恐怖の2時間18分 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167240059

作品紹介・あらすじ

1979年の米・スリーマイル島原発事故を克明に再現する。巨大システムの安全性を考える迫真ドキュメント!

感想・レビュー・書評

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  • スリーマイル島の原子力発電事故についての柳田国男さんのレポート。
    前半は事故初期段階での原子力発電所内の様子、およびその原因となった技術的、システム的な問題についての記述。後半はマスコミや行政の対応における問題点についての考察。
    図らずも原発の仕組みについては詳しくなってしまっているので、特に前半は内容をよく理解しながら読めて興味深かった。ただ読みながらつくづく感じてしまったのが、「福島と比べるとずいぶん軽い事故だったんだなー」ということ。
    福島については、問題収束はだいぶ先だろうし、現状把握すらまだまだだけど、いつか福島についてもこのくらいきちんとしたレポートがまとまったら是非読みたい。

  • ノンフィクション
    原子力発電

  • 技術の発達は私たちに様々な恩恵を与えてくれる。その反面、使う
    側の人間が振り回されることも多いのではないか。

    本書は1979年3月28日に発生した、アメリカ・スリーマイル島原子力
    発電所の事故を再現し、巨大なシステムを運用する際の安全面を考察
    している。

    ヒューマン・エラーとして片づけてしまっては、巨大事故の本質は
    見えてこない。では、何故、ヒューマン・エラーが起きたのか。

    そこには最新技術への過度の依存と、その技術が使う側の視点から
    構成されたシステムではなかったことが大きい。

    重大な危機に直面して、人は平常心を保っているのは難しい。どうに
    かこの危機を脱しなければと気持ちは焦る。それなのに、次々と警報音
    が鳴り、コントロール・パネルの無数とも思えるランプは点滅を続ける。

    冷静になるどころか、鳴り響く警報音や点滅を続けるランプは益々混乱
    を招き、今、何が最優先事項であるのかを判断する能力さえ奪う。

    恐怖である。スリーマイル島原子力発電所の事故に関しては、たまたま
    外部の目が最大の問題点に気付いたからいいようなものの、事故発生時
    の運転員たちの目だけであったのなら、危機は侵攻し続けていた可能性
    が高い。

    「──原発事故においては、目に見えない放射能が相手であり、情報
    を正しく理解するには、科学的知識を必要とする。
     ペンシルバニア州では、その後連邦政府の関係機関と連絡して、原発
    事故発生時における緊急連絡体制を作り、一九八〇年七月にはじめての
    大がかりな緊急連絡訓練を行ったが、それでも必ずしも円滑には行かな
    い問題点の残されていることが、明らかになっている。苦い経験をした
    ペンシルベニア州でさえ、そういう状態である。日本の関係機関は、
    いざというときにうまくやれる自信を持っているのだろうか。」

    福島第一原子力発電所の事故を経験した後では、著者のこの問題点の
    指摘はまったく考慮されていなかったように感じる。

    スリーマイル島原子力発電所の事故も、チェルノブイリ原子力発電所の
    事故も、原子力推進派は「日本じゃそんな事故は起きるはずはない」と
    言って来たのだから。

  • 1979年アメリカのペンシルバニア州スリーマイル島原子力発電所で発生した重大な事故について、その事象の進行を様々な切り口から辿ったノンフィクション。原子力発電所は言うまでもなく大変複雑なシステムなので、メルトダウンに至る事実の経過を正確に記述しようとすると、大変難解になりがちです。しかし、著者の柳田氏は航空機事故や医療事故などシステムとヒューマンエラーとの関わりを長年取材してきただけに、非常に分かりやすく、また正確に事故の全容を記述されています。なぜ原子炉内の水位が低下しているにも関わらず注水を止めてしまうのか、原子炉内の圧力を下げたいのに簡単に下げられないのはなぜか、など一般読者が感じる疑問も本書なら読み進むうちに「なるほど!」とすっと頭に入ってきます。原発事故関連のニュースに接する時、難解な専門用語がたくさん出てきますが、そのような専門用語についても本書を読めば、ほぼその解説が網羅されています。非常に役立つ情報が詰め込まれた一冊です。さすが柳田氏の本だと思います。期待を裏切りません。

