宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション 上 (文春文庫 ま 1-94)
- 文藝春秋 (2004年11月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167106942
作品紹介・あらすじ
清張ファンを自認する宮部みゆきが巨匠の傑作短篇を選びに選び、全てに解説を付けた。上巻はミステリ・デビュー作「恐喝者」の他、宮部いち押しの名作「一年半待て」「地方紙を買う女」「理外の理」や、「或る『小倉日記』伝」「削除の復元」の鴎外もの、斬新なアイデアで書かれた「捜査圏外の条件」、画壇の裏面を描く「真贋の森」等を収録。
感想・レビュー・書評
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古本を紐解いた。先月、朝井まかて「類」を読んでいると、森鴎外の末子の類が昭和26年に母親が箪笥の中に仕舞い込んでいた鴎外の「小倉日記」を発見するくだりがある。その後、松本清張が「或る「小倉日記」伝」で芥川賞を獲ったことを知った時に、類は「どうして私はこのことを小説にしなかったのだろう」と悔やむのである。それで途端にこの清張出世作を再読したくなった。
改めて、純文学であると思った。後のエンタメ作家としての欲望を克己心で押さえ込み、宮部みゆきも云う様に、誰に認められなくとも「自分自身の拠り所」を明らかにせざるを得なかったおのれを、容貌劣るが賢かった田上耕作に託して描き切っている。正直、類に勝ち目はなかった。
今回の収穫は幾つかあるが、一つは途中挫折していた「削除の復元」を読み切ったことである。松本清張のもう一つの「或る小倉日記伝」である。出世作から39年後の晩年になって書かれている。内容をほとんど覚えていなかったのは、あまりにも細かいところを調査するの清張の分身たる2人の主人公に辟易したからだと思う。しかし、後半になって本作は俄然面白くなっていたのだ。「果たして小倉時代、森鴎外宅の辞めた女中の元は、鴎外の隠し子を産んでいたのか」ということを、何処から事実なのか不明なぐらい非常な詳細さでもって記している。結論は出していない。ただし、知的サスペンスになっていて、円熟したエンタメ作品だった。のちに機会あれば、研究本を紐解きたいとは思うのだけど、現在の感想を言えば、私もひとつ小説内で語られていること以外で「小倉日記」に疑問がある。森鴎外の妻志げは、おそらくわざと箪笥の奥深く、所在不確かになっていた「小倉日記」を隠したのだと思う。それか、森鴎外自身か?どちらにせよ、日記の存在は知られていたのだから、隠す理由が見つからない。だとすれば、やはり「怪しい想像」をしてしまうのである。
宮部みゆきがひとつひとつの作品を前口上で解説している。とっても楽しそうだ。好きな作家のアンソロジーを、こんなにも尺を取って編むことは、ファン冥利に尽きるんだろうと思う。私ならばどんな作家の短編アンソロジーを編みたいだろうか。やはり「藤沢周平」だろうな。最近発掘されたデビュー前の短編、句作、そして次第と変わってゆく作風を順番に並べたら楽しいだろうな、などと妄想してしまった。 -
松本清張には売れっ子作家をはじめ、様々な人がセレクトした作品集が結構あるが、この宮部みゆき責任編集と銘打った文庫三冊は宮部さんの解説もついていてお得感がある。
もとより私は、清張作品を全作読んでいる訳ではないので、このセレクトが素晴らしいものであるかどうかは自分には判定できないが、この上巻の作品は楽しめるものが多かった。
気になった作品は「恐喝者」、清張さんはごく初期の頃から崖っぷちが好きだったんですね(みうらじゅん)
それから「削除の復元」。タイトルだけだったら現代の作品かと思う。デジタルがらみの犯罪物にピッタリの題名。実際はアナログ極まりないお話なのですが笑
「地方紙を買う女」は傑作だと思う。
この文庫には「日本の黒い霧」と「昭和史発掘」からも二作品がとられているが、これは流石にさわりだけの紹介なので全部丸ごと読んだほうがいいだろう。 -
宮部みゆきが選ぶ松本清張短篇集。えらい久しぶりに無性に清張を読みたくなり手にとる。業が深く渦巻く執拗な人間描写、清張すげーわ!とうなされまくり。宮部の傑作『火車』は清張からの影響大だと確信。どれもこれも面白いけれど日本の古美術界の暗闇を暴く「真贋の森」は圧倒的な読み応え。「或る『小倉日記』伝」(芥川賞受賞作)や「削除の復元」の鴎外ものは純文学好きの心をもくすぐる。サスペンス劇場の作家だと高を括るとバチが当たるよ。はぁ~おもしろかった。
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よく音楽CDでは 「ベストセレクト…」を購入する。特にちょっと前の人気だった歌手がたくさん歌っているものは。要するにあまり聴き込んでいないからわからないのだ。だからおまかせ。
