花のあと (文春文庫 ふ 1-23)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192235

作品紹介・あらすじ

娘盛りを剣の道に生きたお以登にも、ひそかに想う相手がいた。手合せしてあえなく打ち負かされた孫四郎という部屋住みの剣士である。表題作のほか時代小説の佳品を精選。(桶谷秀昭)

感想・レビュー・書評

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  • 市井や武家の人々の悲喜こもごもを描いた珠玉の短編集。八話が収録されています。

    個人的に藤沢さんは短編が好きなんですよね。という事もあり、各話端正な文体で綴られる人々の心の機微を堪能させて頂きました。美しい情景描写も良いですね。
    特に、不仲だった姑の見舞いにいく女性を描いた第三話「寒い灯」と、苦労を重ねた男女が再会する第六話「冬の日」がほっこりする読後感で好きでした。
    表題作の第八話「花のあと」も“想い人の仇討ち”という、ほろ苦くも胸にじんわりとくる物語で、この話は北川景子さん主演で映像化されているのですね。
    秘めた想いを抱える女剣士を、美しい北川さんがどのように演じたのか、こちらも見てみたいですね。

  • 何の繋がりもない8つの短編集だが、どれも心に残る作品。本のタイトルになっている「花のあと」はよい歳を重ねた老婆が、剣を学んだ自分の若かりしときの活躍と、家老にもなった夫との出会いと人となりをユーモラスに孫に語って聞かせる体裁で面白い。解説によれば藤沢周平の円熟期の作品群ということでどれもエンディングは温かい。

  • 亡くなる十五年前の円熟した頃の短編集である。東京都の大泉学園町でのささやかだが幸せな生活を反映するように、悲劇で終わる話が一つもない。
    2010年3月読了

  • 話の主人公たちはいつもどこか誠実さと潔さがある。
    女性でも武をおさめ、相手を力づくでやり込めてしまう姿にはスカッとする。

    お以登さんの話も好きだけど、むささびの吉もかっこよくて好き。

  • 面白かった。特に、『花のあと』が。
    江戸時代が舞台の小説は全然読んだことがなく、仕事や家に置かれてる物などが、何のことか分からなかったので、楽しめないと思ってたんですが、そんなことはなかった。
    この時代の人たちも同じように、仕事して、恋をして、生きていたんだなぁとしみじみしました。

  • 生まれ変わったら何になりたい、と尋ねられたら「武士・侍。それも藤沢周平の小説に出てくるような腕の立つ侍」と私は答える。この本には、腕の立つ侍だけでなく、腕の立つ女性、癖のある主人公が出てくる。いつもながら、大いに楽しめた一冊。

  • やっと読み終わった!短編集です。
    初めは江戸時代な背景とか語句に慣れなくて読むのに時間がかかったけど、徐々に慣れました。
    描写がすごくきれいです。あと作品それぞれ雰囲気が全然違ってて、作家としての深さを感じました。
    特に好きなのは「冬の日」。「寒い灯」も良かった。「花のあと」はちょっと異色な感じ。甘いというか…こういう話も書けるんだなぁと。映画化したらしいのでいつか見ようと思います。

  • 「藤沢周平」の短篇時代小説集『花のあと』を読みました。

    『消えた女―彫師伊之助捕物覚え―』、『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え―』、『橋ものがたり』、『冤罪』、『天保悪党伝』に続き、「藤沢周平」作品です。

    -----story-------------
    娘盛りを剣の道に生きた武家の娘「お以登」にも、心中ひそかに想う相手がいた。
    部屋住みながら道場随一の遣い手「江口孫四郎」である。
    女剣士の昔語りとして端正に描かれる異色の表題作のほか佳品七篇(『鬼ごっこ』『雪間草』『寒い灯』『疑惑』『旅の誘い』『冬の日』『悪癖』)。
    解説:「桶谷秀昭」

    『花のあと』は2010年に「北川景子」主演で映画化。

    『冬の日』は2015年に「中村梅雀」主演でドラマ化。
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    1974年(昭和49年)から1985年(昭和60年)に発表された武家モノと町人モノ混合の作品8篇から成る短篇集で、11985年(昭和60年)に刊行された作品です、、、