  • スリーマイル島の原発事故の調査記録。
    少しものたりない印象がある。

  • 【人間が振り回された朝】周辺の自治体だけでなく、全米、全世界の注目を集めたスリーマイル島の原子力発電所事故。人々をパニックの境地に追い立てたその事故の原因、そして混乱の波及の仕方をドキュメントとして記録した作品です。著者は、飛行機や鉄道などの大型システムが絡む事故を徹底的に追い続けた柳田邦男。


    タイトルだけを見ると、原子力に対して是か非かという本に見えなくもないですが、内容は極めて「危機管理」に特化したもの。合理的に考えられながらもいざというときにまったく役に立たない対策システムの危険性や、小さな不作為が次第に積み重なってとんでもない事故を引き起こす原因となることなどをしっかりと指摘しており、システムと人間の関係性を考える上で有意義な作品でした。


    第二章で描かれる混乱の波及の様子は、あらゆる大規模事故・事件に当てはまると思うのですが、実際に自分がその当事者となっていたら冷静にかつ現実的に対応できるものなのだろうかといろいろと考えさせられるところがありました。スリーマイルの事故では専門家ですらも、今から見ればあり得ないほど誤った判断を下し続けるのですが、「恐怖心」を念頭に置かないと当時の人々の考え方はわからないのかも。

    〜危機管理とは、抽象的な一般論では役に立たない。あくまでも実践的でなければならない。〜

    危機管理って本当に重要なのに学び方が本当に難しい☆5つ

  • (2013.02.14読了)(2012.10.19購入)
    【2月のテーマ・[原発を読む]その②】
    【東日本大震災関連・その109】
    1979年3月28日、アメリカペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所で事故が起こった。この本は、その事故の際のコントロール・ルームの人たちの事故への対応と事故の際に放射能が大気中に放出されたために、どの範囲の人たちをいつまでに避難させるかを判断する人たちのドキュメントです。事故の終息を支援する人たちのドキュメントも含まれています。
    事故原因は、保守点検の際の蓋の開け忘れ、運転員は思い込みからそれに気づかず、被害を拡大させた。普段から稼働優占で、運転に大きな支障がない不具合は、不具合のまま運転を続けていたので、別の状況になっても、その部分に注意が行かない。
    大きな事故になると、短時間に100個以上の警報が立て続けになるので、どれが根本の不具合なのか、識別できない。
    本の題名は、根本原因に気づくまでにかかった時間です。
    柳田さんは、設計が悪いと言ってます。パネルの配置、ランプの色、等、運転員のことを考えていないということです。

    【目次】
    〈第一部〉
    Ⅰ 予兆
    Ⅱ 四人の運転員
    Ⅲ 地獄の門
    Ⅳ 沸騰
    Ⅴ 炉心崩壊
    〈第二部〉
    Ⅰ 悪夢の第一歩
    Ⅱ 偶然の一致
    Ⅲ 誤断の瞬間
    Ⅳ 暗い日曜日
    Ⅴ 虚構の水素爆発
    あとがき
    文庫版へのあとがき
    解説  黒田勲
    主な参考文献

