小説 伊尹伝 天空の舟 上 (文春文庫 み 19-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167259020

感想・レビュー・書評

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  • 宮城谷はすべて読んでいるが、最初に読んだこの小説のインパクトをこえるものはなかった。伝説の時代の殷を書いてくれたことだけでも感激なのに話の進め方も素晴らしい。日本の中国歴史の伝道者。

  • 古代中国の雰囲気、こんなんだったんだろうな、と思わせられる。おおらかな時代といった空気が漂う。伊尹がその考え方と行動によってのぼっていくさまが楽しい。彼が若いころに草庵にこもって生活するシーンがとても爽やかに印象に残ってる、そこがすごく好きなんだ。でも、エピソードはやはり、仕える主君への愛情を感じるものが心に残る。

  • <上下巻を通してのレビュー>

    商の湯王を補け、夏王朝から商王朝への革命をみちびいた稀代の名宰相伊尹の生涯と、古代中国の歴史の流れを生き生きと描いた長編小説。
    桑の木のおかげで水死をまぬがれた《奇跡の孤児》伊尹は、有莘氏の料理人となり、不思議な能力を発揮、夏王桀の挙兵で危殆に瀬した有莘氏を救うため、乾坤一擲の奇策を講じる。


    舞台は夏王朝末期。
    桑の木のおかげで生き延びた摯(後の伊尹)を中心とした話です。
    生まれながらに不思議な運命を背負って生きてきた摯がいるところ、必ず福が訪れるという・・・・・その背景には摯の能力を認め、身分を超えて優しく接し教授してくれる人々がいて、そして、自分に驕らない摯の姿があります。
    料理人から始まった運命が、夏王発の目に止まってさらに開花され、発の死後に夏王桀からの攻撃から有莘氏を救ったり、夏王桀を補佐したりしますが、摯の生き様の根底にあるものは、名もなき民を救うという一念でした。
    夏王朝を支える立場から商王朝を支える立場になり、商王から伊尹のポストを授けられても決して驕ることはない。

    夏王朝から商王朝へと変わる激動の時代に、神が使わした者なのかもしれませんね。

  • 古代中国、夏王朝を倒した、商(殷)の湯王に仕えた名宰相・伊尹(いいん)を主人公に据えた歴史長編。
    3500年以上も過去の人物について、史書の記述を結び合わせ、伝説の域にある事象をも、ひとりの人間を形作るエピソードとして語る筆力は説得力があり、圧倒される。
    上巻では未だ天命を見出していない伊尹が、どのような道を辿って不朽の名を残すに至るか、下巻の展開を追うのが待ち遠しい。

  • 私と宮城谷昌光さんの著作との出会いの本です。
    同じく宮城谷さんの「太公望」と
    どちらを先に読もうか悩み、
    本作は最古の王朝<夏>の時代、
    「太公望」は次の王朝<商(殷)>の時代なので、
    時代設定が古いこちらから読むことにしました。

    のっけから物語の世界にひきこまれました。
    主人公は伝説的な人物なので、
    伝説上生まれ方が神秘的なのですが、
    本作では多少現実的な描き方をしています。
    作品中を通して、
    神秘と現実のバランスが絶妙だと思うのです。

    語りだすと長くなるので、私の印象に残っている
    場面を二つだけ紹介したいと思います。

    両方とも、ある君主の娘との対話なのですが、
    一つ目は、村人をみだりに惑わせたとして
    君主に捕まりつるし上げられた主人公の<摯>が
    君主の娘と対話するところ。

    娘はいいます。
    「摯よ、そなたは敗けましたよ。
    そなたがあれほど心配していた邑民のなかで、
    だれも、そなたを弁護したものはありません。
    人の恩とは、はかないものですね」

