新装版 海軍乙事件 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-45)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169459

感想・レビュー・書評

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  • 仕事先で読書好きな方からお薦めしていただいたり、はたまた「読んだからあげるよ」といただくこともある。今回はそんな1冊。自分ではまず手に取らないジャンルなのでそういう本が手元に来るという縁は面白い。

    著者が戦時中の資料を掘り起こして調査、当人が生きていればインタビューをしたりして事件を一つの物語にしていき、考察する。4編収録。

    社会や歴史の授業で習った程度の把握しかしていなかったが、戦争にはその場その場、その人その人それぞれの戦争っていうのがあったんだなと改めて感じさせられる。見栄や体面を気にしてしまう体質はめんどくさい、というか話をややこしくしてしまうよなぁと思った。

    事実を繋ぎ合わせ、インタビューなども集め点と点を一つの物語にしていく作業、非常に骨の折れる作業だったんだろうなと想像に難くない。そんな作業をこなす著者は只者ではないんだろうなと思った。

  • 表題作の「海軍乙事件」をはじめ、「海軍甲事件」「八人の戦犯」「シンデモラッパヲ」の戦争記録小説4編を収録。
    「海軍乙事件」は山本五十六の後、GF長官となった古賀峯一大将とその司令部が、アメリカ軍攻撃からの避難のため二式大艇2機に分乗して飛行中に嵐に遭い古賀らが殉職、参謀長福留中将らはゲリラの捕虜となった事件を指す。出だしは陸軍の独立大隊がセブ島へ派遣されるという意外な場面からはじまるが、乙事件の顛末とともに見事に収斂されていく。結果論的にいえば、当時の戦略で策定された「Z作戦」の書類をアメリカ軍に奪われたにもかかわらず、それはないと強弁する福留中将や日本海軍の無責任・間抜けぶりと、アメリカ軍のしたたかさが際立っている。救出作戦の場面はたんたんと再現しているにもかかわらず、ドラマ性のある緊迫感あふれる場面で、記録小説の真骨頂を感じました。
    「海軍甲事件」は、GF長官であった山本五十六大将の戦死事件を指す。基地訪問を行う旨の暗号電文をアメリカ軍に解かれ、待ち伏せ攻撃により戦死してしまうのであるが、護衛戦闘機のパイロットの目線で、緊迫感のある顛末を描き出している。これも結果論的にいえば間抜けな話であるが、さらに暗号電文は解かれていないと思いこむ日本海軍の無能さぶりもよく再現している。
    「八人の戦犯」は、敗戦直後の日本国が自らの手で戦犯を裁くという政治的思惑の中で抽出された八人と、その事件や裁判の様子を掘り起こした作品。結局、日本側による戦犯裁判は認められず、この八人は2重裁判を受けることになるが、歴史の冷たい事実を記録小説としてよく描き出している。
    「シンデモラッパヲ」は、戦前の修身教科書に載せられた有名な「戦争美談」が、実は2人の人物の間で真贋騒動になっていたという話。日清戦争当時、「美談」を作りだす側の不手際により、それを受け入れる地元の悲喜こもごもが淡々とつづられていて面白かった。

  • 「吉村昭」のノンフィクション短篇集『海軍乙事件』を読みました。

    『戦艦武蔵』、『高熱隧道』に続き「吉村昭」作品です。

    -----story-------------
    昭和19年3月、パラオ島からフィリピンに向かった2機の大型飛行艇が、荒天のため洋上に墜落した。
    機内には「古賀連合艦隊司令長官」と「福留参謀長」が分乗していた。
    参謀長以下9名は一命をとりとめたが敵ゲリラの捕虜に。
    そして参謀長の所持する最重要機密書類の行方は…。

    戦史の大きな謎に挑戦する極上の記録文学。
    太平洋戦争をたどる上でも、第一級の資料として、貴重な文献といえる。
    表題作ほか、『海軍甲事件』 『八人の戦犯』 『シンデモラッパヲ』の全4篇を収録。
    解説「森史朗」
    -----------------------

    本作品に収録されている『海軍乙事件』と『海軍甲事件』については、当事者への綿密な取材をした際のエピソードを記録した『戦史の証言者たち』を読んだことがあったので、思い出しながら読んだ感じです、、、

    重複する情報もありましたが、『戦史の証言者たち』には含まれていない内容もあり、興味深く読めました。

     ■海軍乙事件
     ■海軍甲事件
     ■八人の戦犯
     ■シンデモラッパヲ

     ■「海軍乙事件」調査メモ
     ■文庫本のためのあとがき
     ■関連地図
     ■解説 森史朗


    『海軍乙事件』は、パラオからフィリピンのダバオへ退避する途中、「古賀峯一連合艦隊長官」が行方不明となり、連合艦隊司令部の「福留繁参謀長」等は悪天候の中、海に不時着し、「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラに身柄を拘束されてしまう… 彼等の救出劇と、その後の運命を描くとともに、と「福留参謀長」たちが保有していた「Z作戦要項」という今後の海軍の作戦を含む最重要機密書類の行方を推理した作品、、、

