秘密 (文春文庫 ひ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167110062

作品紹介・あらすじ

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な"秘密"の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 妻と娘を乗せたバスが崖から転落。娘だけが助かるも意識は妻が生き残り… 家族の悲劇と絆の物語 #秘密

    ■あらすじ
    妻と娘を持つ主人公が事故の知らせを受ける。家族を乗せたバスが崖から転落したというのだ。残念ながら妻は亡くなってしまい、娘だけかろうじて助かることになる。
    しかし娘が意識を取り戻すと、体に宿っていたのは妻の意識だった。夫と娘の奇妙な暮らしが始まっていく。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    東野圭吾先生お得意の家族の絆を描いた名作、人体と意識が入れ替わるという不思議な世界観で綴られるミステリーです。

    まず一番の魅力は、人と人との関係性の描き方。
    さすが東野圭吾先生ですよ、ミステリー界では日本一じゃないですか。

    ・夫が妻を不満を察して譲る→妻はさらに引いて夫を慮って譲る→そんな妻を愛しむ
    ・夫が妻に不満を言う→妻が反論する→夫が妻に代替案を出す→妻がさらに代替案を出す→結局夫の不満は解消しない

    こんな感じの会話が繰り広げられ、絶妙な距離感に痺れるんすよね~ 自然と気持ちが引き込まれちゃうの。めっちゃ上手いですよ。

    そしてキャラクターの人間性が抜群に描けていて最高。
    こうあるべきという思いを胸に前向きに生きているはずが、弱さや情けない部分をあえて痛烈に描いていて、あたかも自分自身のことのように感じることができる。

    私も父親であり男であるので、妻や娘を守りたくなる気持ちに反し、嘆かわしい我欲が沸いてしまったり、悲しいケンカをしてしまう主人公の気持ちがよくわかります。
    それに対して母が娘や夫に対する思いが切ないよ…葛藤が胸に刺さる。やっぱり女性と母は強く、カッコイイですね。懐の大きさと温かみ伝わってきました。

    また本作は、当時の社会問題性も描かれているんですよね。
    かつて2000年くらいに貸切バスの規制緩和があり競争化が激しくなりました。それによる従業員の労働環境へのしわ寄せも当然あったのでしょう。そしてなぜバスの運転手は我武者羅に働く必要があったのか。ここも本作品の読みどころなので、しっかり感じ取らせていただきました。

    ■推しポイント
    本作のタイトルでもあり、キーワードでもある「秘密」という単語。
    非常にシンプルですが、重い。この重さがイイ。

    私は東野圭吾先生で一番好きな作品は『白夜行』なんですが、本作『秘密』は『白夜行』と相対する作品のような感じがしますね。
    重く重く心に響く、素敵な名作でした。

  •  1998年刊行で、直木賞・吉川英治文学新人賞両候補、日本推理作家協会賞(長編部門)受賞など、それらの冠名に恥じぬ、東野圭吾さん初期の感動的な作品でした。

     主人公・杉田平介の妻と娘を乗せた夜行バスが事故を起こし、多くの死傷者を生んでしまいます。平介の妻は搬送先の病院で死亡、娘は仮死状態でした。そんな中、奇跡的に目を覚ました娘の中に宿っていたのは、妻の魂だったのです。

     表題の「秘密」とは何なのか? 娘の体に妻の心が宿った"憑依"現象のことに違いないと思いつつ、バス事故の真相へつながる伏線も関係し、展開が読めません。

     何といっても、妻・直子の夫として、娘・藻奈美の父として苦悩する平介の心情が、実に丁寧に描かれて胸に迫ります。
     喪失感、孤独感、焦燥感を恐れるあまり、過剰な愛情が歪み、執着が束縛へ変容していきます。
     弱さを曝け出し、その身勝手な言動は受け入れられない部分もありますが、むしろ、普通の一人の男の本当の姿を炙り出している気がしました。
     
     ネタバレはされませんが、最終的に「自分が愛する者にとって幸せな道を選ぶ」という結論に辿り着いたのですね。
     不幸な事故後の父と娘の物語と思いきや、最初から最後まで、"見事なまでの夫婦の物語"でした。
     最終末、本当の「秘密」も明らかになり、苦悩から解放される救いは、大きな感動をもたらしてくれました。胸熱で心震える読書体験を貴方にもぜひ!

  • 【感想】
    東野圭吾の代表作の1つと言われている本書。
    これまで同作家の本の数々を読んできましたが、何故かこの本だけ見事に見落としていて、読んだことがありませんでした。
    20年以上も昔の本なのですが、そこはやはり名作、とても読み応えのある1作品でした。

    「あらすじ」にも書いてある通り、主人公の妻と娘がバスの事故の被害に遭ってしまい、娘は無事意識が戻ったものの、精神自体は妻のモノになってしまっているという物語。
    正直はじめは、父を励ますために娘が母のフリを頑張って演じているのかな?と思いながら読んでいましたが、そうではありませんでした。
    個人的にとても共感した点は、「娘・藻奈美の身体を借りて新しい人生にチャレンジしよう」という妻・静子の試みです。
    小さい頃を顧みて、「あの時こうしたらよかった」と思うのはもはや人間の性なのかもしれません。
    そこに、「自分の娘の人生をより良いものにしてやりたい」という親心も加わっているのも、かなり自然な事なのかもしれませんね。
    ただ、夫・平介の嫉妬心もよく分かる気がします・・・こっちはこの複雑な環境に我慢しているのに、君だけ青春を謳歌しやがって!って、そりゃ思いますよね。
    本当に、平介には幸せになってもらいたいです。

    少しSFチックな内容ではありましたが、家族の人間模様や心理描写がとても精細に描かれていました。
    僕自身、妻と娘の3人家族であるため、読んでいて感情移入の度合いがハンパなかったです(笑)



