、EUとユーロ創設という形で、グローバリズムが貫徹された。特にユーロがフランスの国内企業を破壊した、対照的にドイツは単独通貨マルクよりもはるかに安いユーロによって、EU域内貿易でもEU域外貿易でも恩恵を受け、巨額の貿易黒字を積み上げた。(p34)

    ・米国を作った英国人たちは、そもそも人類の平等性を信じていませんでひた、まず先住民、続いて黒人、白人以外の人種グループに劣等のレッテルを貼ることで初めて、米国では白人は皆平等なのだと思えるようになった(p97)白人の範囲は、徐々に拡大された、最初は北欧州出身の移民、その後しばらくして、イタリア系・ユダヤ系の非キリスト教徒、第二次世界大戦後はアジア系移民も「白人扱い」に格上げ、(p135)

    ・英米人は資本主義をなぜ、うまく機能させる「創造的破壊」が得意なのか、その深い理由は伝統的家族形態の「核家族」にある。子供は大人になれば、親と同居せずに家を出て行かなければならない、これが創造的破壊を常に促していると考えられる(p112)

    ・人種的不平等、コロナ、医療政策を重視した有権者がバイデンに糖尿し、経済・犯罪と治安を重視した有権者がトランプに投票している、党の政策が良いかどうかよりも「そもそも何を問題とするか」というレベルで深い亀裂が生じている(p152)

    ・スペインのマドリードは、EUの中枢であるブリュッセルの指令に忠実なだけの経済政策(=通貨ユーロ価値の維持と緊縮政策)を行なっていて、国家としてのスペインに必要な経済政策を放棄している、そうであれば、カタルーニャ(州都:バルセロナ)の人々がスペインに自己同一かする必要も魅力も感じないのは当然です(p169)

    ・ユーロ導入により産業力の弱い国が自国通貨の価値を下げて競争力を得て生き延びることができたが、それが今では不可能になった。強く国=ドイツがフランス、イタリア、スペインの産業を破壊した、その結果、ドイツ以外の各国の産業破壊と失業率上昇である(p174)その結果、ドイツの輸出だけが一方的に増大する空間となった、最大の貿易黒字を出しているのは、ユーロ圏外でなくユーロ圏内である(p175)

    ・どの社会にも上位0.1%あるいは1%の富裕層がいて、上位9%、上位40%が続き、さらに下位50%の人々がいる(p189)いずれの場合も、結局は上位10%の富裕層が総資本の80%を所有、上位1%の富裕層が総資本の50%を所有する(p192)1945年以降の民主化により、下位50%は何も所有しなかったが、戦後に生じた変化の最たるものは、世襲財産的な中間層の出現である。上位10%と50%の間に、何かを所有する40%が現れた、何かとは、マイホームとささやかな貯金(p193)

    ・日本はドイツと同じ家族システムの国だが、一つ違うのは、イトコ婚(イトコ同士の結婚)の存在である。ドイツではほぼ皆無だが、日本ては歴史的に許容されてきた。(p210)

    ・日本人が直系家族としての意識を取り戻すのは、盆暮れの帰省ラッシュである、帰省ラッシュがなくなったら、日本の直系家族は消滅する(p220)

    ・家族というものを、親子関係、兄弟姉妹関係、内婚制が外婚制といった基準で分類すると五つに整理できる、1)絶対核家族(英米)、2)平等主義核家族(フランス北部、パリ、スペイン、イタリア北西部など)、3)直系家族(ドイツ、フランス南西部、スウェーデン、ノルウェー、日本、韓国)、4)共同体家族(結婚後も男は全員住み続ける、アラブ、トルコ、イラン)、5)外婚制共同体家族(イトコ婚を認めない、中国、ロシア、北インド、フィンランド、ブルガリア、イタリア中部、)この中で、最も新しいのは、共同体家族で古いのは「核家族」である(p214)

    2024年6月2日読破
    2024年6月2日作成

  • いくつかのメッセージをまとめた本だから首尾一貫している訳ではなく、本の題名に合ってないようなものも含まれている。しかしながら特に前半は示唆に富むメッセージが多く、少子化への対応については本当に急がないとこの国はどんどん衰退していくのだろう。
    移民の受入れ、同化、教育などは国が先導してやらなくちゃいけないこと。カネを配るよりも先に、である。目指すべきは自国通貨が高くなるような施策であり、それだけお金を払ってでも行きたい、そこで働きたい、と思わせる国づくりだろう。簡単ではないだろうが、目指すべきだ。

  • 少し古い話(2021年11月刊行)なのだが、的を射ている様に思えて興味深い。

  • タイトル詐欺。編集社の会議で最悪のタイトル案と最悪のサブタイトル案が進んでいく様を見たかった。

    人口学者の著者が、長男一人が財産を相続する直系社会である日本やドイツ、兄弟で平等に相続するアングロサクソン国の違いを結構しつこく語る。タイトルに反して日本にかなり好意的でリベラルを自称する著者が日本に核武装を勧めるところは面白い。日本国内の左翼の主張では絶対にありえない。
    今後、ネオリベラリズムの限界が見えてきて、世界がどう落ち着くのか、もしかしたらフランス革命から始まる民主主義の終わりに立ち会ってるのかもとか考えてしまう。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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