新装版 翔ぶが如く (1) (文春文庫) (文春文庫 し 1-94)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167105945

作品紹介・あらすじ

明治維新とともに出発した新しい政府は、内外に深刻な問題を抱え絶えず分裂の危機を孕んでいた。明治六年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発した。西郷隆盛が主唱した「征韓論」は、国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく。征韓論から、西南戦争の結末まで新生日本を根底からゆさぶった、激動の時代を描く長篇小説全十冊。

感想・レビュー・書評

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  • 明治という時代を作った人物たちの群像劇。西郷、大久保を軸に展開していく。
    権力にいると人は魔性になる。政治は勢力。革命というものは失うものの方が大きい。革命を輸出したがる。など、歴史から導き出される真実を鮮やかに描き出す筆致に刮目される。
    また、司馬の幕末作品に出てくる登場人物に、再会できることも本作品を読む喜びである。まるでVRであるかのように立体的に人物や時代の空気を描き出すことができている。司馬作品の優れて特徴的な点である。
    西郷を漢字一字で表すと「悲」というくだりが、巻末にある。西郷という一個の英雄の意外ともいえる悲哀に何度かスポットが当たっているが、西南戦争を予感させる布石であろうか。
    悲しみもあるとおもうが、やはり達成感とか、喜びとか、この時代を動かしたものでしかわからない巨大なプラスの感情も大いにあったと思う。人物を立体的にしている陰影的な描写なのかなと思いつつ楽しく読みすすめた。
    先の展開が楽しみ。

  • 【あらすじ】
    明治維新とともに出発した新しい政府は、内外に深刻な問題を抱え、絶えず分裂の危機を孕んでいた。
    明治6年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発した。
    西郷隆盛が主唱した「征韓論」は、国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく。
    征韓論から、西南戦争の終結まで新生日本を根底から揺さぶった、激動の時代を描く長編小説全10冊。


    【内容まとめ】
    1.西郷隆盛・大久保利通の出生からではなく、明治維新後の物語
    2.薩摩隼人という現代日本人とは一線を画す民族の詳細
    3.薩摩隼人は「得たいが知れない」!!


    【感想】
    日本史はとても面白い。
    いつの時代も魅力的だが、やっぱり個人的に特に好きなのは、幕末から明治初期にかけてのこの激動の時代だな!
    とは言え、坂本竜馬を主人公とする「竜馬がゆく」以外はあまり詳細を知らなかったこの時代の出来事。
    戊辰戦争?鳥羽伏見?うーん、新撰組の終焉なども含めて、この数年はポッカリと穴が開いたようにあまり詳しく知らない・・・

    「翔ぶが如く」の主人公は、西郷隆盛・大久保利通を始めとする薩摩っ子たち!
    桐野利秋、川路利良(としなが)も、やや属性は違うものの薩摩の血を強く感じる魅力的なキャラクター。
    余談にそれる度に彼らと疎遠になってしまうので、余談は楽しいけど寂しさが勝ってしまうんだよなぁ・・・

    また、「はじめに」の内容が面白すぎる。
    筆者・司馬遼太郎でさえ主人公である薩摩隼人の全貌が分からないというのだ!!

    ・行動が俊敏
    ・「自分たちこそが日本人」という確固たる優越感
    ・やさしさとユーモア
    ・気性の荒さと残忍性

    確かにこの人たちは「得たいが知れない」よね!!笑
    同じ時代にこんな奴らが居たとすれば、こんな安穏とした生活は送れなかっただろう。


    余談にそれなければ、半分、いや3分の1程度のペースで物語が終結するのではないか?
    勉強になるし、学校では絶対教えてもらえない歴史の内面が詳しく知れて楽しいし、なによりそれが司馬遼太郎作品の良いところなのは否定できないが・・・
    早く物語の続きが見たい!!!!笑

    長編ですが、のんびり読もうと思います。


    【引用】
    「君たちは得体が知れない」
    隼人と呼ばれるほど行動が敏捷で『自分たちこそ日本人の原型である』という優越感を持ち、優しさとユーモアが共通していて、不思議としか言いようのない気配を歴史の上に投影した薩摩藩民の物語。

    こういう機微が分からなければ、うかつに薩摩のことは書けないとまで思い悩んだとのこと。



    p75
    大久保は執拗な性格を持っている。
    物を考えるときには眼前の人間を石のように黙殺することができた。
    彫りの深い端正な顔には無用の肉はすべて削ぎとられていて、どうやらそのことは容貌だけでなく精神もそのようであった。
    彼は仕事をするためにのみ世の中に生まれてきたかのようであり、他に無用の情熱や情念を持たず、そういう自分の人生に毛ほどの疑いも持っていなかった。


    p82
    ・隆盛は間違い、父の名前
    通称 吉之助、名乗りは隆永
    西郷は訂正しにもゆかず、彼自身は常に吉之助を称していた。
    自分の名前などどうでもいいという桁外れたところがこの兄弟にあった。

  • 全10巻の1巻だから、本当に序盤の序盤。
    まだ面白いかどうかは、判断はつきにくい。
    今、毎週 大河ドラマも観ているからその内容と同じ?と思ったけれど、こっちはもっと先の維新後からのスタートだった(あらすじは、よく読みましょう;;;)

    今年、維新を迎えてから150年目の節目に当たる。先人達の熱い息吹と、血潮を感じてみるのも良いものである。

  • 西郷隆盛のことが知りたく、また昔大河ドラマで放送されていたのを思い出して読んでみた。征韓論は聞いたことがあったが、よく知らなかったが、この本を知って、その目的とするところがよく分かった。韓国を刺激して日本と同じような維新を起こさせることで、列強に吞み込まれないような硬質な国家を作らせる。そして日韓中三国同盟による専守防衛国家を作ろうという構想があった。西郷隆盛については義の人だったんだなというのが感想