作家の短編集はどうだろうか。たいがいは書き溜めて出版されるのでそれを読む。たまに、作家自身の撰集というのもある。もれなく網羅してある全集もある。あるいは、編集者がいくつか選んでまとめ全集に収録してあるのもある。
松本清張氏は260篇も短編を書いたそうである。私はその内の100篇足らずしか読んでいない。清張氏の短編が大好きなのにである。これではファンとは言えない。
と、感想が興った『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短編コレクション』(上)を読了。
私にとっては、揺り起こしてくれた撰集ということか。
やはり、芥川賞受賞作品の『或る「小倉日記」伝』に思い入れがある。現在読み返してみると当時(30年位前)とても暗いイメージで胸に迫ったような記憶があったが、人生ってこんなものかもしれないとの感慨、清張氏の筆力に感嘆、驚異であった。ちなみに私はこの短編によって森鴎外の作品に興味を持ち、ほとんど読むことになった。
儲けものは『恐喝者』。もちろん初読んだが清張氏の犯罪ものの原点らしい。面白いし少しも古くないし安心して読める(構築がしっかりしていて、文章が落ち着いている)、といいことずくめ。認識新ただった。
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未読は『理外の理』『削除の復元』だった。
他は『一年半待て』『地方紙を買う女』『捜査圏外の条件』『真贋の森』『昭和史発掘―二・二六事件』『日本の黒い霧 追放とレッドパージ』
認識新たにした残りの未読160篇はどのようにしていつ読もうか、どうしようかな。 -
松本清張と言えば、誰もが知っているビッグネームだが、文庫で入手できるものに限ってもあまりに多い著作と、現代ではやや硬めの文体から、ちょっと手を出しにくい存在になっているように思います。
そんな、「松本清張」って名前は知っているけれど読んだことがない、関心はあるけれど手は出しにくい、って人に、「宮部みゆき」という超流行作家の「責任編集」って冠をつけることで手を出させようという見え見えの意図で編まれた短編集で、自分もそんなあざとさに苦笑しながらも作品の内容が変わるわけではなし、と買ってきて読んでしまいました。
松本清張については、「点と線」などの有名作品をちょっと読んだだけで、芥川賞受賞作家だったとか、小倉に記念館があるだとか、平成4年没だとか、そんなことは選者の宮部みゆきさんの、気楽なエッセイ風の「前口上」で知りました。書き出しが「没後十二年」ってなってますが、今年は没後二十年になるんですね。
読後感は…どうでしょう、選者の宮部みゆきさんの中の一定のテーマに沿って作品が収録されているわけで、これを前口上とともに楽しめばいいのですが、自分はその前に、「時代」が気になってしまいました。
作品が書かれた時代、その世相を反映した登場人物の振る舞いです。登場人物は今では考えられないほどいろいろなところでよく煙草を喫み、世間体や名誉を気にします。まさに「昭和」が濃く反映されているわけです。長編だったら、いったん物語の世界に浸ってしまえば、こんなことはそのまますんなり読めてしまいますが、短編で、しかも合間合間に現代風の軽い語り口で書かれた「前口上」を読みながらの現代と昭和との行ったり来たりでは、なかなかそのあたりが難しく、いちいち、そういう時代の作品なんだから、と自分に言い聞かせながら読む必要があり、ちょっと歯痒い思いをしました。
でも、これをきっかけに、この巨人の作品を、少しずつでも読んでみようか、という気にさせてもらいました。 -
当たりハズレもあったけど面白かった
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「真贋の森」が秀逸。
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好きな二人がタッグを組んだ。それだけでワクワクだ。二・二六事件は流石の松本清張だが、ノンフィクションに後日新事実が発生した時誤報の責任の取り方はどうなるのか?出版社の責任は?冤罪に絡んだら?一切読み手の自己責任か?
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清張さんは昭和史の研究家でもあったんですね。
類がもし、これを小説にできたとしたら、箪笥の奥深くしまった経緯を調査して明らかにするか、ある程度...
類がもし、これを小説にできたとしたら、箪笥の奥深くしまった経緯を調査して明らかにするか、ある程度の見通しがつけれた時だと思います。類に無理な話でした。