山河寂寥 上―ある女官の生涯 文春文庫 す 1-27

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167224288

感想・レビュー・書評

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  • 参った!超多忙時期に杉本様の本は避けるべきです(;_;)うっかり手にとって…はまってしまったわ。まるで映画を観るように物語が展開していく。二条の后も良かったけど、高子様が一層鮮やかで印象的でした。

  • 時代は仁明天皇、文徳天皇、清和天皇の御代、
    北家の藤原良房が権勢を振るう。
    物語の主人公は、良房の姪にあたる淑子である。

    良房は自分の孫に当たる幼少の清和天皇を即位させたり、
    弟の良相や大伴善男を追い落とし地位を盤石なものとしている。
    淑子はそのような勢力の中におり、
    叔父の良房や異母兄の基経などと結託しながら、
    宮中で自らの地位を築いていくという物語なのだろう。

    淑子は権謀術数を駆使し、のし上がっていくことの面白さに惹かれる、
    というような表現がある。
    良房や基経もそういったことを鼻にかけるような印象を持ったのだが、
    そのようなはかりごとの目的は何なのか、と思う。
    保身であったり、権力欲であったり、
    はかりごとを弄すること自体の楽しさゆえであるかもしれないけれど、
    何にせよ、人物たちがどういう動機でそもそも行動を起こしているのか、
    その描き方が薄く感じた。

    そう感じたせいか、人物たちにも魅力をあまり感じなかった。
    後ろ暗く矮小に思えてしまう。

  • <上下巻読了>
     平安初期、台頭する藤原北家を中心とした政局の移ろいが描かれる。
     人臣初の摂政・良房や関白・基経等、藤原氏全盛期の基礎を築いた面々に交じり、主軸となる女性は良房の姪であり基経の異母妹の淑子。
     典侍から尚侍へ、宮仕えにおいて数々の政変を見つめ、自らも野心と誇りを持ち、時に親しき血族とも競いつつ、彼女は権謀の腕を振るう。
     皇統との通婚を重ねての間接的独裁権力は、表面こそ派手ではないが、水面下の攻防が見所。
     日本独特の権力構造が突出した時代として興味深い。
     ただ前半は年表事項の解説に終始した部分もあり、政争のダイナミズムには物足りない面がある。
     相関図にしても、婚姻関係を辿れば某かの縁戚には当たるため強調が却って不自然な場合もあり、『義理のいとこ』や『義理の叔母の更に姉妹』あたりになると他人も同然に近い。
     同族の誰彼をあげつらっての会話で逐一『藤原』と冠するのも不要だし、当時の人間からすれば一昔前程度に過ぎない時代を(現代からの目線で)『古代』と言わせたり、摂政関白が常駐される前の時点で『摂関家』の語を当人らが口にしていたりと、細かい表記の違和感が鼻について作品世界に入り込み難い。
     しかし、一気に書き下ろしたらしい後半は、主要人物達が老獪な遠謀深慮で争い合い、物語が勢いを持つ。
     更には、淑子が養母として育てた宇多帝の聡明快活な顔の下に、『氷の種』と称される酷薄で厚顔な保身本能を抉り出す下りは、政治家の複雑な多面性を示していて面白い。
     各々の権力志向と対立、情や性、愛憎が絡み合っての、虚偽に満ちた駆け引きの数々に浸りながらも、悔いなく生き抜いた一女官の姿はまさに時代を象徴する人物像となっている。

  • ある女官とは誰だろう?と思っていたら、有名な伊勢物語、二条の妃高子姫の異母姉でした。この女性の存在は全く知らなかったので新鮮でした。仁明帝から嵯峨帝まで女房→後宮女官ととして活躍。この巻では清和帝時代までの生い立ちを描いています。主人公と一緒に出てくるのが基経。仲の良い兄妹設定なのか優しげよりで、今まで読んでたのと少し印象が異なる。史実に沿って展開されているので、政変の流れが勉強になってよい。下巻に続く…