    観てはないのですが… 『花のあと』は映画化、『冬の日』はテレビドラマ化されているようですね。

     ■鬼ごっこ
     ■雪間草
     ■寒い灯
     ■疑惑
     ■旅の誘い(たびのいざない)
     ■冬の日(『冬の灯』を改題)
     ■悪癖
     ■花のあと ―以登女(いとじょ)お物語―
     ■解説 桶谷秀昭

    『鬼ごっこ』は、元盗っ人で「むささび」と呼ばれていた「吉兵衛」が場末の岡場所から身請けした女「おやえ」が殺された… 「吉兵衛」が、その真相を探り復讐を果たす物語。

    「吉兵衛」が訪ねようとしていた「おやえ」が殺されていた… 「おやえ」の家に十手持ちがいる、、、

    元盗っ人の「吉兵衛」は十手を見ると恐怖が走る… 「おやえ」の家を離れて、ようやくなぜ殺されたのかを不審に思った。

    一体誰が、なぜ? 「吉兵衛」は、盗賊の前歴を消そうとして暮らしてきた十年間の隠遁生活がふいになる危険を冒してまで、「おやえ」の仇を討とうとする… 元盗っ人の技を活用し、「吉兵衛」が鮮やかに復讐を果たす手口が痛快でしたね。


    『雪間草』は、世を捨てて尼僧となった「松仙」が、元許嫁の「服部吉兵衛」を救う物語。

    36歳の尼僧「松仙」は、俗名を松江といい藩主「信濃守勝統」の側妾だった… その「松仙」のもとに「服部吉兵衛」が罪を犯し国送りされたという話が伝わる、、、

    「服部吉兵衛」は「松仙」の許嫁だったが、「松仙」が城に召されることになり、一緒になることを諦めた仲だった… 「服部吉兵衛」が罪を犯すような人物ではないと知っている「松仙」は、「信濃守勝統」に無罪放免を訴え出ようとする。

    柔術の心得がある「松仙」が「信濃守勝統」の手首を握って苦痛を与え、暴力的に翻意させて「服部吉兵衛」の命を救う… 「松仙」の男勝りの活躍が心地良かったですね。


    『寒い灯』は、姑と馬が合わず家を飛び出した「おせん」が姑が病気になったことを契機に、再び夫や姑と関わることになる物語。

    料理茶屋で働く「おせん」のもとに、夫の「清太」が訪ねてきた… 姑の「おかつ」が病に倒れたから手伝って欲しいというのだ、、、

    だが、「おかつ」にいびられて、嫁ぎ先を飛び出した「おせん」は、今更なんの義理があって姑の看病をしなければならないのかという憤懣がある… この機会に去り状を貰って縁を切ってしまおうと思った「おせん」は、一日のひまをもらい「おかつ」を訪ねる。

    汚れたものをきれいにしたり、人のために何かしてやることが好きな性分の「おせん」は、「おかつ」の弱った姿や、埃まみれになり片付いていない家を見て、わだかまりを抱えつつも「おかつ」の食事を通り、薬をもらってきて、家の掃除までしてしまう… 勝ち気だった「おかつ」から「もどってきてほしい」と言われた「おせん」は心が動く、、、

    その帰り道、いくらお人好しでも、もう戻らないぞ!と考える「おせん」だったが、店の常連客で言い寄ってきていた男「喜三郎」が女衒ということを知り、嫁ぎ先に戻ることを誓う… 今度は幸せを掴み取れるんじゃないかな。
     

