ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 (文春新書)

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  • 文藝春秋 (2025年1月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784166614813

作品紹介・あらすじ

「2020年新書大賞」にランクイン
『幸福な監視国家・中国』の著者2人による第2作目!

不動産バブルが崩壊し、今世紀最大の分岐点を迎えた中国経済。
さらにはトランプ関税が発動し、米中の貿易摩擦は激化の一途を辿っている。
中国経済はこのまま衰退へと向かうのか、それとも、持ち前の粘り強さを発揮するのか?
『幸福な監視国家・中国』で知られる気鋭の経済学者とジャーナリストが、ディープすぎる現地ルポと経済学の視点を通し、世界を翻弄する大国の「宿痾」を解き明かす。

◎「はじめに」より

中国経済に関する書籍はしばしば、楽観論もしくは悲観論、どちらかに大きく偏りがちである。
そうした中で本書の特徴は、不動産市場の低迷による需要の落ち込みと、EVをはじめとする新興産業の快進撃と生産過剰という二つの異なる問題を、中国経済が抱えている課題のいわばコインの裏と表としてとらえる点にある。
なぜなら、これら二つの問題はいずれも「供給能力が過剰で、消費需要が不足しがちである」という中国経済の宿痾とも言うべき性質に起因しており、それが異なる形で顕在化したものにほかならないからだ。
「光」と「影」は同じ問題から発しているのだ。

◎本書の内容

●1999年の着工以来、四半世紀も未完成のマンション
●陸の孤島にそびえ立つ巨大幽霊タワマン
●不動産危機によるチャイニーズドリームの終焉
●コロナ以降の金融・財政政策のチグハグさ
●バブルはなぜこれまで崩壊しなかったのか?
●「合理的バブル」が中国経済にもたらした歪み
●楽観ムードが消え、人々は借金返済と貯蓄に邁進
●スタバからコンビニコーヒーへ…消費ダウングレードが加速
●国家公務員は倍率87倍の狭き門に
●竹中平蔵が中国経済のキーパーソン?
●EV普及の裏にある「墓場」の存在
●「殺到する経済」が原動力となり、価格競争力をもつメーカーが誕生
●米国による経済制裁と、中国製半導体のゆくえ

◎目次

第1章 中国の不動産市場に何が起きているのか?
第2章 ポストコロナの不動産危機
第3章 新型都市化と不動産リスク
第4章 中国不動産市場と「合理的バブル」
第5章 中国社会を覆う悲観論
第6章 地方政府はなぜ財源不足に苦しむのか
第7章 「殺到する中華EV」は中国経済を救うのか
第8章 不動産バブルと過剰生産のゆくえ

みんなの感想まとめ

中国経済の現状と未来について深く掘り下げた本書は、バランスの取れた視点で不動産バブルの崩壊と新興産業の成長を同時に考察しています。著者は、供給過剰と消費不足という中国経済の根本的な課題を明らかにし、コ...

感想・レビュー・書評

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  • 中国の人口統計が不正で、実は14億もいないのではという説がある。真偽は不明だが、統計がいい加減だという事はあり得そうだ。国力を低く見せたくないため、対外的に正直な数字を出さないという事はあり得そうだし、共産党内部の評価や忖度での操作もなくはないだろう。一昔前は、一人っ子政策のために戸籍に登録されない黒孩子の存在があり、人口はもっと多いはずとも言われたが。

    ピークアウトする中国。「ピーク」=成長の頂点をいつ迎えたのか。そしてその後の「ピークアウト」=成長の限界と衰退兆候をどのように確認・証明できるのか。

    中国は、2022年から人口減少へ。労働力人口も減り続ける。また、中国は長年にわたって農村人口を都市に移動させることで経済成長を維持してきたが、これが臨界点を向かえつつあるという。更に、よく聞く話が、不動産主導型モデルの限界。GDPの3割近くを占めてきた不動産投資が2020年以降減速。恒大集団などの経営危機が象徴するように、このモデルはすでに持続不可能。そこに、米中対立による技術封鎖等が逆風となる。

    ー 建設途中で工事がストップした不動産のことを尻尾が潰れた蛇になぞらえて「爛尾楼(ランウェイロウ)」と呼ぶ。実はこうしたランウェイロウはさほど珍しいものではなく、中国各地に存在してきた。ランウェイロウがしばしば社会問題になる背景として、不動産の予約販売制が挙げられる。中国では、不動産の建設中に販売契約が完了するのが一般的で、契約してから完成までには平均1~2年がかかるとされる。つまり、購入者にとっては建設中の段階で住宅ローンの返済がはじまってしまう。したがって、もし不動産会社の資金繰りが行き詰まる、資材が高騰するなどのアクシデントによって建設工事がストップすれば、住宅ローンは支払わなければならないのに、物件は引き渡されないという悪夢のような状況に陥る。