    それに対し主人公はこう応えます。
    「庶人とは、草です。
    草の心情が、おわかりになりますか」

    自分の言動は庶民のためにある、
    そういいたげな主人公の言葉です。

    二つ目の場面は、商軍に襲われて壊滅した葛の邑の民が
    主人公のいる莘の邑に逃げこみ、
    君主の娘や主人公が負傷者や病人の看病をしている時、
    君主の娘の詰問に対して主人公が答えるところです。

    「そなたは、上から下への、おもいやりばかりを申していますが、
    下から上への、おもいやりはないのですか」
    「世をうるおす雨は、下から上へは、降りません」

    世をうるおす雨は下から上には降らない。
    この台詞を読んだとき、
    人の上に立ち、人を指導する立場に立つ人への覚悟の持ち方だと、
    もしも自分がそのような立場に立ったとき、
    同じような覚悟を持てるかと、鳥肌が立つ思いがしたのです。

    今の世の中、これだけの覚悟を持った政治家、
    財界人はいるでしょうか。

  • 10年以上前に読んだことがあったけど、また読みたくなって再読。

    夏王朝を妥当し、商(殷)王朝を樹立した功臣、伊尹のお話。
    ようやく実在が明らかになってきた夏王朝を舞台に据えた日本の小説は、おそらく本書が最初じゃあるまいか。
    史料も少なかったろうに、よくぞここまで物語を構築できたなあ、と脱帽。

    史実なんぞわかりっこないのだから、あくまで読み物として楽しむべきなのだけど、はるかな古代の生活観に触れた気になれるという点で、貴重な本なんじゃないかなあと思う。

    あらすじは割愛するけど、語られる素朴な生活観・倫理観が非常に力強い。
    「政治とはどうあるべきか」的な為政者の観点だけじゃないところから描かれている点が、よくある歴史小説とはちょっと違う点。

  • わずかな史料から古代中国を鮮やかに描き出した。

  • 上・下

  • 宮城谷さんの作品はこれで6作目です。
    これまで、?重耳(⇒<a href="http://keith12.seesaa.net/article/102805061.html" target="_blank">■</a>)、?菅仲(⇒<a href="http://keith12.seesaa.net/article/103077889.html" target="_blank">■</a>)、?楽毅(⇒<a href="http://keith12.seesaa.net/article/103689980.html" target="_blank">■</a>)、
    ?孟嘗君(⇒<a href="http://keith12.seesaa.net/article/105074328.html" target="_blank">■</a>)、?太公望(⇒<a href="http://keith12.seesaa.net/article/107287587.html" target="_blank">■</a>)と
    昨年の夏から秋にかけて一気に読み進めてきました。

    それから、約1年ぶりです。
    やはり、この方の物語は面白いです。
    そして、読んでいるうちに勇気をもらえる気がします。


    以下、こころに響いた言葉を引用します。

    『ひとが言ってくれる自分も自分か』

    『そう言いつつ摯は、この世をながく生きていると、怨ばかりつのるものだ、
    その怨をどう残し、どう捨てるかで、生きかたがまたちがってくる、と思う。』

    『まずおのれを治めること、それをしないで他人を怨むと、その者には
    一生のあいだ悲憤がつきまとうことになろう。さらに、その悲憤が極限に
    達して自分がどうにもならなくなったら、いっそ自分を捨てることだ。』


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  • 少年時代がすばらし過ぎて萌えました

著者プロフィール

宮城谷昌光
1945(昭和20)年、愛知県蒲郡市生れ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務のかたわら立原正秋に師事し、創作を始める。91(平成3)年『天空の舟』で新田次郎文学賞、『夏姫春秋』で直木賞を受賞。94年、『重耳』で芸術選奨文部大臣賞、2000年、第三回司馬遼太郎賞、01年『子産』で吉川英治文学賞、04年菊池寛賞を受賞。同年『宮城谷昌光全集』全21巻(文藝春秋)が完結した。他の著書に『奇貨居くべし』『三国志』『草原の風』『劉邦』『呉越春秋 湖底の城』など多数。

「2022年 『馬上の星 小説・馬援伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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