    セブ島の守備隊を率いる「大西精一中佐」が「クッシング大佐」率いる抗日ゲリラを追い詰めた際、ゲリラのアジトに海軍の高級幕僚が捕らえられていることが判明… 「大西中佐」の的確な判断により、一行が無事に引き渡される展開が印象的でしたね。

    特に引き渡しの際、その時間帯だけ、日本軍と抗日ゲリラの間に友情に似た感情が芽生えるシーンは感動的で忘れられないですね、、、

    それにしても… 「福留参謀長」は、作戦の流出を否定し続け、当時は不問にされたようですが、実際にはアメリカに流出しており、それが、レイテ沖海戦の大敗北に繋がったのかもしれませんね。


    『海軍甲事件』は、暗号が解読され、待ち伏せにあって撃墜された「山本五十六連合艦隊長官」の事件を題材にした作品、、、

    長官機を直掩した零戦戦闘機乗りで、唯一人の生き残りの操縦士「柳谷謙二飛行兵長」の証言をもとに、その事件に関わった零戦戦闘機の操縦士の苦悩が描き出されています。

    長官機を直掩した6名の戦闘機乗りは、表向きは不問にされたものの、周囲の視線は厳しく自ら死地へ旅立つように戦闘を続けたようですね… その気持ちもわかりますね、、、

    その後、唯一生き残った「柳谷飛行兵長」は、ガナルカナル沖で敵の機銃によって右手に銃弾を受け、手首から先を切断されて本土へ帰還したとのこと… 事件後の、それぞれの運命について、色々と考えさせられましたね。

    海軍が、アメリカの巧妙な情報戦により、暗号が解読されたことに気付かず、事件後も暗号が見破られていないと誤って判断してしまったところには、アメリカの方が情報戦で何枚も上手だったんだなぁ… と改めて感じました。


    『八人の戦犯』は、日本軍自身が日本軍の戦犯を軍事裁判で裁き、連合国に引き渡した八人の真実を探った作品、、、

    この八人を自らで裁くことにより、他の戦犯を護ろうとした… そんな意図が見え隠れしました。

    部下をかばう美談が悲劇に変わったり、完全な冤罪だったり… 等々、そんな切ないエピソードばかりでしたね。


    『シンデモラッパヲ』は、日清戦争中、撃たれた後も進軍ラッパを離さなかった兵士の物語の裏話を語った作品、、、

    当初、英雄譚として名前が報じられたラッパ兵は、岡山県浅口郡船穂村の「白神源次郎」で、村では日清戦争唯一の戦死者であり、英雄として顕彰碑が作られ、そればかりか、海外でも高名な詩人によって、題材とされたりしたが… 後日、同じ岡山県の川上郡成羽村から出征した「木口小平」であったことが発覚する。

    戦争英雄譚に潜在する、根拠が不明確な報道… 戦中の美談は、人々のニーズによって操作されかねないので、疑ってかかるべきなんでしょうね、、、

    でも、イチバンの犠牲者は、情報に振り回された当人や遺族ですよね… 実際のところ、どっちが本当かなんて、誰も証明できないんじゃないかな。

  • 海軍乙事件、甲事件、8人の戦犯、木口小平のシンデモラッパヲ、の4中編。
    全てが佳作良作。軍部の愚かさと戦犯の影と陰。

  • もともと海軍乙事件というものがあった事を知らなかった。
    これがあるからこそレイテ沖海戦などに大きな影響をあたえたんですね。

  • 海軍乙事件
    海軍甲事件
    八人の戦犯
    シンデモラッパヲ

    著者:吉村昭(1927-2006、荒川区、小説家)
    解説:森史朗(1941-、大阪市、ノンフィクション作家)

  • 太平洋戦争などにまつわる事件や逸話を作者が丹念に取材し、まるで論文のように書いていく作品。
    海軍Z作品が米軍の手に渡り、そのことをさとられないように、潜水艦で日本軍に返し・・・というところで、もしやと思ったが、この話が栄光なき凱旋の元ネタかと繋がった。
    さらっと書いてあるが史実としては実際にあの日系人二人が返したのだろうか。ちょっと調べてみる必要がありそうである。
    読書は続けているとぱっと繋がる瞬間がたまに訪れるのである。

  • 2017年10月23日読了

  •  氏の小説は記録小説というジャンルらしい。本書創作のための氏の調査から、歴史の新事実が発見され、ほぼほぼ解を見たというのがまず感動した。短い小説ではあるが、凝縮された情報に基づくことを想像しつつ読み進めた。

  •  第二次大戦で、連合艦隊の福留参謀長が遭難し、保持していた機密書類を紛失した事件を乙事件と言い、戦後それが米軍の手に渡っていたことが判明した。
     作者は、戦後生き残っていた当時の事件現場にいた関係者を訪ね歩き、その遭難の状況を再現したのが本書である。したがって、小説というよりもほとんどノンフィクションである。戦争の実態は、このような現場の一挙手一投足というか、兵士や下士官一人ひとりの息遣いが分かるような描写にこそ顕れるのではないだろうか。将官や参謀の言動や武器の優劣や軍部の戦略を見ていても、戦争の本質すなわち悲惨で苦しく哀しいところは後ろに隠れてしまうのだ。
     甲事件の作品も収められており、吉村昭の筆力を堪能できる作品である。
     

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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