    ー こうした混乱を受け、中国政府は未完成物件の工事を再開するよう、大号令を下した。それがめぐりめぐって、10年間野ざらしにされていたマンションの工事再開につながったというわけだ。
    ただ、未完成マンションの工事を再開しても、新たに欲しがる人がいるのだろうか。公共交通機関は30分に1本の路線バスがある程度。近所にはスーパーもない陸の孤島だ。購入者にとっては未完成のままよりは完成してもらったほうがいいに決まっているが、できればお金を返して欲しいというのが本音だろう。この不便な場所にマンションを買った人々は自分が住むためというよりも、投資目的で値上がりを期待していたのだから。「未完成物件を完成させよ!」という中国政府の大号令によって、今、中国全土で誰も住みたがらないマンションが続々と作られているのだ。

    中国に行くと田舎道に立派なマンションが建っていて吃驚することがあるが、構造的な問題だ。日本と似たような課題も多い。豊かさが出生率を低下させ、労働力不足になり、グローバル循環し平準化していく。怖いのは、覇権を維持しようとして力での解決を求める時だ。

  •  梶谷の経済解説と高口の現地ルポからなる。門外漢の自分にも割と読みやすい良書。廃墟タワマンを面白おかしく書くだけでも、EV躍進で「中国スゴイ」とするだけでもなく、バランス良く丁寧な解説。
     不動産バブル終焉とEV等の新興産業の成長。本書ではこの両者を「供給能力の過剰と消費需要の不足」という中国経済の「宿痾」から説く。財政均衡主義の下(この点は巨額の財政赤字を抱える日本からは羨ましく見えるが、そうでもないらしい)、景気対策の中でも需要を喚起する財政出動は控えめ。一方、新興産業を拡大させる産業政策を採る。この過剰供給は欧米への輸出や一帯一路に向かう、ということだ。
     本書では確かに中国経済の停滞を解説し、先行きについても一帯一路の多難な前途や米の経済制裁の影響を指摘する。しかし同時に、レガシー半導体での躍進や2024年9月の新たな経済政策も挙げ、未知数とするも悲観一辺倒でもない。
     なお、中国経済の停滞は権威主義の限界か、単にマクロ経済政策上の失敗か、という2つの見解を紹介した上で、梶谷は後者の立場を採る。

  • コロナ禍に行った追加的財政支出は総額7710億ドル、GDPの約4.8%に相当する。
    日本では8440億ドル(対GDP比16.7%)、米国は5兆3280億ドル(同25.5%)と他国と比べてかなり控えめなものだった。
    中国では政府の財政政策は消費を下支えするには不十分だった。金融政策は積極的に緩和を続けたものの、財政政策が消極的だったため、行き場を失った資金は不動産市場へ向かい、一時的な不動産価急上昇へとつながった。
    不動産危機の引き金になったのは「三つのレッドライン」と呼ばれる債務削減義務が原因。

    習近平政権が2014年に新型都市化政策と呼ばれる新政策を打ち出した。
    それは、農民が都市住民となるための条件整備を明確にし、都市化を加速させるもの。
    都市化といっても大都市をさらに巨大化させるのではなく、中規模の都市を大きくするもの。
    その弊害として、中小都市の建設にこだわるあまり、大きな非効率を生んでいる。
    都市建設が「低密度」であることによって、サービス業の発展が抑えられる、労働者の実質賃金が抑えられるなど。
    そのため今後は500万人以上の都市に人口を集中させるよう都市化政策を見直すべきだという話も出ている。

    合理的バブル崩壊しても、日本で生じたように低金利の国債を広く国民が保有するか、賦課方式の公的年金を全国民に拡充するなどの手段で世代間の資源移転を図れば、しばらくは低金利の下で人々の不満を抑えつつ、一定の経済成長を実現することは可能だが、中間層の間で混乱と社会不安が長期化する恐れがある。

