菜の花の沖 新装版 (六) (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2000年9月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784167105914

感想・レビュー・書評

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  • ▼疾風怒濤、涙、涙、の最終巻。

    ▼高田屋嘉兵衛は、ひょんなことからロシア軍艦に「拉致」されます。なんてひどいこと。ところが、ロシア軍人の側も、別段「悪の権化」なわけではありません。彼らなりの事情と道理があって、拉致った。(そのあたりの事情のために、第5巻めいいっぱい全部使ってますから)

    ▼嘉兵衛は、全く言葉が通じないのに、なんとなくロシア下士官と、「信頼と友情」を作り上げてしまう。ここンところが理不尽にすごい。

    ▼ただ、それでもストレスと不信感で大変に疲弊する。やがて、日本に戻れる日が来る。人質の交換が狙いなんだけど(ゴローニン事件)、ここでまた嘉兵衛が大活躍して、

    「人質じゃなくて、俺を交渉人にしろ。俺を信用しろ。解放しろ。そしたら俺が、日本に軟禁されているロシア下士官を解放してくる」

    という無茶苦茶な交渉を、なんと飲ませてしまう。ここがすごい。

    ▼そして有限実行、全てを成し遂げてしまう。このあたりは歴史の流れの「幸運」も、もちろんありますが。そして、いろんなことがあった、1年以上にわたった、ロシア人たちとの、別れ。ロシア人たちの「大将!ウラー!」の大合唱。

    ▼この事件が終わったところで、この小説、晩年の司馬節は、しゅるしゅるしゅる・・・・と融通無碍に終わってしまいます。さささささっと、嘉兵衛の余生。ゴローニン事件から10年以上平和に長生きしたんですが、死の間際に「たいしょう、うらー、とさけんでくれ」と言って亡くなった。

    ▼これは、分かりますね。その時期の生死ぎりぎりの色々な出来事と、人間関係が、いちばん刻み付けられた愛着のある風景だったんでしょうね。実に芳醇な人間ドラマでした。パチパチ。この枯淡の深みは、司馬さんの小説群の中でも晩期のものにしかない味わい。

  • 人は、ここまで度量が大きくなれるのですね。司馬遼さんご自身お勧めの作品、読み切って良かった。
    ウラァ、タイショウ!

  • 18世期末から19世期初めにかけて、廻船業者として活躍した、高田屋嘉兵衛の伝記小説最終巻です。
     
    前巻で長いページに渡って描写された、ロシアの歴史。
    その流れを経て、千島列島を南下していたロシアの軍艦と、嘉兵衛の商船との出会いから、この巻は始まります。
     
    日本とロシア。
    これまでの二国間の関係の経緯が、巡り巡って嘉兵衛の運命を急展開させることになります。
    その運命に対してどう、嘉兵衛が対応したのかが、最終巻の読みどころになっています。
     
    そしてこの巻でも、以下のようなことを学ばせてもらいました。
     
    ・自分は何をすべきかを理解し、その目標に向かって意志を保って行動することの大切さ
    ・精神的、肉体的に過酷な状況が続くと自らの精神を保つのが非常に困難になること、しかしそれができるかが、生死の分け目となること
    ・人は社会的立場に応じて、相手への態度を決めていること、反面、個人間の信頼関係はそれぞれの人格により醸成され、その信頼はときに、社会的立場を超える場合があること
     
    歴史というのは、つきつめていくと個人個人の判断・行動によって、積み重ねられてきたのですね。
    その片隅には自分自身もいるのだということに、気づかせてもらえた作品でした。
     
    『新装版 菜の花の沖 (5)』
    https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/416710590X
     .

  • 司馬さんを悼む年忌のことを「菜の花忌」という。
    一個人にして、まだ国際交流、異文化理解という言葉も存在しない時代に、日露の架け橋となった高田屋嘉兵衛を主人公にして、江戸後期の北前船、ロシア情勢、蝦夷地の様子を描く。

    司馬さんがまだ戦車に乗っていた頃、対峙していたロシアというものを、「坂の上の雲」そして、この「菜の花の沖」で書き尽くしている。

    リコルドと嘉兵衛が言語の壁を超えてわかりあい、ゴローニンの釈放、帰還という歴史的事件を成し得たということにただただ感動してしまう。「タイショウ、ウラァ」というおらび声を後に、ディアナ号が去ってゆくさまは、胸に切々と訴えかけるものがあった。

