- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167110116
感想・レビュー・書評
-
東野圭吾さん「手紙」
第129回直木賞候補作品、伊坂幸太郎さん「重力ピエロ」と同じ回にノミネートされている。
今回の「手紙」、東野圭吾さんの代名詞であるミステリーの要素はほぼ無く社会派ヒューマンドラマの作品だった。
強盗殺人犯の弟が主人公。加害者家族のうける社会的差別が描かれている作品。
物語は意外と平凡に感じるのだが常に何かを考えさせられる。その何かとは苦悩、運命、後悔、回想、未来だったりと多種多様なものだった。
一つの「罪」の影響力と響震力。凄く多面的であり被害者と加害者、その両家族、友人知人、一般世間等の距離感的な感情の流動とその時間的な長尺も要素として複雑に絡み合う。それらを含めて「罪」の重さと表現すべきだろうと感じた。
「償い」と「反省」という言葉もその「罪」の中では言葉として軽いのだろうと感じ、作中にもあったが何をしても誰しもが納得できる正解は無いであろうと思う。
それは加害者被害者共に共通する事なのだと感じられる。しかしそれは正解を求めるからこそ無いのであり、それを最初から求めないあるいは途中で放棄するのならば根本から違うものであり人間としてなんらかが欠陥していると思われる。その状況下では誰とてこの先も生きていくという過程では通らないといけない難題なのだと感じた。
この物語が秀逸だと感じる所がやはりラストシーン。主人公直貴が歌えなかったジョン・レノンの「イマジン」、「イマジン」=「想像」と日本語で解釈するならばこの兄弟に関しては声よりも歌よりも遥かに想像が押し寄せてきたのだと思う。
最後の文章、歌えない…声が出ない…
そう考えるとその文章以上に伝わってくるものが想像できてしまう。
決してその場の感情や過去の境遇だけではない、未来を感じたからだと思う。
だからこそこの作品のタイトルは「手紙」なのだと思う。彼らはあの瞬間に想像という手紙を交わしたのだろう。
この作品のその後のアフターストーリーは描かれていないが、願望も含めきっとまた二人は手紙のやり取りを再開し以前よりも密な交流を図ると推測。
兄が出所しようがこの先何があろうが手紙での文通だけは続けていくであろう。
「罪」というものと「未来」というものの真の姿に気づいたこの世に二人だけの兄弟。その事実をたとえ彼らの繋がる術がこの先も「手紙」という手段だけになろうとも彼らは手紙を書きあい二度と兄弟という絆を放棄する事はないだろう、そうあってほしい。
素晴らしい作品だった。
自分の読書歴で全東野圭吾作品中2割位は読んだろうか?
どれも題材、内容、構成の引き出しが多才で毎回素晴らしいと思わされる。
文句のつけようのない現代小説家の第一人者だと思う。作者の作品はこれからもどんどん楽しんで読んでいきたい。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
兄弟の絆としがらみ… 社会で生きる人が避けて通れない永遠のテーマ!社会派ミステリーの名作 #手紙
■レビュー
犯罪者家族をテーマに兄弟の絆を描いた社会派ミステリー。
いつもの東野先生どおり、シンプルな構成、読みやすい文体でどんどん読めてしまいます。ミステリー要素は少なめですが、社会派小説としてとてもよくできた作品です。
本作のテーマはなかなか重い…登場人物の社長が狂言回しになっていて、読者に分かりやすく伝えてくれます。自分がごまかし、敬遠してきた課題に対して、真正面から問題提起してきますね。
特に主人公が社会から卑屈になっていく様、愛する家族への疎ましく思う様、そして人生に思い悩む苦しむ描写が読んでいて辛くなりました。
それでも兄弟二人それぞれが、勇気をもって結論を出し、未来に歩んでいく姿はとても心を打ちましたね。
本作とてもバランスが取れた良い作品ではあるんですが… ごめんなさい、自分としてはもう一歩踏み込んでほしかった。
この問題は小説や映画だけでなく、ノンフィクション、ドキュメンタリー、人文社会学でも散々議論があるテーマです。読み手にもっと危機感や使命感を訴えるようなエピソードや展開があれば、もっともっと作品に深みがでると思いました。
■推しポイント
・最初の恋人との逸話
私も若いころに、恋心をいだいては行けない人を好きになってしまったことがあります。自分が見初められないのであれば仕方ないですが、両想いであるにも関わらず一緒になれない辛さ、皆さん分かります?ねぇねぇ
「心が荒む(すさむ)」という言葉がありますが、まさにこうなります。
・主人公の最後の手紙
私の両親はいつも仲が悪く、いつもケンカばかりしていました。
客観的にみると父が一方的に悪いことが多いため、私はよく母親側について糾弾していました。しかし姉は父の肩をもって、私と母親に反撃をしてきます。常々家族中が言い合いなっていたものです。
それでも父も姉も良いところもいっぱいあり、今でも大好きです。
主人公の最後の手紙は、未来への覚悟を決めるというだけでなく、自分自身を消し去ってしまうという負への挑戦が伝わってきました。果たして自分が同じ立場ならできるのでしょうか。 -