    政府が金融緩和に消極的なのは
    ①米国が高金利を続けている状況下で金利を下げれば、ドル高人民元安になり、資産を海外に移すより一層キャピタルフライトが懸念。

    ②緩和により金利が下がれば、銀行の利益が減少し、トラブルにおいて銀行を都合よく使うことができなくなる。

    中国経済の回復には積極財政への転換が必要だが、均衡財政に偏重しており、現時点では行われる様子はない。
    不動産市場の低迷と地方政府の債務問題を解決するには、積極的な財政・金融政策によって当面の経済成長率を維持しつつ、稼いだ時間で社会保障制度の拡充と整備を行うこと。

    「自国市場効果」=ある産業について大きな国内市場を擁する国には、その需要を満たす以上の企業が集積するようになり、その結果比較優位を持つようになるメカニズム。

  • 中国経済は行き詰まっている。住宅バブルは大量の未完成工事物件が、田舎の空を塞いだまま、工事もされずに鉄骨の柱も錆びついているという。一時期は中国のマンションは値上がりを続け、やがては地方にまでそのバブル的な景気が押し寄せるという楽観的な目測の元、庶民が住宅として住むには豪華すぎる物件の投資に、行き場のないお金が向けられていた。いつ頃だったか、巨大不動産企業の中国恒大集団の経営破綻がニュースで流れ、いよいよ中国初の世界恐慌が始まるのでは、と株価を見ながら緊張した事もあった。結果的には裁判による清算もこの2025年8月には完了した(香港証券市場での上場廃止は2025年8月25日)。然程、中国経済に敏感でない人でも、中国が風邪をひきくしゃみでもしようものなら、日本経済が病に伏せる(ただでさえ病人の様な状態では肺炎にでもなるか)程の影響を受けるのは避けられないと思っている。斯くいう私も恒大集団の件自体が記憶からは薄れていたが。思った以上にソフトランディングでもさせたのか、我々の耳には中国経済が破綻する様なニュースは幸にして届く事はなかった。
    寧ろ今は、中国と言えば電気自動車が世界を席巻し、バッテリーを積んだ中国車を日本国内でも頻繁に見かけるほど、中国は自動車大国となった。それだけではなく、電気自動車、バッテリー、太陽光パネルの言わば脱炭素社会の三種の神器とでも言えるこの分野では圧倒的な供給力を誇っている。一昔前の中国と言えば、強烈な埃と砂塵(砂漠から)、異臭と空気の汚れた正に発展途上でよく見られるイメージが大きかったが(加えてどんなに混雑してようが人混みで喫煙する人の多さか)、今の中国は綺麗な空気と青空でも見えるのではないかと言うくらいにクリーンな製品を大量生産している。
    その様な中国が世界経済の中でも大きな注目の的であるのは間違いなく、それは圧倒的な人口と、国家の集中的に力を発揮させる能力、爆発的な生産力から生み出される供給力の高さにある事は言うまでもない。何せ日本の10倍以上の人口を抱え、日本のような分断されて中々物事が決まらない政治とは真逆の共産党、いや習近平国家主席による即決独断型の政治体制があるから、何をするにも一斉かつ迅速極まりない。これは日本の政治家が見たら羨ましがる環境だろう。勿論その弊害として、民衆は自由を制限されるという条件付きなのではあるが。
    中国経済を見た時に、不動産バブルの沈静化、電気自動車を代表格とする「新三様」と呼ばれる新産業構造への変革を眺める事は、それを、支える国家の政策を垣間見る事になる。中国社会が抱える複数の問題•課題としては、元来、中央に権力と財が集中し、地方の財政は厳しい状況にあると言う事。そして一人っ子政策の弊害として日本を超えるスピードで超高齢化が進む事、沿岸部と内陸の貧富の格差、共産党が見誤れば一挙に崩壊しかねない権力集中のリスク、更には債務の罠を併せ持つ一帯一路構想。これらに継続的に同時並行的に向かい合わなければならない中国が、今後どの様な舵取りがされていくのか。勿論船頭は習国家主席である。そして本書でも繰り返し述べられている、「過剰供給力と国内消費需要の不足」(日本でもよくEVの墓場の記事をよく見かけたが)の問題を解消し、持続的な成長が図られるのか。まだまだ予断を許さぬ状態だが、これを見て分析する事は、世界経済の行末を占う上でも重要だ。話によれば、バブル崩壊後の日本の失われた30年を反面教師にしているという事だが、今のところ不動産バブルと高齢化については、同じ茨の道を進み続けている。
    本書は前述した様な、近年中国経済と国家の政策などを8つの章に分けて描いていく。章ごとに纏めもあるので、内容はすごくわかりやすい上に頭に残りやすい。中国経済を見ながら世界の動きを学ぶ事は、現代社会の動きそのものを理解するのにも役立つ。そして日本と同じ様な悩みを抱え、日本に先立ってそれらを解決してくれるなら、日本にとってのヒントになるかもしれない。概要を掴むだけでなく、日本のヒントを探しながら読む、という点でぜひ一度手に取ってみては如何だろうか。

