空白の天気図 (文春文庫 や 1-20)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167240202

作品紹介・あらすじ

昭和20年9月17日。敗戦直後に襲った枕崎台風は、死者不明者三千人超の被害を日本にもたらした。その内二千人強は広島県。なぜ同地で被害は膨らんだのか?原爆によって通信も組織も壊滅した状況下、自らも放射線障害に苦しみながら、観測と調査を続けた広島気象台台員たちの闘いを描く傑作ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 「空白の天気図」被爆直後の広島地方気象台の奮闘伝える企画展 広島市中区で3月15日から | 中国新聞デジタル(会員記事)
    https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/281398

    『空白の天気図』 柳田邦男さんが原爆資料館で講演|NHK 広島のニュース
    https://www3.nhk.or.jp/hiroshima-news/20230314/4000021596.html

    空白の天気図 (文春文庫) | ダ・ヴィンチWeb
    https://ddnavi.com/book/4167240203/

    空白の天気図 (新潮文庫 や 8-1) | ダ・ヴィンチWeb
    https://ddnavi.com/book/4101249016/

    文春文庫『空白の天気図』柳田邦男 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167240202

  • 1945年9月、1ヶ月前の原爆投下の傷もまだ癒えていない広島に新たな脅威が近づいていた。枕崎台風。その規模は11年前に大きな被害をもたらした室戸台風にも劣らぬほどの強さだった。

    戦争において気象学は重要。攻撃を仕掛ける時の天候は勝負を分ける大きな要因の一つだからだ。戦時において各地の気象台の計測データは暗号化して中央気象台に伝えられ、中央気象台からの各地の観測データも同様に暗号化されて各地に配信されていた。
    天気予報自体が敵に知られてはならない情報なので国民向けの天気予報、台風に関する情報も戦時は国民に一切提供されなかった。
    そこに原爆投下で広島のインフラが大きな損害を受けた。そのために通信網が不通となり、中央気象台からの気象情報が届かないため広島気象台の台員たちはのちに昭和の三大台風の一つとされた枕崎台風についての詳細の情報を受け取れず、他方、広島で観測されてある情報を中央に知らせることもできなかった。
    そんな中で台風は広島に上陸し、大きな被害を生み出していく、、、

    前半は日本の気象学、軍にも協力しながらも気象台で働く人々を描く事から始め、原爆投下による被害や、被害を受けても欠測せず、計測を続ける観測精神の真髄と再度東京に対して観測データを送れるレベルに復帰するまでの苦労の話。
    後半は京都大学から原爆被害の詳細の調査と、被爆した人々の救援を行うためにやってきた人々が台風被害に遭って、多数の人が負傷、または死亡してしまう顛末と、その時聞いた黒い雨の記録を残す事になった話など。

    原爆の被害に比べれば台風の被害の規模など、数字の桁が2桁ほど違ってきてしまうのだが、そういう大きな災厄の影に隠れてしまった悲劇と気象観測にまさに命をかけた人々の記録。

  • 良質なノンフィクション。筆者も言っているようにノンフィクションの旬の時期は短いが、この本は長く読み継がれて欲しい。

    描れている人もプロフェッショナルなら、柳田さんもプロとして丁寧で熱い仕事をされていると思います。

    戦後の日本はこういった人たちの必死の頑張りで復興し発展したのだと思う。我々もしっかりしなければ。

  • [焰のち豪雨、その下の人間]原爆が投下された広島をそのわずか一ヶ月後に襲った超大型の「枕崎台風」。気象に関する情報が途絶した広島で、数千名の死者・行方不明者を出したその災害と、2つの災厄にも負けることなく、生活を取り戻し、日常を持続させようと務めた人々の記録です。著者は、「核と災害」をテーマに多くの著作を手がけている柳田邦男。


    8.15という「点」ではなく、その前後の時間軸である「線」、また原爆の直接の影響にとどまらない「面」までをも視野に入れた作品として超一級のノンフィクション作品と言えるのではないでしょうか。30年以上前に著された作品なのですが、危機管理、戦争、気象学、そして道徳的観点からもいまだに一切色褪せることのない価値を有しているように思えました。


    原爆と台風という点にクローズアップしてしまうと、どれだけ悲惨な形相に満ち満ちた本なのだろうと思っていたのですが、本書で特に焦点を当てられているのは、その災厄の中でも必死に地に足をつけて日常を生きた人々の記録。戦時・敗戦時という特別な状況におかれながらも、任された日々の業務をしっかりとこなすことに使命感を覚えた先人たちの姿に、つくづく頭を垂れる思いがしました。

    〜考えて見れば、自分がやって来たさまざまな記録や報告書を残す仕事は、未解決の過去を絶えず現在形に置き換える作業ではなかったか。〜

    復刊してくださりありがとうございます☆5つ

  • 第2次世界大戦がはじまる前、当時の中央気象台は軍による統制を受けることになり、真珠湾攻撃における気象予報も行った。戦時は人員も拡大し、軍事に資する気象予報を行う。

    昭和20年8月1日には、中央気象台が大本営に組み込まれ、大本営気象部となる発令がでるはずだったが、ポツダム宣言の諾否にかかる調整で二の次のなるなか、原子爆弾が広島と長崎に落とされる。

