一ダースなら怖くなる (文春文庫 あ 2-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167278045

感想・レビュー・書評

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  • 久々に読み返したら全く内容を覚えてなかったのにちょっとビックリ。
    何度も読み返した本なのに、こんなにキレイサッパリ忘れているとは・・・。
    こういう事がある度に、読書って何だろう?ってふと思ってしまいます。

    再読しての印象は個人的に、「この頃、作者は女性関係で何か苦い思いをしたのかな~」という事。
    いくつかの話にちょこちょこ厭世的な女性観、辛辣な女性観がかいま見えました。
    筋金入りのフェミニストが見たら青筋立てて怒りそうな一文も・・・。
    まあ、私なんかは「そういう見方もあるよね」という感覚で読めたけど・・・。

    タイトル通り、12話のブラック味な話が収録された短編集です。
    最初の「幼虫」はある日、偶然プラスチックを食べる虫を発見した幸運な男の話。
    男はその虫を企業にリースで貸し出して儲けようと思い立つ。
    男には大金が欲しい理由があった。
    最近、知り合った美しいホステスの女性を恋人にするため、金が必要だったのだ。

    この話、こうなるんじゃない?と勝手に予想して読んでいたら全く違う結末だった。
    プラスチックを食べる虫と美女が意外にも結びついてしまう皮肉な話。

    「友を裏切るなかれ」
    男は友人と買った宝くじで1000万円が当選している事に気づく。
    もし当たっていたら友人と折半するという約束だったが、それが惜しくなった男は友人に当選した事を黙ったままで、姉に換金を頼んだ。
    もし友人に宝くじの事を聞かれたら失くしたと言い訳し、第三者が勝手に換金したと言いつくろうために・・・。
    しかし、その後友人から電話がかかってきて、宝くじの事だと思った男は友人を殺害する計画を立てる。
    そのため、事前に友人が女性に恨まれているという事を演出するために友人宅に電話をする。

    500万円惜しさに殺人か・・・。
    と思ってしまう。

    あぶく銭だし、500万円も入れば万々歳じゃないかって。
    でもそれは実際に当たってないからそう思うのかな?
    それにしても、この当時の1000万円って今でいうといくらくらいの価値だろう?なんてふと思ってしまいました。
    最近、阿刀田高さんの本を読み返していて思うのは、この人の本は宝くじを題材にした話が多いって事。
    宝くじ関連の話はワクワクして好きです。

    「進化論ブルース」
    男には秘密があった。
    実は男の一族は男性にだけ現れる特徴がある。
    それは生まれた時は猿だという事。
    そして、段々と進化していき、やがては人間になる。
    男は結婚をする事となった女性にその事を打ち明ける事を決意する。

    これは読んでいる途中でオチが分かってしまいました。
    ただ、最後の一行は皮肉です。
    オチが分かったからといって面白さが激減するという話ではないです。

    「結婚嫌い」
    男は汽車で偶然出会った人の好さそうな男に好感をもち、その男性にあるアドバイスをする。
    それが皮肉な結果に-。

    この話が一番好きです。
    いらぬお節介はするもんじゃないってシニカルな話。

    「閉じた窓」
    魅力的な女性と不倫関係にある男は思い余って妻を殺してしまう。
    完全犯罪を成し遂げたと思った男だったが-。

    これは情景が映像となって浮かぶちょっと恐い話。
    最後の一行がかなり皮肉。

    「女難」
    女性に関して全くいい思いのない男性。
    その極めつけは妻だった。
    男は人生をはかなみ、ビルから飛び降り自殺をしようとする。

    これはブラックジョークですね。
    タイトルがきいてる話でこの話も面白いと思います。

    1ダースの話の中からいくつか取り上げてみました。
    ちなみにこのタイトルはアメリカのホーム・コメディ映画「一ダースなら安くなる」のもじりだそうです。

  • このタイトルだと、ホラー・テイストの強い阿刀田高作品集のようですが、特にそんなことはなく、1977年から1980年に様々な出版社の雑誌に発表された短編を12編収録した、寄せ集め的な作品集。単行本は1980年に刊行。

    でもまあ、12編中5編は、ホラー小説といってもいい作品で、あとは、お得意のブラック・ユーモアあり、あるいは単にブラック・ユーモアでは終わらない実験的な作風もあります。

    特に心に残った作品は、宝くじの当たりくじをめぐり殺人にまで発展する「友を裏切るなかれ」と、屍姦を扱った阿刀田高作品にしては陰惨な「雪うぶめ」の2編。


    以下は簡単に各作品の感想を⬇️


    妖虫
    合成樹脂だけを食べる虫を発見した男の物語。オチが男と女のブラック・ユーモアになってしまうのは、ちょっと残念。


    スリランカ気質
    serendipity=スリランカ気質とは、こういうことを言うんですよ、という例え話で、怖い話でもブラック・ユーモアでもありません。


    友を裏切るなかれ
    会社の同僚と買った一枚の宝くじが、一等当たりくじになったことで、殺人計画にまで発展する物語。
    正にタイトル通りの内容で、ブラック・ユーモアが利いたオチも最高。名作だと言えます。