  • 北京五輪から上海万博時代を中国で過ごした。その当時から夜になっても電灯のつかない高層マンションやらテナントの入らない新築ビルを数多く見かけた。なのですぐにでも不動産バブルは訪れると思っていたが案外持ち堪えてきた感が個人的にはある。そんな中国の現状を分かりやすく伝えてくれる一冊、面白かった。

  • 専門的な内容が多く完全に理解したとは言い難いが、特定の思想に偏らない中立的な視点で今の中国経済が解説されていて勉強になる。自分では極力偏見を排してニュースを見るよう心がけているつもりだが、それでも古くて一方的な見方で中国を見ていたことに気付かされた。例えばEVの急速な普及はナンバー取得優遇などの政策要因が主だと思っていたが、単にガソリン車よりお得だから売れているだけというのに驚いた。昨年深圳の金持ち社長から「EVなんて不便で信頼できない車は絶対買わない」と聞いたが、そういう安物に俺は乗らないという事だったのか。
    そして「殺到する経済」というフレーズも中国経済の特色をよく表現していて腹落ちした。中国でビジネスしている人は必読の書、だと思う。

  • ジャーナリストと経済学者というコラボがいいな。「政治的な色眼鏡で見れば現実を誤る。あくまでマクロ経済政策が正しく行われているかどうかがカギ」という言葉に得心がいった。
    素人から見ると突然に中国EVが世界を席巻したように見える。しかし、中国の電動移動手段が電気自転車のようなものから順に進化してきた帰結だというから、その競争力は圧倒的だろう。
    またEVだけでなく、太陽光発電、リチウムイオン電池で圧倒的なシェアを獲得したが、「殺到する経済、需要拡大型の産業政策」というキーワードで説明されたことも納得だ。
    中国経済は、とかく毀誉褒貶が激しくなりがち。都合の良い見方ができるだけにバランスがとれた考えができてよかった。

  • 作りすぎて買い手がいないのが中国の問題という感じ
    よくもわるくも14億の人口のせいか
    簡単に崩れるほどやわではないが、危機は内包され続けるという中国の未来は安心でもあり不満でもある

  • 中国経済を悲観的でも楽観的でもない一歩引いた視点で書かれているのだなと感じました。

    各章の終わりの小括は、読者にわかりやすく書かれているのだろうと感じましたが、それでも私には難しかったです。

    不動産の合理的バブルが限界を迎えて中国経済は先行き真っ暗なのかと思っていましたが、まだ改善の余地があるのだとわかりました。

    「あなたがどれだけ中国のことが「嫌い」だったとしても、中国経済の行く末に無関心でいることはできない」と書かれていましたが、まさに私はそういう心境だと思いました。

  • ■感想

    TOPPOINTで読了。

  • 不動産市場の低迷に喘ぐ中国経済の危機とEVをはじめとする中国の新興産業の快進撃と生産能力過剰という二面性のなか、いま中国に何が起こっているのか解説している。

  • ふむ

  • 中国経済の低迷が長引いているのは「供給能力が過剰で、消費需要が不足しがち」という要因が。現在の中国の内情などを、近すぎず遠すぎずのちょうどいい距離感から観察した一冊で読み応えありました。不動産市場の低迷からの回復にはまだまだ時間がかかりそうな印象。

  • 現代中国を特に経済状況の変遷から俯瞰する良書。

    基本的に中央政府は財政健全策を取っており、景気刺激策を地方財政に過度に依存した結果、不動産価格高騰を招き、不動産好況時は経済成長の原動力となったものの、不動産不況下では経済停滞や地方財政破綻を生んでいる。

    巨大な国内市場を背景にした優位な自国市場効果により(巷間囁かれる不正な補助金支給は実は限定的)EV、太陽光パネル、リチウムイオン電池は世界的に圧倒的なシェアを誇るが、裏を返せば「供給能力の過剰と消費需要の不足」という中国経済の宿痾の象徴ともいえ、その解決策として打ち出した一帯一路も奏功せず、同国経済は踊り場を迎えている。

