絵具屋の女房 (文春文庫 ま 2-18)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167138189

感想・レビュー・書評

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  • 確かに面白いですよ。
    ・忠臣蔵の大星由良之助の由良の由来
    ・本のジャッケトの考察
    ・長い槍と短い槍の優劣の顛末
    ・徳富蘇峰論ー政府寄りだったが、日露戦争時の判断は見事
    ・糖尿病に効くシャーマンの薬
    ・明治天皇も大正天皇も養子だったこと
    ・獄中で敬愛された市島謙吉と安部譲二
    ・古代のチーズの蘇と栗の話
    ・名講義の大学教授
    ・野球に熱中したインディアンのプエプロ族
    ・児雷也の由来
    どれもかなりの蘊蓄で、読んで満足。しかし、「あのボタン」ではエロ爺大爆発。クリトリスを発見したマテオ・レアルド・コロンボ(16世紀の解剖学者)を大絶賛して、発見時を描写した文章を引用し、クリトリスに関することを長々と論じる。実に楽しそうなんだよなあ。

  • 丸谷才一のエッセイは大好きだ。どれをとってもはずれがない。楽しく読めます。

    ・・・が、今回はちょっとだけ「ん?」と思った。前に読んだ話だなぁとか(もちろんまったく同じではなく、その続きであったりするのだけど)、話が脱線するなぁとか、ちょっと残念なところもあった。(ので、星ひとつを減じて4つとしよう)

    扉のところの文章がとてもよかった。
    老いの寂しさと、その中にある風雅、とでも言おうか。

  • 2012年に亡くなった丸谷才一さんの随筆集。旧仮名遣いで書かれる丸谷さんの文章は、旧仮名遣いであるにも拘らず平易で、旧仮名遣いだからこそ感じられる温かさがあります。

    たとえば、本のカバーは本を売るための大切な表現の舞台であるのに、その一部を帯で覆ってしまうことについては、「わたしはバーコードといふ不快な意匠がそもそも気に入らないが、これを裏ラパー上部につけさせるなんてのは無茶苦茶だと思ふ。横暴ですよ。…しかし本屋で見てゐると、店員が手に持つた道具をグイと当てて読みとらせてゐる。あれだつたら、どこでもいいわけです。バーコードは裏の下のほうにつけると改めませう。」
    イギリス人の得意領域に中距離、製薬、スパイがあって、中距離とスパイは理解できるが製薬はなぜだろう、という問いに対する私案として「例の大航海時代といふのは新薬の探求が大きな動機だつた。…とここまで来たとき、わたしは気がついたのですね。イギリス人の得意の領域の一つが製薬であるのは、彼らが大変な旅行家であるせいではないか、と。これはいいみたいですね。彼らは世界中を旅して、あるいはスパイをおこなひ、あるいは薬を探す。そして、もしも敵のスパイとか警察とか憲兵とかに追ひかけられたり、あるいはこれもまた薬を探してゐる象に襲はれたりすると、得意の中距離で逃げるのではないか。」
    甘栗が大好きで、「渋谷のなにがしといふ薬屋で薬を買ふと、隣りの甘栗屋で甘栗を貰へる券をくれる。ほんの数粒なのだが、じつにしあはせな気持になる。この手を思ひついた薬屋の主人は頭がいいなあと思ふ。」

    こんな感じの考察や私見が、深い知識と豊富な読書、人生経験を裏付けにしてふんだんに盛り込まれています。こうした読みやすい柔らかい文章は、電車の中でもソファに座っていても布団の中でも、場面を選ばずに読むことができるので幸せです。もはや新刊を読む機会は得られない訳ですが、亡くなる直前まで随筆や書評を発表し続けていた丸谷さんの作品は、まだまだ楽しめる余地がたくさん残っています。

  •  丸谷さんを読むたびに思うのですが 自分が少し賢くなったような気がします。 学生時代、本屋でバイトしていたのですがその本屋によく丸谷さんがいらっしゃっていました。当時はまだ読んだことがなく 今思うと大変もったいなかったなと・・・

  • 今週読んだのは、仕事がらみのものは除いて、これ1冊。

    相変わらずの丸谷大先生の博覧強記ぶり。
    どんなことにも、背後には恐ろしく広い文脈がある。
    多くの知識に支えられている。
    それが惜しみなく披歴されるのがこの人のエッセイであった。
    何の役に立つか、なんて気にしちゃいない。
    読者もそんなこと求めちゃいない。

    朝鮮出兵をした秀吉が、明・清の小説でどんな風に出てくるか。
    徳富蘇峰、国民新聞と桂内閣の「癒着」。
    しかめっ面で扱われそうなこんな話題も、さらりと扱われる。
    「蘇甘栗使」(大饗の時朝廷から大臣に贈られる甘栗と蘇の使い)なるものが存在したこと。
    甘栗談義はなかなか面白く、日本の、水飴を使って煎る「天津甘栗」は、中国にも進出してなかなか好評だとかいう話に、むしろ反応してしまう。

    この巻では割とお色気ネタが多いかも。

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著者プロフィール

大正14年8月27日、山形県生まれ。昭和25年東京大学文学部英文学科卒。作家。日本芸術院会員。大学卒業後、昭和40年まで國學院大學に勤務。小説・評論・随筆・翻訳・対談と幅広く活躍。43年芥川賞を、47年谷崎賞を、49年谷崎賞・読売文学賞を、60年野間文芸賞を、63年川端賞を、平成3年インデペンデント外国文学賞を受賞するなど受賞多数。平成23年、文化勲章受章。著書に『笹まくら』(昭41 河出書房)『丸谷才一批評集』全6巻(平7〜8 文藝春秋)『耀く日の宮』(平15 講談社)『持ち重りする薔薇の花』(平24 新潮社)など。

「2012年 『久保田淳座談集 暁の明星 歌の流れ、歌のひろがり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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