新装版 青葉繁れる (文春文庫) (文春文庫 い 3-27)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167111267

作品紹介・あらすじ

「あげな女子と話ができたらなんぼええべねす」…東北一の名門校の落ちこぼれである稔、ユッヘ、デコ、ジャナリの四人組と、東京からの転校生、俊介がまき起こす珍事件の数々。戦後まもない頃、恋に悩み、権力に抗い、伸びやかに芽吹く高校生たちの青春を生き生きと描く。ユーモアと反骨精神に満ちた青春文学の傑作。

感想・レビュー・書評

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  •  主人公達の通う高校の卒業生として読みたいと思っていた。井上ひさしは大先輩として高校に通っていた時から名前は何度も聞いていた。作中で出てくる応援歌一番!自分が通っていたころはもうこの小説とはだいぶ雰囲気も変わっていたが受け継いでいたところもたくさんあり小説を読みながら懐かしくなった。特にチョロ松(校長先生)が…一高生には涙もの。
     今だと大問題になりそうなこともあるが時代が時代ということだろう。それがいいというわけでもないが、今の方がいいとも一概には言えない。

  •  仙台に行ったことがあるが、青葉城跡に行ってなかった。先日ホテルから、トコトコ歩いて、広瀬川を見て、森の中を歩いて、オオウバユリの群生を見ながら、伊達政宗像まで辿り着いた。あつい日で、汗だくだった。ずんだソフトクリームを食べて一息ついた。
     『青葉繁れる』の雰囲気は変わらない。1974年に出版された。井上ひさしは、昭和24(1950)年に仙台第1高等学校に入学した。主人公は稔。高校3年生。これを読んでいると井上ひさしは、硬派ではなく軟派だった。とにかく、空想することが楽しいのだ。高げたを履いて、ゆっくりと登校する。女子高校生を見ながら、その女子の対応に合わせて、自分が東大生だったら、慶應大学だったら、帯広畜産大学酪農科だったら、と考え、「凜々しい姿にイチコロとなった乙女を草むらに押し倒して」と妄想するのだった。でも、押し倒すことしかまだ知らない高校生なのだ。友達は、落ちこぼれで、ジャナリ、ユッヘ、デコの3人と連んでいる。
     そこに日比谷高校から転校してきた渡部俊介が登場する。また俊介は美人の多香子姉さんの弟だった。落ちこぼれは、多香子姉さんが好きだった。落ちこぼれから見ると、東京、しかも日比谷であれば、すごいヤツが来たと考える。本来英語かドイツ語の選択に対して、俊介はフランス語を選択する。稔は、映画を見ることが好きで、朝日新聞の純氏の映画評論は、絶対、完璧、完全と考えていた。純氏の評論を疑うことは、キリスト教徒がキリストの復活を疑うに等しく、仏教徒が釈迦の成道を疑うに等しかった。それを、俊介はいとも簡単に純氏の映画評論を論破する。稔は俊介を見直すのだ。
     宮城県は県立高校はすべからく男女別学でなくてはならないという古くさい方針を頑なに固守する県の教育委員会へのレジスタンスとして、英語演劇の合同公演をすることを俊介がぶち上げる。
     演目は「ロミオとジュリエット」。女子校のスターは、ひろ子でジュリエット役。俊介が、監督兼ロメオ役。監督権限で台本を変え、俊介はひろ子に迫るが、ひろ子は途中で転校してしまった。このひろ子のモデルが若尾文子。あとは、投げやりで、ドタバタ劇となる。
     落ちこぼれグループは、警察の「南署」の看板、「2女高」の看板、米軍キャンプの「第24師団司令部」の看板を集めまり学校の文化祭で展示する。それが大騒ぎになるのだが、そして校長先生は自由にさせていると言って辞任する。実におおらかな時代だった。
     井上ひさしの1級上に菅原文太がいる。ふーむ。菅原文太の出身は広島だと思った。とにかく、青春なのだ。いいもんだ。

  • なんだろうか、この痛快な青春小説の後ろにある得体のしれない闇は。大人に噛みついたり、大人のだらしなさを笑い飛ばしたり、大人を真似て酒を呑んだりしながら、戦後の混沌としたモラルが透けて見える。性的なものに関する少年たちの憧れを描きながら、一方で現実には性風俗の暴力的な描写が挟まれている。切ないが、それを笑い飛ばすような乾いた笑いが主人公たちにある。

  • 若さという強さと弱さを、惜しげもなく、そして恥ずかしげもなく押し出したThe青春小説。それをただの「青い話」で終わらせないのが井上ひさし氏の日本語の巧。特に終盤の描写は、それまでの流れを全て収斂し、不思議な涙を誘います。

  • 初めて読んだ井上ひさし作品。
    図書館で立ち読みしたところ、シーンとした館内で何度も笑い声が漏れそうになり途中で断念しました(続きは購入して自宅で)。

    終戦から数年経った仙台の、名門校の落ちこぼれ5人組を中心とする青春小説。
    全編が仙台弁での会話で、仙台に生まれ育った私は楽しく読みましたが、他(東北以外)の地域の方には読みにくい(分かりにくい)かもしれません。
    とにかく一つ一つの言葉にユーモア満載。おバカな主人公たちを始めそれを取り巻く登場人物も個性があり魅力的です。
    主人公たち一高生とお隣の二女高生が合同で劇をやるエピソードと、「それじゃ初雪だっぺ」がお気に入り。

  • 古き良き時代のバカ男子どもの話、というところでしょうか。素朴でおおらかな楽しさはよく伝わる。おもしろい。 でも、女子への視線はちょっと、と思う。あの年頃の男子ってこんなもんか?特に六章の松島の場面はひどい。全体的に悪行が行き過ぎている。 最終章で描かれているのは「青春の終わりの始まり」と言えるだろう。

  • 井上ひさしの青春記 宮城県立仙台一高時代へのオマージュ 若尾文子、菅原文太が出てきます、古いですね。

  • 男子高校生の妄想全開のアホっぽさ。
    チョロ松校長の清濁あわせた大人力。
    久しぶりに読んだ井上ひさしは、やっぱり言葉が上手い。面白いです。

  • 高校生男子はどの時代もアホだなと思う。そんなアホな男子を叱りつつ同時に守り育てていく校長の胆力。当時も今も一定数いるのだろうが、こういう大人に巡り会えた子供は、自分の至らなさを自覚し強くて優しく大人になると思う。ところで、この小説は井上ひさしが通っていた1952年ごろの名門、仙台一高の学生をベースに描いている。いま読めば67年前の高校生の話ということになる。ここまで昔になると、歴史小説か古典。夏目漱石の坊ちゃんを読んだ時の印象に近い。坊ちゃんは漱石の教員時代である1895年をベースとしているので、井上の小説とは57年の差だ。現代よりも坊ちゃんに近いのだから、歴史小説か古典と感じたのも無理はないかもしれない。

  • 冒頭の妄想の羅列が面白いと知人との会食で話題に上ったので早速図書館で借りて読む。しょーもない少年たちのしょーもない青春劇。たん瘤に対して等稔たちがやってることは普通に犯罪だと思うんだけど。。でもなんだかコミカルで笑えてしまう。。あんなにいい奥さん持ちながら若い女に現を抜かすのは許すまじだけどチョロ松の生徒への想いはいいね。こういうしょうもないところから失恋などを経て、ひとつひとつ学んで少年たちは大人の男になっていくんでしょうか。仙台の街そして少年たちのむさくるしく生(性)命力の溢れる様を表すかのようなタイトルが秀逸。。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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