本書は、手に負えない困難な問題に直面した人物の、苦悩や決断を濃密に描いた物語です。
全編を通じて要所に挟み込まれる手紙。これは、資産家老女の強盗殺人で服役中の兄から、孤独に一人で生きる弟への月一回の律儀な手紙でした。
父母を亡くした後、弟の大学進学実現のため奮闘する兄が凶悪犯罪を犯し、その犯罪行為の直接原因が自分であるが故に悩む弟‥。
弟は兄の愛情を理解し感謝するものの、〝凶悪犯の弟〟という事実が、何をするにも壁となり立ちはだかります。バイト先、音楽活動、恋人‥と、偏見と差別が付き纏い、全てやむ無く諦め希望の光が見えてこない描写は切ない限りです。
自分が加害者家族だったらどうするのか? 隠し通すのは、保身か信頼への裏切りか? 身近にそんな当事者がいたらどう関わるのか? 読み手も難しい問題を投げかけられているかのようです。
犯罪行為があれば、加害者本人が罰せられるのは当然ですが、加害者家族も長い間社会的に罰せられるのですね。このどうしようもない事実を突きつけられ、考えさせられました。
加害者家族のその後の生活・その先を、真正面から描き切り、テンポよく読め、淡々とした描写にも関わらず、人間の内面に深く切り込んだ「読者自身に判断・選択を問う物語」だと感じました。一読、熟考の価値がありますね。-
NO BOOKさん、こんばんは。
これはいい作品ですよね〜
私は映画も見たんですが、玉山鉄二がすごいいい感じで、すごい泣けました。
悲...NO BOOKさん、こんばんは。
これはいい作品ですよね〜
私は映画も見たんですが、玉山鉄二がすごいいい感じで、すごい泣けました。
悲しい作品ですよね。2023/11/08
-
-
殺人事件などがテーマの作品では被害者側の目線で物語が展開していくということが多いのですが、この話は犯人側の家族の人生の話でした。
正直、犯人の加速に罪はないのですが進学、恋愛、就職などいろいろなものが不利になってしまうのが大変だと思いました。
こんなに感動すると思ってなかった! -
重々しい話だろうなーと思って買ったが、やはり暗めの話だった。今まで犯人と被害者の心情しか書かれていない本が多かったが、これは犯人の「家族」の心情についてかかれている。とても現実味のある本だった。
-
自身、東野圭吾の2冊目として読んだ。
やっぱり読みやすくて、表現が心地良い。どうなる、どうなる?であっという間に読み終えた。
読書の習慣がなくて今まであれこれ適当に選んで読んでいたが、東野圭吾の他の作品も読みたいと素直に感じた。-
今までは映画化されたから…、話題作だから…と本を選んでいたのですが、2、3冊読むと後に続かなくて読書が習慣になる事はありませんでした。
心...今までは映画化されたから…、話題作だから…と本を選んでいたのですが、2、3冊読むと後に続かなくて読書が習慣になる事はありませんでした。
心地よい表現の作品に出会えてからはスキマ時間というスキマ時間にひたすら本読んでいます笑。楽しさや達成感がいいですね!自分も戻って進んでを繰り返しているので、スローペースで読書を楽しんでます。
村上春樹氏の作品もぜひぜひ読みたいと思ってます。2023/09/13 -
おはようございます、アンシロさん。
返信が遅くなり、申し訳ありません。
村上春樹氏の作品は、苦手な方もいらっしゃるようですが、アンシロさん...おはようございます、アンシロさん。
返信が遅くなり、申し訳ありません。
村上春樹氏の作品は、苦手な方もいらっしゃるようですが、アンシロさんのお好みで是非一度は読んでみて下さいませ。心地良いお時間となられたら、嬉しいです。
2023/09/14 -
「マスカレード・ホテル」や村上春樹氏の作品を読んだら感想を書きます。ありがとうございます!
村上春樹氏のどの作品から読もうか考えるのもとて...「マスカレード・ホテル」や村上春樹氏の作品を読んだら感想を書きます。ありがとうございます!
村上春樹氏のどの作品から読もうか考えるのもとても楽しみです。2023/09/14
-
-
東野作品の有名作を読了。
加害者家族の苦悩と差別の現実が描かれた作品。
強盗殺人の罪で服役中の兄を持つ弟。
彼の視点での事件後の人生。
幸せをつかもうとにする度に「殺人犯の弟」という現実で壊れ。
辛いけどこれが現実なんだと思う。
犯罪は被害者は元より、自身の家族も社会的に殺してしまう。
だから犯罪は絶対にやってはいけない。
そう強く思った作品でした。 -
なんて作品なんだろう。東野圭吾さんの作品、まだ3作品めだがびっくり。想像していたミステリじゃない。
兄·剛志は弟の大学資金を得るため強盗を企て、殺人を犯してしまう。そこから、弟·直貴の人生が1ヶ月ごとに届く兄からの手紙に沿って展開されてゆく。まるで流れる小川のような読み心地。
元は弟の将来のためであったはずなのに、兄が犯した罪が弟の人生の中で障壁となっていく。直貴は兄を恨むも恨めず、行き場のない諦めとともに人生を生きている。出会いや気付きを経て、直貴の兄への向き合い方も徐々に変化してゆく様が描かれている。
テーマが重いため簡単に自分の感情を移入できないが、きっと、正解なんてどこにもなくて。向き合い続ける他ないんだろう。
よく紹介されているのを目にして読んだが、とてもよかった。