敗れざる者たち (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 951
レビュー : 94
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167209025

作品紹介・あらすじ

クレイになれなかった男・カシアス内藤、栄光の背番号3によって消えた三塁手、自殺したマラソンの星・円谷幸吉など、勝負の世界に青春を賭けた者たちのロマンを描く。(松本健一)

感想・レビュー・書評

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  • 自分もランニングをするので「長距離ランナーの遺書」が一番印象深かったけれど、20代の沢木の筆が最も冴えるのはボクサーを題材にした二編だと思う。闘う人間の悲哀が良かった。古本市で3冊1000円の1冊。

  • 「勝負の世界に何かを賭け、喪っていった者たち」を描いた六篇のノンフィクション短篇。

    不完全燃焼のプロボクサー、カシアス内藤を描いた「クレイになれなかった男」、長嶋茂雄と三塁手を争った不運の野球選手二人(難波昭二郎、土屋正孝)を描いた「三人の三塁手」、東京オリンピックのマラソンで銅メダルを取った後自殺した従順な走者、円谷幸吉を描いた「長距離ランナーの遺書」、日本ダービーで敗れた競走馬イシノヒカルを巡るドラマを描いた「イシノヒカル、おまえは走った!」、報われないバッティングの求道者、ミスターオリオンズ・榎本喜八を描いた「さらば 宝石」、老いた元チャンピオン・輪島功一の世界タイトル・リターンマッチを描いた「ドランカー<酔いどれ>」。

    滅びの美学を追求した著者の筆致、若い頃の作品であるためかちょっと大仰だが、読みごたえはあった。特に、「長距離ランナーの遺書」、「さらば 宝石」が印象的だった。

  • 東京五輪のマラソン銅メダリスト、「規矩の人」円谷幸吉の話が面白かった。愚直。
    そしてボクシングってとことん孤独だ。沢木耕太郎の筆を通すと、悲壮感とか、空虚さしか伝わってこない。

    円谷幸吉の遺書が印象的だったので抜粋

    父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。干し柿、もちも美味しゅうございました。
    敏雄兄、姉上様、おすし美味しゅうございました。
    勝美兄、姉上様、ブドウ酒とリンゴ美味しゅうございました。
    巌兄、姉上様、しそめし、南ばん漬け美味しゅうございました。
    喜久造兄、姉上様、ブドウ液、養命酒美味しゅうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。
    幸造兄、姉上様、往復車に便乗さして戴き有難うございました。モンゴいか美味しゅうございました。
    正男兄、姉上様、お気を煩わして大変申しわけありませんでした。
    幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、良介君、敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、立派な人になってください。
    父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません。何卒 お許し下さい。気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
    幸吉は父母上様の側で暮しとうございました。

  • ボクサーをはじめ、野球選手、陸上選手、競走馬、騎手のあがき苦しむ姿を丹念に描いた物語は、“追いかける”者の孤独をまざまざと見せつけ、やがて最終話のリング上で一気に燃え上がる。何といっても、輪島功一さんのエピソードが鮮やかでかっこいい。勝負の世界に生き、自分自身にけりをつけることは、なんと難しいのだろう。

  • 懐かしい作品。これぞニュージャーナリズムっていうやつなんですかね。この文庫本に収録されている解説が個人的に好きなんですが、本当にそこにも書いてあるとおりなんです。著者は取材対象にギリギリまで行動をともにして密着する一方、一歩引いた冷静な「観察者」としての視点もしっかり兼ね備えている。そこがこの絶妙な熱量の文章を産み出してのだと思うし、そこが好き。

  • 人の業や性を照らした作品を20年以上ぶりに再読。あの時間を切り取った沢木さんのルポに感動。輪島さん、こんなに凄い人だったんだと改めて感激。自分がちびだった頃の時を思い出せ、日本が一生懸命前向いていた時を再認識。読み返し甲斐がありました。

  • おそらく多くの人は、ただ誰にでも回ってくる程度の成功だったり負けそうになると逃げ出すことだったりをだらだらと続けていくだけの、完璧な勝利にも敗北にも直面することのない人生に終わるはずで、だからスポーツや何かみたいなショービズを通してしかそれらを目撃したり体験したりできない。それで、勝者の方はともかく、そういう世界ですら完全に打ちのめされた敗者を見る機会ってそうそう無いので、そういうだらだらと負けていったプレイヤー達にスポット当てて、あえて完全な敗者として「敗れざる者」とラベルを貼っていくのが自分にとって新鮮(大分昔の本だけど)で面白かった

