ル・パスタン (文春文庫 い 4-50)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167142506

作品紹介・あらすじ

仮病を使ってでも食べたかった祖母の〈スープ茶漬け〉、力のつく〈大蒜うどん〉、欠かせない観劇、映画、田舎旅行。粋人が百四のささやかな楽しみを絵と文で織りなす。オールカラー収録。

感想・レビュー・書評

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  • 池波正太郎が、「週刊文春」の1986年11月6日号から、1988年12月1日号まで連載していたエッセイを書籍化したもの。文章ばかりではなく、池波正太郎自身が挿絵を書いている。池波正太郎は、1990年5月に亡くなっているので、本書は池波正太郎の最晩年に近い時期の作品ということになる。
    本書に対しての、あるいは、池波正太郎という人物に対しての感想・印象を短い言葉で書くと、例えば、「粋」「洒脱」「教養人」「趣味人」といったところだろうか。本書には、色々な題材が描かれているが、例えば、下記のような書き出しで始まるようなエッセイばかりである。

    【引用】
    ■毎年、冬が来るたびに、京都の鮨屋の「川千鳥」をおもい出す。
    ■秋になると、子供のころの私たちは、「もうすぐ、おでんの小父さんが来るよ」と、はなし合った。
    ■私が子供のころ、アイスクリームのことを、曾祖母や祖母、祖父は、「アイスクリン」と、いった。
    ■市川崑監督の新作「映画女優」を観た。市川氏への期待はあったが、これほどまでに成功していようとはおもわなかった。
    ■先月(正月)は、中村富十郎が「鳴神」を演じるというので、久しぶりに国立劇場へ出かけた。
    ■このたび出版された「ジョン・フォード伝」を読み、こころよいショックを受けた。
    ■尾上辰之助の急死を知り、茫然となった。
    【引用終わり】

    カバーする話の範囲の広さも素晴らしいが、なんでもないように見える書き出しが素晴らしく、私などは、ついつい、この後を読みたくなる。
    本書には、その他にも、フランス旅行やヴェニス旅行についてのエッセイも書かれており、そちらも興味深い。

  • 私が食のエッセイを好んで読むようになったのは、池波正太郎氏の「散歩のとき何か食べたくなって」を手に取ったことがきっかけだったと思う。
    ずいぶん昔だ。
    その時の感動は、多分、読んで美味しかったのだろう。
    その後も池波正太郎氏の食のエッセイを立て続けに読んだ。
    食の思い出の中で語られる昔の東京の風景に郷愁を感じた。
    表紙の、ご本人作のイラストもとても素敵だと思った。

    この本は、表紙だけでなく、中身もカラーイラストでいっぱい。
    そして、横文字のタイトルもおしゃれ。
    内容は、昔の味の思い出、映画や舞台(ミュージカル、演劇、歌舞伎)の鑑賞と感想、ヨーロッパ旅行の紀行文など。
    ヨーロッパを旅しての紀行文、「フランス日記」(1988年発表)がまた、郷愁をそそる。
    田舎町の人情と食の豊かさに触れ、「パリと田園は(同じ国の中にありながら)別の国」と感じ、東京オリンピック後の日本は、どこへ行ってもせせこましくいじましいと嘆く。
    パリでは、品の良い風貌の老紳士の泥棒を寸でのところで仕留めたエピソードが面白い。
    ルノアールにこだわる池波氏。
    痛風を恐れつつ、毎日のようにフォアグラを食す池波氏。
    これから書きたい、という小説の構想がいくつか書かれていて、この旅行のわずか2年後に急死してしまうことを思うと切ない。

  • 旅行記の部分は、こんな心豊かな旅をしてみたいと憧れるし、郷愁を感じる話は、最近とみに、己の幼い頃の話をしてくれるようになった老齢の父の姿が重なり、当時の日本を憂う回では、問題は今も昔も変わらないという気持ちにさせられます。
    非常に興味深く読みました。

  • 一連の時代小説が好きで購入した本。
    池波氏の絵は、うまいと思えないが、かといって自分で書けるかとなると、できないんでしょうね・
    食べ物の描写が好きで、氏にあやかって数年食事の内容の記入と、写真を撮っています。

  • 文学
    暮らし

  • 挿絵入り随筆短編集。映画の話、旅行の話、子供のときの話。フルメタルジャケットや、帝国物語の感想が書かれていたのに少し驚いた。戦争とか歴史のエッセンスがあったからだろうか。

    この方の随筆を読んだことがある方なら分かると思うが、例によって懐古主義的な内容が目立つのでやや人を選ぶかもしれない。個人的には、好きな物を語っているときのペンに任せている感が好みである。

  • 正直面白くなかった・・・

  • 大きく「粋人ジャンル」とくくれば開高山口伊丹が挙げられるだろうが、全くスノッブのいやらしさやペダンティズムを感じさせないことは必然運命的にありえないため、どうあってもどこかしらに匂っていたものだ。唯一先生だけこの背反を奇跡的に成り立たせていることこそ「粋の極み」なのだと思いたい。うらやましい。ただただうらやましい。

  • 食・映画・旅のエッセイ集 時代ものだけでない池波作品を愉しんで下さい(さし絵も池波氏自身)特に料理に関しては池波氏のこだわりが。By 堺のたけちゃん さん

  • ル・パスタン <楽しみ>
    鬼平犯科帳では、必ずうまそうなものが登場する。
    池波正太郎は、グルメという言葉より、好食の人と言える。

    1章は、幼少期の食について。2章、映画・舞台。3章、フランス・ヴェニス滞在記。4章、種々テーマのエッセイ。

    2章。こういったものへ興味が及んでいなかった自分を、恥ずかしいと思う。
    1章。昔の食は夢があった。クリームソーダ、角砂糖。私は、角砂糖をいま見てもワクワクする。洋食屋さんでは、クリームソーダを必ず頼んだな。日曜の朝食、父とのジョナサンは、「アメリカだ」という気分を味わった。

    文中にこんな一節がある。
    「現代は借り物の贅沢が万人のものとなったので、真の贅沢は人々のこころから消えてしまった。これが人間にとって幸福なのか、不幸なのか、審判はいずれ下るだろう」

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著者プロフィール

大正十二(一九二三)年一月二十五日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和十(一九三五)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和十四年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和十九年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和二十三年、長谷川伸門下に入る。昭和二十五年、片岡豊子と結婚。昭和二十六年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和三十年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和三十五年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の三大シリーズや『真田太平記』等、数々の小説で人気を博す一方、食や映画、旅に関する著作物も多く上梓した。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成二(一九九〇)年五月三日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去。小社では同じく単行本未収録のエッセイ集『一升桝の度量』(二〇一一)と初期戯曲集『銀座並木通り』(二〇一三)を刊行している。

「2022年 『人生の滋味 池波正太郎かく語りき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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