    客観的には国内需要喚起策の必要性は明らかだが、竹中平蔵の供給サイド改革が意外なほど高く評価される同国の経済政策は供給サイドに極端に偏っている。

    不動産への過度な依存がなぜ起こるのか、それが現在国際問題となりつつあるEV等の過剰輸出とどうつながるのか、合理的にわかりやすく解説されている。
    各章の終わりに簡潔なまとめがついているのも親切。

  • 減速が指摘される中国経済であるが、その背景を「合理的バブル」と「殺到する経済」という2つのキーワードで分かりやすく読み解いている。


    中国経済の課題として近年指摘されているのが、不動産市場のバブル崩壊である。中国で形成されてきた不動産バブルは、複数の要因が関係して発生しており、本書ではそれを短期、中期、長期に分けて説明している。

    短期的には、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済の落ち込みへの対策として政府が行った大規模な金融緩和が影響している。この時の中国政策の対応は、金融緩和を大規模におこなったものの財政出動はそれほど大きなものではなかった。

    その結果、余剰となった資金が不動産に向かったが、不動産市場の急騰がもたらす社会不安を緩和するため、政府は2020年8月以降金融引き締めに向かった。この規制により今度は一気に不動産投資は冷え込み、この状況は現時点でも解消していない。

    しかし、中国における不動産への資金の流入はパンデミック期に始まったものではない。本書ではその背景にある2010年代から続く中期の課題と2000年代にさかのぼる長期の課題について触れている。

    不動産バブルの中期的な背景としては、都市開発を上海や深圳といった沿岸部の大都市から、内陸部の中規模へ移していこうという2010年代中ごろからとられた習政権の政策がある。これは農村部から都市部への大規模な人口移動を緩和するための政策でもあり、沿岸部と内陸部の経済格差の緩和策でもあったが、このことが中国内陸部の諸都市で不動産開発ブームを生む。

    しかし政策的な号令だけではこれほどの資金が不動産開発に流れ込むことはない。2010年代の開発ブームの背景には、2000年頃から中国で継続していた、資産価格の成長率が金利を上回るという経済環境が影響している。

    成長率が金利を上回ると、資金を借り入れて資産に投資するという行動が合理的な選択となる。そのため、経済のファンダメンタルズを上回る形で資産の価格が推移し、その状態が継続する。トゥールーズ大学のジャン・ティロールによって定式化されたこの現象は「合理的バブル」と呼ばれており、中国において2000年頃から賃貸利回りとは明らかに乖離した高い不動産価格が続いてきた背景にこの合理的バブルがあるという。

    このような長期的な経済環境の影響の下、中国では2010年代、そして2020年初頭に不動産に多くの資金が流れ込み、それらが一気に破綻することで、現在の長期低迷する中国の不動産市場につながった。


    本書の後半では、資産市場以外の中国経済の実態について解説している。現在の中国経済は、不動産バブルによる景気の冷え込みに加えて、消費もかつて見られなかったような落ち込みが続いている。一方で、中国国外に対しては、EVや太陽光パネル、半導体などの製品が、安価で大量に輸出されるという現象が起きている。

    中国の消費の現状は、経済成長に対する期待感が大きくしぼんだことから、投資から貯蓄へ、消費から節約へ、民間企業志向から公務員志向へという変化が起きている。パンデミック期の経済対策にも見られるように、このような経済の縮小に対して、中国政府は金融緩和による対策は行ったが、財政出動に対しては消極的である。

    そのため、大企業からスタートアップ企業まで、多くの企業が成長投資を縮小させる結果となっている。

    このような中国の政策は、実は2010年代半ばから習政権によって一貫して取られてきた政策であり、現在の景気後退においても、この方針が大きく転換される兆しは見えないという。

    財政出動による需要側のてこ入れではなく、民間のリスクテイクによる産業構造の転換を図るという方向性は、新自由主義経済の考え方に基づいたものであり、本書によると、中国においては日本で2000年頃に行われた一連の新自由主義的な改革を参考にする議論が多く行われてきたという。その影響が習政権の政策にも色濃く反映されているという。

    中国において消費を喚起する政策がとられないもう一つの大きな背景が、地方政府の債務問題である。一般的な印象とは異なるが、中国では財政規模の中央と地方の比率において、日本をはじめとする諸外国と比べて地方の割合が高い。いわば「地方分権型」の財政構造になっているといえる。

    そして、融資平台(プラットフォーム)と呼ばれる地方政府が設立するダミー会社を通じた不動産開発を行ってきた地方政府が、不動産バブルの崩壊によって資金繰りに行き詰る中、中央政府は地方政府に財政均衡による財務体質の改善を強く指導している。このため、財政出動の多くを担っている地方政府からの経済対策は、あまり期待できない。

