片想い (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167110093

作品紹介・あらすじ

十年ぶりに再会した美月は、男の姿をしていた。彼女から、殺人を告白された哲朗は、美月の親友である妻とともに、彼女をかくまうが…。十年という歳月は、かつての仲間たちを、そして自分を、変えてしまったのだろうか。過ぎ去った青春の日々を裏切るまいとする仲間たちを描いた、傑作長篇ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 甘酸っぱい恋愛小説のようなタイトルだけど、そこは東野圭吾作品。
    アメフト部OBの人間模様。そこに絡むジェンダーの問題。
    殺人事件の真相、結末。
    600ページ超の長い物語だけど飽きることなく読めました。
    友情と愛情。男と女。様々なかたち。
    深く感銘を受けた作品のひとつになりました。

  • LGBTQが昨今よく話題に上るようになったけれど、これは1999年に書かれたと思えない性同一性障害を題材としたミステリ。

    精神としての男と女は誰しもはっきりと分けることは出来ない、というのがなるほどと思った。人間はなんでも言葉にあてはめて区別して考えがちだけど、そもそも物事はそんなに単純ではなく、多面的で多義的。人生とはすべからくメビウスの帯のうえを歩いているようなもの。そしていつも理解してくれない反対側へ片想いをしている、という示唆に富んだストーリーだった。

    「私は性同一性障害という病気は存在しないと考えています。治療すべきは、少数派を排除しようとする社会のほうなんです」

  • 何回も読み返している大切な作品。

    初版は2004年だが、昨今、更に社会で課題化されているLGBT、性同一性障害に早くもスポットをあてた作品である。
    全編を通して男と女とは、男らしさ女らしさとはを私達に問いかける。
    登場人物はそれぞれの「男女の性差」を自分の言葉で表現している。自分のと何が近いのかを考えるのもおもしろいかもしれない。

    毎回泣いている。

  • 心に沁みた文章。

    『性別なんてどうだっていいじゃないか。
    本人が男だっていうんだから、それでいいじゃないか。
    なんで、きちんと書類にしなきゃいけないんだ。
    書類に書いてあることは、いつも真実なのかよ。
    そんなことないだろ。』

    誰もが幸せになれる世界になれますように。

  • 2004年発刊の文庫なので、もう10年以上前の作品ですが、
    ここのところのガリレオor加賀恭一郎ばかりではなく、
    こういう書き下ろしにも力が入っていた時期かな、
    と勝手に思っている頃の作品です。
    (この前くらいには秘密を上梓しています)

    おそらく2005年ごろに人からお借りして読んだような記憶があるのですが、
    ほぼ内容を忘れていたため今回買って読むことにした次第です。

    一応東野さんらしく、殺人事件が軸になっていて、
    そこを中心にストーリーが展開していくわけですが、
    やはりここも東野さんらしく、その登場人物たちの抱えている事情が
    殺人事件以上に物語を彩っています。

    主人公は元アメフト部のクオーターバック、
    その奥さんは当時の美人マネージャーです。
    そこへ当時一緒にマネージャーをやってた
    日浦美月という女性が男性になって姿を現した、
    というようなところから話が始まり、
    殺人事件に深く関わっている美月をどうにかして守ろうと、
    主人公たちが奔走していくことで物語が進んでいきます。

    途中で美月が抱える性同一性障害に関連して、
    色々な登場人物からジェンダーに対する意見・見解が出てきます。
    この物語で一番の肝は多分ここだったのかなと思いました。

    男とは何か?そして女とは何か?

    ただの性染色体のXXとXYの違いということではなく、
    心が男、心が女というのは一体なんなのか?

