闇を裂く道 (文春文庫 よ 1-19)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169190

作品紹介・あらすじ

丹那トンネルは大正7(1918)年に着工されたが、完成までになんと16年もの歳月を要した。けわしい断層地帯を横切るために、土塊の崩落、凄まじい湧水などこに阻まれ多くの人命を失い、環境を著しく損うという当初の予定をはるかに上まわる難工事となった。人間と土や水との熱く長い闘いを描いた力作長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 67名の犠牲者を出した丹那トンネル工事の全貌を描いた記録文学。それぞれの思惑で動き出した大工事。トンネル崩落後のサバイバルや、目を背けたくなるような描写の数々...。『高熱隧道』とはまた一味違う自然との闘い。ラストは胸アツです。

  • 鉄道院初代総裁・後藤新平の創案による、東海道線の熱海と三島を結ぶ丹那トンネルは大正7年に着工、7年間で完成の予定であったが、足かけ16年の歳月を要し昭和9年に完成した。断層地帯を横切る難工事の期間中に、関東大震災(T.12)、北伊豆地震(S.5)が丹那断層を直撃し、烈しい湧水、土塊崩落などで67名もの人命が失われた。坑道掘削による丹那盆地の渇水被害問題では、田畑の用水、飲料水を返せと叫ぶ住民の殺気だった様子が記録されている。自然の測り知れぬ脅威と人間の燃える不屈の闘いを描いた、吉村昭氏 渾身の長編小説。

  • 今の日本の自信に満ちたインフラも、最初から当たり前に用意されていたものではない。そんな事を痛切に感じさせてくれる一冊。

    大正時代、熱海函南間の丹那トンネルの工事が着工された。トンネルの掘削工事に未熟な日本は、その時代に起こった関東大震災にも見舞われ、幾度も崩落事故にあう。生き埋めの死者も出たのだ。トンネルの掘削で、近隣の村落が水渇する問題も起きた。

    新聞記者の目線で開始するこのノンフィクション小説は、崩落したトンネル内部に閉じ込められた作業者にも視点を変え、詰まる所、主役はトンネルそのものであり、関わるドラマを描く。生死を賭け、一大事業を成し遂げる様。知らなかった歴史がここにある。

    人力鉄道なんてものがあった事。関東大震災には煽動した首謀者がいた事。戦時の状況。臨場感ある壮大なドラマだった。

  •  16年にも渡った丹那トンネル工事の姿を描いた歴史小説。

     およそ百年前の1918年に着工されたこの工事。ところが地層が工事に向いてなかったばかりか、冷たい湧水が掘ったところから流れだして工員の体力を奪い、さらには崩落事故や、地元環境への悪影響など難題だらけ。

     それはまさに自然と人間の戦いでもあります。本の中盤で描かれる、崩落事故でトンネル内に閉じ込められた人たちの恐怖。真っ暗闇の中、少しずつ衰弱していく工員たち。

     空腹のあまり、藁を口に含み飢えをごまかしたり、数日間にわたる閉塞状況と死への恐怖で自暴自棄になりかけながらも、それでも希望を捨てずに生きようとします。

     ここの部分の読みごたえがとにかくすごいです! 残酷な自然に対し、それでも生き抜こうとする人たち。そして、生存を信じ救出作業を続ける人たち。人間の強さがよく描かれたシーンだと思います。

     トンネルを掘り進めるごとに、地元の水源が枯れるという状況にも工事関係者は置かれます。そして生まれるのが地元住民との軋轢。

     飲み水や農業用水にも使われている水源だけに、それが枯れることは地元住民にとっては死活問題。そのため住民は保障を求めるのですが、そうした声がなかなか届かないのが世の常でもあります。こうした地元住民と工事関係者の折衝も読みどころです。

     こうやって読むと、地元住民の座り込みなどの反発もかなりのものですが、現場の人たちの対応もそれにきちんと向き合って、なんとか満足のいくような結果に向かうよう苦慮しているのが分かります。この姿勢は、色々な対立問題に向かい合う人たちにも参考になるような気がします。

     吉村さんの取材力は相変わらずで、工事に関わったそれぞれの人たちのドラマが、行間からうかがえるような気がします。

     吉村さんのこうした歴史小説やドキュメント小説はは、これから時代を経るに従い歴史的価値も帯びてくるんではないか、と強く思わされた読み応えのある小説でした!

  • 突然入院することとなり以前購入しておいた本著を読むことにした。
    東海道線の三島・熱海間にある丹那トンネルは難関を極め、しかも丹那盆地の用水が枯渇してしまったということは聞いたことがあったが、本著がそれに詳しいということで興味を持った。本著を読む前に熱海側と函南側にある慰霊碑を訪れたことがある。
    丹那トンネル(東海道線)が16年、新丹那トンネル(東海道新幹線)が戦争で中断したものの半分以下の工期で作られたことを思うと丹那トンネルの掘削がいかに難しかったか。また、用水が枯渇した丹那盆地など函南の住人の衝撃もいかほどだったか。相当多くの資料と取材とで丁寧に書かれた貴重な一冊だ。

  • 東海道線の丹那トンネルを作るお話。
    難工事だったのがとても伝わってくる。

    ラストは今の新幹線の計画の話もあり、とても勉強になりました。

    まるで工事誌を読んでいるようなものなので、土木関係の方、しかもトンネルに興味のある方にしかお勧めしません。

  • 実際にあった事故や事件なども交えつつトンネル工事の流れを詳しく書いてあるので面白く読めました。開通式のあとも掘ってるというのが良くわかっていなかったのですが開通って本当に開いただけなのねなるほど。
    落盤事故のくだりは怖すぎる...今はもっと便利な機械も道具も増えて安全性は段違いなんでしょうけども。

  • 4167169193 430p 1990・7・10 1刷

  • 2013.9.10(火)¥136。
    2013.9.14(土)。

  • 東海道の旧丹那トンネル開通までを、多くの登場人物を実名で登場させ、できるかぎり事実を正確に描くべく力を注いだ小説。

    解説によれば、距離も長く複線型で、富士火山帯の地層の地底を掘るという悪条件も重なった、世界でも屈指の難工事だったとのこと。
    その言葉通り、描かれているのは自然の力に翻弄され、必死に抗いつつも多くの人命を奪われ、また地下水の流れをも変えてしまうほどの環境への悪影響をも呼んだ困難を極める工事の全貌だ。
    電力不足から手作業での掘削開始、突然の崩落、滝のように溢れ出す湧水、暗闇に閉じ込められた土木作業員たちを襲う恐怖など、地層の調査も掘削の技術も進んだ現代からは想像もつかないほどの苦難の連続を、淡々と語る吉村節に息苦しさすら覚えた。

    驚くべきことに、解説を書いた文芸評論家の谷田昌平氏の夫人の父が、丹那トンネル開通一号車の機関士であり、なおかつ、その父が生前娘婿に聞かせたその当時の話が、詳細に本小説内に再現されているのだそうだ。
    無論、そのような繋がりがあったからこそ谷田氏に解説が依頼されたのだろうが、その事実の正確さにおいては、さすが吉村氏のなせる業といったところだろう。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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