新装版 日本の黒い霧 (下) (文春文庫) (文春文庫 ま 1-98)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167106980

作品紹介・あらすじ

戦後日本で起きた怪事件の背後に何が存在したのか。米国・GHQの恐るべき謀略に肉薄した昭和史に残る名作の続編。戦後の混乱を生々しく伝え、今日の日本を考える貴重な資料である。日本中を震撼させた「帝銀事件の謎」、被告の冤罪を主張する「推理・松川事件」、横暴な権力への静かな怒りに満ちた「追放とレッド・パージ」など。

感想・レビュー・書評

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  • 松本清張『新装版 日本の黒い霧 (下)』文春文庫。

    松本清張のノンフィクション作品集の下巻。

    年末にNHKスペシャルで2夜に亘り『未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件』を放送していたが、なかなか興味深い内容だった。

    戦後の日本で起きた数々の不可解な事件の背後に見え隠れする不気味な米国の影。

    『征服者とダイヤモンド』。戦後、日本の中央銀行の金庫に眠るダイヤモンドや貴金属が米軍により接収される。その量や資産価値は量り知れず、後にM資金などの胡散臭い噂にもつながる。

    『帝銀事件の謎』。NHKスペシャル『未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件』でも紹介されている。明らかに日本陸軍が関与している事件でありながら、逮捕されたのは画家の平沢定通であった。

    『鹿地亘事件』。昭和26年、藤沢市鵠沼で、ソ連のスパイと疑われた鹿地亘が米軍に拉致された事件。

    『推理・松川事件』。昭和24年に福島県の松川で起きた列車の転覆事故。下山事件、三鷹事件と並び、国鉄三大事件と呼ばれる。背後にちらつく米国の影。

    『追放とレッド・パージ』。米国による共産党関係者の一斉追放指令の裏側を描く。

    『謀略朝鮮戦争』。朝鮮戦争の米軍に加担した旧日本軍関係者。世界の警察を名乗り、他国に土足で入り込み、戦争を仕掛けることが正義と勘違いする米国。国内の景気が低迷すれば、様々な理由を付けて、他国の内紛に戦争を仕掛ける。軍事産業が米国の経済を支えている証拠の1つであろう。日本も米国から戦闘機やら各種兵器を購入するために復興予算に手を付けて、増税までするというのだから呆れ果てる。何時まで日本は米国に服従するつもりなのだろう。

    『なぜ『日本の黒い霧』を書いたか』。『小説 帝銀事件』を執筆したことを契機に米国GHQの暗躍を暴こうとした松本清張。現代日本も米国の占領下と変わらぬ状況を見たら何と思うだろう。

    本体価格750円
    ★★★★★

  • 松本清張が雑誌『文藝春秋』に連載していた昭和35年当時から、『日本の黒い霧』に収められた不可解な事件の推論は、あまりに反米的、意図的すぎると批判の声が上がった。帝銀事件(昭和23年1月)は、最高裁で犯人は平沢貞通(テンペラ画家)と決定され、死刑判決が下された。著者は、GHQに留用された旧日本陸軍グル-プの犯行との推理を展開しているが、本書の何れの事件もGHQの極東戦略に沿った共産主義排除の指向のもと、政治的謀略によって仕組まれたものと帰結した。未解決の冤罪事件の真相は、批判の声と共に闇の中に埋まっている。

  • 下巻のハイライトは何と言っても帝銀事件。この辺りで松本さんの姿勢が腑に落ちる。客観的にデータを見れば、明らかに整合性を欠くにも関わらず、犯人があげられ片付けられてしまっている。こんなに盲目で良いのか。主権があると思っている我々が。

    歴史とは、記録になって発表されたもの。記録にするというその事自体に忖度、保身、栄達、圧力など様々な要素が反映される。文化の寿命は50年。1つのできごとの全体像が、瞬時に共有できる期間は長くて30年くらいだろう。その当時に判断力を持って生きていた人にしか、時代の空気は分からない。表に出た情報のその裏にある動きを、後からではもはや感じ取れない。そのところを、松本さんは大局的な推理という手法で表してくれた。言わば言っちゃならんことを明るみに出してしまっており、半藤さんも書かれている通り、読んでいる途中でその覚悟に恐れ入った。帝銀事件の取材がそうさせたのだろうが、松本さんにしか出来ない偉業だと思う。

    上巻で私が持った所感は最後にことごとく反駁されていて、己の浅はかさをただひたすらに恥じ入った。
    冷戦は何処か対岸の火事の気がしていた。2大思想対立のなかの日本の立ち位置、役割、高度経済成長の理由。全然終わってなんかない。
    祖母は勤めに出る時、身辺をめちゃめちゃ調べられたと言っていた。私はまだギリギリ、時代の残滓を直接知る人とコンタクトが取れるのだな。

  • 上巻に続き、謎に満ちた事件に対する作者なりの見解・推理が展開される。
    国内におけるレッド・パージの記録などが、こうして記録されていることには大きな意味があると思う。
    全てが朝鮮戦争に集約されていったという解釈も、そういうことも大いにありそうに思える。
    現在の東アジア動向を理解する上でも、こうした歴史に対する理解が必要だと思うが、日本の教育は現代史に対しては極めて薄弱なのだよな。。。

