阿修羅のごとく (文春文庫 む 1-17)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167277178

作品紹介・あらすじ

年老いた父に愛人がいた!四人の娘は対策に大わらわ。だが、彼女たちもそれぞれ問題を抱えていた。未亡人の長女は不倫中、次女は夫の浮気を疑い、三女は独身の寂しさに心がすさみ、四女はボクサーの卵と同棲、そして母は…肉親の愛憎を描き、家族のあり方を追求してきた著者の到達点ともいうべき力作。

感想・レビュー・書評

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  • 個人的には昭和に書かれたとは思えないぐらい読みやすかった。ドラマの脚本から文庫になったのも読み終わってから知った。70歳の父親が不倫していることを知って母親の気持ちなどを含め話し合う四姉妹の話だけど、四姉妹もそれぞれ事情を抱えていてそれぞれの視点で話が進んでいくのが面白かった。不倫されてるかもしれない次女の話を読んでいるとかわいそうになるけど、不倫している長女の話を読んでいると少し応援(?)しちゃってる自分が不思議だった。

  •  好きな本。四姉妹もの。

    長女 綱子(45) 
     未亡人。お花の先生。
     既婚男性と交際中。

    次女 巻子(41)
     夫と一男一女を儲ける。おっとりした性格。
     夫の不倫を疑っている。相手は秘書?

    三女 滝子(30)
     未婚。交際歴なし。司書。
     融通が利かず素直に甘えられない性格。

    四女 咲子(25)
     小さい時におみそにされた事を根に持ってる。
     デビュー前?のボクサーと同棲中。

    父 恒太郎(68)
    母 ふじ(65)

     物語は父親の不倫現場を三女が目撃してしまったところから始まります。母親に気付かれないように、どうにか収めたい四姉妹だけど、それぞれも問題を抱えていて、、、。

     昭和54年のドラマの脚本を書籍化されたようです。(多分)。次女と三女の間が11年空いてるのはお父さんが出征されてたからのようです。昭和54年頃の生活も覗けて面白かったです。豆腐屋さんがラッパ吹いて売り歩いてたり、電話はアパートの管理人室にあって呼び出しだったり。

     今から45年近く前の話なので、結婚観とか色々違う。45年で大きく変化したのか、少ししか変化出来てないのか。女の人が働いて1人で生きていくのも、離婚も珍しい時代だったろうから、夫に依存せざるを得なくて、、、グッと堪えて耐え忍ぶ女性陣。そりゃ阿修羅にもなるよね。

     姉妹同士でたくさんケンカするけど、他所の人が姉妹の誰かに危害を加えようとすると味方になる感じは、昔の私と妹の関係に似てるな。
     
     

  • 向田邦子さんの小説は「あうん」以来です。登場人物のキャラが濃い、話が面白いのはもちろんなんですが、特に、この小説はストーリーの組み立て方が際立っているなと思いました。

    細かいところは間違ってるかもですが、分かりやすくそう感じた箇所を具体的に書くと、、、

    国立の実家で三女の滝子とその恋人である勝又が、四姉妹の長女・綱子と次女・巻子を迎えて会話をするシーン。滝子が勝又のダメ男ぶりを姉達に話す。冒頭、勝又の話しが下手で順序がまるでなってない!と滝子は勝又の愚痴をこぼし始める。もともと口下手な勝又は所在なげな顔、「彼氏を立てなさいよ」と諌める綱子と巻子の姉達。
    そこへ、浮気の調査を行う興信所に勤めている勝又が姉達に相談を持ちかける。その内容は、まず、ここに二つの封筒がある。片方は5万円の入った封筒、旦那の浮気調査を頼まれた女性からの報酬。もう片方は10万円の入った封筒、その浮気をしている旦那から口止め料。勝又は自分がどちらを受け取るべきだろうか、と言う。その答えとして、長女の綱子は、浮気なんてダメよ!と言って5万円の方にしなさい、とたしなめる。
    それからあーでもないこーでもないと皆で議論した後、最期の最期に勝又の口から、その浮気している旦那が枡川という料亭の主人であることを告げられる。つまり、この旦那の不倫相手は綱子である。それを聞くや否や、綱子は態度を豹変させる。「10万円を選びなさい!」と、綱子の不倫を知らない一同は、その一連の綱子の慌てっぷりに怪訝な表情を浮かべ、巻子は綱子の浮気への疑念を深めていく。


    ズブの素人ですが私は思わず唸ってしまいました。滝子の「勝又の話す順番がおかしい」から展開して、それ庇う綱子が早速そのせいで迷惑を被るというストーリーは、漫才のようにフリオチがあって読んでいて「おお!」と膝を打ちましたし、巻子だけが綱子の不倫をじっと観察していて滝子は気づかない、気づかせないという構図は見事に後々のストーリーの展開に生かされ繋がっていきます。この阿修羅のごとくからは、こういった組み立ての巧みさ、上手さが随所に感じられます。

