新装版 暗殺の年輪 (文春文庫) (文春文庫 ふ 1-45)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192457

作品紹介・あらすじ

海坂藩士・葛西馨之介は周囲が向ける愍笑の眼をある時期から感じていた。18年前の父の横死と関係があるらしい。久しぶりに同門の貝沼金吾に誘われ屋敷へ行くと、待っていた藩重役から、中老暗殺を引き受けろと言われる-武士の非情な掟の世界を、端正な文体と緻密な構成で描いた直木賞受賞作と他4篇。

感想・レビュー・書評

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    暗殺の年輪《新装版》《文庫本》
    2009.12発行。字の大きさは…小。2023.08.08~10読了。★★★★★
    黒い縄、暗殺の年輪、ただ一撃、溟(くら)い海、囮、の短編5話。

    【黒い縄】
    材木商「下田屋」の娘おしのは、祝言を挙げて三月後に実家に戻って来た。そのおしのが、偶然十年ぶりに宗次郎と会って気持ちが高揚していく。が、宗次郎は、情婦おゆきを殺したかどで元岡っ引の地兵衛に追われている。おしのを想っていた宗次郎とおしのは、地兵衛から逃れるために、二人で江戸を出て行こうとしたら地兵衛が待ち構えていた。
    【読後】宗次郎が調べて行くと、おゆきを殺したのは地兵衛であった。宗次郎は、殺しにきた地兵衛を殺したため、おしのと無理やり別れて江戸を出て行きます(涙)。女の心の動きを丁寧に書いています。
    第68回直木賞候補作品。

    【暗殺の年輪】
    剣の遣いてであったゆえに藩の政変に巻き込まれた父子と、息子を救うために身を汚した美しい母の物語です。十八年前、葛西馨(けい)之介の父源太夫は、現中老嶺岡兵庫を暗殺する命を受けるが失敗して亡くなった。今度は、馨之介に命が下る。馨之介が、嶺岡を暗殺したらそれを命じた者たちが殺しにかかってきた。
    【読後】馨之介は、十八年前も同じように父は、命じた者たちに殺されたのではないかと覚る。そして美しい母波留が、馨之介を守るために嶺岡に身を任せた。それを息子に知られた波留は、自決した。理不尽な怒り。
    第69回直木賞受賞作品。

    【ただ一撃】
    八十七石の軽輩の刈谷家に嫁に来た三緒23才は、美しく、気立てがよく舅範兵衛によく仕えた。藩道場に武骨な剣客が現れ、対戦した手練れの若者四人が、かたわになった。観ていた藩重役が二十年前の試合で、ただ一撃で相手を倒した刈谷範兵衛を思い出し対戦させた。
    【読後】藩内で噂にものぼらない六十くらいの老人範兵衛が、山に入り野獣となって戻ってきました。そして嫁の三緒に男として役に立つか試したいと、三緒は、受け入れたが途中で取り乱し歓びに奔った、それを恥じて自害した。範兵衛は、ただ一撃で剣客の頭を砕いた。

    【溟(くら)い海】
    江戸時代後期の浮世絵師として名を馳せた葛飾北斎。年老いて若者が出した絵が次々と売れていくなか、北斎の絵が売れない。【読後】北斎の葛藤と北斎の家族をかえりみない姿が描かれている。
    第38回オール讀物新人賞受賞作品。第65回直木賞候補作品。

    【囮(おとり)】
    版木師でありながら病気の妹を養うために、人に隠して目明かしの下っ引きをしている甲吉の後ろめたさを、犯罪者を捕まえるための囮となっている女を通して描いている。
    第66回直木賞候補作品。

    【読後】
    久しぶりに藤沢周平さんの本を読む。藤沢さんの本は、字が小さくて、読めるものが少ないなかブックオフで読める字の大きさの本を見つけて嬉しかったです。著者は、女性の心の動きをこまやかに、そして丁寧に書いています。読みごたえのある作品となっています。この5編は、著者が「溟い海」で文壇にデビューしてから2年間に発表された作品のなかから構成されています。
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    参考
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    1971年(昭和46年) - 「溟い海」で、第38回オール讀物新人賞受賞。
    1973年(昭和48年) - 「暗殺の年輪」で、第69回直木賞受賞。
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  • 1973年の直木賞受賞作品ほか4篇。今とは全く違ったはずの武士の世の倫理観が、5篇すべて、結末とうまく繋がっている。特に「ただ一撃」の範兵衛と三緒が壮絶だった。

  • 作者初期の短編集。直木賞を受賞した「暗殺の年輪」に至るまでの候補作3編と受賞時期とほぼ同時に発表されたと思われる一編の五作が収録されている。

    個人的好みは、直木賞受賞作より「黒い縄」と「ただ一撃」。「黒い縄」のドンデン返しは見事だし、「ただ一撃」の凄腕爺さんも憎めないキャラでなんとも良い。そこには後のユーモアをそこはかとなく感じられる周平がいるように思われる。

