緋色の記憶 (文春文庫 ク 6-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167218409

作品紹介・あらすじ

ある夏、コッド岬の小さな村のバス停に、緋色のブラウスを着たひとりの女性が降り立った-そこから悲劇は始まった。美しい新任教師が同僚を愛してしまったことからやがて起こる"チャタム校事件"。老弁護士が幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは?精緻な美しさで語られる1997年度MWA最優秀長編賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 長い間再読したいと思っていた一冊。
    今年、早川書房からまさかの新版が刊行されその思いが強くなった。
    ※新訳ではなく、新版となっており訳者も同じなので、訳は同じなのかな。

    本書は新版ではなく、実家に眠っていたかつて読んだ旧版。
    周囲が赤茶け、古い本独特のあの匂いがぷんぷんしていた。
    電車で読んでいたので隣の人にもかがっていたのではないかと思うくらい。
    ごめんなさい。

    刊行当時は『夏草の記憶』、『死の記憶』と共に記憶三部作などと言われていたけど、登場人物が共通するシリーズものというわけでもなく、その後『夜の記憶』、『沼地の記憶』などが刊行されたものだから、三部作とは何なのかと思ってしまったりもするのだが、これらの作品に共通するスタイルは特徴的かつ読み応えあり。

    かつての悲劇、事件の記憶に現在から思いを馳せつつ、最初は何が起きたのかすら朧げな全貌を、徐々に明らかにしていく。
    時間軸は行ったり来たり、唐突に出てくる思わせぶりなシーンやアイテムの背景が後になって補強され、突如その見え方が鮮明になる。
    その間に紡がれる物語と、そこここで語られる心情の吐露ははまるで文学作品のように流麗で深遠。
    このスタイルが大好きだったのだ。

    1926年8月、米国マサチューセッツ州コッド岬の小さな町チャタムのバス停に一人の女性が降り立った。
    美しく、毅然とした物腰、旅行記作家の父と世界各地を転々とする生活を送った幼少期が創り上げた自由で開かれた発想、ときにグロテスクでもあるその土地土地に伝わる神話、言い伝えを数多く知るミス・チャニング。
    チャタム校の美術教師としての職につき、この地での暮らしを始めるが、同じ学校の英文学教師リードと懇意になり、次第に雲行きが怪しくなって行く。。。

    主人公ヘンリーはチャタム校の校長の息子で、チャニング、リードに教わる生徒。
    校長の息子ということから周囲の生徒達とは馴染めない孤独な日々を送っていたが、チャニング、リードとの関係を育むことで、日常に張りを取り戻しつつあったのだが。。。

    何十年もの後、かつての関係者のほとんどがこの世を去った現在に、ミス・チャニングがチャタムに降り立った1926年8月から翌27年5月に起きた”チャタム校事件”、その後の裁判までの当時を振り返り、事件の真相に思いを馳せる。

    ほとんど、内容憶えていなかった。
    もっと意外性のある結末だったような気がしていたのだが、オチはそこまででもなかった。
    けれどもやはり、そこに行きつくまでの真相の剥ぎ方がうますぎる。
    解説では”コラージュのよう”と評されていたが、確かに色んな場面が色んな大きさで継ぎはぎされ、最後に見渡すことのできる大きな物語は”コラージュ”という表現がぴったりだ。
    この調子で他の作品も再読してみようかな。

    それにしても実家に眠っていた本書の定価表示は543円+税。
    新版のAmazon価格は1650円。
    物価指数も違うので一概には言えないが、すごいインフレ。

    • ひまわりめろんさん
      そうなんですよね!
      古い本再読するとまず定価にびっくりしますよね
      収入はそんなに増えてない気もするんですよ
      あ、違う
      収入は増えてるけどお小...
      そうなんですよね!
      古い本再読するとまず定価にびっくりしますよね
      収入はそんなに増えてない気もするんですよ
      あ、違う
      収入は増えてるけどお小遣いが増えてないんだ。゚(゚´Д`゚)゚。
      2023/10/07
    • fukayanegiさん
      昔のほうが羽振りよく本買ってた気がしますよねー。
      今じゃ古本ですら滅多に買わない。
      パパのさだめですかね。
      昔のほうが羽振りよく本買ってた気がしますよねー。
      今じゃ古本ですら滅多に買わない。
      パパのさだめですかね。
      2023/10/07
  • 古本市の3冊〇円の数合わせで偶然買った本だが、読んで良かった! 1997年エドガー賞を受賞しているようだが、納得の面白さである。
    ニューイングランドの海沿いの田舎町チャタムで、1927年に起こったある事件を、年老いた弁護士が回想する物語。
    ミステリーといっても、序盤に殺人事件が起きて探偵が解決するものでも、複雑な謎解きを楽しむものでもない。
    過去の経緯が語られる中で少し先の未来が小出しに挿入され、徐々に小さな町を揺るがす事件がぼんやり姿を現すのだけど、何が起こったのかが語られるのは、物語も終盤。そのあたりは読むのを止められない。
    少年の純粋さと未熟さ・別世界から来た異質なものに対するチャタムの人々の嫉妬と排他性・・・これらが導く悲しい結末に胸が苦しくなった。
    原文を読まずにこう書くのは何だが、翻訳が素晴らしいと思う。原文の美しさや格調高さが感じられるからだ。
    そう思って、翻訳者の鴻巣友季子さんをネットで調べたら、本作の翻訳で賞を取られてるんですね。
    あと旧版の表紙イラストは、ヒロインの容姿を正しく表現していない。事件の重要なポイントだと思うのだけど・・・。

