戦後日本共産党私記 (文春文庫 あ 26-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167244033

作品紹介・あらすじ

堤清二が、不破哲三や高沢寅男、渡辺恒雄もいた-いま明らかにされる戦後の学生運動と日本共産党東大細胞の実態。南原繁・矢内原忠雄総長、森戸辰男文相との対決、「全学連」結成、反レッド・パージ闘争、スパイ・リンチ事件、スターリン批判と党内闘争、そして安保闘争と脱党…。若い血がたぎった戦後日本、青春の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 1995年(底本1976年、80年)刊行(なお、本書一部につき、雑誌「現代の理論」初出年は75~76年)。
    著者は元雑誌編集長。

     1948年、間近に高校卒業を控えた青年の日本共産党入党から、東京大学入学と東大細胞の経験を経て、60年安保闘争後の61年に離党した著者の体験的日本共産党党員記録である。

     正直面白い本ではないし、社会的影響力の点で、当時の若手の回顧録にどれほどのことが書かれているか疑問なしとはしない。

     ただ、本書で際限なく続く、内ゲバは彼の集団の専売特許か、時代を反映したのかは気になるところ。
     すなわち、後の新左翼は勿論、1950年代でも、言論による路線闘争を含む内ゲバは顕著である。
     これは、日本共産党の戦前からの経緯が影響していないだろうか。
     そもそも戦前、日本共産党は非合法政党であり、官憲による検挙が厳しく、細胞と言われる個々の共産党員が、党(組織構造や構成員)の全容を知ることすら許容されていなかった。つまり、スパイ組織と似た構造であった。
     当然、金の流れや人的構成員の関係性は勿論、本来多くの人々に共有されるべき「情報」すら全体共有されず、それに対するアクセスすら認められていなかった。
     内ゲバの要因として、本稿で見える情報の秘匿傾向や横断的な人的協力への忌避傾向は、戦前のそれと重なって見える。

     しかも、それは「教義」「マルクス主義文献」という聖書への忠誠を最優先とする教団組織の如きもののよう。
     当然、反面として、実証性を軽んじる模様も見て取れる。
     路線闘争の極北としての暴力行為が、党内部で正当化されがちなのは、個々の人間としての尊厳以上に重要な「聖書」の存在が大きく関わっている感もある。

     とはいえ、他方で、ここまで極端な情報秘匿は兎も角、様々な対立構図が組織内部で展開されているのは、当時としては日共に限らない。
     自民党も社会党も、激烈な党内闘争・権力闘争が展開されていたのであり、そういう意味では、1950年代という時代の申し子という一面も感じ取れるところだ。


     ところで、1956年のハンガリー動乱への著者らの感慨は、当時の空気感を醸し出し、強い印象を残す。
     反スタの著者をして、ハンガリー動乱は「反革命」的であると。
     この評は、個々の人間の尊厳という観点から言えば、流石に引いてしまうところであるが、更にここに著者として、このハンガリー動乱が第3次世界大戦への導火線ではないか、との危惧間が表明されている(当然、西側の介入があるのではとの含意だろう)。
     もちろん歴史はそうはならなかった。
     しかし、当時、世界的に見れば、英仏のスエズ介入という戦争状態が惹起され、その波及が懸念されていた。第3次世界大戦勃発への危惧感が、これら諸事情に依ることとも相俟って、当時の一青年の認識に止まらない何かを語っているよう。

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