新解さんの謎 (文春文庫 あ 36-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167225025

感想・レビュー・書評

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  •  三省堂の『新明解国語辞典』の面白さを世間に広めた本。
     その筋では有名な、第四版の「恋愛」の語釈がこれです。

    《れんあい【恋愛】 特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。「―結婚・―関係」》

     最近の版ではもう少しおとなしくなったようですが、この頃はかなり尖った語釈を展開しており、その面白さを著者がリアクション(ツッコミ?)を通じて最大限に引き出しています。

     語釈の他にも、例文がこれまた妙なのが多いのも特徴。

    《ぬらぬら (略)「先刻小屋へ入って世話をしましたので、―した馬の鼻息が体じゅうへかかって気味が悪うござんす」》

    《つぎつぎ (略)「クロウして建てたマイホームが―と〔=Aの部屋ばかりでなく、Bの部屋までも〕シロアリに食われている」》

    《どっぷり (略)「おそばのタレは、たっぷりとつけたい。たっぷり、というより―といった方がいい」》

     ネタばらしになっちゃいますので、是非本書でめくるめく新明解ワールドをご堪能下さい。


     ちなみに、『新明解国語辞典』がここまで変な…失礼、攻めの語釈を展開するのにはちゃんと理由があります。
     国語辞典の語釈には著作権が認められないそうです。
     似たような事件で「城」の定義に著作権が認められるかという裁判があり、否定された判例があります。学術用語の定義というのは、簡潔にその特徴をまとめたものであり、一定の学識を持った人間が要素を抽出して作れば必然的に同じようなモノになってしまいます。しかし、これに著作権を認めて保護してしまうと、学問上の議論が阻害され、引いてはその分野の学問上の発展が妨げられてしまうことになるからです。
     国語辞典の語釈も、言葉を簡潔に定義するとだいたい同じようなものに行き着かざるを得ません。だから国語辞典の語釈には著作権が認められない、という理屈なんだと思います。
     が、ここでそれにぶち切れた人がいます。新明解国語辞典を作った山田忠雄です。
     「ふざけんな! 俺たち辞書屋がどんだけ苦労して辞書編んでんだと思ってんだ! 誰がやっても似たり寄ったりぃ? 上等だ、じゃあこれでもかってくらいオリジナルな語釈してやる! パクれるもんならパクって見やがれっ!」
     …と、(表現はかなり下品になっちゃいましたが)こういう思いから「個性的な」語釈を展開した…というのをテレビ(ビーバップ・ハイヒール)で見ました。

     この本に出合わなければ、辞書を読むなんてこと、一生しなかったと思います。
     新明解国語辞典のヘンテコな魅力をこれでもかと紹介した本書。ご存じない方は是非一読を! これ読んでないのは人生損してますよ!

  • 岡本太郎が言うように「なんだこれは?」と思わせるのが芸術ならば、新明解国語辞典は立派に芸術だし、この作品はもっと芸術です。新明解国語辞典の例文や構成だけでも面白いけれど、その紹介の仕方がまず笑えるし(いきなり「あばら屋」の数え方を持ってこなくても)、作中で入れられる突っ込みや感想の妙に大爆笑しつつも興味をそそられます。後半の紙についての考察にも言えることですが、表現が的確で分かりやすい。読み手が感じる「何か」をそれこそ明快にしてくれる。多才な方に特有の、本気なのか冗談なのかわからない飄々とした魅力も含めて楽しませていただきました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「本気なのか冗談なのかわからない」
      勿論、全部100%マジでしょう、だって「超芸術トマソン」の方ですから。。。
      「本気なのか冗談なのかわからない」
      勿論、全部100%マジでしょう、だって「超芸術トマソン」の方ですから。。。
      2013/07/06
  • これ!最高に笑った!病院の待合で読むものではなかった・・声に出して笑ってしまうほどの面白さ。私は「国賊」が気に入った!家にある新明解でも調べてしまった。昔辞書って意外に面白いと思って読んでいたことがあったのだけど(暇人)ここまでいいツッコミは思いつかなかった。出来れば1冊全部新解さんにしてほしかったなあ。

  • 新明解国語辞典の面白い語釈や用例を
    、更にうまい引用で超面白くしてる。
    吹き出します。 図書館で借りたけど、購入決定!