    『疑惑』は、定町廻り同心「笠戸孫十郎」が、蝋燭問屋河内屋の主「庄兵衛」殺しの事件を解決する物語。

    蝋燭問屋河内屋に賊が入り込み、主の「庄兵衛」を刺殺し逃走する事件が起きた… 犯人はあっさりと捕まった、、、

    勘当されている養子の「鉄之助」が捕えられたのだ… だが、「鉄之助」は「庄兵衛」殺しを否定する。

    定町廻り同心「笠戸孫十郎」は、はじめのうちこそ「庄兵衛」が犯人であることに疑いを持たなかったが、「鉄之助」が忍び込んだ日だけは、偶然にも裏木戸の閂が外されていた(閂をするのを忘れていた)ことや、殺害する必然性がないことから、何か見落としがあるのでは思い始める… いやぁ、女の怖さを感じさせる真相でしたね。

    ミステリ仕立てで愉しめる作品でした… 「笠戸孫十郎」の名推理はあっぱれでした。


    『旅の誘い』は、浮世絵師「安藤(歌川)広重」の視点から出版業界、絵師達、版元たちのそれぞれの事情、狙い等を描いた物語。

    「広重」は東海道五十三次が好評であると目の前にいる「保永堂」から聞いた… そもそも「保永堂」が東海道五十三次の話を持ってきたのだ、、、

    それまで「広重」は風景画をほとんど描いていない… それに、風景画については「葛飾北斎」という巨人がいた。

    だが、「保永堂」は風景画こそが「広重」の本領であると言い切り、東海道五十三次を描かせたのだ… その「保永堂」の表情は、儲けに走る商人の顔だった、、、

    それが、「広重」の心を重くする… 芸術と金儲け、これって永遠のテーマなんでしょうね。


    『冬の日』は、「清次郎」が偶然入ったうらびれた酒の店で、昔の奉公先の娘「おいし」と再会し、二人で新しい人生を歩んでいく物語。

    外があまりに寒くて「清次郎」は、軒行燈に酒の文字を掲げている店に入った… 店には厚化粧の女が二人おり、その内の一人が「清次郎」をじろじろと見る、、、

    知り合いかと思ったが見覚えはない… そして店を出たが、店を出てから暫くして思い出した、女は「おいし」といった幼馴染であり、「清次郎」が昔、奉公していた但馬屋の娘だった。

    但馬屋は「おいし」が迎えた婿の悪行等により商いが傾き、その後、婿は家を出て、「おいし」は二人目の婿を迎い入れたが、その夫は病身で、但馬屋は盛り返しができずつぶれていた… 「おいし」の変わり果てた境遇に、いたいたしい感情を抱いた「清次郎」は、「おいし」の家を訪ねる、、、

    「清次郎」も、牢屋に入ったり、呉服の行商で苦労することにより、他人の痛み、苦しみに鋭敏になっていたんでしょうね… 紆余曲折ありましたが、二人は結ばれ、明るい未来が予見できるエンディングでしたね。


    『悪癖』は、飲み過ぎると誰か構わず相手の顔を嘗めるという悪癖のある「渋谷平助」の活躍を描いた物語。

    勘定方の四人は奉行からの命令で、女鹿川の改修工事にかかる費用の帳付けの仕事をしていたが、それが終わったので、飲みに行くことになった… 今回の仕事は「渋谷平助」の算盤のおかげで早く仕上がった、、、

    だが、飲みに行くにあたって上司の「帯屋助左衛門」が注文したのは、悪癖を出すなということだった… 「平助」は飲み過ぎると誰か構わず相手の顔を嘗めるという癖があるのだ。

    それにしても、今回の仕事は異例ずくめだった。何かがあるのだろうか… その後、「平助」のもとを奉行の「内藤惣十郎」が訪ねてきて、今回の工事と15年前に行われた女鹿川改修工事の費用を突き合わせて、不審な点がないか調べてほしいと依頼する、、、

    そして「平助」は、得意の算盤で15年前の工事での千二百両の不正金を見事に暴く… 御褒美の宴の席で「平助」は、中老の「服部内蔵助」に悪癖を―― 笑えるオチでしたね。


    『花のあと ―以登女(いとじょ)お物語―』は、娘ざかりを剣の道に生きたある武家の娘「以登」の恋を描いた物語。

    「以登」の父「甚左衛門」は組頭から上には出世できなかったひとだったが、夕雲流の達人で、「以登」は、その父から以登は剣の手ほどきを受けていた… 羽賀道場の筆頭の剣士「江口孫四郎」と会う直前に「以登」は婚約が整い、婿を迎える身となっていた、、、