    苦しみや哀しさを背負わされた女性がどの作品にも登場するのが辛いが、作品に深みと重みを与えている。

  • 藤沢周平初期短編5作品。
    解説を読んで知りましたが、自分としては文壇初登場の「溟い海」と第2作の「囮」が中でも面白かったです。
    どの作品も悲劇的な最後ですが、落ちるところまで落ちた悲劇な終わり方ではなく、わずかな救いを感じさせるのも絶妙なところです。江戸時代の情緒をしっとりと感じさせてくれる鮮やかな筆致と、ぐいぐい物語にのめりこまさせてくれるストーリー展開が大きな魅力です。
    「黒い縄」は女性視点での町人物。離縁された?女性の心の移ろいを細やかに描写した作品で、ミステリーの常道ともいえるストーリー展開が楽しめる。
    表題作「暗殺の年輪」は直木賞受賞作で、自らの生い立ちに桎梏を持つ青年武士の葛藤と決断までの過程を描く。これもストーリー展開と青年の心理の揺れ動きと魅力的な女性陣の登場が楽しませてくれる。
    「ただ一撃」は、剣術物として疾走感のある作品。最もはらはらして読んだ作品で、舅と魅力的な嫁との掛け合いも面白かった。
    「溟い海」は葛飾北斎が下り坂になり安藤広重に嫉妬する様を、サイドストーリーを絡ませながら、その葛藤を巧みに描いた作品。ストーリー展開とその終わらせ方も含めて面白かった。
    「囮」は下っ引きの張り込みを中心とした物語で、主人公の下っ引きの本職である版画工房での出来事とあわせ、巧みなストーリー展開と主人公の張り込み先である犯罪者の情婦との絡みが面白かった。
    一慨に女性の描き方も上手く、大いに魅せられた作品群でした。

  • 時代小説の概念ががらっと変わった。
    著者の作品は初めて。戦国〜幕末辺りの有名な小説が読みたくて“直木賞”で地元電子図書館で試しに検索して出てきたので借りてみた。
    結果、藤沢周平さん、すごく好きになりました。
    文体が綺麗で読みやすく心理描写に無駄がない。てっきり存命の方かと思ったら1927(昭和2)年生!なんでこんなに今風というか、古さを感じないのか……?すげー。
    短編5編、ハズレなし。どれもハッピーエンドとは程遠いけどそこがいい。特に印象に残ったのは『ただ一撃』。強いお爺さんとその息子の嫁の話。鼻垂らしてる爺さんが実は最強剣士なんてワクワクさせておいて怒涛の展開。泣けばいいのか笑えばいいのか、ちょっとエロいなとか思ったりもしてしばらく忘れられなさそう。

  • 時代物は表現が情緒的だよね♪

  • 「黒い縄」「暗殺の年輪」「ただ一撃」「溟い海」「囮」の5作。
    「溟い海」で藤沢周平は文壇に登場し、
    「暗殺の年輪」で直木賞を受賞する。
    「黒い縄」「ただ一撃」「囮」など、
    デビュー当時の雰囲気というか、
    昭和時代の粘性を感じる作品。
    当時はそれが普通だったのかもしれないけれど、
    今読みかえすと、
    一種のギラつきが灰汁になってしまう。
    昭和の時代の男と女が、好む時代小説だと思う。

  • 直木賞受賞作「暗殺の年輪」はじめ、それまでに直木賞候補となった作品などその周辺の作品をまとめられた短編集です。この時期ならではの著者の作風を感じることができます。女と男の関係、それに感情的に振り回される情景、他人の心の分かりにくさとそれ故の不幸、全体を通して暗い印象の中に、そんな人間らしさを感じる作品達です。「黒い縄」「暗殺の年輪」「ただ一撃」と、闘い(というか喧嘩)に向かう男と、それを見ている女性との関係を。その世界の虚しさを感じられました。「溟い海」「囮」はそれぞれ人間の持つ暗黒の一面とその魅力を感じられるものでした。
    形の見えないものである心の動きへの描写がとても魅力的で、引き込まれるところがありました。

  • 藤沢周平の初期の短編集。救いようのない絶望感。藤沢の作家デビューまでの苦労が各作品に反映されているように思える。

    後の作品にはユーモアもあるが、どこか諦観した姿勢は筆者のデビュー時から変わっていないのだろう。

  • 葛西馨之助に、貝沼金吾が用があるので、家に来いと誘う。行くと、上役が並んでいた。不審に思っていると、その上役から出されたのは、中老・嶺岡兵庫の暗殺についての事だった。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

藤沢周平の作品

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