  • ブクログ開始前、ずいぶん前に読んだ本。
    けれども、相当面白かったことと、面白かったので友人に貸したところ、面白かったと言って、友人の母に又貸しされ、そこから友人の父が読んでいる、と聞かされ、今も手元に帰ってこない本だということは、よく覚えている。辞書って何?と辞書の概念を覆されたものだ。

    なぜ急にレビューを書いているかと言うと(2021.7)、今読んでいる、豊崎由美さんの「そんなに読んでどうするの?」に本書の書評が載っていて、そうだーあの面白かった本は今どこにあるんだろう?友人宅の本棚にあるのか、はたまた売られてどこかの本棚にあるのか、と思い出したからだ。

    国語辞典と言うのは、就学前など、親の判断で購入する場合は別として、意外と、通った学校の教師に薦められたものを買ってしまいがちで、当時、本書を読んだ時に、自分の辞書がどこのものだかも思い出せなかった。何だっけな、と思って確かめたところ、新明解ではなかったので、少し残念に思ったものだ。かと言って、辞書と言うものは、そこそこお値段のするもので、既に、手元に辞書があるのに、改めて買うのも思いきれず。辞書を本屋で立ち読みすると言う、変なことをやったことも思い出す。

    今回、本書を思い出して、辞書と言うのも版を重ねて変わっていってしまうから、きっと今売っている新明解は、この本の時の新明解とは違うんだろうなあ、今はどんななのかなあ?などと思い、ネットで検索していたら、2020/11に第八版の最新版が発売されていた!
    ちょっとこれは、また立ち読みかな、、、

  • 2014年12月に読了。三省堂の新明解国語辞典、いわゆる”新解さん”もさることながら、著者とSM嬢(←いわゆる”SM嬢”ではないです、苦笑)との「妄想」(と表現するには申し訳ないほどの発想、そして展開)が凄まじいです!後半に収録されている「紙がみの消息」という”紙”にまつわるエッセーも読み応え十分。

  •  新刊レビューを読んでいたら赤瀬川さんの本を見かけ、唐突にこの本を思い出しました。
     おもしろくて移動中も手放せないものの、おもしろすぎて電車内で笑いをこらえるのが大変でした。あまりにおもしろいので両親にも勧めようと思ったものの、共有するには気まずいポイントもあり断念しました。
     そのポイントは、読んでみたらすぐわかります。

  • 面白い!

  • 本が好きな人はきっと好きな本。
    お腹抱えて笑いながら読んだ。
    始めの恋愛の話の所は「下ネタか…」と思っちゃうけど、
    その次の「馬鹿」でめちゃくちゃ引き込まれるから、そこまでは絶対に読んで欲しい。

  • 後半の紙がみも良かったけど、何といっても圧巻はタイトルにもなる前半部分。初赤瀬川作品だったけど、入門作として抜群の掴みでした。新解さん、こんなに面白いとは思っても見なかったです。というか、そもそも最近、国語辞典を引く機会が基本無いので、気付きようがないってこともあるんですが。とはいえ、たとえ受験生時代であっても、ここまでじっくり例文を吟味する習慣はなかったから、まさに驚きの連続。まさかの個人的主義主張の連発は、抱腹絶倒の面白さ。素晴らしかったです。

著者プロフィール

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)
1937年横浜生まれ。画家。作家。路上観察学会会員。武蔵野美術学校中退。前衛芸術家、千円札事件被告、イラストレーターなどを経て、1981年『父が消えた』(尾辻(★正字)克彦の筆名で発表)で第84回芥川賞を受賞。著書に『自分の謎(★正字)』『四角形の歴史』『新解さんの謎(★謎)』『超芸術トマソン』『ゼロ発信』『老人力』『赤瀬川原平の日本美術観察隊』『名画読本〈日本画編〉どう味わうか』。また、山下裕二氏との共著に『日本美術応援団』『日本美術観光団』『京都、オトナの修学旅行』などがある。2014年逝去。

「2022年 『ふしぎなお金』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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