  • ふう、沢木耕太郎読むなんて何年ぶりだろう。ん?何十年ぶり?文体が素晴らしい。思い出した、ヘミングウェイだ、、、と思ったらあとがきに本人からもその名が出てきて納得。表面だけさらっと書いたものや上から目線で批判するだけのスポーツライティングが多いなか、「敗れる」人たちをその以前から書き込んでいく手法は素晴らしい。前のめりになって一気に読んだ。短編集だけど、つながっている。

  • 敗れざる者たち・目次

    クレイになれなかった男
    三人の三塁手
    長距離ランナーの遺書
    イシノヒカル、おまえは走った!
    さらば 宝石
    ドランカー〈酔いどれ〉

  • 「凄絶な"殴り合い"のクライマックスで、ジョーはマットに叩きのめされる。しかし、力石は勝つと同時に死ぬ。以後、ジョーは力石との一戦で覚えた"あの時"の燃焼感を求めて、リングを漂流する。そして、ついにホセ・メンドーサとの世界タイトル戦で彼は"あの時"の自分にアイデンティファイする。打ちのめされ、打ちのめし、しかし判定で彼は敗れる。ジョーはついに力石にもホセにも勝てないのだ。戦いのあとのリング上で椅子に座りながらポツリと一言いう。いいおわると、死力を出しつくしたジョーはもう死んでいるのか、眠っているのか口元に静かな微笑を浮かべたまま、身じろぎもしない。
    「燃えたよ……まっ白に燃えつきた。まっ白な灰に……」
    ……
     "燃えつきる"ーーこの言葉には恐ろしいほどの魔力がある。正義のためでもなく、国家のためでもなく、金のためでもなく、燃えつきるために燃えつきることの至難さと、それへの憧憬。あらゆる自己犠牲から、あとうかぎり遠いところにある自己放棄。
     矢吹丈は彼と同世代の若者のニヒリズムの上に咲いた、華麗な花だった。
    ……
     以前、ぼくはこんな風にいったことがある。人間には"燃えつきる"人間とそうでない人間の二つのタイプがある、と。
     しかし、もっと正確にいわなくてはならぬ。人間は、燃えつきる人間と、そうでない人間と、いつか燃えつきたいと望みつづける人間の、三つのタイプがあるのだ、と。
     望みつづけ、望みつづけ、しかし"いつか"はやってこない。内藤にも、あいつにも、あいつにも、そしてこの俺にも……。」

     敗れざる者たち、この表題は、負けない者を指すのではない。戦って戦ってついに敗れきることのできなかった者のことである。灰になれなかった者たちのことである。彼らには栄光の勝利もなくば、全身を賭けて敗れて燃えつきることもできない。ついに彼らはあの花になることができない。ただ望みつづけるだけ、それは普通に生きている人間のほとんどがそうだろう。誰もが長嶋茂雄になることができるのではないように。私たちはいつだって敗れざるものなのだ。夭折の花もなくのうのうと生きつづけ、夭折した者たち、三島由紀夫や円谷幸吉に、なぜお前らは死なないのだと問い続けられながら、生きつづけてゆく。カートコバーンの言葉を思い出した。
    「徐々に色あせていくなら、いっそ燃え尽きたほうがいい」
    こう言い残して彼は死んだ。
    敗れざる者たち、私たちも含めて、は燃えつきることも、灰になることもできずにただ生きつづけている。その悲哀を筆者は追い続けている。

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著者プロフィール

沢木 耕太郎(さわき こうたろう)
1947年東京生まれのノンフィクション作家、小説家。横浜国立大学経済学部卒業。大学卒業後、ルポライターとして活動、注目を集める。
浅沼稲次郎暗殺事件で刺殺された浅沼と、その犯人である少年を描いた『テロルの決算』で第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。以後、バックパッカーのバイブル『深夜特急』をはじめ、スポーツや旅などを題材にした多数のノンフィクション作品、小説などを発表。2000年に初めての書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し話題となる。
2003年これまでの作家活動で第51回菊池寛賞、2006年 『凍』で第28回講談社ノンフィクション賞、2013年 『キャパの十字架』で第17回司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞。

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