- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167106348
感想・レビュー・書評
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「昭和史発掘(4)」松本清張著、文春文庫、1978.08.25
318p ¥340 C0121 (2018.08.30読了)(2018.08.25借入)
明治維新は、「国学」思想に導かれて実行されました。「国学思想」は、儒教や仏教に影響される前の純大和魂を理想としているので、明治維新の際に一部で仏教を排除するための廃仏毀釈運動が行われたほどです。日本に仏教が入り込み神道との融合が計られ、本地垂迹説で神仏習合が行われたほどなので、仏教と神道は一体化されて神仏分離を試みたけど、仏教なのか神道なのか不明なものもありました。全国の神社を一本化する試みもあったようです。
いろいろ書いたけど、明治になって、天皇が神になり、国民はそれを崇拝するという形になったので、それ以外の神を崇拝することは、支配者にとっては困る、ということです。「明治憲法」には、近代国家であることを内外に示すために信教の自由が入っていますが、外国からは、天皇崇拝と「信教の自由」が両立できるのかという懸念が述べられていました。
「天理研究会事件」も信教の自由に関わる事件かと思います。
天理教から破門された大西愛治郎が作ったのが、天理研究会です。天理研究会は、昭和三年に政府の弾圧を受けています。その後、「天理本道」と改称しています。「天理本道」は、昭和十三年十一月に治安維持法違反ないし不敬罪容疑で検挙されています。
「桜会」の提案者は、橋本欣五郎です。国家改造の必要性を訴え、改造のための研究機関的結社を狙ったものです。クーデターを何度も計画しています。首相などを殺害すればあとは何とかなるだろうというというものですので、この流れが、五・一五事件や二・二六事件へとつながり大東亜戦争へと突き進んでゆきます。原因の行き着くところは、天皇制と統帥権ということになるのではないでしょうか。天皇の統帥権を軍隊が思うように勝手に行使して日本を破滅へと突き進ませた、ということでしょう。戦争の末期にも天皇制の温存に固執して、原爆の投下やソ連軍の参戦によるシベリア抑留、北方領土の収奪を招いてしまった。
【目次】
天理研究会事件
「桜会」の野望
五・一五事件
●(昭和六年)三月事件の計画(109頁)
まず大川周明に民間の各種の謀略を講じさせ、東京を騒乱に陥れる。その混乱の最中に陸相宇垣一成をして大命降下を図らせ、宇垣内閣の組織によって政界の粛進に乗り出させる。
東京騒擾の方法としては、まず大川が東京市内各所に爆弾を投じる。騒ぎを大きくして、同時に日比谷でボクシングの大会を催す。これに天下憂国の士に入場券を交付して多数入場せしめ、大会終了後、その連中をそのまま警視庁に流れ込ませ、警察の機能を停止させる。
民間にこのような騒動が起こると、橋本は大衆誘導という名で任務を陸軍の同志たちに割り当て、その騒擾を計画的かつ組織的に暴動化するようにする。
(宇垣陸相の賛同が得られず、実行断念)
●十月事件(168頁)
民間に対する具体的な襲撃方法は、大川の配下が軍よりつけられた兵士の長となって、東京日日、東京朝日、時事、報知、読売、国民の各新聞と、中央放送局を占領する。そのため二十五日ごろ大川一派の一人が東京日日を見学と称して偵察に行っている。
決行期日の二十四日には午前一時に行動を開始し、参加すべき各連隊の兵は夜間演習の名目をもって出動する。彼らは同志の将校の指揮下に入り、予定の部署について、①各政党の首領その他首脳部、②財界の巨頭、③首相以下閣僚、④君側の奸臣、特権階級などを襲撃し、これを逮捕監禁する。
これらの行動は午前三時ごろまでに約二時間で終り、ただちに東郷元帥に出動を乞い、同元帥はすぐに参内し、一切の事情を闕下に奏上して戒厳令の施行を奏請し奉り、大命により新国家の組織、内閣の顔ぶれを決定する。その結果をただちに全国民に報道し、国民は一夜のうちに天下の一変したことを知る
(十月十七日未明に橋本は逮捕された。事は露見したのである)
●五・一五事件(203頁)
昭和七年五月十五日午後、海軍将校、陸軍士官候補生、農村青年など三十余名が首相官邸、内大臣邸、政友会本部、警視庁、日本銀行、三菱銀行ならびに東京市内数か所の変電所を襲撃した。
海軍将校と陸軍士官候補生らは三班に分かれ、首相官邸、内大臣邸、警視庁などを襲って手榴弾を投げ込み、拳銃を乱射した。首相官邸では犬養毅首相を射殺し、内大臣邸では警衛中の巡査、警視庁では新聞記者ほか一名に重傷を負わした。
また、農村青年隊は軍人側の行動と呼応して、東京市内尾久にある鬼怒川水電東京変電所ほか五か所の変電所を襲って手榴弾を投擲した。
●血盟団事件
井上日召 日蓮宗 茨城県磯浜町大洗
二月九日 民政党(前大蔵大臣)井上準之助射殺 犯人 小沼正
三月五日 三井合名理事長団琢磨射殺 犯人 菱沼五郎
三月十一日 井上日召自首
●五・一五事件の計画(240頁)
海軍中尉古賀清志、同中村義雄
犬養首相を仆し、次に君側の奸と目された牧野伸顕を殺し、警察力を破壊し、変電所襲撃の効果を狙って帝都を混乱に陥れ、一挙に戒厳令施行にもってゆき、ここに革新勢力の発動をうながして国家改造の端緒を開こうというのである。
☆関連図書(既読)
「昭和史発掘(1)」松本清張著、文春文庫、1978.07.25
「昭和史発掘(2)」松本清張著、文春文庫、1978.07.25
「昭和史発掘(3)」松本清張著、文春文庫、1978.08.25
「昭和史発掘(7)」松本清張著、文芸春秋、1968.10.01
「昭和史発掘(8)」松本清張著、文芸春秋、1969.03.10
「昭和史発掘(9)」松本清張著、文芸春秋、1970.02.20
「昭和史発掘(10)」松本清張著、文芸春秋、1970.08.01
「昭和史発掘(11)」松本清張著、文芸春秋、1971.02.01
「昭和史発掘(12)」松本清張著、文芸春秋、1971.12.05
「昭和史発掘(13)」松本清張著、文芸春秋、1972.10.01
「妻たちの二・二六事件」澤地久枝著、中公文庫、1975.02.10
「雪はよごれていた」澤地久枝著、日本放送出版協会、1988.02.20
「蒲生邸事件」宮部みゆき著、カッパ・ノベルス、1999.01.30
(2018年9月7日・記)
(表紙より)
理想社会の建設に名をかりて国体変革を目ざしているとして、不敬罪で起訴された大西愛治郎たちの「天理研究会事件」。そして、サラリーマン恐怖時代といわれた就職難の暗い時期に国内改造をはかって青年将校たちが結成した「桜会の野望」と、その動きがやがてひき起こした「五・一五事件」を新資料によって解明する。
(amazon)
4は「天理研究会事件」「桜会の野望」「五・一五事件」で、満洲事変前夜の無気味な動きを新資料で解明する
文庫: 318ページ
出版社: 文藝春秋 (1978/8/25)詳細をみるコメント0件をすべて表示