一ダースなら怖くなる (文春文庫 あ 2-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167278045

感想・レビュー・書評

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  • このタイトルだと、ホラー・テイストの強い阿刀田高作品集のようですが、特にそんなことはなく、1977年から1980年に様々な出版社の雑誌に発表された短編を12編収録した、寄せ集め的な作品集。単行本は1980年に刊行。

    でもまあ、12編中5編は、ホラー小説といってもいい作品で、あとは、お得意のブラック・ユーモアあり、あるいは単にブラック・ユーモアでは終わらない実験的な作風もあります。

    特に心に残った作品は、宝くじの当たりくじをめぐり殺人にまで発展する「友を裏切るなかれ」と、屍姦を扱った阿刀田高作品にしては陰惨な「雪うぶめ」の2編。


    以下は簡単に各作品の感想を⬇️


    妖虫
    合成樹脂だけを食べる虫を発見した男の物語。オチが男と女のブラック・ユーモアになってしまうのは、ちょっと残念。


    スリランカ気質
    serendipity=スリランカ気質とは、こういうことを言うんですよ、という例え話で、怖い話でもブラック・ユーモアでもありません。


    友を裏切るなかれ
    会社の同僚と買った一枚の宝くじが、一等当たりくじになったことで、殺人計画にまで発展する物語。
    正にタイトル通りの内容で、ブラック・ユーモアが利いたオチも最高。名作だと言えます。


    進化論ブルース
    男は猿として生まれ10歳から人間になる家系生まれの男が、婚約者にその事実を告白する、という物語。
    婚約者にも実は秘密が、というオチですが、一応は比喩的なものになっていますが、ちょっとキレ味が悪いです。


    結婚嫌い
    阿刀田高作品らしい、男と女をテーマにしたブラック・ユーモア。結婚に失敗した中年男が、結婚に憧れる若者に、結婚なんて止めろ、と諭す物語ですが、結婚している自分も、深く頷く気分になるという、ブラック・ユーモアが素晴らしい。皮肉なオチのキレ味も最高です。この作品の時代では専業主婦が当たり前ですが、この男と女の関係性は現代でも通じるのではないでしょうか。


    湖畔の女
    自殺の名所と言われる湖を舞台にした一編。
    昔、自殺をしようと訪れ、謎の女との出会いで自殺を思いとどまった男が、作詞家として成功した男が再度訪れる、という物語。
    割と早い段階で〇〇オチだと気づきましたが、そこは阿刀田高作品らしいひねりがあるだろうと期待していると、ストレートに〇〇オチで終わり。期待外れな一編でした。


    閉じた窓
    夫とその愛人が、病弱な妻を殺そうと計画する、という四谷怪談風物語。
    愛人を憎たらしくなく、むしろ可憐な女性として描いているのが、物語全体を切ない雰囲気にしています。
    皮肉なオチはブラックだからこそ痛快でした。


    雪うぶめ
    少年時代、事故で雪に埋まり生きているのか死んでいるのかわからない女を犯した男が、20年ぶりにその思い出の土地に戻ったことによる起きる出来事を書いた物語。
    阿刀田高作品らしいブラック・ユーモアは無し。ひたすら暗い雰囲気が陰惨とも言える幻想ホラーになっています。
    陰鬱な気分を更に落ち込ませるオチも最高です。
    名作だと言えます。


    格子模様の夜
    小説家に書かれた、小説家である「私」を主人公してメタ小説。
    普通のミステリーではなく、製薬会社の汚職を扱ったスパイ小説風な味付けなのが変わり種。
    メタ小説らしく、ひねりのあるオチは、ブラック・ユーモア小説のようなキレ味が足りないです。


    女難
    ビルの屋上こら飛び降り自殺をしようとする男が、子供の頃から女の尻に敷かれてばかりだった過去を振り返る物語。
    最初から最後まで可愛そうな物語で、オチも救いのないタイプです。


    背後の女
    女の霊に取り憑かれている若い男の物語を、男の上司の視点から描く物語。
    ラストまでは、ゾクゾクするスリルがありましたが、自分にはオチに恐怖感を感じられず、ちょっと肩透かしに思えました。


    青い瞳
    日本海側のある山の中に埋められているというダイヤモンドの名品「青い瞳」を探しにいく、という宝探しの物語。
    オチのB級ホラー映画感はなかなかいいですが、非常に謎めいたまま終わるというスッキリしない感じは阿刀田高作品では珍しいのではないでしょうか。

  • 読みやすくて面白い。ちょっと前のおじさんの感覚で書かれた短編集という感じ。
    電車で読むのにはぴったりでした。

  • 痛快ブラック・ユーモア作品です。
    女の人はあまり読まないほうが
    よさそうな作品たちです。
    作品によっては女性の書かれたかは
    ものすごくひどいですからね。

    この本の中には
    徹底的に救われない作品があります。
    それが「女難」と言う作品で、
    女性が徹底的に醜く描かれている作品でもあります。
    そして男は…本当にかわいそう以外の何物でもないです。

    とにかく暗い作品ばかりです。
    これでもかっ、ていうぐらいに。

  • 読後感がたまらない はなしがひっくり返って読者は置き去りな感じが良い

  • セレンディピティ(serendipity)という言葉をこの本(初版1980年)で知ったが、現在、一般に流通している意味と異なるので、なかなか修正できなかった。なのでかどうか、この本に書かれている「あきらめたころに見つけ出す性質」という意味の方が好きだし、『スリランカ気質』という話もなんとなく好き。

著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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