新装版 菜の花の沖 (2) (文春文庫) (文春文庫 し 1-87)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 861
感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167105877

作品紹介・あらすじ

海産物の宝庫である蝦夷地からの商品の需要はかぎりなくあった。そこへは千石積の巨船が日本海の荒波を蹴たてて往き来している。海運の花形であるこの北前船には莫大な金がかかり、船頭にすぎぬ嘉兵衛の手の届くものではない。が、彼はようやく一艘の船を得た、永年の夢をとげるには、あまりに小さく、古船でありすぎたが…。

感想・レビュー・書評

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  • ▼2巻。嘉兵衛は乞食のような放浪民から兵庫で「船員さん」になる。まだまだ貧しい。ところが優秀である。フリーの特殊技能者としてごりごり出世する。このあたり、農村の秩序のなかで陰湿にいじめられていた前史に比べて、実に爽快に実力主義です。このあたりは、現代でも同じでしょう。なんであれ商売や生産や、工事や料理などの「現場、最前線」では、役に立つ立たないが、学歴や所属会社と関係なくずる剥けに見えてしまう。

    ▼そして嘉兵衛は、「フリーのイチ労働者」から、「船(ぼろだけど)という資本?を所有する商売人」へと変貌していきます。このあたり、言ってみれば出世譚ですね。多少のわくわくがありますが、それだけに流されない晩期司馬節。主人公の出世と活動範囲の拡大にしたがって、江戸、隠岐、秋田…と「日本各地の江戸中期の経済と暮らし」の風景を見せてくれます。それが「わくわくしない」とする読み方ももちろんあるでしょう。でも、今の自分的には実に惑溺する読書の快楽だったりします。

  • レビューは最終巻の予定

  • 二巻終盤部、嘉兵衛が故郷の地を再び踏む場面は万感の思いで読み進めた。

    嘉兵衛が吐き出されるかのようにその地を追われたとき、彼の胸には憎しみと辛さがあらゆる肯定面を覆ってしまっていた。その後彼がその故郷の湊が困るほどの大船でもって乗り付けるまで、ほんの数年のことである。その数年の間に嘉兵衛がなし得たことによりその故郷の純粋な人の群れは純粋な気持ちで頭を下げるのである。日本人という群れの醜い部分ときらいになれない部分を、この下りの感情の浮き沈みの描写がうまく汲み取ってくれているような気がした。

    さて、嘉兵衛が懸ける千石船への夢の実現もすぐそこ。彼の行動範囲の輪がどんどん大きくなってきていることを感じずにはいられず三巻へ!

  • 104

  •  嘉兵衛が,小さいながらも自分の船を手に入れ,いよいよ海に乗り出すという場面が描かれる。
     紀州の丸太を江戸まで届けるという大役を引き受ける嘉兵衛。丸太を筏に組み,そこに帆,舵,船室などを設け,荒波を超えていく…という場面は,映画にすると手に汗握る画像になることだろう。
     1巻同様,いろいろなミニ知識が出てきて,なかなか為になる小説だなあ。わたしが読んでいるのは,単行本の方である。

  • 江戸時代後期に廻船業者として活躍した、高田屋嘉兵衛の伝記小説、第2巻です。
     
    二十代前半の嘉兵衛が、兵庫の廻船業者で働くシーンから始まります。
    船の操縦者と、事務方の双方をこなす、嘉兵衛青年。
    瀬戸内海を起点に、江戸や九州など遠方への航海を経験し、見聞を広めていきます。
     
    この第2巻では、船乗りになった嘉兵衛が周囲の人に認められ、廻船業者として独り立ちしていく日々が描かれています。
     
    自然相手の、船の仕事。
    需要がありながらも、様々な制約がある、この時代の日本の船乗り。
    操船技術も整っておらず、度胸頼りの部分が大きい、長距離航海。
     
    そんな船乗りたちの活躍によって商品が行き交う、江戸後期の商品の流通。
    嘉兵衛が寄港した街々は、どのような産物を扱い、どのような雰囲気だったのか。
     
    嘉兵衛の日々の描写を通して、江戸時代の経済の成り立ち、さらには身分制度といったことまで、学ばせてもらいました。
     
    第3巻も続けて、読みたいと思います。
     
    『菜の花の沖 (1)』
    https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/4167105861
     .

  • 高田屋嘉兵衛の生涯を描いた全6巻中の第2巻。中古の船を得た嘉兵衛は船乗りとして日本海を北上、海に躍り出る。

    江戸時代後期、士農工商の身分からは外れた船乗りはコメとは別の貨幣経済の立役者である。身分制度の足枷から抜け出た嘉兵衛、1巻で切ない場面が多かった分、2巻は広い海へ躍り出る開放感が素晴らしい。

    兵庫から瀬戸内海を経て遠路秋田まで。当時の西回り航路を辿る記載が、紀行文的に楽しめる。

    太平洋の黒潮沿いに広まったと思われる海洋民族。日本人のルーツの一つであろう。日本海沿いにもその文化は散らばって残存しているようだ。裏日本ではなく江戸時代は日本海側が北前船の航路で表であったとのこと。

    嘉兵衛の夢は蝦夷地との交易。優れた船大工との出会いもありいよいよ大型船の建造に乗り出す。
    追われるかのように逃げ出した故郷に錦を飾り、順調なストーリー展開。

  • 彼が船乗りなのに関わらず
    決して言葉が荒くないこと。
    そう、彼は貧しさゆえに受けた不条理を知っているから。
    痛みを知っているんですよね。

    だからこそ決して部下をいびって
    育てようとはしないのです。
    これ、現代でもできない人がいますよね。
    不条理な扱いをしても、部下は育たない。
    でも力を持つと人はおかしくなるのよ、よくね。

    最後のほうには嘉兵衛はついに故郷に帰ります。
    因縁の場所。
    だけれども恥じない活躍をした嘉兵衛を
    決して故郷は残酷な扱いをしませんでした。

    そして、もうそれは不相応な縁談を
    ほかの兄弟に取りつけることができたのです。
    それはひとえに派手な活躍でなくても
    部下を大事にした嘉兵衛だからこそでしょう。

  • 陸からはみ出たものという自意識と、船を持って松前にゆくという大きな野望のせめぎ合いを、波間に漂う船のように描く。

    作中、各地の港や航路の話が出てきて興味深い。特に酒田、最上川のあたりは気になるところである。陸の中での歴史しか見ていなかったのだなーとこの冒険小説とも言える作品を読んでいて、目からウロコが落ちる思いである。海には道があって、高い山に閉ざされていても、そこに一足飛びに行けるという。重い荷物も、海だからこそ運べる。
    陸送を充実させてきたのはたかだか100年にも満たないのではないか。

    そして、ドローンによる輸送の時代、空の道が開かれつつある。
    そんなことを思わせる小説である。


  • 徐々にのしがっていくところ。

    リスクをとって = 生命をかけて、そして、やりきらんと、物語は先には進まんのですな。

    そして、クルーを弟にすればいいかっていうところ、なかなか味わい深い。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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