街の観覧車 (文春文庫 あ-2-6)

  • 文藝春秋 (1985年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784167278069

感想・レビュー・書評

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  • 阿刀田高先生の1985年作品を1986年に文庫化したもの。
    街を見下ろす観覧車の近くに住む10人の男女を主人公にした、10篇の連作短編集。
    観覧車のモデルは、東京のあらかわ遊園ですかね。
    10篇の主人公のそれぞれが、ご近所さんということもあり、10の短編は、それぞれの登場人物が微妙にリンクした作品集になっています。
    阿刀田高作品に特有の、ブラック・ユーモア感は影を潜め、男女かんけのもつれから生まれる犯罪を描いた、割と正統派のサスペンス、ミステリー小説集になっています。
    怪談めいた作品もいくつかありましたが、収録作の中でも「雲どり模様」は、妖しく美しい世界を描いた名品だといえるでしょう。


    以下は簡単に各作品の感想を⬇️


    うすあかり
    「ほんの六カ月ほど、テレビのワイド・ショウのキャスターを勤めた」、本業は大学講師、翻訳家の男が、キャスター時代を回想する一篇。
    前半はアシスタントの女性との不倫の回想、後半は突然ミステリーに。
    阿刀田高作品特有のブラック・ユーモアはありません。


    恋の残り
    社会人1年目の内気な若者が住むことになったのは、アパートではなく、家屋が老朽化し庭の手入れも行き届いていない家での下宿住まい。
    大家は、60才近い女性。若者が暮らすうちに、その女性の過去を知るようになって、という話。
    ブラック・ユーモアもなく、これだけ恐ろしい、純粋にスリラーなのも珍しいのではないでしょうか。
    短い物語の中で、秘密を知っていく高揚感と、秘密を知った時の恐怖感が味わえる、名篇だと思います。


    拗ねた血
    引き寄せの法則の逆をいくように、願えば願うほど望まない結果をもたらしてしまう男の物語。
    阿刀田高作品だから、悲喜劇のように書かれるのかと思っていると、悲劇寄りの物語なので、読んで余計に切なくさせられます。
    また、自分の立場に置き換えてみると、非常に恐ろしい物語でもあります。
    心に残る名短編だと思います。


    赤い音
    これも、ブラック・ユーモア感が無い一篇。
    二度結婚し、二人の子どもを持つ女性が、最初の結婚から今までを回想する物語。クライマックスに近づくにつれ、それまで全く無かったスリラー感が全開になります。自分が好きな「〇〇が怖い」型の物語でした。


    梔子の便り
    サラリーマンの男が、突然届いた梔子の香りのする葉書が届いたことをきっかけに、昔別れた女を思い出す物語。
    これもブラック・ユーモア感は無く、感傷的で、怪談のような怪談ではないような不思議な味わいがある一篇です。
    静かな狂気を感じさせるラストも、なかなか良いです。


    水ぬるむ
    夫に若くして先立たれ、義父母の面倒を見続けた中年女性の心理を描いた一篇。犯罪心理サスペンスではあるのでしょうが、
    感傷的で切ない仕上がりになっています。


    雲どり模様
    着物姿の女のイメージと、緋鯉のイメージを重ね合わせた、エロティックでファンタジックな一篇。
    ブラック・ユーモアなんて全く無い、妖しく美しい世界に、阿刀田高先生の底力を見た気がします。


    小麦色の王妃
    女優の卵を主役にした一篇。
    演劇の世界を描いた前半から、後半の犯罪心理と皮肉な結末、と、阿刀田高作品らしい感じで終わります。
    全く悪い作品ではないのに、一つ前の「雲どり模様」が良すぎたために、何となく期待はずれな感じになってしまいました。


    存在証明
    何だか大層なタイトルですが、現場不在証明をちょっと捻ったもの。
    主人公はサラリーマン。殺人の疑いがある、ある男の死が、以前に部下で現在はホステスの女に関わりがあるのでは、というミステリー。
    女の裏に、男がいたのではないか、というのが、存在証明、ということですが、結果、はっきりと証明はされません。
    そのはっきりしないところが、却って印象的な結末だったかと思います。


    雨を待つ女
    これも、犯罪心理サスペンス。
    最初の収録作「うすあかり」の主人公・星川が、最後に登場して、重要なカギを握ります。
    最初の話と、最後の話がリンクする、という意味では重要な一篇ですが、本書のラストを飾るには、ちょっと平凡、というか、あっさりめの出来です。

  • 2010年7月15日(木)、読了。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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