    【あらすじ】
    運命は、愛する人を二度奪っていく。
    自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。
    長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。
    妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。

    その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。
    外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。
    年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、 平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

    98年度ベストミステリーとして話題をさらい、広末涼子主演で映画化、志田未来主演で連続ドラマ化もされた東野圭吾の出世作。
    累計200万部突破の伝説のベストセラー。


    【メモ】
    p427
    「お父さん」藻奈美がいった。「あたし、帰ってきてもよかったのかな」
    平介は彼女のほうを向いた。彼女は泣きだしそうな顔をしていた。
    「当たり前じゃないか」と彼は言った。「お母さんも喜んでるんだ」
    藻奈美はほっとしたように頷いた。


    p428
    「最後にもう一度ここへ連れてきてくれてありがとう。」直子が言った。
    平介は、彼女のほうに身体を向けた。
    「やっぱり・・・最後なのか」
    彼女は彼から目をそらさずに頷いた。
    「どんなことにも終わりはあるのよ。あの事故の日、本当は終わるはずだった。それを今日まで引き延ばしただけ」
    そして小声で続けた。「引き延ばせたのはあなたのおかげよ」

  • 本作『秘密』は特殊な設定も日常の描写も含めて、とても心に響く作品でした。

    自動車部品メーカーで働く平介は、ある日の朝に妻と娘がバス事故にあったニュースを目にし、動揺する。
    妻と娘を一度に亡くすのでは?と言う恐怖の中、奇跡的に小学生の娘は命を吹き返すのだが………。

    前半は娘?との成長を素直に喜べない平介の葛藤や、次第に遠退いていく妻との想い出と今に苛立ちを隠し切れず、また同時にバス事故の真相に引き寄せられ、何かの答えを求める自分の行動が周りから冷たい視線を向けられと、何とも言い難いがリアルさを感じる展開。

    一方の後半は、娘との日常を受け入れ、父親として奮闘しつつ、その時を迎えると言う切ない展開。しかし最後は『秘密』を知り、涙する。

    ミステリ作品が多い印象の東野圭吾さんだが、このような辛くも心温まる作品が読めたことは、素直に良かったと思える読後感でした。

  • 主人公の言動が不快に感じる場面(時期)もある。
    けれど、最後の最後に本当の意味の「秘密」が出現して、これには泣かされてしまった。

  • ずっと積読してた。

    なんとも切ないファンタジー。
    こんなことあってたまるか。私が平介ならどうなる・・・・・・。ううん。笑えない。
    平介も直子も藻奈美も、よくやったよ。

    妻と娘。
    どっちも大切に決まってる。
    ずっと三人の生活であればうれしい。

    非現実的なのに、生々しさを感じる物語に妙な読後感。
    秘密という覚悟、決意、妥協。

    読了。

  • 初めて東野圭吾の小説を読んだ。
    他の人が黙々と作業をしている部屋で読んでいたが、面白くて思わず笑いそうなった所があった。
    読みやすくて、色んな表現が心地よくて集中して読み進められた。

  • 妻と娘を襲ったバス事故。
    それによって亡くなった妻。奇跡的に意識を取り戻した娘。
    ただ、その娘の体には妻が宿っていた。
    そんなショッキングな始まりの夫と妻と娘の物語。
    事故後の現実と、娘の体に宿った妻の11歳からの人生。
    それぞれのギャップ、葛藤、苦悩。
    なかなか重い気持ちになるストーリーで。
    非現実の状況における現実。
    今回もこの世界に引き込まれました。
    終盤になってもどういう終わり方になるのか予想できなかったけど。なるほど。
    有名作と呼ばれるのに納得の1冊でした。

  • しばらく積んであった本。

    あらかたのストーリーは知っていたので
    中々読もうと思えなかったけど、
    やっぱ読んで良かったですね。

    読みながら、現実には起こり得ないことに
    自分だったらどうするか?なんてことを
    考えてしまいました。
    切ないですね。

    何より著者は本当にタイトルを付ける
    センスが抜群ですね。

  • フォローさせて頂いているアンシロさんお勧めの東野作品。

    主人公・平介の妻・直子と小学生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。
    娘だけが奇跡的に助かりますが、なんとその身体には妻の意識が宿っていて・・。

    “転生したら、自分の娘だった”・・とは、またちょっと違うのですが、身体は少女(娘)、人格は大人の女性(妻)という、アンビリバボーな状況での奇妙な生活と、夫婦(父娘?)の困惑や葛藤が描かれています。
    娘・藻奈美としての人生を生きようと決意する直子に対する、平介の複雑な心理描写がなんとも絶妙でお上手なんですよね。
    ただ、物語の半ばでは平介の嫉妬心がエスカレートして、行動がストーカー化していく様子(“自分の家族”にストーカーってww)には、“あちゃ~・・(ノ_<;)”と、目を覆いたくなりました。
    そして、バス事故の加害者側である、亡くなった運転手が超過酷労働をしていた背景も、もう一つのテーマとして話に深みを持たせていて、この運転手の遺族との接点が、終盤に思わぬ縁となってくるのも注目です。
    そして、後半ではある異変が起こって家族の関係性が変わってくる展開になるのですが、結局ラストでは・・・それは「秘密」に隠された意味がオチになっているということなんですかね・・・ということで、なんとも切ない余韻が残る読後感でした。
    個人的には、亡くなったバス運転手の娘、梶川逸美さんが幸せになっていてほしいです。

    因みに、本書(文庫版)の巻末に、この作品の映画版に出演して、ちょっと前に世間をザワつかせた広末涼子さんが文書を寄稿されているのを読んで、却って映画版を見てみたくなった私でした。

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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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