新装版 青い壺 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167137106

作品紹介・あらすじ

無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壷。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壷が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 家族が購入して私は未読のまま(たぶん購入した本人も読んでいないと思われる)、長年本棚にあったうちの1冊。
    「旧い本を、ちゃんと1回読んでから断捨離しよう」計画の一環として。

    つい最近、近所の本屋さんのベストセラー7位の棚に本書が飾られていたのを見て驚いた。
    あの、家にある、相当旧い作品が何故今?
    帰宅して調べたら、どうも原田ひ香さんが「こんな小説を書くのが私の夢です」とおっしゃっていたことが発端らしい。
    原田ひ香さんの作品は4冊読んでいるが、失礼ながら、そんなにも出版社に影響を与えるような方だとは、私には不思議である。
    しかしまあ、ブームになっていて、家に未読のまま有るから読んでみた。

    有吉佐和子さん、初読み。
    有吉佐和子さんは私の親世代に近い。
    本書の舞台は書かれた当時と同じ昭和51年頃。
    当時の60歳70歳はこんなにも身体ヨボヨボの、世間で他人から「お婆ちゃんお婆ちゃん」と連呼されるようだったのか…。

    13話から成る連作短編集で、時代が古い割には読みやすくはあったが、出てくるその60歳や70歳の「老人」達の性格やわがままぶりを、どうも好きになれず。

  • 朝日新聞の書評で知り読みました。専門家でも12世紀の唐物の名品と目利き間違いをするほどの「青い壺」を巡る13の短編集。2篇目の退職したサラリーマンが、元の自分のデスクで判をつく姿にゾッとして、一気に物語に引き込まれました。中には、映画「東京物語」を彷彿させるようなホッととする作品もありますが、全編が毒に満ちた家族小説というか普段は隠したい部分がさらけ出されているような物語集です。時には、盗難にあったりして、次々と持ち主が入れ替わり、ラストには、いつの間にかついた古色にまた背筋が寒くなりました。

  • 派手な展開ではなく淡々とつづられる物語だが
    じわりじわりと胸の中で大きくなる
    100万回生きた猫が脳内に浮かんできた笑
    登場人物一人ひとりの生き様と心理描写が素敵
    昭和の作品の良さにハマってる今日この頃

  • どこの書店も平積みされている有吉佐和子『青い壺』。有吉佐和子初読み。

    陶芸家の省造。偶然出来上がった青磁の壺。
    美しく焼き上がった青い経管に古色をつけるよう道具屋から頼まれ、葛藤する省造。

    省造のもとを離れた『青い壺』は、さまざまな人の元を巡り、それぞれの人生を見ることに…

    ごくありふれた日常が描かれた連作13編。

    定年後、粗大ごみと化した夫に苦悩する妻。惚けてしまい、退職した会社で仕事をする夫。
    ジェネレーションギャップに馴染めない生け花好きの祖母。
    50年ぶりの同窓会に京都旅行に行く祖母と同級生たち。
    最後は海を渡り遠きスペインへ…
    名もなき陶芸家・省造に生み出された壺は、いつしか評論家の目を欺くほどに…

    『青い壺』がもっと人の人生を左右するのかと思ったが…
    壺だけにほんとにそっと置かれているだけ。
    最後には全く価値が違うものになっていたなんて…
    省造にとってはいいのか、悪いのか…
    人によって物の価値は変わる。
    シスターの家族にとって、青磁の壺の価値なんて、理解できないだろう、ましてやスペインじゃ。
    結局、価値なんてそんなものなのか。

    昭和感満載ながらも、古さは感じず。



  • 青磁の壺が人から人へ伝わっていく数奇な連作短編集。京都で磁器を作り続ける省造はある日会心の壺を焼く。この壺が狂言回し役となって、持ち主が移り変わり語られるエピソードが楽しい。練達のストーリーテラーが綴る極上のエンターテイメントです。