    終戦後、通信事情が悪くなったこともあり、気象電報の入電がほとんど止まってしまう。8月17日午前6時の入電は、前橋の熊谷の2地点だけという状態であった。
    これでは天気図が書けるわけもなく、空白の天気図が残されている。しかし、8月22日には気象管制が解除され、NHKラジオ放送も再び再開された。

    その後、9月17日にのちに枕崎台風と呼ばれる大型台風が九州、中国を横断して日本海に出たのち、奥羽を横断して太平洋に出た。この台風による災害が九州ではなく「広島県の死傷不明3066名を初とし」であったのはなぜか。これが、本書の導入。

    「天気図の空白は、歴史の空白ではないかと感じた。記録を残すことが将来の災害、戦争、核戦争を防ぐうえで大きな役割を果たすと考えた。」と著者は述べている。

    忘れてはいけない歴史が、本書にある。

  • 残酷な話も淡々と進むが、素材と切り口が良く、心にじわじわと刺さってくる

  • 天気図あんま関係なくて、原爆の1ヶ月後に猛烈な台風が広島を襲った話。
    戦中のノンフィクションて今読んだら面白いに決まってるけど、原発とかコロナとかも後世の人が書いたのを読んだら面白いんだろうな。恩賜のマスクが配られたり、都庁が赤くなったり、渦中にいなかったら信じられん。

  • 広島は人類最初の原子爆弾の被爆を経験し、その約1ヶ月後に稀有の猛台風、枕崎台風の被害を受けました。2度の度重なる厄災を経験した広島。すさまじいまでの混乱がノンフィクションとして、気象台台員の目を通して描かれています。広島といえば、原子爆弾の惨禍が取り上げられますが、その後の枕崎台風の惨状も酷かったのだと本書で知りました。戦争による火攻め、台風による水攻め、水害による不作の食攻め。広島の不幸は計り知れないものでした。
    また、台風の水害のため、被災状況を調査を行っていた京都大学の調査隊の山津波によって遭難し、後世に残すべき貴重な標本や資料、調査記録がほとんど失われてしまいました。こういった風化しつつある事実を知り、衝撃を覚えました。
    厄災がもたらした被害の中に埋もれそうになりながらも、当時の科学者や技術者の矜持がキラリと垣間見えます。被爆しながらも忠実に気象観測を行う。困難な状況下でも欠測せず、職務を遂行するのは正にプロフェッショナルと言えるのではないでしょうか。一方で真珠湾攻撃の際、ハワイ沖の気象予報を軍から求められる気象台台員に、政治や時代に翻弄される科学者、技術者の姿が見えます。
    こんな良質なノンフィクションが絶版になっていたのは、もったいないと思います。誰にでも勧めたいと思える作品でした。

  • 終戦のあと2年ぐらいに大きな台風被害が日本で出たことはきいたことがあったが、原爆投下の翌月である1945年9月に広島を枕崎台風が襲ったことは、不勉強にして知らなかった。
    その意味で、魂のこめられた(=臨場感があって読みたくなる)ノンフィクションとしてこのような記録がのこされたことの意義は非常に大きい。著者があとがき(p.428)でも言うように。
    自分自身も、読んで本当によかった。

    原爆投下の瞬間の閃光・熱戦(p.91)や、その後の街中の人々の死にかけたような様子(遺言をきいて下さいとか、水を下さいとか。P.139)の描写も鮮烈で印象にのこるが、やはり9月の台風の時のおそろしさ(河川水位上昇、山津波、それによる京大調査隊の被災)は出色の描かれようだ(p.250~)。のちに広島市長になる浜井氏の「原爆砂漠が原爆湖水になった。このまま水が引かなければいいのに」といいたくなるのも、気持ちがよくわかり、痛ましいほどである(p.268)。

    加えて、戦時に文科系から運輸通信省に移り、更には軍部との協力体制に組み込まれるという激動(p.28,38)にありながら、誇りないしは責任感を胸に観測を続け、「空白」を消そうといた観測員たちの様子には胸を打つし、枕崎台風の時「予報」ができなかったことも甚大な被害の一因、ということ自体も業務の重要性を語る典型的なメッセージだ。(p.293,394)

    最後に、黒い雨の調査についてもふれておかねばならない(p.369,400)。こういう調査がなされていたこと自体が素晴らしいし、今まさになされている訴訟にあっても、参照できるのではないかとも思える。
    いずれにせよ、聞き取りを重ねてマッピングするという手法が本質的で、効果的だとも思い知らされた。

  • 広島の原爆投下後、その翌月に襲った巨大台風。広島気象台で働く人々の目を通じて知るノンフィクション。状況を伝えようにも手段のないもどかしさ、その後の被害状況を地道に調査し、それが後年私たちに伝わってきたありがたさ。そしてページを多くさかれた広島の原爆投下時、後の生々しさ。ひとつひとつが貴重で重く、今も起こる山津波の被害などにも通じる、広い範囲で残してもらいたい1冊です。

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著者プロフィール

講談社ノンフィクション賞受賞作『ガン回廊の朝』(講談社文庫)

「2017年 『人の心に贈り物を残していく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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