  • 主人公が、学生時代の出来事を振り返るのだが
    小出し小出しに事件のことを語ってゆき
    とても歯がゆく感じました
    なので、先に先にと読み進めたくなる
    そして、最終的に語られたことに・・・

  • しっとりしていて、静かに深い感じ。
    昔翻案されてNHKが放送していたもの。

  • 一人の新任女性教師が村にやってきたことから起こった悲劇。老弁護士の回想から徐々に事件の全容に迫っていくミステリー小説。

    事件が起こってその事件の真相を明かしていく、という趣向のミステリーではなく、事件が起こる数か月前の女性教師と主人公の出会い、日常を事件が起こる日までゆっくりと辿り、そして時折事件が起こった後の裁判シーンのカットバックや、過去を振り返る主人公の暗示的な言葉を挟み読者に悲劇を予感させつつも、どんな事件が起こったかは終盤まで読まないと分からないようになっています。

    他の方のレビューでもありましたがまさにアガサ・クリスティーの『ゼロ時間へ』のような小説。事件が起こったところから始めるのではなく、事件が起こる前の人間ドラマに比重を当てています。

    なので、どんでん返し系のミステリーではないですが、丁寧に語られた事件までの人間ドラマが心に楔を打ち込むように刻み込まれます。郷愁や後悔をにじませる老弁護士の語りは文学的な雰囲気も漂っていて非常に美しい。訳もその辺の雰囲気をくみ取ったいい訳であるように思います。

    真相も一ひねりしてあってなるほど、という感じ。前振りが長いといえば長いですが、落ち着いた作風が好み、という方には暗く陰鬱な雰囲気の漂う大人なこの作風は、前振りの人間ドラマから真相まできっと気に入るんじゃないかと思います。

    アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞
    1999年版このミステリーがすごい!海外部門2位
    このミステリーがすごい!ベストオブベスト海外部門8位

  • アメリカの作家「トマス・H・クック」の長篇ミステリ作品『緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)』を読みました。

    『石のささやき』に続き、「トマス・H・クック」作品… 『東西ミステリーベスト100』で海外篇の94位として紹介されていた作品です。

    -----story-------------
    ニューイングランドの静かな田舎の学校に、ある日美しき女教師が赴任してきた。
    そしてそこからあの悲劇は始まってしまった。
    アメリカにおけるミステリーの最高峰、エドガー賞受賞作。
    -----------------------

    1996年(平成8年)に発表された作品… 『石のささやき』が、やや消化不良だったこともあり、エドガー賞を受賞した本作品には、ちょっと期待して読みました。

    ある年の夏、コッド岬にあるチャタムの町のバス停に、ひとりの婦人が降り立った… 婦人は緋色の鮮やかなブラウスを身にまとっていた、、、

    名前を「エリザベス・ロックブリッジ・チャニング」というその女性は、美術教師として、この町にあるチャタム校に赴任してきたのだ… 「ヘンリー・グリズウォルド」は厳格をもってなる父親でチャタム校の校長「アーサー・グリズウォルド」とともに彼女を出迎えていた。

    その美しさと世界中を旅しながら暮らしてきたという彼女の話に、15歳の少年だった「ヘンリー」は心を奪われた… しかし、そんな夢を見ていたのは、彼だけではなかった、、、

    それが悲劇の始まりになる… 「エリザベス」の存在は、平穏そのものだったこのニューイングランドの保守的な町に災いをもたらすことになってしまう、、、

    美しい新任教師が同僚で英文学教師「レランド・リード」とただならぬ恋に陥ったことからやがて起きる「チャタム事件」… 人生の晩年を迎え、老弁護士となったたわたしは、幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは?

