田中角栄 その巨善と巨悪 (文春文庫 み 21-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167263065

感想・レビュー・書評

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  • 田中角栄という人物を通して、昭和の熱い息吹を、日本の歩みを感じることができる書だった。
    田中角栄の成果と問題点を描いただけでなく、その生き様までも映し出した本書は、行政に身を置く者として非常にエキサイティングなものであった。

  •  田中角栄の凄さは分かるが、どの時代の角栄にしてもその凄さのほんの触り程度にしか伝わらないのが残念である。

  • 田中角栄は戦後日本の生んだ、まぎれもない天才である。
    比類のない、強烈な磁力を放射した人物だった。その業績
    は赫々たるものであり、歴史はその価値までを否定できな
    い。しかし、日本の社会をゆがめもした。スケール大きく
    生きた毀誉褒貶相半ばの男。善と背中合わせの悪、悪と共
    存する善、それが田中角栄という物語である。
    (親本1998年刊、2001年文庫化)
     プロローグ
     第一章 峠を越えて
     第二章 田中社会主義
     第三章 天下をねらう
     第四章 一気呵成
     第五章 大義消滅
     エピローグ

    田中角栄の生涯を追った評伝である。大変面白い。
    首相に登りつめるまでの前半は痛快である。まさに太閤記を
    読むような感があり、田中角栄の魅力を感じる。対して転落
    する後半は哀れである。栄枯盛衰が良く描かれている。
    上り調子の第四章までに比べ、転落する第五章は書き方が荒
    い気がする。
    参考文献にも偏りがある。田中の生存中は最後まで田中派を
    貫いた後藤田正晴の著書や評伝はあげられていないのは画龍
    点睛を欠く。中曽根康弘についても自身の回顧録があるが、
    参考文献には「私の履歴書」があげられているに過ぎない。

    田中は、精力的に議員立法に取り組む。住宅、道路など日本
    人の生活に大きな影響を与える重要法案が多く、これらのお
    陰で日本のインフラは飛躍的に整備されることとなる。
    ところが、これらは利権化され、いつしか道路を整備する事
    が目的ではなく、事業を行うことが目的化してしまう。
    赤字国債もそうであるが、一旦始めてしまった事に対する、
    歯止めをかける事の難しさを感じた。

    掘り下げ不足を感じる部分もあったが、田中角栄の評伝とし
    ては読み易く、入門編としては良いかもしれない。

  • 田中角栄、俺は子供の頃、漠然と「悪い政治家」だと思っていた。といっても、俺が子供の頃には、角栄は、政治の表舞台には遠ざかり、リアルタイムでの角栄に関する記憶は、角栄が亡くなった後のお別れ会みたいな会で、土井たか子が、「君は~」とお別れの挨拶をしていた映像ぐらい。角栄の全盛期は、全く知らない。
    ただ、政治家のワイロの事件があると、角栄のロッキード事件が引き合いに出されたり、「日本の政治は、田中角栄がダメにした」的な、フレーズを度々聞く内に田中角栄=悪い政治家という固定観念が出来上がった。

    しかし、大学時代くらいから、少しずつ、政治に興味を持ち、政治に関する本を読むうちに、角栄に対する固定観念が、少し変わった。

    確かに悪い政治家では、あるという、固定観念は変わらない。けどエネルギーに溢れていて、悪いという一面だけでは、語れない魅力を持った人物ではなかろうか?

    で、本書を手に取った。まず印象に残ったのが、角栄の苦労した幼少期、父親の道楽で、苦労し、成績優秀であったにも関わらず、中学には行けず(当時は、中学は義務教育ではなかった)に、土方仕事をし、トロッコを押していた。当時としては、そんなに珍しい経歴では、なかっただろうが、一国の総理としては、あまりないのでは、なかろうか?
    豪雪の新潟、当時は、交通の便が悪い、陸の孤島で苦労した経験が、地方を都市化するという、後の「日本列島改造論」に繋がっていったのだろう。既に知っている人も多いだろう角栄の演説、

    「みなさん、新潟県と群馬県の境に三国峠があるでしょ。あれをダイナマイトで吹っ飛ばすのであります。そうしますと、日本海の季節風は太平洋側に吹き抜けて越後に雪は降らなくなる。みんな雪で苦しむこともなくなる」

    いくらなんでも、山脈を削るのは、改造し過ぎである。しかし、豪快で痛快な演説だ。角栄は、山脈をダイナマイトで吹き飛ばす事はしなかったが、大清水トンネルを開通させ、上越新幹線を建設した。どれだけ新潟の人々が助かった事か。

    あと、印象に残ったのは、議員立法を33本成立させた事。俺は、その凄さをよくわかってないが、官僚が法律を作るという日本では、まれであるという。その一部を紹介すると、公営住宅法。当初は、母子家庭や引き揚げ者に対する住宅を供給する目的で作った法律だが、対象がサラリーマン家庭に広がり、あちこちに団地が出現した。
    それとガソリン税。インフラ整備が地方で進んでいない状況で、道路財源を作る目的で設けられたが、大蔵省が大反対。角栄は、自ら大蔵省に乗り込み、官僚を説得、法案を通し、結果、日本の道路の整備は進んでいった。現政権で政治主導が、叫ばれているが、当時の角栄程の実行力を、発揮できているだろうか?

    郵政大臣時代には、当時、NHK、日本テレビしかテレビ局がなかった状況、テレビ局開設の申請者が郵政省に殺到し、郵政官僚がそれら申請者に対して、テレビ局開設の技術的背景に対し疑問を持ち、免許数を絞ろうとする中、角栄は反対を押し切り、予備免許を与え、日本列島は、テレビ時代を迎え、郵政官僚の杞憂となった。角栄の政治行動は、制度疲労したものも含め、今の時代にかなり深く結びついている。


    と、まあ、田中角栄の功績ばかりを書いているが、確かにそればかりではない、腹黒い一面も多々ある。総裁選の時や国会審議が進まない時に、議員に金を配っていたり、公共事業をやって、地価が上がる所を前もって買っていたりと。

    うーん、確かに悪い。しかし、不謹慎かもしれないが、おもろい。この悪さと優秀な政策が、ごっちゃ混ぜになっている感じが。

    角栄は、総理辞職後、ロッキード事件により、政治の表舞台から離れていく。しかし、ロッキード事件は、陰謀の線が強いという(これは、本書には書いていない)。アメリカを通さずに日本の石油のルートを模索しようとした事がアメリカの逆鱗に触れ、ハメられたという説もある。事の真偽はともかく、行動がおもろい。商人(あきんど)の方が、向いていたのではないのか?、とも思うが。

    あと、角栄は、ゴルフ場のキャディさん、料亭の仲居さん、運転手さんといった下積みの人には、人一倍気を使って、ご祝儀を配っていたという。遠回しな、票集めの目的もあるかもしれないが、それだけには、思えない。苦労人としての過去も、人情を深くしたのではないのだろうか?


    政治家の能力を善人、悪人であるとか、イデオロギーで判断しては、いけない。わかっているが、それにしても、田中角栄、あまりに、色んな要素がありすぎて、政治家というより、角栄は、角栄だ、という、結論しか、俺には出てこない。上手く人物評ができない人であった。長文すいません。上手くまとめられなくて、すいません。

  • 4167263068 405p 2001・5・10 1刷

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