    江戸時代という時代のどうにもならなささというか、仄暗さというか、ときに歯噛みしたくなるようなおもいを感じた。

  • 嘉兵衛、ロシアに拉致される。長かったけど読んでよかった。リコルド少佐との友情。嘉兵衛の人徳。外交交渉を町民がやってのけたこと。全く知らなかった出来事、これは知っとくべき。

  • 嘉兵衛はかっこいいなあ。特にこの最終巻はまた読み直したい。

  • 嘉兵衛がペトロパブロスクに連行されて、国後島に戻ってくる。ちょっとした折衝があって、ゴローニンが解放されて別れとなる。

    ロシアでの生活や日本での交渉など、全てが面白い。一気に読んでしまった。

    ロシアも嘉兵衛を人質にできて大変幸運だったろうと思う。嘉兵衛以外に務まる人はいなかったのではないか。

    それにしても、最期の言葉とかは史実なのか気になった。

    読んでるこっちも胸が熱くなる展開で、文句なく最高のロマンスである。

  • 末記の谷沢永一氏の解説が明媚。もう一度読みたい。
    ・畏れ入るの精神(日本的精神)
    ・愛国心は国民である誰もが持っている自然の感情。この感情は可燃性が高く平素は眠っている。これにこと更に火をつけようと扇動する人々は国を危うくする。
    ・意地悪の功罪
    ・科学や文学が商業(商品経済の隆盛)の後から踵を接して興る
    ・利という海で泳ぎながら自分自身の利に鈍い人間の魅力(利他の精神)
    ・裸の人間同士の関係の中に国籍は関係なくなる。

  • 108

  • この時代、差別が強く辛い思いをした人がたくさんいたのでしょう。蝦夷地の人もそうですけど、主人公の高田屋嘉兵衛さんも。貧しく身分の低い中きら登りつめた主人公は立派です。

  •  ついに最終巻。『サンケイ新聞』で1014回に渡って連載された歴史小説である。
     本巻は,嘉兵衛とロシアのリコルドとの,不思議で,純粋で,思慮深く,責任感のあるやり取りが余すところなく描かれていて大変面白かった。
     しかも,両者とも実際に日記のような記録を残しているので,その記録を基にして,ある出来事(言動)に対して,嘉兵衛側から見た描写・感想と,リコルド側から見た描写・感想を並列して解説されていて,これがとても興味深いのである。その時の二人の機微に触れることができて,臨場感で溢れている。
     江戸時代の後半に,ロシアとこういうやり取りをした一船頭がいたとは。
     最終巻を読むためには,第5巻の長々としたロシアの説明は必要だったんだなと納得した。
     題名にちなんだ部分を転載しておこう。

     かれが,その晩年を送るために都志本村に建てた屋敷は,小さな野にかこまれていて,季節には菜の花が,青い沖を残して野をいっぱいに染めあげた。(p.347)

     菜の花はむかしのように自給自足のために植えられているのではなく,…中略…肥料になって,この都志の畑に戻ってくる,わしはそういう廻り舞台の下の奈落にいたのだ,それだけだ,といった。(p.348) 

     みなさんも書いているように,ロシアの船が去って行くときの
    「ウラァ、タイショウ」
    「ウラァ、“ぢあな”(ディアナ)」
    の場面では、目頭が熱くなっちゃったよ。
     人間はわかり合えるんだよ。

  • 司馬遼太郎が江戸時代の商人高田屋嘉兵衛の生涯を描いた長編歴史小説全六巻。日露双方、文化、風土の違いはあれど分かり合える部分も多いのが印象に残る。

    江戸時代も後半、蝦夷地の開発が進む中、高田屋嘉兵衛はロシアとの争いに巻き込まれ日本が捕虜としたゴローニンの報復的にロシアに囚われる。

    あくまで一商人の嘉兵衛なのだが使命感や大局を見渡す視点など江戸時代の人々の文化的な水準の高さを表象しているように思える。言葉遣いや態度など司馬遼太郎は浄瑠璃の影響を指摘している。