    その前に、「甚左衛門」は丹精して育てた「以登」の剣を外で試したかった… 羽賀道場で二の弟子、三の弟子と対戦した「以登」は、見事に勝利する。

    そして、その折に不在だった「孫四郎」から手合わせを申し込まれた「以登」は、「孫四郎」への憧れもあり、試合をさせてほしいと「甚左衛門」に頼む… それは、勝負でもあり、恋でもあった、、、

    「以登」の剣は「孫四郎」の前では全く通用しなかった… そして「以登」の気持ちを察していた「甚左衛門」は、気が済んだかと聞く。

    「以登」には婿となる男が決まっている… 二度と会うことはならなかった、、、

    それに、「孫四郎」の方でも縁組の話が進んでいおり、「以登」は胸の中で終わった恋の行方を追っていた… しかし、「孫四郎」の相手が「加世」とわかり、「以登」は驚愕する。

    「加世」の家は三百石の奏者の家柄で、才はじけた美人である… その「加世」には、ある噂があった、、、

    妻子ある男と通じているというのだ… 相手は「藤井勘解由」、若干30歳で用人に挙げられた切れ者だ。

    それから一年近くたった四月の末、湯治場で「以登」は、「加世」と「藤井勘解由」が通じているところを目撃する… さらに、その二年後、「孫四郎」が藩の使者として致命的な失態を犯し自裁する、、、

    「孫四郎」の失態の裏には「藤井勘解由」の企みがあったことを知った「以登」は、「藤井勘解由」を呼び出し、詰問するが、薄ら笑っているだけだった… 逆に「以登」がここに来たことを知っているものがいないと知ると、「以登」を亡きものにしようと刀を抜いた。

    だが、逆に「以登」は間合いを詰め、「藤井勘解由」の刀が鞘走る寸前に、懐剣で胸を一刺しする… いやぁ、鮮やかな復讐劇でしたね、、、

    男と女の違いはありますが… 「以登」に感情移入しながら読んじゃいましたね。



    『花のあと ―以登女(いとじょ)お物語―』がイチバン印象に残りましたが、その他では『鬼ごっこ』や『寒い灯』、『疑惑』が面白かったですね。

  • 日常の裏に潜むドラマを鮮やかに
    掬い上げた佳品ばかり。
    出てくる女性が魅力的。
    (悪女も含めて)
    殿様の手をひねりあげる
    雪間草の松仙尼と
    花のあと、の以登が特によい。

  • 昨年末から読んでいたけど、ブクログ新年一冊目がこれ。
    幸先がいいなと思わせてくれる、素晴らしい一冊。
    町人もの、武家もの、芸術家の葛藤、結婚や家族、仕事、恋愛、出会いや別れなど、生きることの悲喜こもごもが見事に綴られており、それをこの配分で…?まさに短編集の妙…!と唸らされる。
    解説にもあるように、シンプルな文章に、時折挟まれる自然や街の描写が本当に素敵。

    藤沢作品を母語で読めて幸せだなあと、中村雅楽シリーズに続いて感じた。

    面白かったのは、鬼ごっこ、旅の誘い、疑惑、冬の日、悪癖。
    この一冊のなかに、映像化された作品が二つあるけど、どの作品も映像化に向いていると思う。

    藤沢氏の言葉によって作られた美しい怜悧な世界が、多くの人の手によって噛み砕かれ、それが再度、美しい人間、自然、物語の映像になって立ち現れるって、たまらないことだなあと思います。語彙力。

    (ただ、『寒い灯』だけは、なんとも現代の感覚では、めでたしとは言えないなあと思った。今の時代に書かれていたら、時代小説とはいえ、このラストは多分ないなあ。)

    「旅の誘い」を読むと、杉浦日向子の『百日紅』が読みたくなった。
    英泉、カッコよくなったね。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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