    このような良さに加えて「あうん」でも感じた向田邦子さんの描く"人間"の描写力はこの本でも健在で、理屈は分かりませんが登場人物が本当に動画のように動いて見えます。本当に面白いですし、本書はご本人が執筆された脚本をどなたかが小説に起こしたものだそうなのですが、そこに対する違和感は全くありませんでした。

    咲子と貞治の妻・豊子がかわいそうに感じ後味が少し悪い部分もありつつ、全体的にまとまった印象でとても面白い小説でした。

  • 再読。四姉妹の名作といえば、『若草物語』『細雪』などがあるが、これも四姉妹。当然四姉妹にはそれぞれの悩みがあるのに、年老いた父に愛人が発覚。母に隠し通せるか。これだけの設定をまとめあげるのは大変だ。タイトル通り皆「阿修羅」です。誰もが阿修羅を心の中に隠し平気なふりをし、相手の阿修羅を見て見ぬふりをする。四姉妹で致命的に対立しないのは、阿修羅のおかげなのだろうか。

  • 特に好きなシーンをば。
    ----------
    父「恒太郎」の浮気を知った家族。父が相手のところに出かけているときに母親が倒れてしまった。次女の巻子が父にすごい剣幕で詰め寄ります。
    巻子の夫、鷹男が父を庇うセリフがせつない。

    「お母さんね、口でなんか言えないくらい、焼き餅やいてたのよ。腹立ててたのよ。寂しかったのよ。お父さんのこと、好きだったのよ!」巻子の目から涙がどっとあふれた。
    「それをなによ、お父さん!」
    鷹男は巻子の一肩に両手を置いて、
    「真面目に働いて家を建てて、四人の子供を成人させて、そのあと誰にも迷惑をかけないで、少しだけ人生のツヤを楽しむのが、そんなにいけないのか」
    「女房泣かせて楽しんでいるのよ!」
    「その分、手合わせて拝んでんだよ。すまない、すまないって思いながら」
    「それだけの気持ちがあったら別れればいいでしょう」
    恒太郎はなにも言わず、うなだれている。

  • 始まりはファミリードラマのようでこんなワイワイがどこまで続くのかといささか食傷気味でしたが、読み進めるうちにどんどんスピードアップして、真ん中以降はものすごいスピードで読んでいました。
    高校生の頃、滅多に本なんか読まないガールフレンドが電車の中で珍しく文庫を読んでいるのに出くわし、「何読んでるの?」と聞くとそれが向田邦子さんでした。その頃は司馬さんにハマっていたワタシはちょっと彼女を軽蔑したものですが、女と男の心の様子を性的な描写抜きでしっかり描けていて、会話も軽妙で、本当に楽しく読むことができました。

  • 四姉妹と、その父親・母親。旦那。愛人。子供。
    四姉妹が四姉妹とも、性格も違えば考え方も違う。そんな4人が、互いに抱える問題を、干渉しすぎるでもなく、でも気にかけていて。
    実際の家族ってのも、こういうもんなんじゃないかな、と思う。
    個人的には、父・恒太郎が、口数は少ないが、やはり四姉妹のことを常に気にかけているところに、人間の暖かみを感じる。

    たまに出てくる核心をつくような発言にヒヤリとしたり、納得したりしつつ。
    気づけばあっという間に読破。

    さて、この物語が書かれたのが昭和五十四年頃だという。まるで現代小説のように読み進めていたが、、おそるべし、向田邦子。
    向田邦子の作品は今回はじめて読んだが、具体的に「こうだ」と語られなくても、読者に「ああ、きっとそういうことなんだろうな。」と思わせるところが、なんというか、機微 と言いますか、、
    そう感じさせるところがすごいな。

    他の向田作品も読んでみたい。

  • 父・恒太郎の不倫疑惑をきっかけに、4人の姉妹が策を練る。しかし四姉妹もそれぞれ悩みや隠し事を抱えていた。家族、姉妹、男女―それぞれの人間模様から、人の抱える「阿修羅」を見る。1979年のNHKドラマの脚本、その後映画化、舞台化された本作。

    なんて寂しく、孤独で、人の生き様を正直に描いた作品なんだろう。両親と四姉妹からなるひとつの家族と、その周囲の人物。それぞれが心の内に黒く苦々しい想いを抱えつつも、表面的には出さず「今」を維持して平穏を取り繕う。
    母・ふじが家族に見られないところで襖にミニカーを投げつけ、その後にこっそり千代紙で修復して何食わぬ顔で過ごす描写が強烈に印象的で、この作品全体を表しているようだった。
    10代では気付けなかった現実が年齢を経て心に刺さり、平穏や幸せは努力と忍耐の賜物なんだと思わずにはいられない。ずしりとしたテーマを背負っているからこそ、途中から三女滝子と勝又の不器用な恋模様は良い小休止になった。
    近しい間柄だからこそ感じる愛憎や歪みを第三者的視点で見つめる。読む時期によって感じ方や感情移入する人物が変わりそう。
    2003年版の映画キャストが好きだったので、観てみたいと思う。

  • 男と女に教科書があるのなら、私はこの本を教科書にしたい。

  • WITTY!

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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