    ●飛行機事故(26頁)
    一年間にアメリカ国内で発生する飛行機事故は、定期旅客機だけなら二十数件だが、小型機を含めると実に四千件を越える。ここでいう事故とは、機体が中破以上の損壊を受けたものを指すから、本格的事故と言える。一年間に四千件以上ということは、一日平均十一件ないし十二件の事故が起こっていることを意味する。
    ●原子力発電(31頁)
    通常の火力発電所が重油や石炭を燃やして水を沸騰させ、その蒸気で発電機のタービンを回しているのに対し、原子力発電所では蒸気をつくる熱源を核燃料に求めているだけのことである。
    ●先入観で見る(59頁)
    先任のAが「おれが見てこよう」と言って、ラインの点検をしたが、やはりコックの「閉」を見落としてしまう。それはいつも開いているという先入観で見るから、円盤の線がラインと直角になっているにもかかわらず、「開」だと思ってしまったのだ。
    ●異常状態が緑ランプ(81頁)
    (ランプの色は、正常か異常かではなく、通電してるかしてないかで決められていた。)
    緑というのは、人間工学では安全色とか後退色とか言っているように、少し冷静さを欠いている時には見えにくい、見逃されやすい色です。
    ●警報は役に立たなかった(85頁)
    警報は次から次へと滝のように鳴り響き、その数は最初の数分間だけで百回にも上りました。私は警報パネルを放り出したくなったくらいです。警報パネルは、我々に対し何の有効な情報も提供してくれなせんでした。
    ●表示の値を信用しない(141頁)
    この発電所の運転員たちは、何事につけ、データがちょっと常識から外れた値を示すと、その意味を考えずに、信用しない傾向があった。
    ●ガイガー・カウンター常備(163頁)
    全米各地に大真面目で、核戦争時の避難所が建設されたころには、ミドルタウン市警察でも、ガイガー・カウンターはいつでも持ち出せるようになっていた。
    ●料金を取ってる場合じゃない(229頁)
    ハリスバーグ市内から高速道路ペンシルバニア・ターンパイクに入る料金徴収所で、料金を取っていたロバート・ヘインズは、延々とつながっている自動車の行列に肝をつぶさんばかりに驚いた。どの車も家族と荷物でいっぱいである。ヘインズは、他人の料金など取っている場合じゃないと考え、自分も逃げ出した。
    ●テレビ局の創作(237頁)
    あるテレビ局のカメラマンは、避難して留守になった家に、自分で紙に「For Sale!」(売りたし!)と書いて貼り出し、「はやくも家を売りに出した住民もいます」というニュースを創作していた。
    ●百年戻れない(253頁)
    『一度家を離れたら、百年戻れなくなるという話を聞いたのですが、本当ですか?』
    ●事故をめぐる社会的混乱(265頁)
    いったいスリーマイル島原発で何が起きているかについては、アメリカ政府の原子力規制委員会の専門家たちでさえ理解することができず、重大な判断ミスを次々に犯していく。そこへ、マス・メディアによる誤報があいついで、混乱に輪をかける。住民の間には、パニックの波が伝わっていく。行政機関も、緊急事態への対応策を持っておらず、トラブル・メーカーの一翼を担うことになる。社会のすべてが失格なのである。

    ☆関連図書(既読)
    「原発労働記」堀江邦夫著、講談社文庫、2011.05.13
    ☆柳田邦男さんの本
    「マッハの恐怖」柳田邦男著、フジ出版社、1971.03.25
    「零式戦闘機」柳田邦男著、文春文庫、1980.04.25
    「狼がやってきた日」柳田邦男著、文春文庫、1982.10.25
    「マリコ」柳田邦男著、新潮文庫、1983.11.25
    「撃墜 上」柳田邦男著、講談社文庫、1991.08.15
    「撃墜 中」柳田邦男著、講談社文庫、1991.09.15
    「撃墜 下」柳田邦男著、講談社文庫、1991.10.15
    「犠牲」柳田邦男著、文芸春秋、1995.07.30
    (2013年2月15日・記)
    (「BOOK」データベースより)
    1979年の米・スリーマイル島原発事故を克明に再現する。巨大システムの安全性を考える迫真ドキュメント!

  • 震災で崩れた本棚から発掘。米スリーマイル島事故のドキュメント。現代社会はこの事故から何を学んだのだろう。

  • 416724005x 295p 1986・5・25 1刷

  • アメリカのスリーマイル島で起きた原発事故をノンフィクションで綴った一冊。
    何で事故が起きたのかと言うことを奥深くまで追求しております。
    ミスが起こるのはなんらかの原因があるわけで、それが人的ミス、まぁ当たり前だと思っていることが実は違っていたりだとか、現実に自分自身が普通にやってそうなミスが原因となるんですよね。
    あとは設計段階からの間違いであったり、訓練の間違いであったり。
    色んなことを想定しなきゃいけないんだなと痛感。

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著者プロフィール

講談社ノンフィクション賞受賞作『ガン回廊の朝』(講談社文庫)

「2017年 『人の心に贈り物を残していく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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