  • ▼映画「ボーン・アイデンティティー」シリーズなども含めて、冷戦後のアメリカ映画は、仕方なく?自国の諜報機関が腐敗している設定にして、それを悪役として物語を作ることが多いですね。その方が、悪役としては強いですから。そういう描写のなかで、都合の悪い一般人を殺したり、拉致したりすることがありますが、そんなことが現実に、本当に、あるんだなあ、という。
    ▼「日本の黒い霧(下)」松本清張。1960年。文春文庫。2019年8月に読了。
    もう60年前に書かれた松本清張の「戦後直後GHQ時代の、権力の介入疑惑事件についてのノンフィクション考察本」とでも言いましょうか。「証拠は無いけど疑惑だなあ」という事件について一章づつ書かれたものです。読み物としてまずオモシロイです。
    ▼もう何十年も前に「上」は読んでいて、更に最近再読までしていたのですが、恐らく下は始めて読んだのではと思います。別段続き物ぢゃないので、ついつい読み逃していました。
    ▼下巻はGHQがドサクサにダイヤモンドを着服?したのでは、という「征服者とダイヤモンド」。ほか、「帝銀事件の謎」「鹿地亘事件」「推理・松川事件」「追放とレッドパージ」「謀略朝鮮戦争」。特に印象に残ったのは「鹿地亘事件」。
    ▼中国共産党などへのシンパだった小説家の男性が、アメリカ諜報機関に拉致監禁された事件。1951年から翌年末にかけて、なんと1年以上。自殺未遂2回。それが結局、「こりゃあんまりだ」と感じたのか、諜報機関にいた日本人協力者が、家族などにリークしたことから公然たる騒ぎになり、結果、解放された。
    ▼それが、長くに渡って監禁された場所のひとつが、東京湯島の旧岩崎邸。明治の立派な洋館で、今では一般公開もしています。結構好きで何度か訪れているんですが、色んな近現代史の舞台になっているんだなあ・・・。

  • 下にもなってくると、ちょっと、飽きてきました。

  • ・征服者とダイヤモンド
    ・帝銀事件の謎
    ・鹿地亘事件
    ・推理・松川事件
    ・追放とレッド・パージ
    ・謀略朝鮮戦争
    ・なぜ『日本の黒い霧』を書いたか

    最後の「なぜ『日本の黒い霧』を書いたか」、章末の半藤一利さんによる解説、この2つで、この上下巻の意味・真意が分かりました。

  •  1960(昭和35)年発表。
     松本清張の有名な本だが、小説ではない。ノンフィクションとして、戦後間もない、GHQに支配されていた時期の事件の細密な調査を行い、そこに清張自身の「推理」を加えた読み物である。従って、資料が示す客観的な事実と、筆者の主観とがそれと分かるように明示されている。いずれも曖昧なままに封印された事件なので、明瞭確実な決定的証拠があるわけではなく、清張の主張はあくまでも推測に留まっており、結局はGHQというアメリカの権力の日本社会への恣意的関与が根本的な原因として窺われるという結論はおぼろげに浮かぶ幻想的な解釈である。その点を清張自身も十分に分かっている。
     雑誌連載の当時から、本作の「推理」にはかなり批判があったらしい。じっさい、昭和35年という時期においてはまだまだ占領下の日本に起きていたことが明るみになっておらず、清張の本書での切り口はその解明の嚆矢というべきものだ。現在はもっと判明していることがあると思われ、本書の論述が妥当でない部分も相当あるだろう。その辺について私は何も調べていないから検証できず、これを読むのはあくまで話半分、一種のファンタジーとして受け取るといった程度に抑えておかなければならない。
     しかし、GHQ、CIC(CIAの前身らしい)といったアメリカ権力が絶大な力を誇っていた当時の日本では、さもありなんという気がする。
     ここでは清張の勇敢さと、大量の小説を書きまくっていたさなかにこうした調査活動を行っていたというそのことのエネルギッシュさ、情熱に感服したい。

  • 上巻に引き続き、戦後日本で起きた未解決事件の推理を展開する。
    最終的に、朝鮮戦争へと話は繋がる。

    GHQは、戦後日本を民主主義と反戦へと方向転換をしたが、冷戦勃発により共産主義を押しとどめる必要にかられた。
    そして、日本でも増え続けている共産主義を大人しくさせるため、共産主義者の恐ろしさを日本国民に植え付けるために、これらの事件をGHQが起こしたと松本清張は推理する。

    全てがそうだったとは言い切れないにしても、もしかしたらそういう背景があったのかもしれないと考えさせられる。
    GHQそのものが関与していなくても、現場の米兵が起こした事件があったのかもしれない。
    占領中だったため、それらを隠蔽するのは容易かったはず。
    そして、アメリカのこれらの策略は朝鮮戦争へと繋がっていたという推理で締め括られていた。

  • 松本清張 「日本の黒い霧」 戦後占領下の日本で起きた数々の怪事件の謎を追った本。


    実際起きた怪事件の推理といい、それぞれの事件に隠された共通の謀略を突き止める構想力といい、タイトルの妙といい、結文の締め方といい〜傑作だと思う。


    最終章「謀略朝鮮戦争」で それまでの怪事件がつながっていき、占領下の日本がタイトル通り「日本の黒い霧」の状況であることに恐怖を感じる


    著者が危惧した「日本の黒い霧」の状況は今も変わらず、日本は アメリカの同化戦略に乗っかって、反共産主義化し、アメリカ依存を強めているのかもしれない。アメリカが主導する反共的な国際社会以外の選択肢がないのだろうかと思う

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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