パリへ行った妻と娘 (文春文庫 269-6)

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  • 文藝春秋
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167269067

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  • 『サイゴンから来た妻と娘』で始まったシリーズも3冊目。継娘のユンは23歳になって、パリでバカロレアを取得し、職業学校に入り、婚約者もできる。こうしてユンがフランスで生きていくことがほぼ決まり、近藤氏の妻ナウさんは、パリにアパルトマンを買い求め、拠点を定める。衝動買いのように家を買ってしまうやりたい放題のような妻だけど、近藤氏はこんなふうに考えるという。
    亡くした前妻に対する責め、心の傷を癒されよう、救われるようとするために利用したのだから、その借りを返すために今の妻をしあわせにしてやる以外にないと。「再婚に際し、私はひとつだけ自らの心に誓った。自分自身の自我はけっして捨てない。捨てようとしてもすでに捨てられるものではない。生まれついての性格が、石の塊によってさらにかたくなに凝結してしまっているのだから。その代わり、夫としての彼女の行動や心の動きに物言いをつける権利はいっさい放棄しよう、と。その気紛れも、物欲も、ときには不実も、すべて彼女の心の赴くままに応じようと。内なる取引き、といってもいい。」(p.244)
    こう考えることができるなんて、愛の深い人だな、大人の「男」だなと思う。このシリーズも巻を重ねるだけ時を経て、この本では国際カップルの面白おかしい話だけでなく、こんな具合に近藤氏の心情がこれまでになく吐露されたものになっていたと思う。近藤氏がナウさんによって生き返った証拠といえるのでは。
    近藤氏と高校時代からの友人だという吉川精一さんの解説がいい。

  • サイゴンから、バンコクのに続く近藤紘一氏の仕事・家族のモノガタリ。徐々に体調を崩していく著者の様子も同時に描かれていて、何だか痛々しい。所々に著者の葛藤、悩みがちりばめられている。もしかしたら、彼はプライベートな事を赤裸々に語る事によって、自身を何かから解放しようとしていたのだろうか。

  • 「妻と娘」シリーズ3部作の3作目。時代を越えて読み継がれるであろう、色褪せることのない名作。1971年から1975年までをサンケイ新聞サイゴン特派員としてサイゴンに勤務した近藤さんの、「私自身がこの土地とそこに住む人々の生きざまに深く惹かれた」という想いからはじまる人生の軌跡です。

    全体を通して、異文化理解の在りかたを堅苦しくなく綴っていますが、やはりそこに垣間見られるのは近藤さんの「なみはずれて量の多い愛」で、その文章に、優しさが滲み出ています。

  • 「ベトナムから来た妻と娘」3部作の最後。娘ユンちゃんの「なに人になるか」は答えが出たようだ。といっても結局は成り行き、偶然で、著者夫妻の教育が功を奏したわけではない。まあそういうものだ。

    3冊目では再び著者とベトナム人の奥さんとの関係が大きく取り上げられる。娘の教育同様、こちらも平均的な日本人から見ると型破りだ。寛容というか、自由というか、「かみさんをどこまで甘やかすんだ!」著者はまた怒られたらしい。当人同士がそれでよいと思っているのなら、他人が口出す筋合いの話ではないわけだが。

    著者は若い頃からあちこちの国で暮らしたボヘミアンで、現在は新聞記者として世界を駆け巡る身。奥さんは戦時下のベトナムを一族郎党を率いて生き抜いた女傑で、日本、タイ、フランスで暮らしたコスモポリタン。きっとフランスはこんな感じなんだろうし、グローバル・スタンダードな夫婦関係ってこういうものなのか、と思ったのだが、死別した著者の前の奥さんの話を読んで、そんなに脳天気なものではないのかもしれない、と思った。陽気な友達の、思いがけない本音を聞かされたように、ヒヤッとした。

    本書から数年後、著者は没する。
    サイゴンから来た妻と娘は、その後もたくましく、タフに暮らした(ている)ことだろう。その点は心配していない。
    そしてそれが、著者の望みでもあったのだろうと思う。

  • 後書き、吉川精一さんの文章が心に響きました。
    30年前の話ですが、妻と娘シリーズ3部作、読み終えました。そんな僕も、近藤さんが亡くなった年齢と、ほぼ同じ。吉川さんが言うように、近藤さんの文章の表現が素晴らしく楽しく読めて、惹きつけらるのでしょう。現実は辛いことも当然あるが、時にユーモラスな捉え方も大事なのかな。

  • 再読

  • ¥105

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