影刀: 壬申の乱ロマン (文春文庫 く 1-32)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167182328

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  • この本は、壬申の乱の脇役である、戦に人生を掛けた舎人や振り回された媛など、壬申の乱を大きな流れからではなく一個人の目線から描かれた短編集です。
    「天の川の太陽」(黒岩重吾)を読んだ直後に読んだため、時代背景や登場人物が分かりそれなりに面白く読めましたが、壬申の乱を知らない人が読んでもつまらない本かもしれません。それに、残酷な描写が多く少々具合が悪くなりました・・・。ただ、いつの時代もそうですが、歴史って一人の偉大な人物が作るわけではなく、日本書紀にも載っていないような名もなき人々が作っていることをあらためて痛感させられました。

  • 湖国に散った王の孤独

    日本書紀のエピソードに想を得、壬申の乱に在った人々を描く短編集。
    「霧の慟哭」「養老山の龍」「影刀」「無声刀」「別離」「左大臣の疑惑」「捕鳥部万の死」7編収録。

     骨が太く男っぽい古代史もの―という印象のあった著者の作品ですが、亡命百済人の悲哀や敗軍の王者の孤独、人ならぬものとの交感など彼らの心情が繊細に描かれています。

     中でも、政略によって結ばれた大友皇子と十市皇女が決戦の前夜死を覚悟して初めて互いの心を通わせる「別離」から、続く大友皇子最期の顛末を描いた「左大臣の疑惑」が秀逸です。

     母・額田王の情熱を受け継ぎながらも、敵対する父・大海人皇子と夫・大友皇子との狭間で自らの運命を終始冷めた心で受け止めていた十市。大友の本音に正面から向き合ったことで彼女は初めて夫を「見る」ことになるのですが、それはまさに別れの前夜のことでした。

     大友の腹心でその最期までを見届けたたった一人の舎人・物部連麻呂は続く天武朝で重用され大出世したといいます。そんな男に果たして忠心があったかどうか―と疑う結末には、大友皇子への著者の限りない哀惜の情が感じられます。

     それぞれ単独に完結した作品ながら二編を通して読むとき、公私に亘って孤独に苛まれた大友皇子の短い生涯を浮かび上がらせて悲痛です。

  • 壬申の乱を舞台とする歴史短編小説集。壬申の乱とは、大化の改新後、天皇の位をかけて大海人皇子と大友皇子が争う、日本史における大事件。しかし、資料の乏しい時代であり、知名度は今ひとつ。

    著者は日本書紀など限られた資料のわずか数行の記述から、壮大な人間ドラマを想像し、古代の貴族・武人たちが策謀の限りを尽くし、オラが天皇を担ぐ姿・欲望をリアルに描き出す。

    どの話にも「闇」の存在が印象に残る。この時代、人々の活動は太陽が出ているときだけ。社会を支配していたのは、人間ではなく、現代では考えられない暗く深い闇だった。

    ベスト話は、机上の帝王学にとらわれた大友皇子と政略婚で嫁いだ十市皇女が壬申の乱をきっかけに、互いを理解しあうことができた「別離」。

  • 壬申の乱の、影の立役者たちを描いた短編集。
    大海人皇子の器に惹かれて集まった、忍者とも言える舎人たち。
    打倒近江朝を宣言した大海人皇子のため、命を賭けて暗躍します。
    相当シビアです。男のロマンを感じました。

    舎人たちや間者たちの話の他に、大友皇子と十市皇女の話も入っています。
    愛なくして、政略結婚により夫婦になった二人ですが、近江朝の落城に際して、淡く心を通わせます。切ないです。

    同じく大海人皇子の舎人たちの暗躍を描いた短編集「剣は湖都に燃ゆ」もおすすめです。

  • 壬申の乱にまつわる短編6話と,乱の少し前の物部氏滅亡にまつわる1話。
    フィクションであるが,そんなこともあったのではないかと思わせるような著者の話術はやはりうまい。

  • 歴史上軸となる人物達の作品でどうしても影の人達を知る術がない。
    私生活(?)とかがちょっとだけ触れる箇所を読んでもっと詳しく知りたい〜〜って
    思ってたところがこの作品で触れることができる。

    短編なので、多少物足りないところはあるけれど
    他の作家さんでは書いてくれないだろうな〜って作品だ。

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著者プロフィール

1924-2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞。他の著書に『飛田ホテル』(ちくま文庫)。

「2018年 『西成山王ホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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