    一方で、供給側の成長政策として、中国は継続的に新興産業に対する産業政策を行ってきた。代表的なものがEVである。これは、1990年代までの安い労働力を背景にした「世界の工場」戦略から脱却し、より高付加価値の製品における競争力を強化していくための政策である。

    その結果、多くの新興企業が立ち上がると共にその産業に投資が流れ込み、競争を通じて低価格を実現するという循環が生まれ、現在では中国のEVや太陽光パネルは世界的にも主要なシェアを取る産業となっている。

    中国の新興産業における成功の背景には、自国市場が大規模であるということも寄与している。一般的な企業立地は、自由貿易のものであれば生産性の差によってのみ比較優位が決まるが、実際には市場規模の大きな地域にはより多くの企業が集まり、その企業間での競争により生産性が高まるという効果もあり、中国でもこのようなサイクルが働いたものと推測されている。

    本書で指摘されているのは、このような産業の振興について、補助金の影響を過剰に捉えすぎてはいけないということである。中国では2010年頃からEVに対する補助金がスタートしたが、2019年以降は早くもEV生産の過剰が意識されるようになり補助金の多くが打ち切られたり縮小されたりしている。

    一方、中国でEVの販売台数が大きく伸びたのは、パンデミック後の節約志向が強まった2021年からである。従って、現在の中国におけるEVの普及は、補助金というカンフル剤に必ずしも依存していない状態になっている。むしろ、このような供給に対する政策と需要に対する政策が、実態の生産や消費の動向とミスマッチを起こしているという点が、中国の現在の生産過剰や景気の変動を引き起こしている要因であるとも考えられる。

    中国経済におけるこのようなブームの発生とそれによる過剰生産は、携帯電話においても見られた。本書ではこれを「殺到する経済」と呼んでいるが、政府による産業政策だけではなく、これまでリスクテイクをしながら多産多死で産業を構築してきた中国の民間経済のあり方も、寄与しているという点は重要であると感じた。


    本書では中国経済の今後について、最後に簡単に要点を整理している。中でも本書で何度か必要性を指摘されている、需要サイドへの景気刺激策としての財政出動が今後どの程度取られてくるかという点が、中国経済の今後を見通す上で重要であると感じた。

    これは、2000年代以降の中国の経済政策の転換となるため、なかなかすぐに起こることではないが、逆に一度中央が方針を転換することで、大きな変化になる可能性もあると思われる。

    一方、米中対立に見られるような中国経済の封じ込めの影響は、それほど大きくはないであろうと筆者らは考えている。半導体においても、中国は欧米や日本からの輸出禁止措置に対して、時間をかけても自国で技術やサプライチェーンを構築する政策を取り、その成果は徐々に現れてきつつあるという。

    従って、主要な産業になればなるほど、封じ込めは難しく、中国においても時間差を持ちながらも競争力のある製品が作られるようになるというのが、筆者らの見立てである。


    全体として、高口氏の豊富な現地取材を基にした深みのあるレポートと、梶谷氏の中長期的な変化も含めた視野の広い分析によって、中国経済の現状への理解を深めることができる内容になっている。

    ニュースでは、短期的な変化や象徴的な事例が取り上げられることが多いが、それらに隠れて見えない実態も含めて、より広い文脈の中に位置づけた上で経済の現状を理解することで、ここから先の中国との向き合い方を、冷静に考えることができるようになる。

    中国に対して過剰に批判的になることもなく、現状と課題を把握するために、参考になる本であると感じた。

  • 経済大国中国のどこが発展途上国なのか? 眠れる獅子はずっと眠っていてほしい!

  • 【地獄の始まりか、短期的な危機か】供給能力の過剰といった「殺到する経済」をキーワードに、不動産危機からEVによる貿易摩擦まで、中国経済の宿痾を読み解く意欲作。

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著者プロフィール

1970年生まれ。2001年、神戸大学大学院経済学研究科より博士号取得。神戸学院大学経済学部講師、助教授、神戸大学大学院経済学研究科准教授などを経て、現在、神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国の財政・金融。著書に『現代中国の財政金融システム――グローバル化と中央-地方関係の経済学』(名古屋大学出版会、2011年、大平正芳記念賞受賞)、『中国経済講義――統計の信頼性から成長のゆくえまで』(中公新書、2018年)などがある。

「2025年 『不平等・所得格差の経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梶谷懐の作品

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