    日本が初めて本格的に直面する近代国家の進出。硬直的な幕府の官僚と対象的な嘉兵衛の生き方、態度を現代社会に置き換えてみるとどうなるのだろうか。

    嘉兵衛の故郷淡路島。対岸の本州に送る菜種油の原料の菜の花が咲きほこる地。そして故郷を飛び出し船乗りとなる嘉兵衛。江戸時代の商品経済の勃興を象徴した題名。

    司馬遼太郎ならではの日本人論とロシア論も含め、間違いなく歴史小説の名作の一つでしょう。

  • ついに読み終えてしまいました。
    故郷に足を踏み入れたいがために言語習得に
    熱を入れ、相手側からくる不条理には
    敢然と立ち向かった嘉兵衛。

    それはひとえに幼い時の経験が
    ものを言ったのだと思いますね。
    そうでなければここまで「庶民」としては活躍しませんもの。

    そのひたむきな心は当初は嘉兵衛たちに好意を
    持っていなかったものさえも変えてしまいました。
    (その後のほかの日本人の漂流時は
    その人は厚遇で彼らを救います)

    そして、すべてが終わった後の
    言葉のやり取り…
    間とかもうね、グッとくるものがありましたよ。


  • 最終巻。

    突如、拉致され、交渉、政治物語に。

    最後になって、国を背負ってる意識 → 大物感出ちゃうんだけど、ビジネスマンとしての円熟期は描かれず。^^; 読んでる感じでは、 4 → 6 に飛んで、あれ?っていう。

    そ、そういう話じゃないのか。

    そして、家業を息子でなく、離れた弟に継がせちゃうところとか、考え方が進んでる。

    でも、他の兄弟や息子はどう思ったんだろう?

    そして、嘉兵衛のいなくなった次代であっさり高田屋が失速しちゃうんだけど、その辺の関係者の心情も描いてほしかったなー。

    まぁ、でも読んでよかった。

  • 六巻読了。

    まさに、この巻の為に、いままでの巻があったのだなぁ・・。という、感動の一冊でした。
    ロシア船に囚われた嘉兵衛(とその仲間数名)。
    ディアナ号艦長・リコルドと嘉兵衛の、探り探りのコミュニケーションから、お互いの人柄を信頼し合う間柄になっていくのが良いです。
    ラストの「ウラァ、タイショウ」「ウラァ、“ぢあな”(ディアナ)」の場面は、胸がいっぱいになりました。

  • 最後の嘉兵衛との別れ際にリコルドとロシア水夫たちが「タイシヨウ、ウラァ!!」と3回叫ぶ、このシーンを読むためにこの本は存在すると思う。

  • 氏の長編は最後の一冊のためにそれまでがある.本作も例外ではなし.

  • 廻船商人高田屋嘉兵衛の物語。嘉兵衛の人物の大きさ。素晴らしい。司馬さんは初読みだがもっと読みたい。詳細は→http://takeshi3017.chu.jp/file6/naiyou23901.html

  • 船乗り高田屋嘉兵衛が幼少の頃から話は始まる。当時の船事情、江戸の文化を細かく描写、成長・成功していく主人公を追うのは楽しい。途中、4巻、5巻では「 高田屋嘉兵衛」が殆ど出てこなくなり、ロシア事情、当時の日本との交流が書かれる。そして最終巻でゴローニンの話。結局著者は「ゴローニン事件」を扱いたかったのだなと分かる。

    他の作品より物語性が弱く、その代わり時代背景・文化事情が多く語られている点では違いを感じる。(私も物語らない4巻、巻は読むのが辛かった)

    一代で繁栄を築いた男の強さを感じる。

    【学】
    要するに生産性の面での江戸の能力の低さが菱垣廻船を発達させた。江戸初期から中期にかけて菱垣廻船の繁栄は100年続き、中期に樽廻船現れ、菱垣廻船の栄を奪った

    清酒も豊臣期の末か江戸初期に伊丹付近で発明されたと言う。それまでは、酒と言えばどぶろくであった。

    戦国期は兵農未分離で農民が武器を持てば士であり、裕福な農民は郎党を率いる騎乗の士になったし、抜きん出れば侍大将にもなれた。豊臣期の刀狩りよって農兵は分離され、江戸期にはそれが身分として固定された

    函館の起源を喜兵衛と考える人もいる

    能登半島昔の船乗りにしては、夜は恐怖という感覚は、言われてみればそうだが、なるほど&ビックリ!

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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