    「チャタム事件」を知る人が、ほとんどいなくなった頃、「ヘンリー」が、かつてのチャタム校で起こった事件を回想するという展開… 事件があったことが事前に明かされ、その事件が「エリザベス」と「レランド」の不倫に起因する陰惨な出来事だということは示唆されつつも、なかなか真相がわからない緩やかな展開で、ややモヤモヤとする独特のリズム感がある作品でした。

    それにしても、哀しくてやりきれない真相でしたね… 「ヘンリー」は、「エリザベス」が「レランド」と駆け落ちできたらいいと願い、その障壁となっているのは「レランド」の妻「アビゲイル」にあると思い込み、「アビゲイル」の琴線に触れてしまう不用意なひと言を発してしまうんですよねぇ、、、

    この「ヘンリー」の何気ないひと言が、「アビゲイル」を激高させ、結果的に「エリザベス」と間違えて「サラ」を轢き殺すことになり、クルマとともに池に落ちた「アビゲイル」は溺死… しかも、池に潜った「ヘンリー」は、「アビゲイル」をクルマに閉じ込めるという所作まで、そして、それがきっかけで「レランド」は自殺し、「エリザベス」は糾弾され、実刑を受けた後、刑務所で死亡してしまうんですからね。

    うーん、辛い… 印象的な作品でしたが、本作品もミステリというよりも、現代文学っぽい感じでしたね。



    以下、主な登場人物です。

    「ヘンリー・グリズウォルド」
     チャタム校の生徒

    「アーサー・グリズウォルド」
     チャタム校の校長。ヘンリーの父

    「ミルドレッド」
     ヘンリーの母

    「エリザベス・ロックブリッジ・チャニング」
     チャタム校の美術教師

    「レランド・リード」
     チャタム校の英文学教師

    「アビゲイル」
     レランドの妻

    「メアリ」
     レランドの娘

    「サラ・ドイル」
     グリズウォルド家のメイド

    「アルバート・パーソンズ」
     州検事

  • ある夏、コッド岬の小さな村のバス停に、緋色のブラウスを着たひとりの女性が降り立った-そこから悲劇は始まった。美しい新任教師が同僚を愛してしまったことからやがて起こる“チャタム校事件"。老弁護士が幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは?精緻な美しさで語られる1997年度MWA最優秀長編賞受賞作。
    原題:The Chatham School affair
    (1996年)

  • 緋色のブラウスを着た美しい女教師の着任から起きたチャタム校事件の真相とは…。老弁護士の回想の中で語られる。上手い。何が真実なのか。封印すべき記憶なのか。ミステリとしてよりも小説として上手い。人間の描き方が素晴らしいのだ。ラストは悲しく切ない。MWA賞受賞作にして98年このミス2位となったヒューマンミステリの傑作

  • 小さな村の学校にやってきた、若く美しい女教師。彼女を発端として起こった「チャタム校事件」についての回想を描いた、穏やかだけれど不穏な読み心地がいっぱいのミステリ。
    早い時点から事件が起こったことは描かれているのですが、事件の詳細について語られるのはかなりあとになります。なのでいったい何が起こってしまったのか、誰が犠牲になってしまったのか、それのまったくわからない不安だけがどんどん膨らんでいく読み心地が独特でした。「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」という表現には深く納得。まったくその通りの読み心地です。
    ヘンリー少年が目にし、思い描いていた美しいロマンスは本当にあったのか。やがて起こる悲劇の罪は、誰に背負わされるべきものだったのか。各登場人物が胸に秘めた思いが明かされるにつれ、やがて明らかになった事件の真相。誰にも明かされることのなかった真実は、そのまま葬られてしかるべきだったでしょうか。

  • 2019/10/3読了。リビングのラックに積んどかれた文庫。
    いつか読まなければと思いつつ月日が流れ、まさにセピア色に変色してしまっていた。しかし、読み始めるとさすが1997年度MWA最優秀長編賞受賞作だけあって、心理的描写が巧みでまさに長編に根が上がりそうになった。しかし、主人公の過去の恐るべき回想にはええっ!と思え死者の苦悶が頭に充満する。こんな文章もなるほどと思えた。
    『だがこうして今、人生のあの瞬間を思い、あの気持ちを思いだし、その自分がのちにしたことを考えると、運命と
    はけっきょく予期せぬ偶然にすぎないような気がしてくるのだ。』我々の日常にも言えることだと思いをはせた。

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