  • 名も知らぬ女官の物語かと思えば
    宇多天皇を養子にした女傑でした
    (基経の異母兄弟)
    在原業平と高子のいきさつは色恋沙汰だけではなく、文徳帝が跡継ぎに望んだ惟喬親王の母の関係から生まれた基経への意趣返しであった(解説すると)

    文徳帝=紀静子の皇子が惟喬親王
    紀静子の兄弟、紀有常の娘と在原業平
    惟喬親王の皇位継承を阻止したのが基経
    (義父良房の娘:明子の息子、惟仁=清和天皇)

    このくだりは納得できました

  • 時は平安時代、仁明帝の御世。主人公の阿古(後の藤原淑子)は藤原総領・長良の妾腹。その聡明さを叔父の右大臣・藤原良房に見込まれて、道康皇太子妃・明子の側仕えに。
    上巻は良房の死まで。清和帝の治世も末期、後の陽成帝の資質が危ぶまれるところ。上巻のクライマックスは、「文徳帝の毒殺」と、有名な「業平と高子の駆け落ち未遂」かな。それとちょこっとだけ、若き日の道真が登場。

    よく知られた史実や人物関係は改変することなく忠実に、でもそうでないところは作家の想像力の賜物で面白い読み物に。
    例えば、源潔姫。良房の正妻で臣籍降下した嵯峨天皇皇女、くらいにしか思ってなかったが、父・嵯峨帝が手ずから琵琶を教え、気鋭の良房に嫁がせたのに、流産後の抑圧に気鬱する娘の東宮妃・明子に消耗させられ、隔日の東宮(後の文徳)の渡りに帳台の陰で身動ぎもせず朝まで宿直する日々…"古壁の雨染み"とまで言われる姿は切な過ぎる。
    例えば、藤原基経。実母・乙春との絡みは皆無だが異母兄妹としての淑子とのやり取り、笙の名手、また効果的なエクボの描写は、従来の藤家長者のイメージに人間的な横顔を添える。
    更に、「多弁な班子内親王」と「物静かだけど賭け事に強い時康親王」がおしどり夫婦とか。

    また、狩り好きな嵯峨源氏達が「猟犬や勢子の代わりに」と子飼いにしている侍達に、その後の武士の台頭を匂わせる説得力もスゴイ。
    アレ?基経っていつ結婚したの?ってとこは疑問が残るけど。
    正直、人物関係はかなり複雑なので、ある程度分かってないと辛いかも(要所要所に家系図は挿入されてはいます)。

  • バツイチで何やら過去を引きずっている中年男、多田。多田がまほろ市内を商圏として営む便利屋に、ひょんなことで転がり込んだこちらもバツイチの高校の同級生、行天。
    謎な過去を抱える二人は、まほろ市内で起きる珍事件に便利屋として巻き込まれていく。
    便利屋二人の珍道中としては面白く読んだが、髄所で発せられる作者の言わんとしているテーマというかメッセージがあまりに“薄く”てやや辟易した。二人が抱えている過去も、フタを開けてみれば「え?それだけ?」という感想…。面白可笑しいストーリーか、観念的なメッセージか、どっちつかずな気がした。

  • 藤原北家の反映というか、陰謀というか。
    この女官の藤原淑子さんは、そんなに出てこない。
    女官といえば韓国ドラマのチャングムをイメージしたけど、やはり全然違った。

  • 平安朝を書いた作品では、N0.1かも。

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著者プロフィール

杉本苑子

大正十四(一九二五)年、東京に生まれる。昭和二十四年、文化学院文科を卒業。昭和二十七年より吉川英治に師事する。昭和三十八年、『孤愁の岸』で第四十八回直木賞を受賞。昭和五十三年『滝沢馬琴』で第十二回吉川英治文学賞、昭和六十一年『穢土荘厳』で第二十五回女流文学賞を受賞。平成十四年、菊池寛賞を受賞、文化勲章を受勲。そのほかの著書に『埋み火』『散華』『悲華水滸伝』などがある。平成二十九(二〇一七)年没。

「2021年 『竹ノ御所鞠子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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