椿山 (文春文庫 お 27-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167141639

感想・レビュー・書評

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  • 最後の椿山は武家の話。正しいこと、やりたい政治をする為には出世してのし上がるしかない。それは今も昔も変わらない。が、公私にわたり身分に縛られていた時代ではのし上がることも…。主人公才次郎の決断と生き様…良かったです。本作も心に残る良い話でした。

  •  乙川優三郎、「五年の梅」「かずら野」「さざなみ情話」、良かったです。「椿山」(2001.11)も良かったです。ゆすらうめ、白い月、花の顔(かんばせ)、椿山 の4話。遊女おたかの潔さに心を奪われた「ゆすらうめ」一番です。二番は嫁と義母(うるさ型→惚け)の関係を描いた「花の顔」。出世か人格(人間)かを問うた「椿山」、ラストに拍手を!

  •  生きることは大変なこと。
     自分の思いとは裏腹な生活を強いられてしまうこともあれば、そんな人を見ても何も手助けできないこともある。また、いつの間にか自分の気づかぬうちに自分自身が変わってしまうこともある。それを時代小説4編で表した作品集。
     場面設定は江戸時代であるが、現代にも通じる内容。どの作品も余韻を残す。

  • 市井の人、女性の生き様が書かれた話が秀逸。どの話も誰もが抱えているだろう葛藤を、さらりと書かれてるのにしっかりと映し出される風景と共に読ませる。この人の書く女性たちが、今の私にいろんなことを気づかせてくれる。暗い話が多いのだが読み終わった後、嫌な気持ちになるどころか心の底から力が滲み出てくるような気になる。最後の話は男性が主人公だが、派手に立ち回るのでも、ヒーローでもなく、自身の成長とそれに伴う心情が書かれていて、これもよかった。語彙力が足らずこの小説の魅力を書き残せないのが辛い。

  • 面白かった。著者の傾倒する作家が山本周五郎とのことだが、私にはどちらかと言えば藤沢周平さんに近いように思える。まだまだ枯れていない周平さん。今後うまく枯れていくと、今でも感じられる透明感みたいなものが、もっともっと出てきて、ほんとにいい味になるような気がします。周五郎とも周平とも違った、別の枯れ方みたいな所を目指していただきたいと思います(くちはばったいですが)。
    もっとも略歴によると、乙川さん1996年頃のデビューですが、すでに50歳前。遅いデビューの人です。

  • 【本の内容】
    小藩の若者たちが集う私塾・観月舎。

    下級武士の子・才次郎はそこで、道理すら曲げてしまう身分というものの不条理を知る。

    「たとえ汚れた道でも踏み出さなければ-」苦難の末に権力を手中に収めたその時、才次郎の胸に去来した想いとは。

    生きることの切なさを清冽な筆で描ききる表題作など全四編を収録。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    収録されている4編はいずれも苦い。

    人生の修羅についての短編集といってもいいすぎではないくらいだ。

    人間はこんなに弱くて醜いのに、世界はこんなに美しい。

    視覚に直接うったえてくるので涙腺がやばい。

    例えば、『花の顔』。

    武家の体面を気にする厳しいばかりの姑が痴呆になり、さとは家の中で二人きり追いつめられていく。

    戸惑い、ヒステリーをおこし、よれよれに疲れて、殺意をいだいた夜、さとはその情景を見る。

    壮絶な美しさが迫力だ。

    例えば、表題作『椿山』。

    以前課題に取り上げられた『喜知次』によく似たテイストだが、個人的にはこちらの短編の方が容赦がなくて好き。

    汚れた主人公が最期に回想する情景のまぶしさに目がくらむ。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  人生うまくいかないけれど、そこで何とか必死に生きようとする人たちの物語。
     女郎からやっと堅気になったのに家族のために3日で舞い戻ったおたかを見つめる孝助。ぼけた姑の世話をたった一人でする嫁。不条理な身分にあらがおうと出世のために身をささげた才次郎だったが、若かった頃の思いを思い出し死んでいく。
    幸せな話はないけれど、必死に生きる人の思いの伝わる話。

  • 表題は秀才として誉れ高い才次郎が、家柄が格上の先輩に悔しい思いをさせられる一方、塾頭の娘に恋をし、百姓の寅之助と親友になり、出世街道を走っていく。その中で何か違う、どこかで間違ってしまったという違和感。最後の自らを顧みない行動に思わず、サラリーマンとしての鬱屈を吹き飛ばしてくれる快感がありました。その他、不幸な男女の出会い、その中での心の通い合いが心地よい短編集です。

  • やはり乙川優三郎は上手い。
    どの作品も、思うようにならない事へ悩む主人公の心情を辿り沈痛な想いへと沈んでいくも、最後に明るくはなくとも一筋の光が差し込むようにわずかな反転の妙を見せる筆致の上手さ。
    心が晴れて明るく終わる小説よりも、深く残る余韻が何とも言えない読後感として漂う。
    これ以上の感想は文章にできない、珠玉の短篇集だった。

  • 「ゆすらうめ」年季明けの娼妓が二度と戻らぬように心を砕く本当の番頭の思い。「白い月」博打好きの亭主の善の部分を見つめ続ける妻の思い★5「花の顔」いびり続けられた姑が呆けて追い詰められていく妻の心情「椿山」正義感を捨て出世を掴んだ末に胸に去来した想い。
    秀策の短編集。ひたむきに、もがきながら生きる人達の心情描写とラストの僅かな光。乙川短編の真骨頂。
    読み終わって、しばらく誰もこの空間に入ってきて欲しくないような満たされた読後感。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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