新装版 日本の黒い霧 (上) (文春文庫) (文春文庫 ま 1-97)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 63
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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167106973

感想・レビュー・書評

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  • 松本清張『新装版 日本の黒い霧 (上)』文春文庫。

    松本清張のノンフィクション作品集。

    年末にNHKスペシャルで2夜に亘り『未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件』を放送していたが、なかなか興味深い内容だった。

    戦後の日本で起きた数々の不可解な事件の背後に見え隠れする不気味な米国の影。昔も今も変わらない米国による日本支配の構図。

    米国の支配も去ることながら、今も昔も日本政府や日本企業も相変わらず不正に手を染めているのには幻滅する。昨年一番驚いたのは自民党政権がカルト団体の旧統一教会と長年に亘り蜜月を築いていたことだ。

    そして、未だに米国の呪縛から逃れられぬ日本は、米国の希望に沿った形で復興予算までも防衛費という名の軍事費に投入し、さらには増税や社会保障費の減額まで実行しようというのだから驚くばかりだ。度重なる失策で挽回策が無くなった日本政府が国民を完全に無視して、米国の庇護により何とか生き延びようとしているかのようだ。

    『下山国鉄総裁忙殺論』。昭和24年に起きた国鉄総裁の死亡事件。自殺なのか他殺なのか。国鉄の人員整理を巡り、見え隠れするGHQの影は帝銀事件にも通じる。この事件の謎については、柴田哲孝の『下山事件 暗殺者たちの夏』『下山事件完全版 ―最後の証言』、矢田喜美雄の『謀殺 下山事件 日本の熱い日々』などにも描かれている。

    『「もく星」号遭難事件』。昭和27年に日航機が三原山に衝突し、遭難する。松本清張は事件の背後で隠蔽工作を図る米軍の姿に迫る。

    『二大疑獄事件』。昭和電工事件と造船疑獄事件。事件の背後には米国やGHQの影がちらつく。国民から徴集した税金を不正に使用する悪者の姿は昔も今も変わらない。

    『白鳥事件』。昭和27年、札幌で発生した警察官の射殺事件。ここにも被害者との関係の中に米国の影がちらつく。

    『ラストヴォロフ事件』。昭和29年に起きたソ連元代表部二等書記官の失踪事件。半年以上が過ぎ、失踪したロシア人は米国に姿を見せる。そして、この亡命には日本人官吏が多数関連していたのだ。明かされるソ連と米国のスパイ天国日本の実態。

    『革命を売る男・伊藤律』。ゾルゲ事件を暴く切っ掛けを作った伊藤律のスパイ活動。仲間たちを売り渡し、保身に務めた男も権力に踊らされていただけだった。

    本体価格750円
    ★★★★★

  • ⭐︎4.7
    昭和史に関心を持って、もう数年。年間に何冊かこの手の書物を手に取り、紐解くようにしている。半藤一利氏と本著作者の松本清張氏は、私の昭和史の師匠だと思っている。
    本作で興味深いものは下山国鉄総裁謀殺論・白鳥事件・革命を売る男伊藤律(この本編でゾルゲ事件に大いに関心を持ちました)
    自分の生まれ落ちた時代「昭和」の黎明期ここに光をあて翳を導き出してくれるこのような宝物と呼べる著作は、この先の人生で折々に手に取り紐解いていくものになると確信してやまない。
    学ばさせていただきました。

  • 日本がGHQ(連合国総司令部)の支配下にあった昭和20年代前半に起きた不可解事件を追及、推理した【松本清張】渾身のドキュメント。共産党、労働組合を巻き込んで、自殺か他殺かの大論争となった下山事件(昭和24年7月)は、事件未解決のまま捜査打ち切りとなった。著者は、GHQの内部抗争により引き起こされた極めて政治的な謀略が事件の背後にあったと推論する。プロレタリア作家・宮本百合子は、下山事件の矛先が「赤狩り(レッドパ-ジ)」の象徴となったことについて『推理小説』で辛辣なる反論を行っている。

  • 2010年頃、購入して読了。
    自分があまりにも『昭和』を、特にその前半を知らなさすぎて購入。
    事件の名称しか知らなくて、その内容を知りたかったはず。
    ★は当時付けたもの。
    何故こんな低評価だったのか、理由は記憶に無い。

  • 松本清張氏による昭和事件史推察。

    アメリカ占領下の日本の政治事情が不勉強なので置いていかれそうになるのだが、推論を進めてゆくために事件をあらゆる方向から見るので、なんとか理解できる。事件や人間ははこうやって見るものなのか。仮にも国や軍を動かす人間がペラペラな動機や感情で動くわけがない。命に関わるのだから。

    下山事件の「進駐軍の列車だった」の部分に思わず「おおおおお…」と声が出た。他殺の臭いがしなかったのは、謀略の臭いがしたからか。他殺でなければ「自殺と言うしかない」と言うのが本当か。正解かどうかは分からない。だけど凄まじい説得力がある。
    その後の推察は入り組み過ぎてて理解が追いつかない。もく星号墜落は難しくないが、その他の事件のように謀略と呼ぶにはちょっと無理があると思う。開示されたり発表されたりする情報は、こういう圧力がかかっていて、こういうフィルターを通しますという仕組みを説明するための章という印象。
    情報ってどれを信じるかなんだよなぁ。
    発表した機関丸ごと信じていると、真相は分からないままになる危険がある。なーんにも知らないでいると、事件に巻き込まれたり、誰かに利用されたり、悪事に加担することにもなりかねない。社会の基礎知識は増やしていかないといけないな。
    戦中戦後を生きた著者だからか「とにかくアメリカが怪しい」という姿勢が強いのは否めない。だんだん出発点がそこになってしまっているような気がする。

    朗読は酒井敬幸さんと言う方で、この方の読み方と声すごく好き。よく分からなかった部分が多いからもう一周しようと思うのだけれど、下山事件で想像する拷問がキツい… 

  • アメリカが先導する軍司令部のキナ臭い縄張り争いに様々な人びとが巻き込まれる。尊厳を軽視する権力者の横暴は、事件を混迷させて世間を震撼と憤怒へと陥らせる。松本清張の真相究明は未決のまま筆致に思いの丈を残す。私たちはここから日本近代史の一端を知り思索しようではないか。決して華やかなりし復興日本で語るなかれ。

  • 終戦後GHQ占領下の日本で起きた未解決事件を取材した本。

    当時の日本は戦後の混乱もあり、GHQ内部闘争もあり、ソ連との冷戦ありで、時代背景がかなり複雑で事件に絡む関係者も難解。

    共産党との闘争、スパイ活動など、現代の平和な日本からは考えられない話。

    下山事件、白鳥事件は殺人事件ということもあって引き込まれて読んだ。
    松本清張は、いずれもGHQが関係していると推理している。

  • この作品は凄いです。
    松本の記録的な文章と事件に寄り添うな形で、誰も扉を開こうとしなかった未解決事件を彼なりの視点を通して開く作品です。
    オススメです。

  • 若い頃に読んだ本をまた買って読み直しました。力作ですね。

  • 戦後間も無い頃の日本における怪事件を松本清張が推理するノンフィクション短編集。
    個人的には冒頭を飾る下山総裁轢死事件が白眉。圧倒的な情報収集力と公平というか冷徹な推理には説得力がある。コレは事件というか下山総裁に対する疑問であるが国鉄という電車のトップたる人物が死後に迷惑をかけて自身の名誉を傷つけるような轢死を望むというのが衝動的にせよ心理的にあるモノなのか。清張先生の仰る通り真相が解明される事は恐らく無いと思われる。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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