    そういう問いに対しての、
    現在の日本社会の許容性の低さへの警鐘や
    実際に自らの性へ違和感を持っている人たちの声を届けるため、
    この小説を書き上げたんじゃないかなと思いました。

    その中で男と女の関係を評して、ある人物が言います。
    「男と女ってのはメビウスの輪みたいなもの。
     普通は表はどこまで行っても表、裏はどこまで行っても裏だけど、
     このメビウスの輪は表だと思って進んでいたらいつの間にか裏にいる。
     そういう風に繋がっているのが男と女なんじゃないか」
    (かなり短くまとめてます)

    言いえて妙だな、と思いました。
    自分の中の男性性と女性性は否応無く存在しています。
    男だから男らしいことしかしないわけじゃない、考えないわけじゃない。
    でも、表面上は男らしさという社会が作ったレッテルに
    合わせて生きている部分はあるように思います。
    これ、それぞれは違和感なく同居してるんですよね。
    マーブル模様のように存在してるんです。

    だから男が男として存在しているのは
    その90~95%程度男っぽく出来ているから。
    女が女として存在しているのは
    その90~95%程度女っぽく出来ているから。
    ただそれだけのことなんですよね。
    そのバランスが偏ってなかったり、
    自らの身体の性とは違う方に偏ってしまったりする人が、
    性同一性障害となってしまうんだと思います。


    社会が作ったレッテルというものの多くは、
    こういう小説や映画、テレビなどから学んできたと思いますが、
    その小説からまたそれを考えさせられるというのは
    なかなかに面白い体験でした。

    単純に東野圭吾ファンでなくとも、
    こういうテーマに興味がある人ならおススメの一作です。

  • この小説を読み、過去の友人を思い出した。彼は女の身体と男の心を持つ人だった。胸をサラシで潰し、髪は短く切り、男性ホルモンを注射していた。喉仏が出始めて声変わりしていく様子、髭が生えたり筋肉がつき始める身体的な変化と共に、精神的に不安定になりやすいこと、自殺未遂をした過去についても話してくれた。当時の私はまだ幼くてトランスジェンダーという存在を知らず、「珍しい=カッコいい」という単純な思考だったおかげで、彼の身体の変化や彼女との交際の話も素直に聞けた。彼は面白い話でよく笑わせてくれたが、この小説に出てくる人たちのように辛い悩みを抱えていたのかと思うと苦しくなる。彼の存在のおかげで、トランスジェンダーに対する抵抗や偏見を持つことなく育ってこれた私は幸運だと思う。非常に繊細なテーマをミステリー小説としてここまで昇華させた東野圭吾氏に拍手を送りたい。

  • 大学アメフト部の仲間が卒業後13年目で迎えるかつてのマネージャーだった女性が絡んだ殺人事件。そしてその女性美月は主人公のQB西脇哲朗の同じマネージャーだった妻理沙子の親友で、久し振りに現れた時、殺人を告白し、そして心は男性になっていた。
    かつての仲間のそれぞれの人生、殺人事件に絡む人間の人生、複雑な人間模様が絡んで、単なる殺人事件ミステリーではない、性同一性障害と言われている人達の苦悩、そして殺人事件の真相と結末に驚愕し、愛と友情に感動する。

  •  ミステリー部分はは安定の東野圭吾クオリティという感想でした。東野作品は先端の題材を上手く取り入れて執筆されているので、過去の作品を読んでも古さを感じないのが個人的に好きな所ですね。

     ここからは大筋から離れますが、主人公夫婦の仲がアレでソレなのも安定の東野作品といった感じでした。作者も離婚経験があるので、それが作品に影響しているのかもしれませんが、私が一生独身でいたいと思うようになった原因の数割は子どもの頃から読んでいた東野作品にあると思います。

     また、青春時代に築いた絆は強くて切れないものなんだなぁと思わされました。もちろん、この作品のような題材で絆がどうこういう訳ではありませんが、ロクでもない青春時代を過ごして来た人間にとって、このような関係が少し眩しく見えるのも事実です。

  • 毎回ここまで深い社会テーマを題材に小説を書けることに感嘆せずにいられない。

    性別とは厳密に言えば明確に男と女に分けられるわけではなく、メビウスの輪の様に繋がっているものだと言うのは現代の考え方に即している。

    2004年に書いているとは思えない

  • トランスジェンダーについてインタビュー記事などで知っているような気になっていたけれど、実はあまり知らなかったと感じた小説。
    読み終わって少しつらい。
    性別や見た目にとらわれない本当の意味で多様性が認められる社会が早く来るといいなと思いました。
    深く考えさせられた小説でした。

    走り回る主人公ご夫婦に思い入れしにくかったのが少し…

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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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