  • 龍馬がゆく、燃えよ剣、世に棲む日々、と幕末を描いた司馬作品は多いけど、これは明治維新後の話。坂ノ上の雲に繋がる作品。重い固い話なんだけどこの作品だけ残ってたから頑張って読もう。

  • 西郷はあくまでも武士革命者で、町人百姓の次元の低い利己的精神ではかれの考える新国家はできないとおもっていた。むしろ外征をおこしてゆく過程において日本中を武士にすることによってのみこの国を世界のなかに屹立せしめられるとおもっていた。このあたりの西郷の考えは革命的論理性からいえば計算性にとぼしく、多分に夢想的であった。しかし西郷はこの場合冷静な理性よりもゆたかな感情―同情心―でとらえた。
    「日本は産業もなにもない。武士のみがある。武士という無私な奉公者を廃止していったいなにがのこるか。外国に誇るべき精神性がなにもないではないか」
    とおもった。これをおもった瞬間、すでにこの大革命家は、反革命家に転じていたのだが、それは西郷の知ったことではない。かれは一方では自分のつくった明治政府を愛さざるをえない立場にあり、一方では没落士族への際限ない同情に身をもだえさせなければならない。
    矛盾であった。

    ビスマルクは大風呂敷をひろげた。
    「余は小国にうまれた」
    と、ビスマルクはドイツを小国として規定している。
    「余が少年のころはプロシアはじつに貧弱な国であった。長じて余は列強の暴慢を知るにおよび、怒りをおぼえた。たとえば国際公法というものがあってもそれは列強の都合で存在するものであり、自国に都合のいいときには国際公法をふりまわし、自国に都合がわるくなると兵力を用いる。小国はじつにあわれである。国際公法の条文懸命に研究し、他国に害をあたえることなく自国の権利を保全しようとするけれども、列強というものは破るときには容赦なく破る」
    ビスマルクは、小国であったドイツこそ日本の手本であると言いたいのであろう。

    ビスマルクが国際公法の限界について論じたのは、木戸らの随員が、それを質問したからである。坂本の信仰が、志士あがりの連中たちのあいだでなお生きていたといっていい。
    「小国がその自主の権利をまもろうとすれば、孜々としてその実力を培う以外にない」と、ビスマルクはいう。

    「温公の腹の中には、他人に隠さねばならぬことはひとつもなかったといい申す。ところが顧みて自分を思えばまだまだ他人に話せぬことが多か。このあたりが公に遠く及ばず、温公がもしいまに存さば、自分はよろこんでお供をする」

  • 久々に長編に挑む。初感は活字の濃さ。

    「竜馬がゆく」の冒頭部が会話文主体で物語が進み、そのひらがなの割合にどこかのんびりとした序章が感じられる一方、こちらはそんなことは微塵もない。

    幕府→土佐藩→長州藩とそれぞれの視点からこの時代を眺めてきて、ようやく薩摩藩側から同時代を眺められるのかと感極まり、一頁めからの「薩摩言葉」に内心小躍りして読み始めるのであるが、どうやらその思惑は少しずれていたようだ。物語は少し先、戊辰戦争を飛び越してしまっているところから動き出す。なまりの残る元志士達が「東京」を闊歩し、その中には元志士でさえなかったものまで含まれている。彼等の思考回路もまったく変わってしまっている。この先十巻、これはどうしてなかなか手ごわそうだ。

    ただ回顧録がふんだんに含まれていることがこの第一巻をして自分にとってはずいぶんと読みやすいものにしてくれた。まるで今までの作品をおさらいしているような様であり、そしてそれがあらたな小躍り感となってさらりと読み終えさせてくれた。

    なによりタイトル自体が松陰の言葉を借りていることに気づけたことが幸せである。

  • 西南戦争の物語。全10巻なので導入の導入という感じ。

    日本の近代史は、明治維新という輝かしい改革に始まり、太平洋戦争の敗北という悲劇的結末に終わる。

    生命は生まれた時に死も内包しているというが、大日本帝国にしてもそうだろう。

    西欧列強に伍さんと近代化を目指すことは是としても、アジアへの進出は後世では侵略として語られることになってしまっている。

    現代の価値観で裁くことは愚かだが、それでも別の方法があったのではないか。

    それを成さんとしたのが西郷隆盛だったのである。

    ・・・と、大袈裟かもしれないが、私はこのように読んでいる。続きが楽しみ。

  • ちなみに今読んでいる本は以下(この本)である。
    最近買うのは原則文庫であり、時代小説中心の読書である。
    以前はたくさん読んでいた自己啓発ものは、もう興味がわかず読まない。もてはやされる成功者も結局は逮捕者や社会”だまし”が多い。それよりも自分で如何に楽しく健康でがんばって行けるかに注力したいと思うようになった。よって自己啓発本は9割以上をBook Offしてしまった。(2008.2.22HPの日記より)
    ※2007or2008年購入
     2008.2.22読書中
     2008.2.27読了
     2017.5.6売却@Book Off

  • 秀作。
    司馬遼太郎、流石。その中でも長編大作。面白い。
    若い頃は、大久保を尊敬していたが、歳を重ねて西郷が好きになってきた。
    綿密な調査、凄い。
    さすがに長い。
    今の日本にも引き継がれている政治家の隠蔽、庶民を騙す手口。政府は信用ならない。計画性なんて無いと疑ってみる。
    日本人は、野蛮だと、つい150年前の出来事。忘れてはならない。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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