    進化論ブルース
    男は猿として生まれ10歳から人間になる家系生まれの男が、婚約者にその事実を告白する、という物語。
    婚約者にも実は秘密が、というオチですが、一応は比喩的なものになっていますが、ちょっとキレ味が悪いです。


    結婚嫌い
    阿刀田高作品らしい、男と女をテーマにしたブラック・ユーモア。結婚に失敗した中年男が、結婚に憧れる若者に、結婚なんて止めろ、と諭す物語ですが、結婚している自分も、深く頷く気分になるという、ブラック・ユーモアが素晴らしい。皮肉なオチのキレ味も最高です。この作品の時代では専業主婦が当たり前ですが、この男と女の関係性は現代でも通じるのではないでしょうか。


    湖畔の女
    自殺の名所と言われる湖を舞台にした一編。
    昔、自殺をしようと訪れ、謎の女との出会いで自殺を思いとどまった男が、作詞家として成功した男が再度訪れる、という物語。
    割と早い段階で〇〇オチだと気づきましたが、そこは阿刀田高作品らしいひねりがあるだろうと期待していると、ストレートに〇〇オチで終わり。期待外れな一編でした。


    閉じた窓
    夫とその愛人が、病弱な妻を殺そうと計画する、という四谷怪談風物語。
    愛人を憎たらしくなく、むしろ可憐な女性として描いているのが、物語全体を切ない雰囲気にしています。
    皮肉なオチはブラックだからこそ痛快でした。


    雪うぶめ
    少年時代、事故で雪に埋まり生きているのか死んでいるのかわからない女を犯した男が、20年ぶりにその思い出の土地に戻ったことによる起きる出来事を書いた物語。
    阿刀田高作品らしいブラック・ユーモアは無し。ひたすら暗い雰囲気が陰惨とも言える幻想ホラーになっています。
    陰鬱な気分を更に落ち込ませるオチも最高です。
    名作だと言えます。


    格子模様の夜
    小説家に書かれた、小説家である「私」を主人公してメタ小説。
    普通のミステリーではなく、製薬会社の汚職を扱ったスパイ小説風な味付けなのが変わり種。
    メタ小説らしく、ひねりのあるオチは、ブラック・ユーモア小説のようなキレ味が足りないです。


    女難
    ビルの屋上こら飛び降り自殺をしようとする男が、子供の頃から女の尻に敷かれてばかりだった過去を振り返る物語。
    最初から最後まで可愛そうな物語で、オチも救いのないタイプです。


    背後の女
    女の霊に取り憑かれている若い男の物語を、男の上司の視点から描く物語。
    ラストまでは、ゾクゾクするスリルがありましたが、自分にはオチに恐怖感を感じられず、ちょっと肩透かしに思えました。


    青い瞳
    日本海側のある山の中に埋められているというダイヤモンドの名品「青い瞳」を探しにいく、という宝探しの物語。
    オチのB級ホラー映画感はなかなかいいですが、非常に謎めいたまま終わるというスッキリしない感じは阿刀田高作品では珍しいのではないでしょうか。

  • 読みやすくて面白い。ちょっと前のおじさんの感覚で書かれた短編集という感じ。
    電車で読むのにはぴったりでした。

  • 痛快ブラック・ユーモア作品です。
    女の人はあまり読まないほうが
    よさそうな作品たちです。
    作品によっては女性の書かれたかは
    ものすごくひどいですからね。

    この本の中には
    徹底的に救われない作品があります。
    それが「女難」と言う作品で、
    女性が徹底的に醜く描かれている作品でもあります。
    そして男は…本当にかわいそう以外の何物でもないです。

    とにかく暗い作品ばかりです。
    これでもかっ、ていうぐらいに。

  • アイディアは面白いものが多い。
    いくつかは後々まで印象に残りそう。
    おじさん向け、かな。

  • 読後感がたまらない はなしがひっくり返って読者は置き去りな感じが良い

  • セレンディピティ(serendipity)という言葉をこの本(初版1980年)で知ったが、現在、一般に流通している意味と異なるので、なかなか修正できなかった。なのでかどうか、この本に書かれている「あきらめたころに見つけ出す性質」という意味の方が好きだし、『スリランカ気質』という話もなんとなく好き。

  • 短編でよみやすいです
    読み終わって、ふとした瞬間に思い出して
    ぞうっとするような、そんな話がおおいです。

  • 短編集。ブラックジョークとちょっぴり怖い要素が満載。全12話。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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