  • 有吉佐和子さんの作品を読んだのは、本書が初めてです。
    著名な小説家であることは昔から存じており、いつかは読もうと思っていたところ、本屋さんの文庫コーナーの目立つ位置に、本書『青い壺』が平積みされていたので、手に取ってみました。
    裏面の「あらすじ」を読むと、
    人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作
    と書いてあり、これは「読まねば」とレジに向かいました。

    さて、本作品の構成は第一話~第十三話までの連作短編集となっていますが、青い壺を廻って、人間の機微が見事なまでに描かれていると感じました。

    連作短編集であることから、何話が良かったというのはそぐわないのかもしれませんが、第十二話(青い壺をスペインから持ち帰った美術評論家が入院している病院に勤める清掃婦の話)が最も私の好みに合いましたね。
    シメ(第十二話の主人公?である清掃婦)が同居している息子夫婦と孫達との、質素ながらも仲睦ましい生活ぶりが滲んでおり、とりわけ、
    「極楽だな」
    シメは呟き、間もなく健康な寝息を立てていた。シメは寝入りばなに鼾をかく。
    とのラストの描写には心打たれ、嫉妬さえ感じるほどでした。
    また、第一話で道具屋から(作られた年代を古く見せるため)細工を施して「古色」をつけてくれと頼まれた青い壺(結果的に細工は施されていない)が、最終話までの僅か十余年で、いい「古色」になっていたという結末は、人の邪欲への皮肉なのでしょうか?

    最後に、帯の表面に
    人間心理への迫り方に唸る 不朽の名作!
    と謳ってありますが、誇張ではなく、そのとおりだと思いました。

  • 壺とか美術品の価値って難しいと思う。扱い方も。

  • この作品もうまい文章、巧みな構成。
    さながら青い壺から、アラジンの魔王が飛び出して語ってくれるような、磁器の青い花瓶をめぐる人間模様、あるあると思いながら微苦笑。

    作者がわたしの同時代作家だから、そのころ話題の作品は昔に読んでいるつもりだったが、究めていなかったらしい。『恍惚の人』を再読してそれに気が付いたのだが、『非色』『青い壺』と未読作品を読み進めるにつけ確認。

    作者のこの傾向は『悪女について』や『不信の時』にあったのはもちろん、きっと既読の『紀ノ川』や『有田川』も牧歌風の小説ではなかった(?)のだと思えてきた。

    出版界の不振が古き作品を復刻してくれる、本好きには良きことかな。

  • 連作短編集が大好きでよく読むが、中でも本作は連載短編小説の金字塔と言っても過言ではない、それほどにこの作品の虜となった。
    ある陶芸家が、自分でもよい出来だと自負するほどの美しい青磁の壺。持ち主を次々と変えながら流転の旅をするこの壺が見つめることとなる、老若男女様々な人々の生き様。定年ブルーの夫婦、醜い相続争い、老いた母を引き取る独身女性、子育てや介護が終わり自分を持て余す主婦…。それぞれに濃密な昭和のドラマが繰り広げられるが、思いがけない真実があぶり出されて「ヒィッ!」と声が漏れそうになる展開、多数。背筋が寒くなることもあれば、切なくなったり苦笑いしたり、人生って滑稽だなと感じることも。苦いだけじゃなく、じわりと心温まる場面も、フフッと笑いたくなる瞬間もあり。中でも高齢の同窓会を描いた話は、どこかコミカルで好きだ。どの話も短いながら、それぞれの登場人物の来し方行く末が透けて見える描き方が、本当にすごい。そして、流転する壺も…その都度価値も扱われ方も変わるのだが、その変化が登場人物達の心情を反映しているようで、お見事。これは、何度でも読み返すなぁ…。そして読み返す度に、震える。

  • 壺をめぐる短編集
    色々な人の手にわたり、その価値も変わっていく
    一度でもケチがつくと美術品としての価値はなくなってしまうのか、目利きの人によって復活することもあるのか

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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